アクセスカウンター

 

関連するリンクページ

書籍紹介トップページ
サイトのトップページ

ほぼ毎日更新の雑感「ウエイ」
佐伯泰英ページ

 

佐伯泰英
yasuhide saeki


青春抄
小籐次0

小籐次がまだ森藩で厩番をしていた頃の「品川の騒ぎ」と、その頃の仲間の光之丈が野鍛冶に婿に入ってからの「野鍛冶」を収録。品川の騒ぎはすでに発行されている。野鍛冶はこの作品のための書き下ろし。若き小籐次の活躍を描く。まだ酒は飲んでいない。 (2016.8.6) 文春文庫 20163月 650


御槍拝借
小籐次1

赤目小籐次は豊後森藩の江戸下屋敷で厩番をしていた。ある日、下城した若い殿様が単騎で乗り出したとき、後を追った。すると人気のない場所で嗚咽する若殿を見つけてしまう。事情を尋ねると、城中で他藩の大名たちに馬鹿にされたと教えられた。大酒のみの小籐次は、かつて先代に命を救ってもらったことがあった。その恩に報いるときが来たと考え、あえて不始末をしでかして、藩への奉公を首になった。箱根山中を参勤行列がゆく。小籐次は、若殿を馬鹿にした4人の大名行列に果敢に挑み、大名の身代と言われる御槍をことごとく奪い去っていく。 (2014.5.6) 幻冬舎文庫20042571


意地に候
小籐次2

藩主の汚名を晴らした小籐次は江戸の長屋で刃物研ぎの仕事をしながら静かに暮らしていた。毎朝、野菜を売りに来るうづの指南のもと、少しずつ研ぎを頼む客が増えていく。そんなとき、うづが地元の親分に目をつけられているところを小籐次が助ける。それからしばらくうづは野菜売りに姿を見せなくなった。心配していた小籐次は、物売りの話からうづの父親が親分の策略にかかり、博打で借金をこさえ、女郎として売られようとしていることを知った。小籐次は単身で店に乗り込みうづを救済した。小籐次が藩主の汚名を晴らす過程で殺してしまった他藩の侍。その侍につながる者たちが、密かに小籐次の命を狙っていた。水戸家の奥女中おりょうの名をかたって、小籐次を誘い出し、仇を討とうとする策略が進行していた。 (2014.5.18) 幻冬舎文庫20048571


寄残花恋
小籐次3

江戸に戻った小籐次はいつもの長屋で研ぎの仕事を再開した。突然、江戸を去ったにもかかわらず、深川の住人は小籐次の研ぎを心待ちにしていた。また不在の間に、読売によって、小籐次がひとりで大名家を相手に奮闘したことを知っていたのだ。佐賀本藩では、城主の制止を振り切って家臣のなかに小籐次を討つべしと考える「葉隠れ」精神の者たちが増えていた。 (2014.5.27) 幻冬舎文庫20052571


一首千両
小籐次4

佐賀本家からのお達しを無視する形で、追腹組と呼ばれる剣客集団が小籐次のいのちを狙っていた。それに加えて、お大臣たちが暇に任せてひとり100両を出資して、小籐次を倒した者には1000両の報奨金を出すという遊びを始めた。知り合いの親分に背景の探索を頼んだ小籐次は江戸を離れる。世話になっている紙問屋の昌右衛門とともに水戸へ和紙を買い付けに行く。日ごろからいのちを狙われる生活に、少しでも安楽な時間を提供しようとする昌右衛門の配慮だった。 (2014.6.1) 幻冬舎文庫20058571


孫六兼行
小籐次5

新兵衛長屋では、差配だった新兵衛がぼけてしまったので、娘夫婦が同居した。新兵衛のかわりに差配の仕事を任された娘のお麻は慣れない仕事と父親のぼけの進行に表情が暗くなっていた。小籐次は研ぎの仕事を続けながら、水戸藩に頼まれたほの灯かり行灯の製作に余念が無かった。そんなとき芝神明神社で陰間が殺される事件が起こった。神社の神主から殺された陰間の喉に突き刺さっていた宝剣が紛失しているので探索して欲しいと頼まれた。神主と陰間の間には男同士の色恋があった。それを知っての宝剣探索だった。そこには男色どうしの嫉妬が隠されていた。無事に宝剣を取り戻した小籐次は、神主からお礼にと孫六兼光を贈られた。紙問屋の久慈屋が高尾山へ毎年恒例の紙納めに行くという。大番頭の観右衛門が小籐次に同行を願う。道中の危険を小籐次が払いのけ、無事に高尾山への奉納は終わった。琵琶滝にある研ぎ小屋で、小籐次はひとり残り、孫六兼光の研磨に時間をかけることにした。 (2014.6.10) 幻冬舎文庫20062571


