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ほぼ毎日更新の雑感「ウエイ」
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佐々木裕一
yuichi sasaki

公家武者信平
ことはじめ

15魔眼の光

ただ今読書準備中(2024.4.24)講談社68020243

公家武者信平

14町くらべ

信平が新しく領主になった鷹司麻布町。江戸の読売が町くらべを発行して、50位に選ばれた。数多くある江戸の町、その中で50位になったので、信平は満足していた。しかし、善右衛門は面白くない。代官の佐吉にはっぱをかけて1位になるように促した。麻布町の料亭の女将も読売を見て憤慨し、町の名主を集めて対応策を練った。博打で朝帰りが多い宗吉が長屋に戻ったとたん嘔吐して意識を失う。隣に住む美月と恵代は驚く。佐吉の呼び掛けで目覚めた宗吉は悪党が渋谷で金貸しを襲う計画を立ち聞きしていた。それを気付かれて逃げ帰って来たのだ。奉行所の与力、五味に事情を話すがこれまでの宗吉のふるまいから、なかなか話が信用されなかった。料亭で包丁を握る陣八郎は宗吉が覚えていた悪党の人相を聞いて驚く。かつて自分が生まれ育った北国で父を陥れて切腹させた上役に瓜二つだったからだ。父を失い、母もすぐに後を追った。父は亡くなる前に恨みをはらそうと思うなと遺言した。しかし、父を陥れてなお江戸で悪事を働く上役に一矢を報うために単身で相手の棲みかに乗り込んだ(2024.3.28)講談社文庫67020237

公家武者信平

13姉妹の絆

将軍の家綱から拝領した麻布鷹司町をより良い町にするために信平は佐吉を当座の代官に据えた。佐吉は妻と子どもとともに町の屋敷に移り住んだ。長屋は椿長屋と言われた。路地の入り口には大きな椿の木があった。10才の美月と6才の恵代の姉妹が二人だけで暮らしていた。二人の父母は1年前に荷を運ぶ仕事をしていた時に大きな船にぶつかり海に投げ出されて命を落とした。身寄りがない姉妹は親が残した金で倹しく暮らしていた。しかしついに最後の金で米を買ったら、ついに食べ物がなくなってしまった。いつも世話になっている隣の部屋に助けを求めようとしたが、隣の部屋から男の子の鳴き声が聞こえた。いつも家にいない父親がお金を家に入れないので母親と子どもが苦労して暮らしていることを美月は知っていた。助けを求めるわけにはいかないと思った時、地面に椿の実が落ちていることに気づいた。周囲を見回してそれをこっそり拾い集めた。その椿はかつて長屋が武家地だった時に椿の木で将棋の駒を作ろうとした武家が枝を切るとそこから血が流れて、数日後に武家が死んでしまったという伝説があった。それ以来、長屋の住人は椿の祟りとして触れてはいけない木になっていた。だから美月は誰にも見つからないように気をつけて椿の実を拾ったのだ。それを油問屋に持ち込むと、質の良さを認められ予想以上のお金と交換してくれた(2024.3.23)講談社文庫64020229

公家武者信平

12決着の鬨

那良の吉野山を囲んだ幕府軍は銭才の軍団と戦になった。姿を見せぬ銭才たちを追って深い谷間に入り込んだ幕府軍は待ち伏せにあって壊滅的な被害を受けた。鷹司軍は敵の背後に回って幕府軍の危機を救った。しかし、敵の本丸には銭才はいなかった。戦勝に湧くなか、信平は不安を抱いた。わざと幕府軍を吉野山に引き付けようとしたのではないかと。あわてて京に戻ると御所が襲われた。帝の危機を巣くったのは信政と道謙だった。信平たちを奈良と京に釘付けにして銭才は江戸に侵入していた。長崎の商人を自認する男、実は大陸から逃れてきた王は銭才に武器、金、兵士を供給し清王朝を倒し明王朝の復活を企んでいた。そのために幕府に恨みのある銭才とともに徳川を倒し、大名を服従させ、台湾軍と連携して清王朝に攻め入ろうとしたのだ。すべてを知った薫子は自分が銭才のもとに向かうのでこれ以上の争いを止めてほしいと信平に願った。江戸城を占拠した銭才らは薫子と将軍の家綱を交換すると偽り、薫子を略奪し、信平を捉え、爆死させようとした(2024.3.20)講談社文庫67020223

