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ほぼ毎日更新の雑感「ウエイ」
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逢坂剛
go osaka

しのびよる月
(御茶ノ水署シリーズ1)
警視庁御茶ノ水署生活安全課保安二係の斉木斉(さいきひとし)係長と梢田威(こずえだたける)。二係はふたりしかいない。ふたりは警部補と巡査長という上下関係だが、小学校の同級生。下町の小学校開校以来の秀才と言われた斉木と、全校一の悪太郎と言われた梢田。小学校時代は、梢田が斉木をいじめぬいた。しかし、同じ警察に勤務して立場は逆転していた。御茶ノ水署が管轄する地域で起こる事件を、ふたりの刑事が解決する物語。このふたりはもともと仕事をする意欲も犯人を追い詰める活力もない。できれば仕事から逃げ、何事もないまま終日を過ごし、管内の飲食店でただ酒を飲むことを唯一の楽しみにしている。課長の辻村にはいつも雷を落とされている。「裂けた罠」「黒い矢」「公衆電話の女」「危ない消火器」「しのびよる月」「黄色い拳銃」の6篇が収録されている。拳銃を持った強盗に「警察だ、拳銃を捨てろ」と迫る梢田。強盗が拳銃を発射し、びびる。「警察というのは嘘です」と開き直る斉木。すべてに渡ってふたりの行動は、ちぐはぐでコミカルだ。小学校時代の恨みをちくちくとはらそうとしているかのように斉木の梢田いびりが効いている。(2012.1.6) 逢坂剛 集英社文庫 2001年1月 590円

配達される女
(御茶ノ水署シリーズ2)
警視庁御茶ノ水署生活安全課保安二係の斉木斉(さいきひとし)係長は、最近、仕事を抜け出して古書展通いをしている。理由を知らない部下で巡査長で小学校時代の同級生の梢田威(こずえだたける)は、不審に思って行動を調査する。すると、古書展で書籍の並べ替えなどのアルバイトをしている松本ユリが斉木の目当てだったことがわかった。斉木の恋心を邪魔しないように梢田は配慮する。そのときヤクザ風の男が立ち回りを演じて、それをきっかけに斉木は松本と関係を作る。その後、御茶ノ水署管内で、そのとき立ち回りを演じたヤクザ風の男が、何者かに暴行され、入院する事件が発生した。斉木と梢田が調べると、男を襲ったのは、松本ユリだった。数日後、生活安全課保安二係に警視庁から女性の巡査部長が配属された。五本松小百合。梢田よりも年下だが、階級は上なので、主任扱いになる。五本松は自分のことを「五本松は」と言う。梢田と五本松が事件を調べていると、「じつは松本ユリと五本松小百合は同一人物なんです」と五本松が梢田に素性を明かした。変装によって似ても似つかない風袋に変身していたのだ。斉木はまったく気づいていない。バイクで違法エロビデオを配送していた若者を摘発した。そのなかに隠し撮りビデオが含まれていた。その女性は、明らかに松本ユリだった。驚いた梢田は、五本松に真相をただす。「あれは松本ユリです。五本松ではありません」。事実を認めたのか認めていないのか、梢田はわけがわからなくなる。さらに、そのことでショックを受けている斉木に真実を打ち明けられない。五本松は苦肉の策で、松本ユリ名で斉木に絵葉書を出す。アフリカのブルキナファソという小国に留学に行くのでしばらくはお別れだという内容。斉木が落ち込むと思ったら、10日間の休暇を取って、ブルキナファソに行ってくると斉木は明言した。「悩み多き人生」「縄張り荒らし」「配達される女」「苦いお別れ」「秘めたる情事」「犬の好きな女」が収録されている。(2012.1.16) 逢坂剛 集英社文庫 2004年4月 619円

恩はあだで返せ
(御茶ノ水署シリーズ3)
警視庁御茶ノ水署生活安全課保安二係の斉木斉(さいきひとし)係長、五本松小百合主任、梢田威巡査長。神田界隈の生活安全を脅かす事件や事故に、振り回される。シリーズ3作目は「木魚のつぶやき」「欠けた茶碗」「気のイイ女」「恩はあだで返せ」「五本松の当惑」が掲載されている。梢田の視点で物語が進行する。五本松は、斉木が惚れた松本ユリに変装する趣味は披露しない。なのに、松本ユリに似た風体で五本松を名乗る詐欺が発生し、当惑する。梢田から金をせびりながら、ちっとも返そうとしない斉木のせこさぶりは健在。返してもらえないことがわかっているのに、気のイイ梢田は貸してしまう。プライベートと仕事が混同するふたりのずっこけ関係に磨きがかかった。なかでも売春の現行犯逮捕のために客を装った梢田が、少しドキドキしながら女と出会う下りは抱腹絶倒。金を払う立場が反対に金を受け取る立場に変身。今回のシリーズで、小学校のときは斉木をいじめ抜いた梢田が、意外にもひととしてはまっすぐな気持ちの生き方をしていることが随所でわかる。(2012.1.26) 逢坂剛 集英社文庫 2007年4月 552円