騒乱前夜
小籐次6

水戸へ行燈の制作に向かったことうじは、水戸藩の内紛に巻き込まれる。江戸と国府との間で長きに渡って対立していたところに、幕府から間宮林蔵が立ち入ったからだ。間宮の狙いは何か。国府の精進一派は主君の命に背いて間宮を幕府の密偵と決めつけ拉致してしまう。国家老から問題の解決を頼まれたことうじは、ひそかに精進一派をおびき出し、これを壊滅する。はたして間宮の狙いだった伊能忠敬が編纂した日本地図の一部が精進屋敷から発見された。ことうじは間宮を救出した条件として、この地図が水戸以外の場所で見つかったことにさせた。江戸にもどったことうじは、再び追腹組が放つ刺客との戦いに巻き込まれていく。 (2014.6.20) 幻冬舎文庫20068571


子育て侍
小籐次7

尋常の勝負で勝った相手のこどもを預かることになった小籐次は、長屋で二人暮らしを始める。同じ長屋で差配をするお麻が、こどもの駿太郎の面倒を引き受けてくれた。研ぎの仕事に出るときは、出がけのお店で、駿太郎はかわいがられた。そんな駿太郎と小籐次を見張る者たちがいた。地回りの秀次親分に探索を頼んだ。その結果、見張る者たちはさる大名家の家臣たちだということがわかった。その者たちは小出家の家臣で、姫のお英には駿太郎というこどもがいたという話だった。戦いの場で駿太郎の母の名を聞かなかった小籐次は、小出家が正当な方法で駿太郎を引き取ろうとしているのか訝った。やがて、駿太郎をおぶった国三が何者かに拐かされた。小籐次は駿太郎の母が密かに住まう寺を見つけ出し、駿太郎の救出に向かう。藩の重要職への復活を願っていた小出家では、姫がひそかに産んだ駿太郎を始末して、何もなかったことにしようとしていたのだ。しかし、あわや駿太郎が殺される場面でお英は母親の本能を発揮して、父親の刃に斃れた。奉行所の調べの後、駿太郎は晴れて赤目駿太郎として育てることが認められた。 (2014.6.28) 幻冬舎文庫20112600


竜笛嫋々
小籐次8

小籐次の思い人であるおりょうに縁談が持ちかけられた。本人から相談を受けた小籐次は内面の苦しみを抑えて祝いの言葉を伝えた。しかしおりょうの表情は冴えない。理由を聞くと、相手は高家でありながら、妖術を使い、身近な人を数多く死に追い込んでいるらしい。小籐次はおりょう第一に探索にあたると約束した。大晦日から正月にかけて、芝の長家は掛け取りに支払う銭集めに忙しい。小籐次は一年の世話に報いるために無料で研ぎをやっていた。そんなとき、おりょうが誘拐されたという一報が小籐次に入った。 (2014.7.5) 幻冬舎文庫20112600


春雷道中
小籐次9

小籐次は、水戸へほの灯かり久慈行灯の指導に行くことになった。久慈屋からの一行は、主の昌右衛門、娘のおやえ、手代の浩介、小僧の国三、そして駿太郎だった。昌右衛門は、久慈の本家に娘のおやえと浩介を紹介するねらいを秘めていた。ふたりはやがて夫婦になることを昌右衛門が決めていたからだ。しかし古くから久慈屋で奉公していた番頭の泉蔵が、自分を追い越して浩介がおやえと夫婦になることに反対していた。ついに泉蔵はお店のお金に手をつけて、浩介を亡き者にしようと企んだ。水戸へ出発する前に昌右衛門が泉蔵を実家へ追い返した。しかし、泉蔵は水戸へ向かう昌右衛門たちの前に姿を現し、いのちを奪って旅の路銀を入手しようと試みた。 (2014.7.8) 幻冬舎文庫20082571


薫風鯉幟
小籐次10

1819(文政2)年の5月。芝口新町の新兵衛長屋から、川を挟んで鯉幟が勢いよく踊っていた。勝五郎の話によると、新下谷町の薬種問屋歓薬堂本舗の大旦那が妾を囲って造作をしたそうだ。水戸から吉原を訪ねた小籐次は、大籬の松葉屋の清琴太夫(すげことだゆう)に吉原灯りを届けた。太夫の考えを取り入れた新しい行灯が完成し、その礼に真っ先に新作を届けたのだった。野菜売りのうづの姿がいつもの深川に見えなくなった。数日間も見えないので不審に思った小籐次は、うづが実家でお花大尽の小左衛門の息子の嫁になる話が持ち上がっていることを知る。お花大尽の評判はすこぶる悪く、息子は2度も嫁を取っては別れていた。母親の意向に逆らえない弱い男とのことだった。うづの実家ではそんな家にうづを嫁がせたくはなかった。しかし、金にものを言わせたお花大尽に逆らえる雰囲気ではなかった。そのため、うづは身を隠していたのだ。下平井村まで舟をこいだ小籐次は、うづと出会い、着の身着のままで芝口新町まで連れていった。事態が落ち着くまで、うづを長屋で守り、相手の出方によっては小籐次が間に入ろうと考えたのだった。 (2014.7.15) 幻冬舎文庫20088571


