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ほぼ毎日更新の雑感「ウエイ」
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東野圭吾
keigo higashino

聖女の救済
プロのパッチワークアーティストの真柴綾音。彼女は、先天的にこどもが産めないからだだった。夫の真柴義孝は、そんな綾音に「結婚して1年が経ち、こどもができなかったら別れよう。これは自分のライフプランだ」と公言して結婚した。だから、綾音は、自分のからだのことについて夫に告白することができなかった。やがて1年が経ち、義孝は離婚話を切り出す。「まだきみのことは好きだが、こどもができない結婚生活はありえない」と。少し時間がほしいと言って綾音は実家の北海道へ行く。綾音が不在のとき、義孝は綾音の弟子である若山宏美と密会していた。すでに宏美は義孝のこどもを妊娠していた。そして、宏美は義孝が自宅で死んでいるのを発見した。自殺か事故か、あるいは他殺か。警視庁の草薙と内海が捜査に当たる。草薙は綾音をひと目見たときから「このひとが犯人であるわけがない」と思い込む。内海は湯川を訪ねて「草薙さんは恋をしています」と湯川の協力をあおぐ。北海道にいた綾音に、密室状態に近い家で義孝を殺害することが可能かどうか。湯川の仮説とそれを実証する試みが始まる。あらゆる先入観を排除して、質問だけをするように、湯川が内海に命じる。自分でも質問の意図がわからないまま綾音や宏美に質問をぶつける。その質問の多くは、綾音の日常生活に関するものだった。理論的には可能だが、現実的には不可能。物理の世界では虚無数という結論に達した湯川は、義孝が綾音以前に付き合っていた女性と綾音との接点に気づき、殺害をいつでもできるのに、あえてしないというトリックを見破っていく。(2012.7.14) 東野圭吾 文春文庫 2012年4月 676円

ガリレオの苦悩
書き下ろしを含めた短編集。警視庁捜査一課の草薙刑事が、帝都大学バドミントンクラブ時代の同級生の湯川準教授を頼って事件を解決する。

落下る
マンションの上階から女性が落下した。警察は自殺と考えた。しかし警視庁捜査一課の内海薫刑事は玄関に宅配便で下着が届いていたことを不審に思う。先輩の草薙と相談して、湯川に助言を仰いだ。だれもいない部屋から死体を落下させることができるかと。湯川は現場を確認して、鍋と掃除機を使えば、可能なことを証明した。

操縦る
湯川が学生時代に世話になった元教授が教え子たちを自宅に招いた。その席で離れ家で爆発が起こり、火災が発生した。なかからは教授の一人息子の他殺死体が発見された。日本刀のような鋭利な刃物が心臓を貫通していた。かつてメタルの魔術師と言われた教授の犯行を湯川は確信した。しかし教授は湯川にまるで自分が犯人だとわかるヒントばかりを与えた。湯川にはその理由がわからない。

密室る
大学時代のバドミントンクラブの仲間が地方でペンションをオープンした。そこで密室を利用した殺人事件が発生した。友人は湯川を頼る。密室のトリックを見破ったとたん友人は、これ以上の犯人探しは必要ないと湯川を突き放す。

指標す
老婆が殺され金塊と犬が盗まれた。保険の外交員が疑われる。彼女の娘は母の無実を証明するため水晶を使ったダウジングで犬の死体を発見した。犬のは毒殺され、牙にはある男のDNAが付着していた。

攪乱す
警視庁に脅迫状が届く。悪魔の手によって事故に見せかけた殺人を実行するという。犯人は湯川を名指しで恨んでいた。まもなく2人が事故で死んだ。それらは犯人が予告した殺人だった。湯川は犯人が無差別に殺していると推測した。そこであえて自分を狙わせる罠を仕掛けた。(2012.4.7) 東野圭吾 文春文庫 2011年10月 648円