おれたちの街
(御茶ノ水署シリーズ4)
警視庁御茶ノ水署生活安全課保安二係の斉木斉(さいきひとし)係長、五本松小百合主任、梢田威巡査長。いつものどたばたトリオに、警察庁から研修で来た立花信之助警部補が加わる。国家公務員試験に合格したキャリアなので、研修が終わって警察庁に戻ると肩書きは警部に代わる。何度も巡査部長試験に落ちている高校卒業の梢田には、雲の上の存在だ。係長の斉木は、若造のくせにすでに階級が自分と同じ立花がおもしろくない。何かにつけてお守りを梢田に押しつけようとする。そんな折、警視庁から特別研修期間として、ふたりの警部が訪れた。生活安全課保安一係と二係を競わせて、埋もれている犯罪を掘り起こすことが狙いだった。しかし、もともと神田神保町界隈は、犯罪らしい犯罪が起こらない場所だ。拳銃の摘発などできそうもない。研修期間の終了間近になって、二係担当の田島警部が梢田に「もしもチャカが摘発できないなら知り合いのやくざに話をつける」と誘われる。やくざから10万円で拳銃を買い取り、それをこっそりやくざに売り戻すのだ。そのからくりを実行すべきかどうか迷った梢田は、背に腹はかえられないとばかりに、やくざの指定した場所へと向かった。時間つぶしに寄った居酒屋で、なぜか泥酔した立花に引っかかり、約束の時間に遅れて梢田は拳銃の受け取り場所に赴いた。しかし、そこには後頭部を蹴られて意識を失っていた男が転がっていた。(拳銃買います)より。「おれたちの街」は神田神保町をこよなく愛する作者が、変化していく町並みを惜しみながら、記録として書き残した短編が多い。「おれたちの街」「オンブにダッコ」「ジャネイロの娘」そして「拳銃買います」。(2012.2.4) 逢坂剛 集英社文庫 2011年6月 495円

さまよえる脳髄
サイコ・サスペンス。ひとの心理を探求し、そこから発する異常性や残虐性が多くの事件を誘発していく。1988年という早い段階で著者が執筆した本著は、同じ年に刊行された「羊たちの沈黙」と内容が重なっていることに驚かされる。完全試合を目前にしてアンラッキーなヒットを許し、その直後にリリーフカーを運転するマスコットガールの首を絞めたプロ野球投手・追分知之。元アイドル歌手を名乗り、制服姿の女性を裁ちばさみで切り裂いて殺す連続殺人犯。麻薬密売犯逮捕のときに犯人にビリヤードで頭部を殴打されたためにボールへの恐怖心を抱く刑事・海藤兼作。精神科医の南川藍子(らんこ)。脳神経外科の権威・丸岡庸三。おもにこの5人が複雑にからまって物語が進行して行く。1988年当時の心理学や大脳生理学と現在のそれとは大きな違いがあるかもしれないが、読んでいると、古さという違和感はない。むしろ、とても興味深い内容がフレッシュに思えた。左脳と右脳の役割分化。ふたつをつなぐ脳梁の役割。物語では、事故によって脳梁に断裂が生じた海藤がふたつの人格を持ちながら生きていく様子が描かれる。そして、クライマックスでは南川の過去が暴かれ、安定感のある主人公という立ち位置が大きく崩れていく。(2012.2.20) 逢坂剛 集英社文庫 2003年9月 648円

