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佐々木 譲 |
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雪に撃つ |
(2022.7.17)ハルキ文庫700円2022年5月 |
抵抗都市 |
(2022.3.20)集英社文庫2022年1月1050円 |
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織田信長は安土城の完成を受けて、ヨーロッパへ少年使節団を派遣した。そのなかに安土城の石積みを担当した穴太衆の親方、戸波一朗太がいた。彼の次男である次郎佐も使節団とともに派遣された。先進的な石積みと築城の技術を学んで、やがて織田信長に築城にかかわることを夢見ていた。しかし海路ヨーロッパへ向かう途中で、次郎佐は信長の死を知る。それでもヨーロッパで石積みや築城の技術を積むうちに、次郎佐はルチアという女性と出会い結ばれた。仏教徒というだけでローマを追われた次郎佐はルチアとともに北欧のネーデルラントに向かった。ここでは長年に渡ってスペインからの独立を目指した戦争が繰り返されていた。町をすっぽりと城壁で囲む仕事に充実感を覚えた次郎佐は石工たちの組合員として認められていた。家族を連れての長旅はまだ危険が多かったので、やがて帰国するときにはルチアや子どもたちと別れることを覚悟していたが、次郎佐の名声と技術がネーデルラントの地で受け入れられていくに従って、この地で命を全うする覚悟をするようになった。「天下城」の続編。 (2016.9.10) 新潮文庫 2016年4月 990円 |
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警視庁捜査一課特別捜査対策室。水戸部裕警部補。性犯罪専門の朝香千津子巡査部長とともに17年前の解決済み事件の再捜査を命じられた。しかも今回は非公式な捜査だった。代官山の古いアパートで若い女性が絞殺された。殺したのは当時付き合いのあったカメラマンの風見。渋谷署は風見を被疑者として追及した。しかしその過程で風見は失踪し、やがて多摩川で水死体となって発見された。事件をうかがわせる外傷がなかったので渋谷署は犯行を隠しきれなくなった上での自殺として送検した。検察は被疑者死亡として不起訴。事件は解決したと思われた。事件のあった頃、オウム真理教による地下鉄サリン事件があり、警視庁管内の警察はその捜査に集中していた。被疑者が自殺したのだから、真犯人がほかにいるわけではないだろうという思い込みがあった。17年後、神奈川県警管轄の川崎で看護師がアパートで殺される事件があった。その部屋にあった証拠品からDNAが解析された。そのDNAは17年前の代官山殺人事件の現場にあった陰毛から採取したDNAと同じだったのだ。警視庁は犯人は自殺したとして解決したが、真犯人が別にいて川崎でふたたび殺人事件を犯していたことに気づく。神奈川県警が犯人を逮捕する前に警視庁が犯人を逮捕しなければ、大変な失態を公表することになる。そこで水戸部と朝香が選ばれた。 (2016.6.26) 文春文庫 2015年12月 730円 |
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紅鶴はかつて、高利で多くのひとに金を貸し、厳しい取立てをして多くのひとを多重債務者にした。債務者の中には自殺してしまったひとも多い。法律が改正されると紅鶴はさっさと会社を解散し、それまで取り立てた過払い利息分を返却できなくした。そのとき多くの債権者が裁判に望んだが、会社の解散とともに訴訟相手の所在が不明になった。重原は多重債務により自己破産した。妻とは離婚し仕事は辞めた。ひとりになって小さな清掃会社を起こした。その会社で働く社員は、みなかつて紅鶴に全財産を奪われ、家族が自殺したり仕事を辞めたりした自己破産者だった。重原はそのメンバーたちと紅鶴で多くの取立てにかかわった元社員たちを密かに殺害し続けていた。東京でアジア映画祭が開催されることを知った。香港に逃げた紅鶴時代の役員が映画に投資した会社の社長として来日する情報を知り、メンバーらと殺害計画を立てる。警視庁捜査一課の久保田は、一連の殺害事件がすべて元紅鶴社員が被害者になっている共通点に気づき、部下の望月とともに捜査を開始した。 (2016.4.17) 集英社文庫 2015年10月 560円 |
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北海道警察機動捜査隊の津久井巡査部長はホテルのラウンジで窃盗犯の逮捕へ向かっていた。そのときバックでピアノの生演奏をしていた安西と出会う。自身もピアノを弾く津久井は安西に心を残しながらも、窃盗犯の男を逮捕することができた。その日の夜にブラックバードで津久井は偶然、昼間のピアニスト安西に再会する。互いに意気投合し、安西が札幌で開かれるジャズフェスティバスに出演することを知った。ふたりはそのまま安西が宿泊しているホテルで朝を迎えた。しかし、そのとき津久井は安西が過去に覚醒剤を使用していたことを知る。たとえ過去であったとしても犯罪者とは結婚できない警察組織で、津久井は心を残しながら安西と別れた。翌日の夜に安西が出演するジャズカルテットの男を追いかけていた女が殺された。女には過去に覚醒剤の使用歴があった。津久井は安西に容疑がかかることを恐れたが、事態は安西に不利な方向にどんどん向いていった。大通署の佐伯警部補に安西は私的に捜査の協力を依頼した。 (2016.3.17) ハルキ文庫 2015年8月 660円 |