流星の絆
横須賀の洋食屋「アリアケ」の店主夫妻が殺された。小学生だったこどもたちは、その夜、両親に内緒でペルセウス座流星群を観察に行っていた。雲が多く雨が降り出し、観察を断念したこどもたちは、家に戻って驚く。そこには血まみれになり、殺されていた両親の姿があった。長男の功一、次男の泰輔、末っ子で長女の静奈。3人を引き受けてくれる親戚はなく、児童養護施設に預けられる。やがて施設を出た3人は、それぞれの道を歩むが、就職した会社そのものが夜逃げをしたり、上司に恵まれなかったりして、固定した職業に就けなかった。そんなとき静奈が教材詐欺に遭った。そのことをきっかけに、3人はだまされる側から、だます側の人間になろうと決意した。功一のアイデアを泰輔と静奈が実行するというパターンで次々と詐欺を成功させていく。「これで最後の計画にする」。功一が泰輔と静奈に打ち明けた計画は偽のダイヤモンド指輪を金持ちに1000万円で売りつけるというものだった。ターゲットは、ハヤシライスで有名な「とがみ亭」チェーンの御曹司、戸神行成だった。行成に近づいた静奈は、あるとき麻布十番に新規オープンする店のハヤシライスの試食をして、衝撃を受ける。その味は、こどもの頃に食べた「アリアケ」の父の味だったのだ。その後、とがみ亭について調べた功一は、ある疑念を抱く。行成の父親で、とがみ亭のオーナーである戸神政行は、関内に第一号店を出したとき、まったく客の来ないまずいハヤシライスを出す店だったのだ。それが、功一たちの両親たちが殺された後になって、急に有名になり、二号店や三号店を出すまでに発展した。アリアケと政行の接点を探っていた功一は、たまたま泰輔が政行を見た瞬間に「事件の日に店から出てきたのは、政行に間違いない」という告白を聞き、事件の真相を調べようと決意した。そのためには、静奈にもっと行成に接近させる必要があった。1000万円の詐欺だった目的が、こどもたちにとっての仇を探す目的に変わる。何度も行成と接しているうちに、静奈は自分の気持ちのなかに、行成に対して好意を感じていることに気づき始める。両親を殺した男のこどもに対して好意など抱いてはいけないという自制心を、静奈は抑えきれなくなっていく。功一たちの仕掛けによって、政行は、自分が事件の夜に確かにアリアケにいたことを白状した。そこには、神奈川県警で長年にわたり事件を捜査し続けていた柏原と萩村というふたりの刑事が同席していた。アリアケから政行が持ち帰った傘の柄には、細かくこすったような痕が無数についていた。(2011.5.19) 東野圭吾 講談社文庫 2011年4月 838円

ダイイング・アイ
慎介は、ピアノ教師の若い主婦を自動車で轢いた。主婦は衝突の弾みで、反対車線の車にも轢かれた。致命傷は、二回目の衝突だった。裁判が終わり、執行猶予の判決で、慎介はバーテンに復職していた。ある夜、仕事帰りに、主婦の夫に襲われた。病院で意識を取り戻した慎介は事故の記憶を失っていた。独自で事故の真相究明をする。そこに死んだはずの主婦とそっくりな瑠璃子と名乗る女性が登場した。慎介は瑠璃子の瞳に魅了され、次第に彼女の世界に入り込む。そこは二度と元の世界に戻れない遮光された世界だった。慎介の彼女が消えた。刑事が消えた。主婦の夫が自殺した。瞳にこめられたメッセージを読み取れるか。次々と悪い連中が目白押しのミステリーだ。(2011.2.24) 東野圭吾 光文社文庫 2011年1月 667円

片想い
西脇哲郎は帝都大学時代にアメリカンフットボールのエースクオーターバックだった。毎年11月に開かれる同期会の帰り道、当時のマネージャーだった日浦美月に出会う。美月は深刻な表情で「自分はひとを殺してしまった」と告白する。美月を自宅に招いた哲郎は、妻の理沙子とともに美月を守ることを決意する。美月は知り合いの香里につきまとうストーカーを撃退する弾みで殺してしまったのだ。自宅で美月をかくまう生活を始めた哲郎と理沙子は、美月から性同一性障害の告白を受ける。女性のからだのままで、こころが男性だったというのだ。ストーカー殺しの真相を究明しようと、哲郎はフリーラーターの仕事をしながら独自の捜査を始めた。性染色体の違いによって、ひとは「男」と「女」を区別する。血液型は4つもあって、それによってひとの区別などないのに。性同一障害や半陰陽で苦しむひとたちのネットワークが存在し、そのなかでひそかに戸籍を交換し合うというミッションが進行していた。殺されたストーカー男は、その存在に気づいていたのだ。(2010.10.31) 東野圭吾 文春文庫 2004年8月 819円