アリゾナ無宿
19世紀後半のアメリカ大陸。南北戦争が終結し、合衆国が建設されつつあった時代。南部アリゾナの大地で、賞金稼ぎのトリオが織り成す痛快な西部劇の登場だ。賞金稼ぎのストーン。パートナーのジェニファ。相棒のサグワロ。サグワロは、なんと日本人の設定だ。函館出身の彼が、記憶を失って太平洋を渡り、アリゾナで刀や吹き針の妙技を披露する。金鉱掘りやカウボーイなど、荒くれ男たちが、小さな町の酒場(サルーン)で飲んだくれる。白人たちの支配によって、先祖代々の土地から追われたインディアンたち、アパッチ、コマンチ、スーなどの部族。妻やこどもを白人たちに殺された恨みを抱え、ゲリラ的な戦いを挑む。銀行強盗や殺人犯にかけられた賞金を目当てに、悪党を追い詰め、賞金をかけた州まで連行し、報奨を得るストーンを、次から次へと危機が襲う。アメリカ大陸東部には蒸気機関車が走っていたが、まだまだ南部や西部は駅馬車が重要なひとびとの足となっていた。 (2011.7.15) 逢坂剛 新潮文庫 2002年4月 552円

逆襲の地平線
ストーン、サグワロ、ジェニファの3人が、未亡人の牧場主エドナの依頼に応じて人探しの旅に出る。インディアンのコマンチ族にさらわれたエドナの娘、エミリーの奪還だ。エミリーは4歳のときにコマンチの襲撃を受け、さらわれた。生きていれば14歳になる。合衆国によってアメリカ大陸の先住民たちは、居留地を決められた。そこから外れた生活をした者は、騎兵隊によって強制的に居留地に戻された。部族間の対立があった先住民たちは、共同戦線を作り、騎兵隊にゲリラ戦を挑んでいく。スー族とシャイアン族が終結しているところへコマンチのゲリラ部隊が合流する。その情報をもとに、ストーンたちはゲリラ部隊を追う。新たにジャスティー・キッドという青年とカウボーイのラモンがストーンたちの仲間に加わる。エドナの牧場を買い取ろうと企むトライスターたちもエミリーの捜索に乗り出し、ストーンたちの行く手を妨害する。自分たちが先にエミリーを見つけ出し、エドナの牧場を乗っ取るつもりなのだ。1877年。西部地域には騎兵隊が築いた砦が点在した。どの砦を伝いながら、ストーンたちはコマンチのゲリラに確実に近づいていく。本当にエミリーはそのゲリラ部隊と行動を共にしているのか。(2011.7.27) 逢坂剛 新潮文庫 2005年2月 590円

百舌の叫ぶ夜(百舌1)
公安刑事の倉木は、妻が爆破事件で死んだ。その真相を探る。妻はたまたま爆発物を運んでいた左翼ゲリラの筧の暴発事故の巻き添えだった。事故の真相を探る倉木に、暴力団や警察上層部から邪魔が入る。捜査本部は公安と捜査一課の共同体制になるが公安本部から送り込まれた若松によって、捜査一課にまったく情報が流れない。警視庁の大杉刑事は、若松のやり方に嫌気がさし、倉木とともに自主的な捜査を担当した。もともと筧は右翼テロリストの百舌こと新谷に狙われていた。その新谷を追っていた公安刑事の明星は、大杉と倉木の捜査に重要な情報を流す。筧が死んだ後、百舌は姿を消した。百舌に筧の殺害を依頼した暴力団が、証拠隠滅のため百舌を消したからだ。その百舌が蘇る。タカ派政治家による公安省創設構想に発する陰謀が、倉木と大杉を襲う。(2011.9.3) 逢坂剛 集英社文庫 1990年7月 600円

幻の翼(百舌2)
百舌が生きていた。前作で百舌になりきっていた弟は殺された。兄の新貝はヤクザに岬から突き落とされながら、北朝鮮の工作船に救助され、スパイとして再入国を果たした。新貝は身よりのない高齢者を北朝鮮に密かに送る仕事をしていた。しかし、新貝の本当の狙いは、弟を死に追いやった森原法務相を殺すことだった。森原法務相の陰謀を実現するために警察庁幹部が暴力団を使って、テロを指図していた前作から1年以上が経過していた。特別監察官に昇進した倉木は、明星の力を借りて、先の陰謀の全容をタイプした。所轄に飛ばされた大杉を通じて、原稿を出版社に配信しようとした。しかし、出版社はあまりにも内容が危険すぎて雑誌への掲載を拒んだ。倉木は、稜徳会病院に措置入院させられる。身に覚えがないアル中容疑だった。所轄の南多摩署の栗山署長が入院を許可していた。稜徳会病院は森原法務相の異母弟の桐山が理事をしていた。倉木を救うために明星は単身で病院に忍び込む。(2011.9.10) 逢坂剛 集英社文庫 1990年8月 571円