公家武者信平

11雲雀の太刀

本理院から領地の牡丹村を引き継いだ信平。先帝の血を引く薫子を担ぎ出し、南北朝時代に後醍醐天皇が吉野で打ち立てた南朝にあやかろうとする銭才。牡丹村の悲劇で目の前で父親を殺された兄妹は銭才の元で刺客に育て上げられていた。兄の肥前は妹を救うべく、銭才の言いなりになってきた。しかし、牡丹村で皆殺しにされた村人たちの祠に手を合わせるところを信平に見つかり、銭才から妹を救い出すために信平に協力する決意を固めた。銭才のもとで秘術を使う帳をとらえるために京に入った信平は加茂光行、光音に助力を願う。光音は信政が内裏に入ることを止めたが道謙の頼みを断れず帝の近くで薫子を知った。帳の罠にはまり光行、光行は銭才らに囚われた。帳に脅されながら薫子の居場所を透視によって探し続けた。信平は佐吉、鈴蔵らとともに光行らが囚われた場所を突き止め救出した。その隙をついて銭才らは内裏に押し入ったが信政らに撃退された。信平と肥前は銭才の手下をとらえて奈良の東大寺から肥前の妹を助け出した。正気を取り戻したかに見えた妹のお絹は兄を騙して単身内裏に忍び込み帝を襲った。駆けつけた兄の肥前は自らを絹の刃に突き刺せ、絹を抱いたまま心臓に刃を突き刺した。兄妹の死を目の前で見た信平は怒りの瞳で銭才との対決に向かおうとした。それを師匠の道謙が「怒りのままに向かえば銭才の思うつぼだ」とたしなめられた(2024.3.20)講談社文庫670202110

公家武者信平

10宮中の誘い

鞍馬山で道謙の修行を受けていた信政は見知らぬ者が道謙と話し、険しい顔に変化したことを知った。京へ戻るので信政も同行するように命じた。京で用事を済ませた道謙は信政に宮中で帝を守るように命じた。事情が飲み込めない信政は理由を尋ねた。帝が右大臣や関白をも遠ざけ一部の者だけ身辺に置かなくなったという。身辺には誰がいるのか、なぜ帝は執政たちを遠ざけたのかを探ってくるようにとのことだった。言われた通りに帝の近くで掃除や片付けなどの世話を始めた。すると弘親という若者がただ一人で帝の世話をしていた。ある夜、厠からの帰りに信政は弘親が髪を下ろして体を洗っている姿を見てしまった。それは女性の体だった。弘親は銭才こと下御門実光の娘が帝との間に産んだ女性だった。下御門が倒幕を画策し宮中を追い出された時に帝が下御門と繋がる全てを断ち切るために女児も寺に預けたのだ。銭才は女児こと薫子を女帝にして新しい宮中を作り、幕府を倒し、その国の権力の中枢になることを画策していた(2024.3.18)講談社文庫67020218

公家武者信平

ことはじめ

14将軍の首

江戸市中では辻斬りや強盗などの凶悪犯罪が増加していた。そんな時、江戸城大手門に空色の小袖に灰色の袴をつけ、朱鞘の太刀を帯びた若者が近づいた。門番が立ち去るように叱責した。その叱責が終わる前に門番の首が刎ねられた。若者は太刀を握ったまま門をすり抜ける。向かってくる者たちの腕や足の筋を切って身動きを封じていた。多くの者に一人で立ち向かう時の剣術を知っていた。あらかじめ若者の仲間が城内に侵入していた。門を破った若者は将軍が居住する本丸へと進んだ。その時、登城していた信平が変時に気づき、若者に追いついた。若者は宗之介と名乗った。腰に金の瓢箪をぶら下げていた。信平も驚くほどの太刀筋を持つ宗之介は善右衛門が駆けつけたことによって、その場から逃走した。このことは後に老中たちに知られた。腰から金の瓢箪をぶら下げていたので「ひょうたん侍」と呼んで老中たちが恐れていた者だということがわかった。千成瓢箪は豊臣家の馬印だ。徳川に滅ぼされた豊臣家の家臣が密かに全国に散らばり、豊臣家を裏切った大名たちを襲うことが繰り返された。その実行犯がひょうたん侍だった。初めてその話を聞いた信平は、今頃になって再びひょうたん侍が動き出した理由を考え続けていた。宗之介から謀叛の失敗を聞いた頭領の神宮路翔、両替商千成屋の主人は次の計画を実行に移した。老中稲葉美濃守を暗殺。大目付を暗殺。稲葉は影武者が殺されたので生き残ったが、大目付は妻子もろとも殺された(2024.2.5)講談社文庫680202312