白銀ジャック
倉田は、新月高原スキー場の索道部マネージャーだ。ある日、スキー客でにぎわうスキー場にメールが届く。ゲレンデに爆弾を仕掛けたから、金を用意しろと。スキー場を閉鎖して客の安全を図るべきだと倉田は主張する。しかし、社長以下幹部は、悪戯かもしれないと警察には届けようとしない。やがて犯人から起爆装置のありかを教えるメールが届く。確認すると本当に起爆装置が見つかり、要求が悪戯ではないことがわかった。最初の要求は3000万円。取引に応じると、安全なエリアを教えるメールが届く。次の要求も3000万円。また要求に応じるとさらに安全なエリアを教えるメールが届いた。そしてラストの要求は5000万円。いよいよ爆弾を埋めた位置を教えるという。会社が犯人の要求を飲んでばかりいることに不満なパトロールの根津は独自に犯人探しを思い立つ。しかし、それが犯人にばれて、受け渡しは失敗した。もう一度だけ犯人から金の要求があった。今回は犯人に金を渡したのに、取引中止のメールが届く。倉田は、事件の背後に、お荷物ゲレンデとして閉鎖している北月ゲレンデをめぐる暗い闇があることに気づいた。無謀なスノーボーダーによって妻が事故死した入江親子。ホテルのスィートに長期滞在する老人夫婦。プロのスノーボーダーを目指す若者。それぞれの気持ちが交錯しながら、爆弾に遠隔操作で起爆の命令が発せられた。(2010.10.19) 東野圭吾 実業之日本社 2010年10月 648円

むかし僕が死んだ家
主人公の「私」は大学の助手。かつて恋人だった沙耶加と偶然、同窓会で再会する。その後、沙耶加は私に会いたいと相談を持ちかける。そこからラストまで、この物語には二人しか登場しない。沙耶加は死んだ父が残した鍵と地図をもとにして、私に旅の同行を求める。二人がたどりついたところは長野の山奥。ひっそりとたたずむ別荘地。玄関がボルトで固定され、地下室を通過しないとなかに入れない古風な家だった。沙耶加は、その家に失われた記憶の断片を感じる。残された日記、金庫、同じ時間で停止している時計たち、そこにあったと思う部屋の記憶。児童虐待を背景にした推理小説である。児童虐待が引き起こされる要因を掘り下げて、内面の空白を形成して行くひとのあり様を物語りにまとめた。私と沙耶加は結末で結ばれるのか、永遠に別れるのか。(2010.9.30) 東野圭吾 講談社文庫 1997年5月 533円

使命と魂のリミット
直井は、アリマ自動車の島原社長を恨んでいた。利益のためなら、安全性をないがしろにした販売で欠陥車が出た。直井の恋人だった春菜は、怪我をして救急車で搬送されていた。狭い路地でアリマ自動車の欠陥車が立ち往生していた。救急車はコースを変更して、遠回りをした。春菜は病院に着いたときには絶命していた。もしも近道の狭い路地を救急車が通過できていたなら、春菜は助かっていたかもしれない。直井は、島原への復讐を決意した。夕紀は研修医で心臓血管外科に配属された。夕紀の父は大動脈瘤の手術で死んだ。術医は、配属された心臓血管外科の西園だった。西園は夕紀の母親と交際していた。父の手術に疑問を抱き、夕紀は医者を目指したのだ。西園の息子は中学生のときに万引きを見つかり、バイクで逃走中に事故死した。そのときパトカーを運転していたのは、夕紀の父だった。(2010.9.19) 東野圭吾 角川文庫 2010年2月 705円