砕かれた鍵(百舌3)
倉木が死ぬ。倉木尚武が死ぬ。稜徳会病院を隠れ蓑にした現役法務大臣の野望を阻止した警察庁の倉木警察官。事件解決後、特別監察官に昇進し、明星美希と結婚した。大杉は反対に警察官を辞めて探偵になる。美希は息子を出産した。息子は先天性の心臓疾患があり、長期の入院と手術を必要としていた。美希の母が孫といっしょにいたときに、病院で爆発事故が発生する。何者かが故意に倉木の息子宛に爆弾を届けたのだ。美希の母と息子は爆死した。狂いそうになりながら、犯人を見つけて復讐を誓う美希。警察の捜査に協力するように説得する倉木。しかし、美希はひそかに大杉に連絡をとり、犯人の捜索を開始する。化粧を変え、髪の毛を切り、少しずつ犯人へと迫っていく。倉木は暴力団がらみのコカイン密輸事件と、現役警察官殺し、それにかかわる警察官の不正疑惑を調べていた。その過程で、関係者が口にする「ペガサス」という得体の知れない男が存在することに気づく。ペガサスがどの事件にも関係しているように思えた倉木は大杉に協力を依頼する。美希と倉木、双方から協力を求められた大杉は、胸に秘密を抱えたまま警察庁キャリアの陰謀に近づいていく。不良警察官によって婚約者を殺された男が、姉と協力して、警察組織そのものへの復讐を企てる。そこに公安庁創設をもくろむ法務省関係者がからんで、物語は倉木を破滅へと導いていく。死に際に大杉に託した倉木のメッセージがこころに染みる。(2011.9.17) 逢坂剛 集英社文庫 1995年3月 676円

よみがえる百舌(百舌4)
津城が死ぬ。公安警察の創設を企てる法務相。それに従う闇の集団を、次々と始末してきた津城は、法務相の陰謀を知っている退職警察官の暗殺事件を捜査する。津城の部下の倉木美希と探偵の大杉良太は、暗殺方法が、かつての暗殺者百舌に酷似していることに気づく。ふたりの眼前で死んだはずの百舌こと新谷兄弟が復活するはずがない。事件の全貌を知る何者かが、関係者を始末し始めたと大杉と倉木は考えた。そのことを倉木は津城に進言するが、津城は百舌の復活を信用しない。倉木に接近する所轄署の刑事、紋屋。大杉に接近する新聞記者の残間。ふたりが百舌なのか。倉木と大杉は独自の捜査で、長崎県の孤島で百舌と死闘を繰り広げる。(2011.9.25) 逢坂剛 集英社文庫 1999年11月 838円

のすりの巣(百舌5)
のすりはタカや鳶の仲間だが、捕食能力が低く、ネズミなどの小動物しか捕らえられない。警察庁の洲走警部は自らの美貌と肉体を使ってノンキャリアの悪徳刑事たぢをのすりに育てた。のすりは暴力団から麻薬や拳銃を奪い取る。奪った麻薬や拳銃を洲走に上納する。洲走は自らの裸体写真を餌にして、のすりを育てる。所轄の摘発月間に、奪った麻薬や拳銃をこっそり仕込んで摘発の成績を上げる。所轄の若いキャリア署長は洲走とその背後の朱鷺村に感謝する。朱鷺村は将来、警察庁長官を有望視されるエリート官僚だ。与党が企む公安省の設置後に大臣の椅子を狙う。戦前の治安警察の復活を倉木、大杉が阻止しようとするが。(2011.10.1) 逢坂剛 集英社文庫 2005年4月 838円

イベリアの雷鳴
(イベリアシリーズ1)
1939年9月のベルリンから1940年9月のマドリッド、あるいは10月のアンダイまでの1年間が物語の時間軸だ。場所はドイツとスペイン。おもにスペイン。当時のヨーロッパは、第一次世界大戦後に敗戦国から復興しようとするドイツが、国民生活を犠牲にして軍備を増強し、ついにヒトラーのナチス党が政権を掌握していた。ヒトラーはナチス党を中心とした権力組織を作り、国家と政党を一体化させていく。ポーランドへの一方的な侵略で始まった第二次世界大戦。イギリスとフランスはドイツに宣戦布告。フランスの隣国のスペインは、共和国政府を武力で倒した軍人と保守系組織のボス、フランシス・フランコによって支配されていた。内戦によって国内が疲弊したフランコは、ヒトラーからの度重なる枢軸国としての参戦要求をのらりくらりと突っぱねる。完全にドイツに勝ち目のあるゴールが見えてきた直前になって参戦し、戦後処理をフランコにとって優位に進めようとしていたのだ。そのフランコのいのちを狙う反体制活動家たち、日本から派遣されているスパイたち、イギリスから送られているスパイたち、ナチスの手先などが、中立国であるスペインで暗躍をする。日系ペルー人の北都昭平とレストラン「カサ・ルイス」の従業員であるペネロペ・サルトリオのこころの交流を散りばめながら、物語はフランコとヒトラー暗殺の最終場面へ転げ落ちていく。(2011.5.31) 逢坂剛 講談社文庫 2002年6月 952円