偽小籐次
小籐次11

水野の下屋敷でおりょうと夜をともにした小籐次は、夢を見ているようだった。その時に鎌倉で歌会があるので同行を頼まれていた。深川では、偽の小籐次が登場していた。へたな研ぎをして、客から法外な研ぎ料をとっていた。そしてついに偽小籐次が辻斬りをした。江戸の町に小籐次の評判を下げる企てだったのだ。 (2014.7.12) 幻冬舎文庫20112600


杜若艶姿
小籐次12

当代切っての立女形である岩井半四郎から芝居見物に誘われた小籐次は、周囲のすすめを受けて新作興行の初日に舞台を訪ねることにした。そこには、自分ひとりではなくおりょうと、おりょうの働く水戸藩の重役の妻であるお登季も伴うことにした。眼千両と言われる半四郎と、その首に千両の値がついた小籐次が芝居の初日に顔合わせをするということで、江戸の町はにぎわっていく。自分も芝居を見たい紙問屋の小僧の国三は、方向の途中にひとり掛取りの金を背負いながら芝居小屋を訪ねてしまう。大きな事件になる前に小籐次は発見し、国三は水戸の本家で紙作りの基本から方向をやり直すことになった。 (2014.7.28) 幻冬舎文庫20098571


野分一過
小籐次13

夏から秋、江戸には大きな野分(台風)が近づいていた。新兵衛長屋の小籐次は長屋のメンバーに声をかけて、いち早く芝明神に避難をした。次々と川沿いの長屋のひとたちが芝明神に避難してきた。そんななか小籐次は無理難題を言い張る浪人者を追い払う手伝いをした。野分が過ぎて、長屋の畳を干したり、川の水位が下がったりするのを待つ間に、小籐次は紙問屋「久慈屋」の大番頭である観右衛門に供を頼まれた。船頭として観右衛門を隅田川の上流へ連れて行く。そこには粋をこらした御寮があった。久慈屋が没落した御家人から買い取り、次の利用を考えていた家作だった。これを歌人として生きていく覚悟を決めた北村おりょうの屋敷にと観右衛門は勧めた。嬉しいながらも、これだけの御寮を入手する費用のあてがない小籐次は断る。それは気にしなくてもいいという観右衛門の気持ちを受け入れて、おりょうに相談をする。おりょうも費用を気にするが、観右衛門の気持ちを察し、そこを望外川荘と名づけ、自らの棲家とすることにした。小籐次と駿太郎にもともに暮らしてほしいと願う。しかし、小籐次は自らが命を狙われる身なので、おりょうに災いがふりかかることを心配し、同居は断り、ここに密かに訪ねる生活をしたいと申し出た。ふたりで神社に寄ったとき、おりょうは手を合わせて、生涯、小籐次と夫婦になると誓った。 (2014.7.31) 幻冬舎文庫20102571


冬日淡々
小籐次14

深川惣名主の三河蔦屋染左衛門の意向を受けて、成田山新勝寺詣での警護をすることになった小籐次。道行く途中で二度の妨害を阻んだ。盗人の企みとは思えなかった小籐次は背景にもっと大きな狙いがあるのではないかと考えた。染左衛門は、新勝寺の出開帳の頭取でもあった。私財を投げ打って新勝寺の門徒を広げていた。その頭取の座を狙う大店がひそかに染左衛門の命を狙っていたのだ。業病の苦しさを抱えた染左衛門は、新勝寺で三日夜籠りの荒行を達成し、持参した金剛の仏を開眼させる。その荒行を狙った者たちを小籐次が片付けた。江戸に戻った小籐次は、おりょうが初めての歌会を望外川荘で開催すると聞く。 (2014.8.9) 幻冬舎文庫20108600


品川の騒ぎ
小籐次15

小籐次の少年時代の物語。豊後森藩江戸下屋敷で厩番の倅として生活していた小籐次は、品川の悪仲間に誘われて、大地主津之国屋の金蔵を打ちこわしから守る仕事を請け負った。大事な金蔵を年若の自分たちに高給で守らせるという依頼を訝った小籐次だったが、仲間の新八の誘いを裏切ることができなかった。リーダーの松平保雅は信州松野藩6万石の三男坊。兄ふたりにもしものことがない限り、飼い殺しの日々を送っていた。小籐次は密かに金蔵に忍び込み、そこが抜け荷の隠し蔵だということを探り当てた。このままでは、自分たちは津之国屋に罪を着せられ、最後には始末されるだろうと推測した。しかし、なぜ津之国屋が自分たちを狙ったかが判明しなかった。仲間に探りを入れさせるなかで、松野藩の用人が、保雅を殺して、時期殿様に自分の意のままになる次男をつけさせようとしていたことが判明した。このほかに付録としてガイドブックがついたスペシャル版。 (2014.8.11) 幻冬舎文庫20108600


新春歌会
小籐次16

北村おりょうがいよいよ江戸の歌詠みの世界でデビューする新春歌会が迫っていた。大晦日から正月にかけて、小籐次は歌会の準備をしたいのに、別の御用で振り回される。しかし、御用は贋金に絡むものだったので、老中青山の命令のもと、小籐次が問題の解決に乗り出していく。 (2014.8.15) 幻冬舎文庫20112600