公家武者信平

9くもの頭領

信平は奥州の山元藩主、まだ12歳の忠興のことが気になっていた。周囲を井田藩に囲まれた山元藩は銭才こと下御門実光の企みによって反徳川の拠点になっていた。再び天皇中心の世に戻すことを表の理由にして皇軍を作ることを目指す銭才は外様の不満を巧みに取り入れて反徳川連合を作り出していた。京の都で魑魅魍魎の輩を集め、武装集団に作り上げた銭才は妖術を使う者たち、忍術を使う者たちを自由に操りながら、山元藩の領地に入りこみ、村人たちを襲い始めた。幕府に窮地を知らせる忠興の伝令たちを次々と捕え殺していた。忠興が井田藩の傘下に降れば村人たちを解放するという条件を拒み、忠興は城に籠城した。強固な城は外敵からの攻撃に絶えた。かつて武田信玄に仕えた忍びの者たちに端を発する蜘蛛の党。武田家を滅ぼした織田信長。信長に与していた家康。家康が作った徳川幕府を認めない蜘蛛の党一味は全国に散っていた。頭領の菱は会津藩に幽閉されていた。銭才が蜘蛛の党と結び、連携して幕府に反旗をあげることを恐れた幕府は密かに信平と目付の茂木を会津に派遣した。菱に会って銭才の企みに乗らないように説得するためだ。幽閉されている屋敷に忍び込んだ二人は警護の者たちが気を失っている場面に遭遇する。一足遅く、菱は屋敷を抜け出していた。そこには右腕の老爺と侍女が残っていた(2024.2.5)講談社文庫660202010

公家武者信平

8若君の覚悟

東北の大名が山深い道中で襲撃を受けて殺された。外様大名だった。今日の町で暗躍し、忍びや剣客を従え、帝の刀を奪って、謀反を企む銭才こと下御門実光。またの名を京の魑魅(すだま)と呼ぶ男が東北で勢力を広げ始めた。陸奥山元藩に入り込み、藩主に毒を盛り体調を崩させた。そこに自らが用意した毒消しを妙薬として与え、法外な金を要求した。そんな金はないと断ると、領内の船越の港を自由に使える権利を奪った。銭才は東北に大量の武器弾薬を蓄えて、金で吊った周辺諸藩の大名たちに徳川と一戦交えさせ、世の中を混乱させようとしていた。元来、船越の港はかつて公儀から睨まれている陸奥藩井田家の旧領だった。山元藩の揉め事に乗じて港を奪い返すのではないかと公儀は考えた。銭才は山元藩を最初から捨て駒にして戦いで消耗させ、井田家が港を使える道筋を立てていた(2023.12.23) 講談社文庫66020206

公家武者信平

7帝の刀匠

信政が京に旅立った。母親の松姫は心配でならない。信平の師匠の道謙の元で剣の修行を始めた信政は、料理や茶の用意、掃除などの生活全般も習得していった。江戸では登城途中の大名駕籠が襲われ、次期老中に黙されていた有能な人材を失った。たまたまその場にいた信平は刺客と剣を交えた。これまで出会ったどの刺客よりも手強い相手だった。肥前と呼ばれた男は信平との対戦から身軽に逃げ延びた。将軍の家綱から京の領地を検分にゆく許しが出た。道謙の元を訪れて信政の成長を感じた。家綱は帝の刀匠が京を逃れて江戸で拐われた顛末を信平に伝えた。おそらくは京に連れ戻され悪事の片棒を強いられていると考え、刀匠を救い出すことを命じた。領地に赴き庄屋に案内された土地の外れに銭寸と呼ばれた僧侶、お絹という姫と猿が暮らす怪しい屋敷を見つけた。陰陽師の光音は信平にその屋敷には近づいてはならないと告げた(2023.12.20) 講談社文庫66020202