遠ざかる祖国
(イベリアシリーズ2)
1939年にヨーロッパで戦端を開いたヒトラー率いるナチスドイツ。ポーランドやフランスを支配下に置き、戦線をイギリスへと拡大しようとした。しかし、イギリス防空網の反撃で、ドイツ空軍の力が減退しつつあった1941年初頭から暮れにかけての時間軸が舞台になっている。ソ連と不可侵条約を結んだドイツは、あっさりとそれを裏切り冬前の侵略を計画してソ連に侵攻する。前面のソ連、背面のイギリスを敵にして、ドイツの戦線は延びていく。アメリカを参戦させたいイギリスは、日本を戦争にたきつけてアメリカの参戦を促そうとする。陸軍のスパイ養成学校で訓練を受けた北都は、表向きは日系ペルー人を装いながら、中立国のスペインでヨーロッパの情勢を日本に送り続けていた。イギリス情報部のバージニアは、そんな北都に個人的な感情を抱きながら、国家の使命との板ばさみで苦しむ。北都もバージニアとの時間を過ごしながら、彼女を愛していく自分を否定できなくなっていく。ロンドンで空襲に遭う。そのときの経験から、ひとびとの復興や町のにぎわいを体感し、この国と戦争をしても日本には勝ち目がないことを痛感する北都は、開戦を思い留めようと日本の外交官にコンタクトをするが、現地時間12月7日、ラジオは日本の真珠湾攻撃を発表する。それも事前通告なしの開戦だったと報道した。切り裂かれていく北都とバージニアの運命は。(2011.10.13) 逢坂剛 講談社文庫 2005年7月 667円(上) 695円(下)

燃える蜃気楼
(イベリアシリーズ3)
1941年。イギリスのチャーチル首相は、ドイツとの戦争にアメリカを参戦させようとしていた。アメリカのルーズベルト大統領は、非戦を公約にして当選した。だからチャーチルの要請を受けるわけにはいかなかった。ならば、アメリカが参戦せざるを得ない状況を作り出せばいいと考えた。中国への侵略を阻止するためにアメリカは日本への石油を含む多くの物資の輸出を禁止した。エネルギーや原材料を断たれた日本は東南アジアの資源確保を狙う。日本の暗号をほぼ解読していたイギリス情報部は、日本の真珠湾攻撃を察知していた。しかし、チャーチルは日本に真珠湾を攻撃させれば、ルーズベルトは参戦せざるを得ないだろうと読んだ。ヒトラーは不可侵条約を破棄して、ソビエトに侵攻した。冬までにモスクワを陥落させられると考えていた。ドイツ軍のカリナス提督は、ナチスと一線を画しながら、情報担当として、イギリスとの単独和平を計画した。イギリスのMI6のバージニアは、ペルーとスペインの国籍をもつ日本人、北都と、スパイのプロとしての尊敬の気持ちを超えて 、愛してゆく自分を抑えきれなくなる。12月、日本軍は前触れなしに真珠湾攻撃を行った。ついにバージニアと北都は敵国人同士になってしまった。アメリカに移住した両親を残して、スペインに赴任したナオミは、アメリカのスパイ。意図的に北都に近づき、北都からドイツに偽の情報が流れるように画策した。すべてを知ったバージニアは、北都が騙されるのを黙っているべきか、ナオミの正体を明かすべきか悩む。イギリスとアメリカは味方同士なのだ。1942年の暮れに、連合軍は北アフリカへの上陸を敢行した。いよいよヨーロッパが戦場として炎上するときが迫っていた。(2011.10.29) 逢坂剛 講談社文庫 2006年9月 695円(上下とも)