パラレルワールド・ラブストーリー
バイテック社に勤務する崇史は、真由子との同棲生活に疑問を感じていなかった。昔から付き合っていたはずの真由子と、本当に去年、恋人同士だったのか。ふと浮かんだ疑問。身の回りを調べると、お互いに付き合っていた痕跡がない。親友の智彦が、アメリカ本社勤務になっていたことを知らなかった。そんなはずはないのに、なぜか知らなかった。自分の記憶がおかしい。そのことに気づいた崇史は、バイテック社が研究を進める脳の記憶の改編が実用段階に入った事実にたどりつく。自分は、親友の恋人を奪ってしまったのではないか。智彦はアメリカには行かないで、自分が殺してしまったのではないか。わたしがわたしであることを、ひとはどうやって確認しているのだろう。記憶と自意識をテーマにしたラブストーリー。(2010.5.20) 東野圭吾 講談社 1998年3月 743円

カッコウの卵はだれのもの
緋田風美は将来を期待される女子アルペンスキーヤー。父親の宏昌は元オリンピック選手。スポーツ選手の才能を遺伝子レベルで研究している民間の会社「新世開発」のスポーツ科学研究所福所長の柚木洋輔は、父娘の遺伝子調査を願い、ふたりに協力を申し込む。しかし、宏昌は才能の遺伝を信じない。研究に自分や娘のDNAを提供することを強く拒む。なぜ、そうまでして宏昌はDNAの提供を拒むのか。その理由は、娘が生まれてすぐに自殺した妻の遺品を片付けていたときに見つけた新聞記事が発端だった。だれもが同じだけ努力をして、限界に挑んだとき、最後に能力を分けるのは、偶然でも練習量でもなく、遺伝子レベルの才能だという考え方。最先端のスポーツ科学が到達した理論では、選手の発掘にDNA研究が役立っているというのだ。そこには、将来の活躍を期待される有望選手たちの内面の葛藤が盛り込まれていない。本人の夢や願いを無視したレールが長く敷かれていた。(2010.4.24) 東野圭吾 光文社 2010年1月 1600円

天空の蜂
三島は錦重工業で原子力発電の技術者だ。雑賀は、原子力発電所で放射線被爆をしながら働く労働者だ。かつては、防衛庁の幹部で、巨大ヘリコプターの開発に携わっていた。錦重工業から、防衛庁に引き渡されるはずだった巨大ヘリコプターが、何者かによって奪われた。なかにはこどもが乗っている。ヘリコプターは外部から自動操縦され、高速増殖炉の上部でホバリングした。犯人の要求は、全国の原子力発電所を破壊せよ。さもなくばヘリを高速増殖炉に墜落させるというものだった。多くのひとびとの無関心とは裏腹に、原子力発電に関係しているひとたち、それに反対するひとたちの衝突や対立は大きい。しかし、ほとんどのひとたちは、そんなことはどうでもいいという無関心な態度で生活している。その無関心な態度に刃を向ける著者の気概を感じた。(2010.3.30) 東野圭吾 講談社文庫 1998年11月 838円

殺人の門
倉持修は豆腐屋のこども。田島和幸は歯医者のこども。ともに同じ小学校に通う同級生だった。物語は田島の独白というスタイルで綴られる。すべてを過去の出来事を思い出して語るのだ。両親の離婚、父親の歯医者の廃業、自分自身の貧乏な生活、結婚の失敗。次々と人生に不幸が舞い降りる。そのたびに苦しむ田島を倉持が救う。倉持は、悪徳商法で多額の金銭を集め、被害者に恨みを買い、いのちを狙われる。やがて、自分の不幸はすべて倉持が仕組んだものだったことを知る田島は、殺意を抱き、ナイフを手にする。(2010.4.6) 東野圭吾 角川文庫 2006年6月 743円

時生(トキオ)
宮本巧実は妻の麗子と病院にいた。息子の時生がもうすぐ永久の眠りにつこうとしていた。グレゴリウス症状群。時生は脳神経が次々と死滅していく病気にかかっていた。次に意識が戻ることがあるのか、ないのか、わからないと医師に言われていた。病院の廊下で、巧実は麗子に告げる。「これから時生は23歳の俺に会いに行くんだ」。当時の巧実はその日暮らしの半端者だった。母親に捨てられて養父母のもとで育てられた。長年、実母を恨んでいた。籍を入れないままある男のこどもを身ごもった。それが巧実だった。当時、親身になってくれた恋人の千鶴が、突然、巧実の前から消えた。同時に、見知らぬトキオという青年が現れた。ふたりで、千鶴探しの旅が始まる。(2010.3.2) 東野圭吾 講談社文庫 2005年8月 752円