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北海道幌岡市。夕張市と隣り合わせの幌岡市は、5期20年にわたり大田原市長が牛耳ってきた。支持母体は組合から農協から何でも抱き合わせ、利益を分配し続けた。客のいない観光施設の社長に実弟をつけ、一族で幌岡を好き放題にしてきた。前回の市議選で初当選した森下のもとに、選挙コンサルタントを名乗る多津見という男が接近してきた。「次の選挙で大田原が再選したら幌岡は死ぬ」という。それを阻止するためには森下が市長になるしかないと。市議でさえ初当選の自分に、現職市長を倒す自信はなかった森下は話を断ろうとした。そこに市議選のとき自分を応援してくれた公務員の江藤が訪れ、多津見とともに立候補を促した。大田原が三選を果たしたとき、反対派を立候補させようとした森下の父親が死んだ。これまで事故死と信じていた森下は、それが大田原が組んだ巧妙な自殺だったことを知る。気持ちが揺れていく。大田原は市役所幹部と結託して、20年間にわたり赤字財政を隠蔽する決算報告を市議会に承認させ続けてきた。そこには北海道庁の暗黙の了解があったと想像できた。まったく夕張と同じ手法で切り抜けてきた。しかしふくらんだ債務が大きくなりすぎて、道庁が見限り、ついに財政再建団体への申請を余儀なくされた。この期に及んでも大田原を信奉する議員や支持者には危機感が見られなかった。きっと北海道や国が面倒を見てくれるだろうと高をくくっていたのだ。森下は、妻を説得し、立候補を決意する。そして、汚らしい妨害行動へと立ち向かっていく。 (2015.1.9) 新潮文庫 2013年11月 710円 |
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捜査会議で管理官に能力不足を指摘し、謹慎中だった水戸部。上司から復帰の声がかかった。そこは再捜査専門の部署だった。警視庁に特設された未解決事件を専門に捜査する部署は、凶悪事件の時効をなくす法律の制定によって設けられた。しかし、もともと何年も前の事件をほじくり返すためによほどのことがない限り犯人の検挙には至らないことが予想された。水戸部は定年退職した加納とともに、15年前の殺人事件についての捜査を始める。四谷荒木町で老女が殺害された。刃物で心臓を一突きされた。捜査本部はプロによる犯行と筋道を立てたが、証拠も容疑者も浮かんでこなかった。当時、捜査に当たっていた加納はバブル景気で潤っていた都会の地上げが関連していると考えた。バブル景気じたいを知らない若い水戸部は、加納とは異なった見方で当時の関係者に接触をはかっていく。 (2014.12.26) 文春文庫 2014年7月 560円 |
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北海道警察シリーズ。小島百合は友人に誘われて、ワインバーで行われるピアノコンサートに行く。そこで2人組の男たちによる人質監禁事件に遭遇した。犯人のひとりは、富山県警によるえん罪事件で4年間拘留され、その後無罪で釈放された中島だった。中島の要求は、当時の富山県警本部長に人間としての謝罪をしてほしいというものだった。もう一人は中島の支援者を名乗る瀬戸口という男だった。当初は、中島が主犯で瀬戸口が従犯と思われたが、小島の観察で主犯は瀬戸口なのではないかと、外から事件解決を狙う佐伯は感じていた。ワインバーのオーナーは浅海。彼女の父親は北海道出身の国会議員。ODAを仲介することによって外国からキックバックを受け取り、隠し口座に貯めていた。その国会議員に脅迫状が届いた。隠し口座の金額のうち3億円を求めると。また、コンサートの客のなかに、当時の富山県警本部長の娘と妻がいることもわかった。中島はこの二人を通じて、父であり夫である本部長へ連絡を取ろうとしていたのだ。 (2014.12.12) ハルキ文庫 2014年5月 630円 |
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安城和也は、警視庁で警務部からの隠密指令を受け密かに暴力団担当の加賀谷警部の違法捜査を内定していた。表向きは加賀谷の部下を装って、実際には加賀谷の逸脱振りを警務に報告していたのだ。そして、ついに大量の覚せい剤を所持しているところを逮捕させることに成功した。しかし、加賀谷は安城の予想を裏切って、その覚せい剤を使ってはいなかった。捜査のために必要だったと供述した。警務部は加賀谷を逮捕前にさかのぼって依願退職させ、薬物の違法所持で逮捕させた。公判では加賀谷は覚せい剤の所持は認めたが、違法性は認めなかった。高裁で無罪が確定したが、加賀谷は警視庁に戻ることなく三浦半島で釣り船屋を営んでいた。そんな加賀谷のもとへ警務部から復職の依頼が届いた。自分を退職に追い込んだ警務部を追い返す加賀谷。しかし、東京の覚せい剤地図が塗り替えられるほどの変化が起こっていた。警視庁は暴力団の捜査に有能な加賀谷の存在を求めた。かつて加賀谷を組織に売った安城は若くして警部になり、同じ暴力団捜査の別の課で係長として活躍していた。ふたりはふたたび同じ捜査の現場で顔を合わせることになった。 (2014.5.13) 新潮文庫 2014年2月 940円 |
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北海道警察シリーズ第5弾。佐伯は管内で発生した窃盗事件をたったひとりの部下である新宮と追っていた。警務による懲罰人事で、有能な刑事の佐伯は窃盗専門の部署に追いやれていた。しかし、警察官としての自分に誇りがある佐伯は、目の前の仕事を放り出すことはしなかった。車上荒らしの被害者のうち、2人があえて被害届を出さないことを不審に思った佐伯は周辺捜査から、大きな不正へと迫っていく。生活安全課の小島は、管内の小学校で少女が誘拐される事件を追う。捜査を続けるうちに、誘拐ではなく、保護者による緊急避難ではないかという疑念がわく。機動捜査隊の応援をしていた津久井は、自動車ごと焼死させる殺人事件を追っていた。班長の長正寺の抜擢で津久井が捜査に加わっていた。かつて、警察内部の不正を暴いた佐伯・新宮・小島・津久井は、その後の人事で干されながらも、ひとりとして腐ることなく、自分の仕事に集中していた。ランチをともにした集まりで、それぞれの近況を語り合ううちに、別個に思われていた事件が一つの大きなつながりのなかにあるのではないかという推測が成り立っていく。退職警官の安田が開いたバー「ブラックバード」を前線基地にして、ふたたび佐伯たちの独自捜査が始まる。警察官の周辺情報を暴力団に流している内部警察官に迫る。 (2013.9.23) ハルキ文庫 2013年5月 629円 |