旧主再会
小籐次17

豊後森藩の藩主である久留島通嘉に呼ばれた小籐次は、城中での頼み事を相談された。それは小籐次が幼い頃に、大名の三男坊、それも妾のこどもだった松平保雅からの頼み事だった。信州松野藩6万石の大名になった保雅は、長男と次男が急逝したために、妾の子どもながら、藩主の座に就いていた。松野藩のために小籐次の力を借りたいという申し出を受けた通嘉が小籐次に取り次いだのだ。小籐次は松野藩上屋敷を訪ねて、久しぶりに保雅と面会をした。互いに品川で悪さをしたふたりには身分の違いなど関係なかった。保雅によれば、国元を訪ねた息子の保典が幽閉されているかもしれないというものだった。その探索と保典の救出を願うものだったのだ。詳しいことを小籐次は保雅から聞き出す。国元では妾の子どもではなく、分家から血筋の通った者を藩主の座へつけようとする動きがあった。その者たちが保雅の息子を亡き者にして保雅を引きずり下ろそうとしていたのだ。老中青山の密偵であるおしんと中田新八に助けを求めた小籐次は、一路信州へと向かった。 (2014.8.25) 幻冬舎文庫20118600


祝言日和
小籐次18

久慈屋のひとり娘のおやえと番頭の浩介の祝言が近づいていた。小籐次は発熱した駿太郎の養生を兼ねて望外川荘で逗留していた。いつまでも小籐次と暮らしたいおりょうの気持ちをよそに小籐次は秀次親分からの御用を申し受ける。旗本の佐治が一族郎党を引き連れて屋敷にこもり武装しているという。人質の救出をした小籐次は、無事に望外川荘に戻り、祝言の準備を進めた。祝言のお祝いとして円行灯を百助の小屋の煤けた竹で制作した。それに久慈紙を貼り、祝言の夜、ふたりの閨を彩ろうとしたのだ。野菜売りのうづは色づき始めた紅葉の葉を舟いっぱいに積み込んで、花嫁が向かう舟を飾ろうとした。無事に芝神明神社での祝言が終わったとき、小籐次をお参りに誘ったおりょうはふたりだけの夫婦の誓いを芝神明に誓う。久しぶりに長屋に戻った小籐次は、研ぎの仕事を再開する。そこにうづの父親と妹が誘拐されたという連絡が入る。父親が作った借金のかたにうづを身請けしようとする名主の策謀だった。そこに土地の親分がからみ、うづとの交換を突きつけてきた。平井村におりょうと渡った小籐次は賭場で借金を作った父親が性懲りもなくふたたび賭場で遊ぶ姿を見る。南町と協力して親分や名主を捕縛する途中、うづの父親は自ら名主の刃に斃れて息を引き取る。博打という病に冒された自分のせめてもの最期の姿をうづらに示した。 (2014.8.29) 幻冬舎文庫20122600


政宗遺訓
小籐次19

秋雨が新兵衛長屋に続いていた。小籐次は勝五郎らに相談して、長屋の明いている家作で炊き出しをして、景気づけをしようと計画した。食料や飲み物は久慈屋やおりょうからたくさん届いていた。家作の掃除をしていた勝五郎が甕の中から根付けを見つける。価値の分からない二人は、根付けを久慈屋に届ける。久慈屋によれば、その根付けはかつての関取の谷風が深川の惣名主から借り受けたものだった。そして、その根付けは価値が高く、1つで何百両もの値がつくというものだった。そんなとき、家作を訪ねて根付けの在処を探る地回りがいた。だれが遣わしたものかは不明だったが、根付けを巡って、大きな騒動が発生しようとしていた。小籐次は雨をよけて望外川荘でおりょうと駿太郎とのんびり過ごすことができた。その間にたまった研ぎの仕事に精を出す。しかし根付けの一件で秀次親分の御用を申しつけられた。あの根付けは谷風から仙台藩伊達家に譲られていたものだったのだ。 (2014.9.4) 幻冬舎文庫20128600


状箱騒動
小籐次20

水戸へ向かった小籐次。おりょう、あい、お夕らとともの旅はゆっくりしたものだった。その途中で、状箱が何者かによって盗まれるという騒ぎが発生する。状箱は江戸の水戸藩主が国許へ送る文書を入れた箱のことだ。金品が入ったものではないので、奪う者の意図がわからない。水戸の重役たちは、行灯製作のために呼んでいる小籐次に御用を依頼する。おりょうとともに騒ぎの解決に挑む小籐次は、水戸藩への恨みをもつ者が奪った状箱を世間に晒して恥辱を与えようとしているのではないかと推測した。旧シリーズはこの巻でいったん終了する。 (2014.9.7) 幻冬舎文庫20132600