あの頃ぼくらはアホでした
自伝的エッセイ集。大阪で生まれ育った著者の生い立ちやそのつどのエピソードがてんこ盛り。とはいっても、きっと落としどころを意識した脚色もあるのだろう。怪獣大好きだった小学校時代、悪がきばかりの中学校時代、陸上部の高校時代、アーチェリー部の大学時代、受験に落ちた浪人時代。それぞれのエピソードがおもしろい。多くの小説を標準語で綴っているので、こどもの頃の関西弁表記が生々しい。高校3年生のときに、しゃれで東京の慶応大学を受験しに行く。宿泊した親戚の叔母さんが受験日に「落ち着いて、いつもの力を出せばいいのよ」と励ます。こころのなかで(こっちはしゃれで受けに来たのだから、いつもの力を出したら撃沈だ)と投げ返す。全編にわたって、落語になりそうなネタばかりだ。(2010.2.26) 東野圭吾 集英社文庫 1998年5月 552円

さまよう刃
長峰重樹は中学3年の娘である絵摩を花火大会の日に失う。彼女を襲ったのは高校を中退した3人組だった。そのうちの運転手役誠は、少女が殺された場面にはいなかった。カイジとアツヤは、覚せい剤を注射し少女の意識を朦朧とさせ、強姦した。その様子をビデオに撮影した。使った薬の量が多かったのか、絵摩は死ぬ。誠からの密告で絵摩が殺されたことを知った重樹は、アツヤを惨殺する。ついで、長野に逃げたカイジを追う。法律は仇討ちを認めていない。しかし、年頃の娘を惨殺された男の心情を刑事たちは必ずしも非難できない。カイジを探す重樹、カイジと重樹を探す警察。かつてカイジとアツヤに強姦された娘の親たちが復讐を企てる。正義とは何か。法律とはだれのためのものなのか。少年法の偽善性をよのなかに問う。(2010.2.19) 東野圭吾 角川文庫 2008年5月 705円

変身
成瀬は不動産屋で物件を探しているときに、拳銃を持った強盗犯に頭を撃たれた。幼い女の子をかばうために拳銃の標的になってしまった。犯人は京極という男。京極は自分の母を捨てた不動産屋の社長に恨みを抱いていた。犯行後、京極は心臓を撃って自殺する。病院にかつぎこまれた成瀬は、医師団の懸命な手術の後に意識をよみがえらせる。しかし、彼の右脳の一部は弾丸で破壊されていた。そのかわりに、医師団は事件の直前に死亡した男性の脳を移植した。自分の脳の一部が、他人の脳になると、ひとはどのようにものを考え、記憶し、行動するようになるのか。そもそも、他人の脳を移植されるということは、自分が自分であると言い切れることなのか。やがて人格が大きく変身していく成瀬を恋人の葉村が支えるが、すっかり変身した成瀬には、葉村さえも思い出せなくなっていた。(2010.1.21) 東野圭吾 講談社文庫 1994年6月 590円

幻夜
阪神淡路大震災のさなか、死んだ父親の借金を取り立てにきた男が死んだ。誰もが震災で死んだと考えた。しかし、借金をチャラにするために息子が殺していた。その真実をめぐり、ミステリーが展開する。雅也と美冬の逃避行。白夜行の続編。他人になりすまし、過去を消し去る美冬。なりすました以前の正体を暴く加藤刑事と雅也。ひとの生きようを掘り下げた大作。先に白夜行を読むことを推奨する。(2009.12.23) 東野圭吾 集英社文庫 2007年3月 952円

鳥人計画
天才スキージャンパー楡井が毒殺された。楡井を日本代表に育て上げ、世界で活躍させることを夢見ていたコーチの峰岸が犯人として疑われる。しかし、峰岸には動機がない。楡井の死によってジャンプ界は日星自動車の杉江が頭角を現す。杉江のジャンプフォームは極端なほど、楡井にそっくりだった。大企業が多くのコーチや専門家を使って選手を育て上げて行くプロセスは、人間性をそぎ落とし、選手の人格を破壊していく。勝利のためならば、どんなことにも手を出す。スポーツ界が陥る落とし穴の深さを感じた。(2010.1.5) 東野圭吾 角川文庫 2004年8月 552円