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関口はロシアから来日したターニャをアテンドする個人の旅行代理業だった。成田空港から指定されたビルに行く。そこでいきなりターニャは暴力団西股組組長の西股を射殺し、部下に銃弾を食らわせた。西股はロシアからのダンサーを六本木で踊らせ、裏で売春を斡旋していた。その商品に手をつけた。オーナーでもある西股は遊びのつもりだったが、そのダンサーは代金を要求した。激怒した西股はダンサーを殴り殺した。ロシアマフィアは手打ちのために2000万円を要求したが、西股は断った。ダンサーの姉のターニャが組織から送り込まれて、西股を射殺した。関口は銃で脅されながら、ターニャの逃避行を助けることになる。もしもターニャから逃げたら、稚内にいる母と妹に危害が及ぶと脅された。西股の舎弟の藤倉は、ターニャと同行している関口にかつてロシアでアテンドを頼んだことがあった。そのため携帯電話で連絡をとって、ターニャを自分に売らないかと誘った。裏では稚内の関口の家族を脅すことも考えていた。新潟にロシアマフィアの基地があった。そこからロシアに定期航路や飛行機が出ていた。ターニャと関口は追っ手から逃げるために新潟に侵入する。しかし、そこでは藤倉と組織との手打ちによってターニャが売られようとしていた。そのとき稚内では藤倉の頼みを受けた札幌のやくざが送り込んだ若造が誤って関口の妹を殺していた。母から携帯電話で妹の死を知った関口は、藤倉への怒りを爆発させる。自分のことで関口の妹が死んだので、ターニャは責任を感じる。必ず稚内で妹を殺した犯人に自分が始末をつけるというターニャとともに関口は稚内へと向かう。そこには、藤倉と手を組んだ稚内のロシアマフィアがふたりを待ち受けていた。(2012.12.22) 佐々木譲 文春文庫 2012年9月 781円 |
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3年前に北海道警察本部捜査一課にいた仙道孝司警部補は、札幌市中央区の集合住宅で発生した女性失踪事件に呼び出された。女性の悲鳴が聞こえた場所周辺の聞き込みを先輩の刑事と命じられ、近くの単身者用集合住宅へ聞き込みに行った。その一つの部屋で若い男性への聞き込みを行う。不審な点はあったが、具体的な確信が得られなかった。先輩刑事はもう一度行ってみるべきだと具申したが、仙道は自分たちは聞き込みを命じられたのでそれ以上のことはすべきではないと判断した。しかし、女性の遺留品の臭いを頼りにした警察犬が、その男性の部屋の前で大きく吠えた。施錠されたドアを打ち破ったとき、男性はベランダから逃げていた。やがて男性は逃走途中で高層住宅の屋上に上って投身自殺をはかった。室内を検索した仙道は風呂場で、切り離された胴体と、タイルに転がる女性の生首と対面した。その状況から、殺害はさっき自分たちが聞き込みをした後に行われたことがわかった。あのとき、先輩刑事の直感を信じていれば事件は防げたかもしれない。仙道は、こころの病になった。物語は、休職中の仙道が知り合いから未解決事件の相談を受けるスタイルで展開する。探偵物語の要素が強いが、休職している理由が精神的なものなので、事件に近づく度に、仙道の精神は不安定になっていく。表題の「廃墟に乞う」を含めた6編の短編集だが、それぞれの物語は連作している。2009年度下半期第142回直木賞受賞作品。(2012.5.11) 佐々木譲 文春文庫 2012年1月 619円 |
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3月の末、北海道のひとたちが「彼岸荒れ」と呼ぶ、暴風雪が東部を襲った。発達した爆弾低気圧が、北海道警察釧路方面広尾署・志茂別駐在所の川久保篤巡査部長は朝の巡回を終えて駐在所に戻った。土建会社で除雪車を運転している男から電話が入る。「橋にひとみたいなものが見える」。現場に向かった川久保は、すでに死後だいぶ時間が経過した薬師泰子という女性の死体を発見した。女性の所持品に、十勝市民共済という闇金融の名刺が入っていた。同じ頃、地元の土建会社に勤務する西田は、若い者にさげすまされる日常と、体調の不調から逃れるために金庫の大金を奪取する計画を立てる。若い専業主婦、明美は出会い系サイトで知り合った詐欺師の男につきまとわれていた。地元暴力団組長の屋敷に宅配便を装った強盗が侵入し、組長の妻を射殺して大金を強奪した。地元のペンション、グリーンルーフでは朝からボイラーの調子が悪く修理を業者に依頼するが、彼岸荒れのために翌日にならないと修理できないと断られた。しかし、当日は宿泊予定の客が2組もあったのだ。レストランの暖炉を燃やして暖気を絶やさないようにしないとオーナーの増田は決心した。複数の登場人物が、やがてグリーンルーフに集結していく。狭い、逃れられない空間で、それぞれの生き様が交錯し、互いの無事と安全を願いながら、暴雪圏の夜が深まっていく。(2012.4.25) 佐々木譲 新潮文庫 2011年12月 710円 |