神隠し
新・酔いどれ小籐次1

小籐次が御用で新兵衛長屋を空けていたとき、忽然と元差配の新兵衛が消えた。長屋じゅうで探索をしたが見つからなかった。住民が集まって宴会の準備をしていたときに消えてしまったのだ。だれもが視界の片隅に新兵衛を気にしながらも注意している者はいなかった。そんなとき飾り職人の桂三郎が娘のお夕と小籐次の養子である駿之助を連れて花嫁道具の注文を受けに行った。その武家屋敷からお夕と駿之助も忽然と消えた。小籐次らが探索したときには、その屋敷は空き屋敷になっていて、何年もひとが住んだ気配はなかった。以前ここに住んでいた一族は雑賀衆の流れをくむ者だった。それが将軍の勘気に触れてお家断絶の憂き目にあった。主切腹の沙汰が下るが、一族は消えた。その阿羽津一族による拐かしと見当をつけた小籐次は老中青山の密偵であるおしんと新八とともに幽霊屋敷に乗り込んでいく。 (2014.9.9) 文春文庫20148620


願かけ
新・酔いどれ小籐次2

いつものように小籐次が研ぎ仕事をしていると、両手を合わせて拝んでいくひとたちが現れた。最初は気にも留めなかったが、そのうちに賽銭を塗り傘や洗い桶に入れていくようになり、困り始めた。自分が拝まれる筋合いはないと判断し、研ぎ場を変えても、同じような状態は続いた。小籐次の知人らは「酔いどれ大明神」などといってはやしたが、本人はいたって迷惑に思っていた。ついには賽銭が多額になり、寺社奉行から町方に小言がもたらされた。小籐次は秀次親分らと相談し、集まった賽銭のすべてを幕府のお救い小屋に寄付することにした。そのことを読売を使って喧伝しても、小籐次を拝むひとたちは消えなかった。きっと背景に何かがあると確信した小籐次は老中青山家を訪ねた。影の者として老中の命を実行するおしんと新八の力を得て、願掛けの秘密に迫っていく。同じ頃、深川のおりょうは歌会で門弟衆がもめたことに心を傷め、今後の芽柳派の歌会のあり方について悩んでいた。 (2015.2.15) 文春文庫20152620


桜吹雪
新・酔いどれ小籐次3

長屋の差配だった新兵衛は法華経を唱えることで現世からあの世への旅を始めようとしていた。息子夫婦は仕事があって、新兵衛のかわりに法華経の本山である身延山へ参拝に行くことができなかった。それを知った小籐次は家族で、新兵衛の孫の夕を助けて代参することに決めた。夕は父の桂三郎と同じ飾職人を目指したいと願っていた。身延山への代参を終えたら父親に弟子入りする覚悟で身延山へ向かう。雑賀衆を使って、小籐次の命を狙う幕府中枢の動きを察した小籐次は、身延山への旅で、一味と決着をつける覚悟を決めていた。おりょう、駿太郎、夕との道中で、小籐次は自分の母親が身延に近い鰍沢の生まれだったと告げる。顔も知らない母親のことは、父親が無言で身延までの旅をしたときに教えられたという。一行は無事に身延山にたどり着き、代参を済ませる。そこに雑賀衆が現れ、小籐次と桜吹雪のなかで最後の死闘を繰り広げた。 (2015.8.27) 文春文庫20158620


姉と弟
新・酔いどれ小籐次4

新兵衛長屋の飾職人桂三郎の娘お夕は、幼いときから小籐次や息子の駿太郎とともに過ごした。だから、夕と駿太郎はまことの姉と弟のような関係だった。駿太郎がおりょうに横恋慕した男に実の父親の話を吹き込まれたことがあった。いままで小籐次とおりょうを父母と信じてきた駿太郎は思い悩んだ。そのときに、沈んだ心を和ませてくれたのは夕だった。その夕が父親の桂三郎を師匠として職人の世界に入って弟子としての生活を始めた。日を追うごとに夕の表情から明るさが消えていく。小籐次は父と娘が師匠と弟子になる難しさを夕が体験しているのだろうと想像した。版木職人の勝五郎と桂三郎を誘って、魚田を食べに行った小籐次は、月に一度、夕をおりょうの住む望外川荘へ泊まらせてはどうかと提案する。修行の苦しさや難しさをときには打ち明けられる駿太郎のような存在が必要だと感じたからだ。はじめ修行に専念すると決めていた夕は、駿太郎と一日研ぎ仕事をするうちに、小籐次の提案を受けることにした。そんな折、老中青山の密偵であるおしんと新八が、駿太郎の母親の墓を見つけたと報告する。さらに小籐次の探索で駿太郎の父親の墓が深川にあることもわかった。小籐次とおりょうは父親の墓に墓石を建て、駿太郎に墓碑を刻むことを願った。 (2016.6.15) 文春文庫20162620