宿命
和倉勇作は刑事になっていた。瓜生晃彦は医者になっていた。ふたりをつなぐサナエと美佐子。UR電産をめぐる社長人事で殺人事件が発生した。刑事はかつて愛した美佐子が、医者の妻になっていたことを知る。医者の妻になった美佐子は、見えない糸で操られている人生を疑問に感じる。感情をコントロールする脳神経医学の技術が確立していたら、国家権力はひとを自由に遠隔操作できるようになるだろう。冒してはいけない領域に踏み込んだ者たちの代償が、刑事と医者のふたりを宿命の糸で結んだ。(2009.12.30) 東野圭吾 講談社文庫 1993年7月 619円

赤い指
認知症の母親は、口紅で遊び自分の指を赤く染めた。家族を守るために、殺人の容疑を母親にかけた息子と妻。刑事・加賀恭一郎は、赤い指にこめられた母親のメッセージを見抜いた。サブストーリーとして、恭一郎と彼の父親との関係が明らかになる。(2009.12.15) 東野圭吾 講談社文庫 2009年8月 552円

卒業
東野作品に登場するキャラクターのうち、わたしが大好きな刑事・加賀恭一郎シリーズの第一作目。まだ加賀が刑事になっていない大学時代の話。茶道を舞台にした殺人事件。 (2008.11.16) 東野圭吾 講談社 1989年5月 620円

悪意
刑事・加賀恭一郎シリーズ第二弾。中学教師になった加賀が、あまりにも真っ正直にいじめ問題と向き合い、生徒も加賀も傷つく。どうして教師を辞めて刑事になったのかが、明かされる。中学教師時代の先輩教師が犯罪に関係する。物語の中盤で犯人がわかるという、新しい推理小説。 (2008.11.16) 東野圭吾 講談社 2001年1月 660円

眠りの森
刑事・加賀恭一郎シリーズ第三弾。バレースクールで正当防衛と思われる事件が発生した。臨場した加賀は、バレースクールに侵入した男が、なぜそこをねらったのかとい背景がつかめない。単なる物取りとは思えない事情が明らかになるにつれ、正当防衛そのものの見立てが崩れていく。加賀のこころがゆれる女性が登場する。 (2008.11.16) 東野圭吾 講談社 1992年4月 580円

どちらかが彼女を殺した
刑事・加賀恭一郎シリーズ第四弾。わたしはこの小説が加賀シリーズでは珠玉だと思う。離れて暮らす兄と妹。兄は現職の警察官だ。都会で暮らす妹が、ある日、兄に絶望の電話をかけた後で自殺する。しかし、兄は妹の死因が自殺ではないことを直感し、独自に容疑者を特定していく。同じ警察官として、加賀は兄の目的が犯人の逮捕ではなく、犯人への復讐であることを見抜く。 (2008.11.16) 東野圭吾 講談社 1999年5月 620円

私が彼を殺した
刑事・加賀恭一郎シリーズ第五弾。結婚式の舞台で新郎が毒殺された。近親相姦の兄と妹、妊娠中絶の前の恋人、過去の弱みを握られていた旧友。被害者の男性は、多くの者に命を狙われる動機を与えていた。 (2008.11.16) 東野圭吾 講談社 2002年3月 730円

嘘をもうひとつだけ
刑事・加賀恭一郎シリーズ第六弾。さまざまな嘘をテーマにした短編小説集。刑事として進化した加賀の推理が冴える。 (2008.11.16) 東野圭吾 講談社 2003年2月 520円

新参者
加賀恭一郎が帰ってきた。警視庁日本橋署に配属になっている。短編集かと思ったら、ひとつひとつのストーリーがやがてパズルをあわせるようにつながっていく。その意外性に驚く。江戸情緒あふれる市井のひとたちの暮らしぶり。殺人事件とは直接関係ないなかに、人情味あふれる生活が根づいている。それらを加賀が丹念にたどっていく。わさび入り人形焼き。事情を明かせない銀座通い。いつも決まった時間にケーキを買いに来る婦人。一言では割り切れない背景がいくつもある。(2009.11.14) 東野圭吾 講談社 2009年9月 1600円