暗い国境線
(イベリアシリーズ4)
1942年8月、北アフリカのドイツ軍を撃退した連合国軍は、地中海からイタリアへの上陸機会をうかがっていた。第二次世界大戦は開始当初のナチスドイツの勢いが、連合国の巻き返しによって、弱いものとなっていた。それでも連合国のイタリア上陸を阻もうとする枢軸国の軍隊は、上陸地点と思われるシチリア島を中心に強固なものだった。イギリスでは、欺瞞作戦によって、連合国の上陸地点が別の場所であるとナチス上層部に勘違いさせようとしていた。中立国であるスペインで情報工作員をするバージニアは、同じく情報工作員のホクトと敵同士でありながら、個人的な関係を築こうとしていた。もしも戦争がなかったら、間違いなくふたりは恋愛をして結婚していただろう。その弱みにつけこんだナチスドイツのゲシュタポ一味が、ホクトを誘拐し、バージニアにイギリスの陽動作戦の真偽を探らせようとする。ホクトを救いたい個人の感情と、情報工作員としての国家の一員としての使命。バージニアは二つの価値観の間で苦しむ。日本人が知る第二次世界大戦の多くは中国侵略や太平洋戦争だが、それ以前から始まっていたヨーロッパを舞台とした戦争でも、多くの犠牲者が出ていた。このシリーズでは、ドイツとソビエトがともに侵略していたポーランドという国家と民族の趨勢についても深く触れている。(2011.8.10) 逢坂剛 講談社文庫 2008年12月 648円(上下とも)

鎖された海峡
(イベリアシリーズ5)
第二次世界大戦。ヨーロッパ戦線。ソ連に侵攻したナチスは反撃に遭って不利な状況を迎えた。連合軍のシシリー島上陸によりイタリアは降伏した。イギリス空軍によるベルリン空爆は、ナチスの敗北を暗示した。戦後のヨーロッパ覇権を狙うスターリンは、だれよりも早くベルリンを目指す。ヨーロッパの共産化を阻みたいチャーチルは、フランス北西部への上陸作戦を計画していた。フランコが独裁するスペインは内戦の痛手から立ち直るために中立を維持していた。日本のスパイ、北都は、イギリスのスパイ、バージニアとスパイである前にひととしてひかれあい、苦悩する。ドイツの情報機関のカナリス提督は、ドイツの敗北を認識し、ヒトラーの失脚を狙う。日本、イギリス、ドイツ。それぞれの立場で、和平工作を模索する。バージニアはフランス北西部の上陸地点を北都に打ち明け、カナリスへの連絡を頼む。カナリスがナチスにわざと異なる情報を流すことを期待していた。北都に嫉妬するアメリカのスパイであるナオミ、バージニアに嫉妬するイギリスのスパイであるモーティマ ーが、北都とバージニアの恋愛を阻むために、バージニアを帰任させた。ふたりの胸中に、早期終戦の決意が宿る。帰任したバージニアは、二重スパイのフィルビーによって、ベルリンへの潜入を命じられた。潜入に成功したバージニアは同行したスパイがカナリス提督の暗殺未遂を実行したことで、フィルビーの真の狙いを知る。連盟通信ベルリン支局の尾形とともにフランスとスペインの国境までベルリンから脱出したバージニアを北都が救いに行く。スペインの反フランコ組織フラップに協力を仰ぐ。救出隊のなかには、北都の妻だったペネロペがいた。ペネロペはフランコ暗殺未遂で崖から身を投げ記憶をなくしていた。バージニア救出はドイツ国境警備隊との銃撃戦になる。無事に救出できたバージニアと引き換えに、ペネロペが凶弾に倒れた。北都の腕に抱かれて、ペネロペは記憶を取り戻して、最期を迎えた。ヒトラーの自殺は迫っていた。(2011.11.13) 逢坂剛 講談社文庫 2011年4月 943円

コルドバの女豹
スペイン内戦後の混乱期を描いた短編集。「暗殺者グラナダに死す」「コルドバの女豹」「グラン・ビアの陰謀」「サント・ドミンゴの怒り」「赤い熱気球」を収録している。(2011.5.24)