柳に風
新・酔いどれ小籐次5

いい雨が続いて小籐次は小梅村の望外川荘から出られない日々を送っていた。そのころ、江戸の町では押し込み強盗が立て続けに起こっていた。すべて人が殺され、多額の小判が盗まれていた。その押し込みにも秩父の強盗団をかたった墨書が残されていた。そこには「小籐次への仇を討つ」という文言が載っていた。読売屋の空蔵が事件の匂いを嗅ぎつけて新宿へ取材に出かけたまま行方不明になった。 (2017.4.7) 文春文庫20168660


らくだ
新・酔いどれ小籐次6

異国から江戸に二頭のらくだが運ばれてきた。見世物としてひとびとの注目を集めた。小梅村からも、小籐次一家が見学に訪れた。そのらくだが何者かによって盗まれた。本格的に興行を始めようと思っていた主は秀次親分を頼って、小籐次に助けを求めてきた。見物をしたときにぺろぺろらくだになめられて親近感のわいた小籐次は、研ぎ仕事の傍ら探索を進めた。らくだの臭いを覚えているクロスケも駿太郎とともに探索の手伝いをした。その結果、らくだが連れ込まれた廃屋を突き止めた。らくだは、江戸で興行をするときに競ったほかの興行主が、今回の主から金をゆすりとるために盗まれていたのだ。小籐次は逃げるらくだを追いかけ、追っていた馬から落ちて腰を打撲した。かつて、森藩で厩番をしていたのに落馬をしたことを恥じた小籐次は、弱気になった。周囲の配慮を得て、久慈屋の主夫婦らと熱海へ湯治に出かけることができた。 (2017.5.17) 文春文庫20169660


大晦り
新・酔いどれ小籐次7

江戸の町に大晦が近づいていた。小籐次は最後の研ぎ仕事に励んでいた。そんなとき、飛脚問屋が火付けによって焼失した。火事現場から二人の刺殺体が発見された。なぜか死体は問屋の住民ではなかった。小籐次のもとに、老中青山の密偵、おしんが現れ、火事騒ぎで娘がさらわれ、その救出を頼んできた。娘は飛脚問屋とは無関係の料理茶屋の娘だった。なぜさらわれたのか?死体は誰か?不明なことばかりの探索に小籐次の怒りが爆発する。 (2017.9.23) 文春文庫20172670


夢三夜
新・酔いどれ小籐次8

小籐次は夢を見ていた。いつかどこかで見たことのある女性が小籐次をのぞき込み、顔を近づける。その女性がだれなのかがわからない。年齢を重ねると、ひとは夢を見るものなのかと考えるようになる。妻のおりょうの実家へ年末になり挨拶に行った。その帰りに、小籐次は初めておりょうの兄と顔を合わせた。おりょうと違い、甘やかされて育った兄は婿に出た先で金を使い果たし、離縁を申しだされた。実家に戻って歌の跡継ぎを申し出るが父親に断れる。すべてがおりょうを小籐次が娶ったことに由来すると考えた兄は、小籐次の命を狙う。 (2017.10.7) 文春文庫20177690


船参宮
新・酔いどれ小籐次9

紙問屋の主、昌右衛門とともに伊勢参りに出かけた小籐次は、大井川を前にして川止めをくらった。しばらく大水が続いて川を渡ることができなかった。そんな旅人の懐を狙った賭場が開かれ、ついに旅代すべてをつぎ込んで川に身を投げる者まで現れた。旅籠屋主人の危難を救った小籐次は、主に頼まれて賭場を開き、稼ぎを奪っていた者と、それにつるんでいた地元の御用聞きを成敗する。その時に影で操っていた伊勢から追放された女が、船参宮をした小籐次一行を襲う。 (2017.12.24) 文春文庫20178690


げんげ
新・酔いどれ小籐次10

蓮華の花のことをげんげという。伊勢参りから戻った小籐次に新たな難問が降りかかる。その日の夜、小籐次は荒れる隅田川に船を出し、戻らぬ人になった。 (2018.6.17) 文春文庫20182730


椿落つ
新・酔いどれ小籐次11

江戸にもどった小籐次は駿太郎とともに久慈屋の軒先でいつもの研ぎ仕事に精を出していた。そんな時伊勢参りで出会った三吉が、酒飲みの父親の借金代わりに売られようとした。それを知った秀次親分が三吉を連れて小籐次に相談に来た。金を貸した品川で悪行を尽くしていた強葉木谷の卑弥呼一味が、三吉の父親を殴り殺しにした。小籐次は親分らの要請を受けて、三吉を畳屋に奉公に出して、卑弥呼一味の始末に向かう。 (2018.8.12) 文春文庫20187730


夏の雪
新・酔いどれ小籐次12

徳川将軍に拝謁した小籐次親子。小籐次は将軍の前で大酒飲みを披露した。剣術の腕前をお庭番と競わせられることを避けるための判断だった。その結果、望外川荘には各大名らから多くの四斗樽が届けられた。小籐次は届けられた四斗樽を酒問屋に売り払い、大川の花火大会へ役立てることを考えた。 (2019/1.29) 文春文庫20188740