黒笑小説
だいぶ遊び心いっぱいのストーリーが並ぶ。作家と編集者のこころうちを描く短編の連なりがおもしろい。 詳しくは「黒笑小説」のなかみをご覧ください。(2009.8.8) 東野圭吾 集英社文庫 2008年4月 580円

怪笑小説
東野圭吾は、多面な才能を放つ。いわゆるブラックユーモアたっぷりの短編集がこれ。ひとのこころの醜さや恥ずかしさを、物語として構成し、愚かなひとたちの振る舞いを現実味を加えて見せてくれる。(2009.1.30) 東野圭吾 集英社文庫 1998年8月 495円

毒笑小説
真剣に笑いを書く。このコンセプトを守った短編集。 詳しくは「毒笑小説」のなかみをご覧ください。(2009.7.28) 東野圭吾 集英社文庫 1999年2月 600円

探偵ガリレオ
天才物理学者の湯川と、大学時代の同期生である刑事の草薙が事件を解決していくシリーズの最初の短編小説集。 (2008.11.16) 東野圭吾 文芸春秋 2002年2月 570円

予知夢
天才物理学者の湯川と、大学時代の同期生である刑事の草薙が事件を解決していくシリーズ二番目の短編小説集。一瞬怪奇現象化と思われる事件背景を、湯川が冷静に分析し、犯行手口の裏を暴いていく。 (2008.11.16) 東野圭吾 文芸春秋 2003年8月 530円

容疑者Xの献身
天才物理学者の湯川と、大学時代の同期生である刑事の草薙が事件を解決していくシリーズ初の長編作品。アパートの隣室で偶然発生した殺人事件。高校の数学教師がたくみに犯人を擁護しながら、湯川や草薙からの包囲をかいくぐっていく。 (2008.11.16) 東野圭吾 文芸春秋 2008年8月 660円

探偵倶楽部
名前のない存在の探偵と助手が活躍する短編小説集。警察が介入する推理小説と違い、加害者や捜査の依頼主などが物語の中心を担う。(2008.11.16) 東野圭吾 角川書店 2005年10月 540円

手紙
犯罪加害者の家族と被害者家族との関係を主軸に、犯罪加害者の家族が社会から受ける制裁について、悲しいほどに現実的に描いた。自分の大学受験費用を稼ぐために兄が強盗殺人をした。弟の受ける制裁は、弟にとって必要なものなのか。 (2008.11.16) 東野圭吾 文芸春秋 2006年10月 620円

秘密
バスの転落事故で妻が死に、娘が意識不明になった夫が主人公。娘の意識が回復したとき、そこには死んだはずの妻の意識が宿っていた。肉体は娘、意識は妻との不思議な生活が丁寧に描かれる。娘のからだの成長とともに、夫は妻の意識が宿る娘との距離を感じていく。ある日、妻の意識が消え、娘の意識が回復した。その後は、睡眠を契機にして、ふたりの意識が交互に入れ替わる。やがて、妻の意識が去る日が訪れた。成長した娘の結婚式の日。夫は、消えたはずの妻の気持ちを知る。秘密にしておいたほうがいい真実が物語の最後に明かされる。(2009.1.8) 東野圭吾 文春文庫 2001年5月 629円

白夜行
ひとはどこまで残酷になれるか。東野圭吾がひとの内面と運命、こころのあり方をとことん掘り下げて、読者に突きつける。ほかの作品と異なるのは、この長編ではこれまでになく多くの人間が死んでいく。いや殺されていく。恐ろしい犯人は、小学生のときから、30歳を過ぎるまで、幾多の殺人を繰り返し、その都度、闇に沈む。犯人の内面描写を一切排除し、行動のみを描写しながら、20年近い歳月の物語を完成させた。文庫本だが、手に持つのも重いほどのボリュームがあるが、あっという間に読破したくなる。(2009.1.22) 東野圭吾 集英社文庫 2002年5月 1000円

分身
姿もかたちもまったく同じ2人の女性が、ともに自分の出生の秘密を求めて、危険な旅に出る。お互いに会うことも、話をすることもないまま、別々な行動をしながら、最後に同じ運命をたどる。似ているという限度を通り越し、まったく同一の人間が誕生した理由は、いったい何なのか。(2009.2.6) 東野圭吾 集英社文庫 1996年9月 695円