詳しい内容の紹介は、ライブラリに掲載しています。
ライブラリ:コルドバの女豹

逢坂剛 講談社文庫 1986年9月 571円

スペイン灼熱の午後
師岡弦は、出張から自宅に戻った。すると父親が置手紙を残して失踪していた。「自分のことは探さないでくれ」。恋人の由芽子とともに父親の俊一郎が向かったと思われるスペインへ向かう。由芽子はスペイン語が堪能だったのだ。スペインで師岡たちを迎えたのは、謎の暗殺者スクリアビンだった。俊一郎に手紙を送っていたゴメスを見つけた弦は、スクリアビンにつかまり「日本へ帰れ」と脅される。由芽子は、スクリアビンに襲われた。由芽子に迷惑をかけたくない弦は「自分ひとりで探すから、由芽子は日本へ帰れ」と突き放す。ふたりの行動は別々になった。やがて俊一郎の行方を突き止めた弦は、アルバレス公爵家でビヤモンテという執事に地下牢に監禁された。そこにはパーキンソン病を発症して弱っていた父親の俊一郎が横たわっていた。俊一郎から自分の父親探しのためにスペインに来たことを知らされた弦は、なぜ俊一郎が昔に死んだと言われていた父親を探そうとしたのかという理由を聞かされる。スペイン内戦で各国のスパイが暗躍していた1940年前後、日本からも多くのスパイがスペイン国内に潜入していた。 (2011.6.7) 逢坂剛 講談社文庫 1987年6月 619円

禿鷹狩り(禿鷹4)
禿鷹が死ぬ。神宮署に送り込まれたふたりの刑事。岩動は朝妻警視の意向を受けて、禿鷹狩りをする。嵯峨は、松国監察官の意向を受けて、禿鷹狩りをする。ともに禿鷹が弱みを握っている警察幹部だった。岩動は渋谷を押さえたい南米マフィアのマスダに情報と金を流して、禿鷹をおびき寄せる。その罠に野田が引っかかる。朝妻の弱みを露呈した場面に居合わせた禿鷹の相棒の御子柴は朝妻の指図で降格人事になった。その結果、禿鷹と同じ特捜班で遊軍になった。禿鷹は、御子柴を引き寄せ、岩動や嵯峨の動きを牽制していく。敷島組は、諸橋の死と川久保の裏切りによって渋六に吸収された。組長の熊代は、渋六の会長というかたちで残った。マスダが2000万もの金を使って、禿鷹の殺害を計画したり、禿鷹が入手した神宮署の裏金帳簿のコピーを奪取しようとしたりすることに、禿鷹は疑問を抱く。どこからその大金が流れているのか。自身を標的にさせることで、禿鷹はその金が神宮署の裏金を資金源として、岩動がマスダに流していたことを突き止める。渋六の水間と野田。これまで兄弟の盃をわけたふたりは、協力して渋六を支えてきた。そのふたりに亀裂が入る。岩動の巧みな陽動によって、現実的な野田は罠にはまる。危険を察知して野田とやりあった水間は、その野田を救うべく、禿鷹と敵の懐に飛び込む。(2011.6.25) 逢坂剛 文春文庫 2009年7月 505円(上)543円(下)

銀弾の森(禿鷹3)
渋谷を自分たちの傘下にするべくマスダ(南米マフィア)は、海外から殺し屋を次々と引き寄せた。それを神宮署の刑事・禿富鷹秋がことごとく消し去った。渋谷はもともと渋六興業と敷島組が張り合ってきた街だった。マスダは新宿から勢力範囲を広げようとたくらんでいた。禿鷹はある日、敷島組の次の組長にもっとも近い諸橋をマスダの幹部に引き合わせる。そこで、諸橋がマスダに寝返れば、敷島組は崩壊。マスダが渋谷で一気に勢力を広げられると考えた。しかし、禿鷹はもともと渋六から裏金をもらっている悪徳刑事だ。どうして敵のマスダに有利になるような動きをしたのか。だれにもわからない。マスダに諸橋を残し、禿鷹は諸橋の妻、真利子の待つマンションへ向かう。翌日、渋六の息がかかったスナックに諸橋の死体が残されていた。敷島組は一気に渋六をつぶしにかかろうとする。しかし、渋六の水間や野田の機転により、渋六と敷島組が互いにつぶしあってだれが一番得をするかという答えを出し、双方は休戦協定を結んだ。そんな矢先、敷島組の次の有力者である田久保がマスダに接近していく。(2011.6.21) 逢坂剛 文春文庫 2006年11月 600円