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ベトナム戦争さなかのサイゴンで、日本人爆死事故が発生した。死んだのは、大学生の鳴海。行方不明になったのも、大学生の和也だった。ふたりは米軍の枯れ葉剤攻撃の被害調査をしる医師団の助手だった。被害調査を阻止したい南ベトナム政府によって、医師団の入国は拒否された。先に入国していた鳴海と和也が事故に遭ったのだ。それから20年が過ぎた。和也は同級生の登志子との間にこどもを作っていた。大学生だったふたりは結婚していない。和也は登志子の妊娠を知らずにサイゴンで死んだ。登志子の同級生の祐三はすべてを承知で登志子と結婚した。果樹園を経営し余市でふたりは静かに暮らしていた。祐三が農業視察団でアメリカに渡る。サンディエゴで、祐三が銃撃された。娘の夏美、登志子の同級生だった平松、日出彦、浩介がサンディエゴに集まった。しかし、祐三は息を引き取っていた。物語は、高校時代の同級生たちが、それから20年も経て、つながり続ける絆を丁寧に綴る。固定化した無意味なものへの作者の強い抵抗感が伝わる。サンディエゴ市警の マルチネス刑事が銃撃事件を担当する。浩介たちはサイゴンの事故で死んだのは鳴海ではなく和也だったのではいかとずっと疑ってきた。祐三も独自に調査をして、真実に近づいた。それが理由で殺されたのではないかと考えた。鳴海が和也になりすまして生きているとしたら、あのときサイゴンで何があったのかを知らねば、祐三の死が無駄になる。浩介、平松、夏美の3人がサンディエゴとロスアンジェルスを舞台に、真相と悲劇に迫っていく。(2011.12.20) 佐々木譲 文春文庫 2011年5月 848円 |
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北海道警シリーズ第4弾。小島百合巡査が主人公の物語。強姦未遂で小島巡査に逮捕された鎌田は、逮捕時に負傷して入院していた。その鎌田が病院から逃走した。道警は威信をかけて鎌田の補足に追われる。未遂事件で被害にあった村瀬を警護する小島は、村瀬が参加するよさこいソーランの大会に参加者として出場することになる。その間にも、村瀬の携帯には続々と鎌田と思われる人物から再犯を臭わせるメールが届く。祭りの盛り上がりの中、かつての闇の捜査本部仲間である津久井らが鎌田の補足にかかる。佐伯は、小島からの休日ランチの申し出を断って東京に出かけていた。自身が担当する連続スリ犯の捜査を新人の新宮とともに行いながら、週末を使ってのプライベート旅行だった。そこで、佐伯は愛知県警の服部に重要な書類を渡す。キャリア組が事件をでっち上げ、無実の人間が逮捕されている事実を知りながら、佐伯はその告発よりも、すべてを知って罪をかぶった郡司警察官の誇りを尊重する。津久井らの操作によって鎌田はアジトに戻ってきたところを逮捕された。よさこいソーランの会場で踊り手として警護をしていた小島は、鎌田逮捕の連絡を受け、休日を自由にダンサーとして過ごすことにしたが、なぜか脅迫メールと鎌田が結びつかない。祭りの打ち上げで観覧車に乗った小島を待ち受けていたものは。警察官たちの息詰まる日常と職務を曜日ごとに追い、ラストシーンで携帯の電源をオフにする津久井、佐伯、新宮たちの心情を読む。(2011.8.24) 佐々木譲 ハルキ文庫 2011年5月 629円 |
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表題作を含む6篇の短編集。ポプラ文庫の「ラストラン」に掲載された5篇以外に表題作が加わっている。表題作は首都高を舞台にしたスピードレースの物語。(2011.1.17) 佐々木譲 集英社文庫 1998年4月 380円 |
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フィリピンに工場をもつ日本の倉田農機。最近になって、その工場からの製品に欠陥が見つかり、顧客からのクレームが増えていた。なぜ、ほかにも工場があるのに、フィリピンの工場だけが欠陥品が多いのかを探るために、特命を帯びた原田が現地入りする。そこには、工場の支配人が地元のヤクザ・警察・有力者を傘下においた不正がまかり通っていた。地元労働者は、支配人やヤクザの胸先八寸で解雇されたり、異動させられたりしていた。なかには解雇を不当と訴えるひともいたが、ある日、何者かに襲われてしまう事件が続いていた。原田は、支配人がヤクザや有力者、警察を自由に扱える理由の調査をした。その結果、労働者の給料から一定の金額を天引きし、それを私利私欲のために使っている証拠をつかんだ。その瞬間、原田は不正を共有する者たち全員を敵に回した。工場で繰り広げられる戦闘シーンがクライマックスとなって炸裂する。(2010.12.21) 佐々木譲 角川文庫 1992年2月 648円 |
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日本の工作機械子会社のクラタ。アメリカの法律を無視して失業者たちから裁判を起こされていた。日本式の労務管理は、現地採用の人々にとっては信じられないものばかり。日本人家族たちは地域社会に溶け込もうとしないで、自分たちだけの世界を作っていた。業務内容にアドバイスをする経営コンサルタントの田畑が主人公。田畑は会社周辺をリサーチすると、クラタがいかに地元の人々から嫌悪されているかを知る。すでに撤退しかないかと考える。ハロウィン。クラタ関連の日本人従業員のこどもが行方不明になった。クラタに恨みをもつ者を警察のクラウス署長とともに田畑は訪ね歩く。いま日本では現役大学生の就職ですら不安定だ。アメリカでの雇用差別の実態を作者が明らかにする。 (2010.12.15) 佐々木譲 角川文庫 1995年10月 552円 |
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ワシントンの日本大使館。太平洋戦争前夜の日本政府とアメリカ政府の交渉を縦軸にして、そこで働くひとたちの人間模様を横軸にして、ひとつの大きな布を作者が織り上げた。アメリカ国務省の指令を受けて日本大使館でタイピストとして働く女性ミミ。彼女は日本政府の情報をアメリカ国務省に流すスパイだ。アメリカで医学留学をしている途中で、在留資格がなくなり、やむを得ず大使館で補佐的に働く男性大竹幹夫。彼は、ミミを見て一目惚れする。日本軍の南下政策に対して、アメリカ政府は外交交渉で苦難を乗り越えようとする。しかし、圧倒的な情報操作のパワーで、日本政府の動向や軍隊の動きはワシントンに筒抜けになっていたので、アメリカ政府の外交交渉自体が、じつは周到に組まれた開戦へのシナリオだったのではないかと思えてくる。幹夫の仲間、葛西と安西。若き日本の青年が、官僚的な大使館業務に反抗しながら、国と国が戦うという避けられない運命に直面していく。スパイとしての自分がやがて幹夫に惹かれて行くことを自覚したミミは、本当の幸せを求めて、国務省に背を向ける。(2010.12.9) 佐々木譲 文春文庫 2010年10月 914円 |