鼠草紙
新・酔いどれ小籐次13

おりょう、駿太郎とともに京都へ旅をした小籐次は帰りに老中青山の国元である丹波笹山に立ち寄った。そこは駿太郎の実の母であるお英と実の父である須藤平八郎の生まれ育った国だった。お英の墓参を駿太郎にさせることを目的としていた。加えて小籐次は老中の青山から上意を受けていた。小籐次たちのいない江戸では研ぎ屋として場所を借りていた久慈屋の軒先に小籐次と駿太郎の人形が飾られていた。 (2020/4.2) 文春文庫20192730

旅仕舞
新・酔いどれ小籐次14

篠山の旅から戻った小籐次は久慈屋の軒先で再び駿太郎と研ぎ仕事を始めた。農村の凶作で多くの農民が在所を捨てて江戸に流入していた。それに合わせて商家を襲う悲惨な事件も発生した。南町奉行所の岡っ引きである秀次親分から探索の協力を求められた小籐次は、自らも曲者らに命を狙われる(2020/11.18) 文春文庫20197730

鑓騒ぎ
新・酔いどれ小籐次15

小籐次の旧藩豊後森藩。正月の登城に際して御鑓を奪うという文面が届いた。急遽、小籐次が呼ばれ、鑓持ちの修行ともに当日の鑓持ちを二人で行った。下城途中で暴漢が現れたが小籐次が鑓を守った。数日後に再び暴漢が森藩の行列を襲った。その時、不意に旅芸人が現れ暴漢を撃退した。これも小籐次のおこないだった。老中の青山の計らいで、小籐次を襲った幕閣の企てが明確になり、将軍御鷹狩の帰りに望外川荘に新しく幕閣に加わった者と小籐次の間で和睦がなった

 (2020/11.21) 文春文庫20198730

酒合戦
新・酔いどれ小籐次16

駿太郎は桃井道場へ入門した。同じ年頃の若者たちとともに過ごす時間を小籐次とおりょうが大切にしてほしいと願ったからだ。その道場へ道場破りを狙う者が現れた。おりょうの鼠草紙が完成した。望外川荘で披露したことがきっかけで、完成した作品を多くの花見の場に持ち込むことになった。そこで小籐次は酒合戦を挑まれた(2020/11.27) 文春文庫20202730

鼠異聞・上
新・酔いどれ小籐次17

小籐次と駿太郎が研ぎ仕事をしている紙問屋の久慈屋。高尾山からの注文の紙を届けることになり、二人は同中の安全を守る役目で同行することになった。それを知った桃井道場の年少組の若者たちが、自分たちも紙を積んだ大八車を押すのでいっしょに連れて行ってほしいと願い、夢がかなう。一方、小籐次に若い男から懐剣の研ぎ依頼が入った。由緒ある懐剣に興味をもった小籐次は依頼を受けた(2020/12.3) 文春文庫20207730

鼠異聞・下
新・酔いどれ小籐次18

高尾山へ向かう途中、桃井道場で年少組頭を勤め、大店へ奉公に出た留吉が久慈屋の荷を襲った。留吉を生かしておけば同心の木津家が取り潰されることを覚悟した小籐次は、北町奉行所見習い与力の岩代に悲壮な覚悟を伝えた。一方、久慈屋の荷物の中には高尾山から頼まれた700両もの借金が隠されていた (2020/12.5) 文春文庫20207730

青田波

新・酔いどれ小籐次19

子次郎から預かった懐剣を研いだ小籐次は、旗本が金繰りに窮して高家に盲目の娘を差し出すことを知った。娘は高家に差し出されたのちに懐剣で自害する決意だった。小籐次は姫を望外川荘に招き、事の解決を誓う(2020/12.31) 文春文庫202011760

三つ巴

新・酔いどれ小籐次20

鼠小僧の名前を騙り、主や奉公人を惨殺して金品を奪う事件が増えていた。元祖鼠小僧の子次郎と知り合いになった小籐次は、彼が殺しを伴う盗みをしないことを知っていた。南北町奉行所の与力、老中青山の力を借りて、子次郎とともに悪事を暴くため小籐次が立ち上がった

(2021.4.9) 文春文庫20212740

雪見酒

新・酔いどれ小籐次21

紙問屋の久慈屋店先で研ぎ仕事をしていた小籐次と駿太郎。その前に不逞な浪人が現れた。駿太郎の刀を返せと因縁をつけた。通りがかった秀次親分によって浪人たちは番屋に引き立てられた。しかし少し目を離した隙にひ弱そうに見えた相良という浪人が他の二人を斬り殺して逃げた。相良はかつて名刀の井上真改を盗み、藩を抜けていた。名刀に強い執着を示す相良は駿太郎の孫六兼元に狙いをつけていた。久慈屋で相良を待ち受けた駿太郎は真剣勝負に勝った。盗まれた井上真改の扱いは南町奉行所に任された。14歳を迎えた駿太郎は祖父の北村舜監に烏帽子親を頼み元服した。赤目駿太郎平次となった