無防備都市(禿鷹2)
禿鷹シリーズ2作目。渋谷を根城にするヤクザ「渋六」の世話をやく禿鷹。組長の引退ですっかり地盤が弱くなったところを、敷島組に奪われそうになっていた。そこに南米のマフィア集団「マスダ」が乗り込んでくる。小さなスナック「みはる」のみかじめ料を20万とふっかけるマスダ。その手先は敷島組から逃げた宇和島だった。宇和島が「みはる」で脅しをかけていたところへ禿鷹が登場。数発の蹴りとパンチで宇和島をノックアウトへ。宇和島は、警察のなかにつながりをもっていた。そのなかから数人が禿鷹を尾行し、夜の公園でリンチをくわえた。無防備都市は、基本的に禿鷹による復讐が全編を占める。それは、警察官による警察官への私闘というヤクザも想像しない残虐な結果を招く。結果として、マスダが上海から呼んだ殺し屋の王が「みはる」のママを監禁し、殺してしまう。宇和島は、その王に射殺される。ママは、王の寸鉄という暗殺道具で頚動脈を切られ死んでいく。すべての場面に禿鷹の臭いがする。当初、禿鷹を襲った警察官のうち2人は懲戒免職になる。残った悪徳上司は、河川敷の野球場で三塁ベースを抱きかかえたかっこうで死体で見つかった。そこには、王がかぶっていた帽子が落ちていた。死んだはずの王は、遺体が見つかっていなかったのだ。(2011.6.17) 逢坂剛 文春文庫 2005年1月 629円

裏切りの日日
人質をとってビルに立てこもった隼は、社長を盾にして9階から1階までエレベーターで下りた。捜査側が待機する。しかし、1階に着いたエレベーターから出てきたのは社長だけだった。隼はどこに消えたのか。ほぼ同じ時間に、近くのマンションで右翼の親玉の遠山が射殺された。公安刑事の桂田と浅見は、たまたま隼が占拠したビルを巡回中だった。遠山と桂田の癒着を内偵していた津城警視はひそかに浅見に近づき、桂田の情報を得ようとする。桂田の行動に疑問を感じた浅見は二つの事件に結びつきがあると推測した。アメリカからの戦闘機輸入に関する汚職疑惑に防衛庁長官がからんでいる。この防衛庁長官は遠山との癒着が噂されていた。(2011.4.16) 逢坂剛 集英社文庫 1986年5月 533円

禿鷹の夜(禿鷹1)
神宮署生活安全課特捜班の禿富鷹秋警部補。なぜか単独行動ばかりしている。やくざの相棒をしながら、やくざに指示を出す。表に出ない方法で、邪魔な相手を殺傷する。路上生活者を邪魔者扱いする。ここまで徹底した悪徳刑事は珍しい。作者自身が「主人公になんら同情も共感もしない」と言い切っている。どの筋でも主人公の視点では描かれない。彼の周囲にいる者の見方で主人公が浮き彫りになっていく。渋谷を中心とする活動で有名な渋六興業。最近、南米を中心とするマフィアの国内進出に怯えている。マフィア・スダメリカナ。略してマスダ。その殺し屋が親分の碓氷を狙った。たまたまそこにいた男が、殺し屋をやっつけ、碓氷の命を救う。その男こそ、禿富鷹秋。通称、禿鷹。禿鷹は碓氷の命を救ったことをきっかけにして、渋六周辺の警備を任される。多額の報酬と引き換えに。マスダが送り込んだ二番目の殺し屋、ミラグロは渋六組の手下を襲うが、そこでも禿鷹が手下を救う。一気にマラグロを殺すように命令した禿鷹。そこまではする必要がないと気後れした手下。結果的に、後日、ミラグロは禿鷹の恋人を殺してしまう。自分のことしか考えていない刑事、禿鷹。警察署内でのシーンがまったくないので、禿鷹がどうしてこういう刑事になってしまったのかがまったくわからない。それさえも作者は読者に想像させようとしているのではないかと思わせる。(2011.4.7) 逢坂剛 文春文庫 2003年6月 581円

カディスの赤い星
PRマンの漆田は、日野楽器との契約によってフラメンコギターの製作者の来日を演出した。その製作者の依頼を受けて、漆田はかつてサントスと呼ばれた日本人のギター奏者を探すことになった。サントスは、スペインの工房でギター製作者から歴史的な価値のある「カディスの赤い星」というフラメンコギターを盗み出していた。国内のどこかにいるはずのサントスを探し出し、彼の手から名器を取り戻す使命を受けたのだ。しかし、サントス探しは難航する。途中で、名器がサントスの息子のパコの手に渡り、パコがスペインに渡ったことが判明する。漆田は、パコと名器を追ってスペインに渡る。偶然、スペインを旅することになった日本人の協力を得て、パコ探しは順調に進む。しかし、当時のスペインはフランコ総統の独裁体制が続き、保守派が左派を力で弾圧していた。左派は裁判で死刑判決を受けると即刻執行されていたのだ。パコは、そんな過激派と行動を共にする。パコを追い詰める漆田は、過激派からも治安警察からも「敵」とみなされ、命を狙われる。(2011.4.17) 逢坂剛 講談社文庫 2007年2月 714円(上)762円(下)