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直木賞受賞によってプレミアのついたデビュー作「鉄騎兵、跳んだ」。中古本市場では原価の10倍以上の値段がついたという。文春文庫が、復刻させた。表題を含む5編の短編集。モトクロスライダーの青春と栄光をレースのなかに凝縮した「鉄騎兵、跳んだ」。ロードライダーの無鉄砲な生き方と男の生き様を交錯させた「246グランプリ」。北海道ソロツーリストの淡い恋物語「パッシング・ポイント」。漕艇という大学運動部の最後のレースを描く「ロウアウト」。テニスゲームで男と男の維持を賭けた「雪辱戦」。仕事をしながらの執筆とは思えないほど、どの作品も文章が洗練され、内容が凝縮されている。数々の名作を生み出していくスタートラインがここにあったのかと感動する。(2010.6.14) 佐々木譲 文春文庫 2010年5月 514円 |
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北海道警察シリーズ第三弾。洞爺湖サミットへ向けて、道警は厳戒態勢に入る。大臣警護の小島百合。失踪した巡査を追う津久井。密輸出事件のけりをつけたい佐伯。かつてチームを組んだメンバーは、異なるかたちでサミット関連の事件に巻き込まれていく。自動車の密輸出事件は、逮捕直前に上からの指示で終結した。覚醒剤取引のおとり捜査に関連したからだ。しかし、逮捕直前で捜査から外された佐伯は、おとり捜査で摘発した覚醒剤じたいが道警、地検、税関が手を組んだでっち上げだった尻尾をつかむ。それを100条委員会で証言する前日に自殺した日比野。息子は警官になり、父を自殺に追い込んだ官僚たちに復讐するために、失踪した。バーのブラックバード、機動隊の長正寺など、シリーズに欠かせない脇役も健在だ。(2010.6.13) 佐々木譲 ハルキ文庫 2010年5月 686円 |
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太平洋戦争をはさんで、シンガポールの日本人社会で絶大な影響力を誇った木戸辰也。数々の事件を起こしながら、闇社会のなかで階段を上り詰めていく。母は娼婦、父は知らない。母が病死してからは施設で過ごした。戦争で排日運動が高まる。ストライキ、略奪、放火、殺人。シンガポールの熱気のなかで、木戸は否応なく民族の対立に巻き込まれていく。自分を頼る者たちをファミリーと呼び、決して裏切らない。イギリスによる再占領で、木戸は追い込まれ銃弾の雨に散る。佐々木譲の戦争を背景にした小説群のなかで、この物語は戦争そのものは取り上げない。戦時下のシンガポールで生きた多くの生活者に視点を向けた。(2010.5.28) 佐々木譲 集英社文庫 2000年8月 571円(上下ともに) |
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大日本帝国が太平洋戦争に突入する以前。中国を侵略していた時代。南京で殺戮の限りを尽くし、さらにほかの都市も征服していた。物語は、当時の日本海軍の戦闘機乗りと中国国民党軍に雇われたアメリカ人パイロットととの私闘を軸に展開する。必ずしも残虐な戦争物語ではない。かといって、現実離れしたファンタジーでもない。相手の顔がわかる距離で、一対一の戦いをした空戦。撃墜された戦闘機から落下傘で退避したパイロットを撃ち殺すような愚劣な闘い方はしなかった。その常識を、日本海軍や日本陸軍の闘い方はくつがえした。無差別大量爆撃が現実のものになっていくとき、ふたりのパイロットは自分たちの空に魅力を感じなくなっていく。麻生哲郎中尉とデニス・ワイルド。ラストの単機対決は見ものである。(2010.4.23) 佐々木譲 角川文庫 2001年9月 838円 |
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ロシア語翻訳家の関口啓子は、自分だけの週末滞在型オフィスを探していた。ちょうどいい物件が北海道倶知安町に見つかった。昔、澱粉糊を作っていた工場だ。そこには一年間という約束で大工が一人暮らしをしていた。大工の名前は亮平。亮平は、自分の過去を啓子に語りたがらない。独自のルートで亮平の過去を調べた啓子は、その過程で亮平を追う者に、亮平の居場所を間接的に教えることになってしまった。爆弾テロ事件容疑者を、警察がでっち上げ、裁判を経ないで撃ち殺した過去の事件。その怨念が、当時、機動隊員だった亮平に迫り来る。(2010.3.20) 佐々木譲 集英社文庫 1990年8月 600円 |
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郷田克彦は、歌舞伎町のバーで雇われマスターをしていた。6月の終わりの土曜日。バーの入っているビルの取り壊しにより、その日が閉店日だった。きょうの客からは、金を取らずにサービスしようと克彦は決めていた。準備中、メイリンというベトナム難民が、腕にけがをして逃げてきた。メイリンは、不法滞在しながら中華料理店で働いていた。ヤクザたちに拉致された。不法滞在をばらされたくなければ、売春婦になれと脅された。メイリンは組長を射殺して、逃げてきたのだ。真実を知った克彦と店の常連たちが、暴走族を使ってメイリンを海外へ脱出させようと動き出す。(2010.3.17) 佐々木譲 角川文庫 2010年1月 552円 |