2021.12.28)文春文庫202111740

光る海

新・酔いどれ小籐次22

豊後森藩への参勤同行を殿様に命じられた小籐次。江戸を離れる前に札差から強引に金を貸し取る蔵宿師の始末を青山老中に頼まれた。裏で繋がっていた札差と蔵宿師を誘き出し相打ちさせて悪巧みを防いだ。青山から千両もの礼を受け取った小籐次は、参勤に先立って出発。おりょうと駿太郎とともに、三河の薫子姫を訪ねた。子次郎は姫の暮らしを支えながら、懸念を抱えていた。三河に着いた小籐次に、薫子の父、三枝の殿様が再び酒と博打に溺れて、娘を売りに出すつもりでいることを告げた。田原藩藩主の力を得て小籐次は博徒を打ち果たし、薫子姫を救った。参勤下向に同行する小籐次と駿太郎、三河に残るおりょう。いつまでも三河の海は光り輝いていた

2022.4.3)文春文庫20222740

狂う潮

新・酔いどれ小籐次23

豊後森藩の参勤交代に同行した小籐次と駿太郎は淀川で野分並みの嵐に遭遇した。三十石舟が沈没の危機に遭い嵐に向かって来島水軍流の剣を奉納して嵐を鎮めた。参勤交代に合流して瀬戸内海を藩の御座船で九州へ向かう。船内で江戸藩邸一派と国家老一派の対立を目の当たりにした小籐次は行く先にため息をこぼす。船長の計らいで途中、小籐次の剣の聖地、来島を駿太郎と尋ね、社に剣の舞を奉納した。三河に残ったおりょうは子次郎が作った楠の小屋で駿河の海を眺める薫子の視力が日々回復している実感を得る。父の不行跡により薫子の家は断絶を免れない。おりょうは薫子を自分の娘にする決意を固める(2022.7.22)文春文庫20226月金額不明

八丁越

新・酔いどれ小籐次24

豊後森藩の海に面した飛び地、頭成に着いた赤目父子。藩のお抱え商人、小坂屋が雇った用心棒と対峙することになった。国家老一派から弾かれた古くからの商人、塩屋に世話になり、娘のお海から兄が小坂屋の用心棒に殺されたことを知る。藩主の許しを得て駿太郎は兄を殺した用心棒と尋常勝負をして敵を打つ。山中の本陣へ向かう一行に国家老が雇った刺客たちが襲う計画を知った小籐次は、策を巡らせ刺客の頭を討ち果たす。同じ頃、江戸では差配の新兵衛が静かに息を引き取った

2022.8.25)文春文庫20227750

御留山

新・酔いどれ小籐次25

豊後森藩藩主来島通嘉の命で江戸から参勤下藩に伴って赤目親子が先祖の土地に分け入った。そこでは国家老の嶋内主石が専横を極めるひどい有様だった。藩主を藩主と思わず、政も商いも全てを取り仕切っていた。その状況をなぜ藩主が正さないのか不思議だった小籐次はある日、御留山に呼び出された。そこは公儀から城を持つことを許されていなかった来島家が秘かに城郭をめぐらし城作りを始めていた整地された場所だった。城のない大名として悔しい思いをしてきた藩主が長い年月をかけて国家老が裏の商いで蓄財した金で作事を続けてきたのだ。藩主は小籐次に老中への取り次ぎを頼む。しかし、いくら老中と懇意の小籐次とはいえ、公儀の命令に反く藩主の城作りに手心を加えることはできないと頼みを断る。同じ頃、嶋内が雇った刺客たちが小籐次と駿太郎父子の命を狙っていた。シリーズ最終巻

2022.9.18)文春文庫20228780

恋か隠居か

新・酔いどれ小籐次26

久しぶりに小籐次と駿太郎は新兵衛長屋に泊まることになった。望外川荘ではおりょうが主宰する芽柳派の和歌の集いがあるので二人は遠慮することにしたのだ。研ぎ場をこしらえていた久慈屋でそのことを伝えると家作の新兵衛長屋は駿太郎一人でいっぱいになってしまうので小籐次は無理だと言われた。仕方なく小籐次は久慈屋の客間に泊まることになった。未明に起きた駿太郎は長屋の庭で一人稽古を始めた。住人の勝五郎が駿太郎に気付き、稽古を終えた駿太郎を労った。二人して朝湯に出かけると湯船に小籐次が浸かっていた。久慈屋には朝湯はなかった。そろそろ駿太郎が朝の稽古を終えて早起きした住人と朝湯に来る頃だと待ち構えていたのだ。3人で体を洗っていると柘榴口から難波橋の秀次親分が顔を出した。秀次は小籐次に三十間堀の細やかな道場を知っているかと尋ねた。年寄りの加古李兵衛が主人で孫娘の愛が後継だった。その道場に3人の剣術家が現れて道場の沽券状を持参したという。愛の父、卜全正行は放蕩の挙句に賭場で借金を作り、3人から金を借りた。その金が返せない時は道場の沽券状を譲り渡すという証文を携えていたのだ(2024.2.27) 文春文庫20241790