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17歳の少年、川尻は真鍋の妻を犯し、娘の首を絞めた。ふたりを殺し、無期懲役になる。しかし、わずか7年で仮釈放になった。そのことを偶然に知った真鍋は、復讐を誓う。家族が殺されてからの7年間、仕事は長続きしなかった。悪夢にうなされ、酒に飲まれた。警察も法律も被害者の救済を拒むなら、自らの手で川尻の始末をすると決意した。祐子と息子の晴也は、北海道警察の刑事である夫から逃れるために、旭川から離れた。夫の門脇の祐子への暴力は、限界を超えていた。しかし、警察官の暴力を、警察は信じてくれないだろう。その思い込みから、祐子はシェルターに身を寄せる。小さな工務店の店長、波多野はこどもが大学を卒業し、地元に戻らずに東京で就職したら、妻に逃げられた。従業員丸抱えの世話を長年、妻に強要してきた。それに妻が耐え切れなかったのだ。真鍋と祐子と晴也と波多野、人生の分岐点で偶然に出会い、互いを必要としあう。結成されたユニットを、川尻と門脇が狙う。衝撃のラストへ。(2010.3.12) 佐々木譲 文春文庫 2005年12月 714円 |
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直木賞受賞を記念して、連作集「廃墟に乞う」より、表題作の「廃墟に乞う」がオール読み物に掲載された。神経症で休職中の北海道警察捜査一課の仙道刑事は、かつて炭鉱で栄えた町にまつわる過去の事件と関係をもつ。船橋で殺人を犯した古川の未婚の母親は、その町で売春をして生活費を稼いでいた。古川と妹はある日、母親にダムに突き落とされて殺されそうになる。消防士の機転で九死に一生を得た古川は、妹ともに、母親に捨てられる。やがて殺人事件を犯した古川は、少年院に収容された。12年の懲役刑を終えて、出所。ふたたび船橋で殺人を犯す。ふるさとの町に逃げ戻った古川は仙道を呼び出した。(2010.2.28) 佐々木譲 オール読み物 2010年3月 960円 |
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1986年に書かれた初期のハードボイルド作品。直木賞受賞に合わせて文庫化されたようだ。過激派の謀議に加わった罪で服役した原口泰三は、出所後、仕事を続けられない。真面目に働いても、前科が会社に知られると、すぐに解雇の繰り返しだった。泰三が生きられる世界は、必然的に前科を気にしない闇の世界へと変わっていく。ある商談で裏切った相手から追われる身になった泰三は、追っ手を逃れて沖縄にたどり着く。小さなホテルのフロントには、かつて泰三が深く愛した順子がいた。運命の再会を果たしたふたり。順子は泰三の国外への逃亡を助けるが。この作品の後に発表される「エトロフ発緊急電」「ベルリン飛行指令」「ストックホルムの密使」につながる追う者と追われる者との激しい闘いの原点を感じた。(2010.2.4) 佐々木譲 ポプラ文庫 2009年12月 640円 |
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安城清二は戦後の民主警察官だ。上野公園周辺の駐在所警察官として家族と暮らしていた。ある蒸し暑い夜の火災で出動した。清二は翌朝、国鉄の線路で汽車にひかれた。火災現場を放置し、自殺したとされ、殉職にはならなかった。父親の無念をはらすために警官になった息子の民雄は、公安部から学生運動への潜伏捜査を命令された。スパイとして、セクトやブントに潜入し、非合法活動情報を公安部に届けた。その仕事を続けたために、不安神経症になり、こころがボロボロになった。上巻(2010.1.26) |
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13章:蝦夷に渡った榎本海軍は、房総沖で台風に遭う。仙台に寄った榎本たちは、奥羽列藩同盟の動向を知る。 |
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九章:徳川将軍の大阪逃亡から江戸城の無血開城まで。武揚は海軍副総裁となる。江戸時代が終焉した。 |
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五章:オランダのハーグでの研修の日々。 |
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一章:榎本円兵衛の息子、釜次郎が、長崎に行くまで。 |
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実際にあった政治の動きを背景に、戦後日本政治の分岐点になった政界再編を追う。社会党の代議士・寺久保と秘書・野崎の強い絆。陰謀ひしめく政治の世界をふたりが乗り切っていくためには、硬直化した政党政治に風穴をあける必要があった。過去の物語を参考にしているが、この本の文庫化はまさに2009年8月の政権交代を意識してのことと思われる。(2009.11.8) 佐々木譲 ハヤカワ文庫 2009年9月 760円 |
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太平洋戦争は、帝国海軍の真珠湾攻撃が火蓋になっている。しかし、その情報は当時国内にいたアメリカの諜報員によってアメリカ本国に伝えられていた。海軍の機甲部隊がハワイへの出撃を悟られないように結集した場所が、北海道の択捉島だったのだ。(2008.11.16) 佐々木譲 新潮社 1994年1月 820円 |
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イギリスと交戦していたヒトラーは、帝国海軍の最新式戦闘機タイプゼロ(いわゆる零戦)の情報を得て、ドイツでのライセンス生産を決定する。日独伊三国同盟の締結後、日本から二機の零戦が送られることになった。しかし途中は、敵対国のイギリス領ばかり。無事に零戦はベルリンの空に到達することができるのか。(2008.11.23) 佐々木譲 新潮社 1993年1月 780円 |
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昭南島とは、日本占領下のシンガポールのこと。イギリスの植民地だったシンガポールは太平洋戦争によって、日本の植民地に変わる。占領主が変わっただけで、自分たちの主権と独立を願うひとたちの戦いに変化はない。戦争と占領に翻弄される華僑やマレー人、インド人の戦いを丹念に描く長編。(2008.12.7) 佐々木譲 中公文庫 2008年7月改版 上800円 下743円 |
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太平洋戦争シリーズと呼ばれる作品群の完結編。「エトロフ発緊急電」「ベルリン飛行指令」「昭南島に蘭ありや」を読んでから手にしてほしい。アメリカ軍による原子爆弾の投下、ソ連軍の参戦は、ストックホルムでの情報収集によって事前に海軍は知っていた。それを本国に伝える過程で、重大な情報は闇に葬られてしまう。軍部や一部政治家、官僚が、なぜ日本政府を世界を相手にした戦いに突入させていったのか。ひとにとって、祖国とは母国とは何かを深く問いかける秀作だ。 (2009.8.26) 佐々木譲 新潮文庫(復刊) 1997年12月 上667円・下590円 |
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北海道東部。1830年代。東蝦夷地に着任した若き僧侶、恵然が見たものは。松前藩から漁場の管理を請け負った和人たちによる残忍なアイヌ人酷使だった。そこに悪事を諫める黒頭巾が登場し、アイヌ人を恐怖から救う。和人たちは武器を手に、黒頭巾討伐に乗り出す。作者が北海道ウエスタンと称する作品群の一つ。(2009.2.13) 佐々木譲 新潮文庫 2005年6月 552円 |
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三浦半島突端の浦賀奉行所で諸事接待係の中島三郎助は、日本人として初めてアメリカの蒸気船に乗船した。アメリカの産業技術を目の当たりにして、このままではやがてアメリカや諸外国に日本は植民地化されてしまうだろうと懸念する。近代海軍の創設や、大型蒸気船の建造を幕府に申し出て、次々とかたちにしていく。(2008.11.23) 佐々木譲 角川書店 2008年7月 820円 |
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源頼朝が奥州藤原氏を滅ぼした。多くの奥州の民や武士がいのちを落とした。しかし、その事実は日本史のなかであまり多く語られていない。中央集権国家を樹立させた頼朝と地方の豪族たちとのいのちをかけた騎馬上の闘いが綴られる。(2009.1.1) 佐々木譲 中公文庫 2008年11月 895円 |
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榎本武揚率いる幕府軍が函館の五稜郭で新政府軍に降伏する。歴史的には、これにより戊辰戦争は終結し、江戸時代から明治時代へと変わる。しかし榎本武揚率いる幕府軍のうち、新政府軍に投降せず、北の大地に身を隠したひとたちがいた。そのひとたちを主人公にした佐々木ワールド全開のテロと革命の物語だ。榎本が理想とした民主主義国家を北海道に建国する夢を抱き戦い続ける兵藤騎兵隊頭。かつて五稜郭でともに戦い、いまは反対に兵藤たちの討伐を命じられた政府側の矢島相談役。ふたりの戦いを中心に、幕末の北海道が描かれる。アイヌ蔑視、ロシアとの交流など、和人の北海道侵略の様子がわかる。結末は作者の駿女を思い出させた。(2009.9.10) 佐々木譲 徳間文庫 2009年2月 724円 |
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北海道警察を舞台にした大規模な汚職事件を小説タッチで描く。実際にあった話をもとにしているので、とても現実味がある。作者は多くの警察関係者を取材し、この物語の出版を託されたという。捜査のためのお金が警察幹部の裏金になり、現場の警察官は法律を犯しながら捜査費用を捻出し、仕事に充当するという本末転倒の真実が明らかにされる。 (2008.11.20) 佐々木譲 角川春樹事務所 2007年5月 720円 |
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北海道警察内部に会計上の不正処理があるという疑惑が警察庁に届く。キャリア調査官が予告なしの監査に入る。「笑う警官」で、活躍したメンバーが帰ってくる。最後のどんでん返しは、うならせるものがある。 (2008.11.23) 佐々木譲 角川春樹事務所 2008年5月 660円 |
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北海道警察を舞台にした警察小説。長い期間刑事を担当した巡査長が、小さな町の駐在所に制服警官として配置された。川久保巡査。制服警官には事件の捜査権限はない。しかし、刑事の経験を生かして、小さな町に埋もれる事件を掘り出して行く。そこには、地元有力者による隠蔽や、弱い者が泣き寝入りをする体質がしみついた地方のしがらみが根付いていた。法律が行き渡らないような地方が、いまも日本の多くの地域にはあるかもしれないと不安になった。(2009.9.3) 佐々木譲 新潮文庫 2009年2月 590円 |
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戦後、焼け跡の横浜に復員した自動車整備工が、55年の歳月をかけて、日本有数の自動車メーカーを築いて行く。明確なモデルがあるとしたら、ホンダだろうが、物語にはホンダも登場しているので、作者オリジナルの企業家イメージととらえたほうがいい。大資本に対抗し、小さな町工場から自動車を生産したひとたちの夢と挫折の物語だ。官僚が大資本を優遇するくだりでは、どの業種でも同じことが繰り返されているのだと痛感した。たっぷりとボリュームのある書籍だ。 (2009.2.27) 佐々木譲 小学館文庫 2006年7月 733円(上) 2006年7月 752円(下) |
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アメリカの傀儡政権が労働者から富を搾取し続けていたキューバ。幾度もクーデターや粛清が繰り返されていた時代に、キューバ独自の革命を達成したフィドル・カストロ。彼が革命を達成するまでの歴史を物語り風にまとめている。カストロは個人崇拝を嫌って伝記作成の許可を出していないので、この話は伝記ではなく、キューバ革命の足跡として読むのをお奨めする。(2008.11.23) 佐々木譲 集英社 2005年11月 560円 |
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夜にその名を呼べば。タイトルにロマンチックな響きあり。ベルリン、東京、小樽。3つの街が、舞台になって、スピード感とスリルを盛り上げる。企業の不正。その責任を押しつけられた男の逃亡と狂気。じわじわと形を現す復讐の連鎖。企業論理、警察捜査、マスコミの犠牲者、富と名誉。あらゆる無常への抗議を物語の随所に感じた。(2009.2.11) 佐々木譲 ハヤカワ文庫 2008年5月 760円 |
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著者が若いころの作品群。オートバイが大好きな気持ちが文章の端々にあふれ出す。物語は、オートバイ乗りを中心にした人物描写・内面描写がたんねんに描かれる。表題の「ラストラン」を含めて5つの物語からできた短編集。それぞれの物語の詳細は「ラストラン」のなかみをご覧ください。 (2009.8.12) 佐々木譲 ポプラ文庫 2009年4月 580円 |
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ある舞台の主役オーディションに集まった4人の小説。この小説は佐々木の「あこがれは上海クルーズ」の続編だそうだ。正編を読んでいなくても、十分に楽しめた。女優を目指しながら、オーディションに応募した4人の若い女性。生活も境遇も価値観も違う。場面はスタジオ、時間はオーディション当日。固定した場所、限定した時間。夢を追い求めるとは、どういうことかをそれぞれの主人公がつかんでゆく。(2009.9.10) 佐々木譲 集英社文庫 2002年6月 476円 |
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武田信玄が信濃の小城を攻略し、一族郎党を皆殺しにする場面から始まる。スピルバーグのプライベートライアンを思い出した。戦国の世に、城の石垣造りに名をあげた棟梁、戸波市郎太の物語だ。戦いに明け暮れる者たちと、求めに応じて城の石垣造りを担当する職人たちの異なる生き方が象徴的に描かれた。(2009.10.8) 佐々木譲 新潮文庫 2006年10月 590円/629円 |
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ホラーだ。北海道東部地方の山間部を舞台にした二組の夫婦が織り成す怪奇物語。それも同じ物語を夫と妻の別々の視点から描いている。妻の視点の一部と夫の視点の二部で、物語を二度楽しむことができる。ホラーと言っても、著者独特の短いタッチの台詞や、リズム感のある描写は変わりない。だから、ホラーなのにおどろおどろしくなく読み進めることができた。途中から、これはホラーというよりも、ミステリーかなと感じたほどだ。(2009.10.29) 佐々木譲 ハルキ文庫 2000年7月 838円 |
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大田区の中小工場に、貿易会社を解散した商社マンが社長として乗り込んだ。土木業と金融業ばかりを保護してきた保守政治は、日本の職人たちを駆逐した。ものづくりの現場は、外国の安価な製品に市場を独占され、倒産会社があふれている。銀行は、資金を貸さない。ものを作る実業の世界を無視する国策に、著者が大きく憤っている内面が、物語の端々からにじみ出る。会社建て直しに奔走する新社長を待ち受ける多くの困難。それを乗り越えるために、熱く、透き通る愛の姿がまぶしい。(2009.10.23) 佐々木譲 講談社文庫 2003年1月 895円 |
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600ページの長編なのに、出来事はわずか一日のなかで進行する。赤道直下の小国が舞台。核廃棄物の永久処分場を探すアジアの大国が小国ポーレアの政治対立を利用して、クーデターを計画する。少しずつ明らかになる不穏な動きのなかで無関係の友人を殺された男が謀略に挑む。太平洋の小さな島国のひとたちが、白人や日本人に侵略され、苦しんできた過去の恨みが、クーデター勢力の一掃へ向けて団結した。(2009.10.17) 佐々木譲 講談社文庫 2008年9月 895円 |
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作者がアメリカを旅していたときに思いついた物語を短編形式で作品化した。 それぞれの物語の詳細は「サンクスギビング・ママ」のなかみをご覧ください。(2009.10.8) 佐々木譲 講談社文庫 2008年6月 648円 |
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表題作「飛ぶ想い」を含め、5編の短編からなる。作者がアメリカ旅行をしていた時期にアイデアを構想したと思われる軽快で、読みやすい若者のストーリー。「飛ぶ想い」の詳しいなかみを紹介しています。(2009.9.15) 佐々木譲 講談社文庫 2008年11月 590円 |