公家武者信平

6赤い刀身

福千代は領地に赴き、ともに危難を乗り越えた伊奈姫と文の交流を始めた。姉と弟のようなフタリノ交流を周囲は微笑ましく見守った。江戸の町には一時、辻斬りが横行したがなぜかそれらはなりをひそめた。そんなとき、信平の屋敷に金を払って旗本が辻斬りをする悪行が横行しているので糺してほしいという文が届いた。信平は松姫と相談し、福千代を正式な後継ぎとして幕府に届け、御目通りの後に京の道謙に修行に出すことを決めた。家綱もそのことを喜び、福千代に信政の名前を与えた。信平が町の道場で知り合った弥三郎は信政の元服祝いで信平に悩みを打ち明けた。懇意にしている大工の一家が行方不明になっているという。五味に調べを依頼すると深川を中心に金に困っている町人が何人も消えていることがわかった。偶然にしては重ねり過ぎている事案には町のことをよく知っている御用聞きが介在していると察して鈴蔵が探索に乗り出す(2023.12.1) 講談社文庫66020198

公家武者信平

5狙われた旗本

北町奉行所の与力、五味が疲れた表情で信平の屋敷を訪ねた。お尋ね者を追って三日もまともに寝ていないという。詳しく聞けば、道場主と門人が惨殺される事件があり、咎人が西国に逃げた。咎人がいた藩では脱犯としてしたので関わりなしと見放していた。ところが東海道のある旅籠で咎人が見つかり捕縛された。江戸へ護送をしていた途中に、怪しい仲間が現れともに遁走した。その咎人が江戸に戻ったのではないかと心配され、五味たちが探索を命じられた。ところが奉行所に、咎人の七里は無実であるという投げ文があり、探索は混乱した。寝不足で弱っている五味に信平は鈴蔵をつけ助けた。七里の親友だった甚八が七里を見つけ、七里の妻のすみれが悲嘆して一時は見投げまでしようとしていたと責めた。今は尼寺で惨殺された者たちの供養をしていると聞かされた。話が違うと憤慨した七里は、すべてを甚八に話した。幼い藩主に変わって政を専横していた家老の守膳が放蕩息子の犯した道場主と門人の殺人という罪を七里が被れば妻の暮らしを守るというものだった。怒りに震えた七里はすみれを救い出すために尼寺に向かった(2023.11.30) 講談社文庫66020192

公家武者信平

4公家の罠

信平の領地で稲も桑も毒によって枯らされるという事件が発生した。岩神村の代官、大海からの書状で家臣の千下頼母は家の財政に頭を抱えた。頼母と佐吉を岩神村へ送ったところ、代官の大海が何者かの毒に冒され寝込んでいた。見知らぬ旅の行商人が置いていった煙草を口にした後で体調を悪くしたという。短い時間、部屋を開けた時に行商人がキセルに毒を塗ったと思われた。また領地の杉田集落では隣の領地の佐田原因幡守右京の代官、布川道貞の家臣が佐田原の領地、平井村から米を盗んだとして男どもを連れて行ったという報告が入った。その者たちは佐田原の領地で開墾作業に強制的に従事させられているという。信平は密かに江戸を抜け領地に入った。大海から話を聞き、林蔵とお初に事情を調べさせた。すると過去に信平が京の都で放逐した公家の今出原中将実成と娘の清子が積年の恨みを晴らすために信平を討ち果たすために仕組んだ罠だったことが判明した(2023.11.27) 講談社文庫640201810

公家武者信平

ことはじめ

13赤坂の達磨

病床の松平伊豆守信綱を見舞った信平は善右衛門と頼母とともに赤坂の屋敷へ向かって帰り道を歩いていた。すると一人の男を覆面をした56人の曲者が囲んでいた。咄嗟に信平は男を助けに入った。髭面に禿頭の男は信平たちに助けられた。その男を見た頼母が叫んだ。「達磨先生ではございませぬか」。子どもの頃に学問を習っていたと頼母は信平に伝えた。達磨は助けてもらったにもかかわらず信平たちに横柄な態度をとった。きっと何か隠していると感じた頼母は信平に頼んで同じ方向に帰る達磨を送ることにした。赤坂の屋敷に着くと達磨はそのまま3人に礼をいうでもなく立ち去ってしまった。達磨は月山典檀と言い、もとは備中成井藩の江戸家老を務めていた。10年前に隠居し世継ぎがいなかったので禄を返上して江戸に出た。赤坂に私塾を開いた。心配した頼母はだるま塾を訪ねた。するとそこには月山の姪の久美代がいた。月山に何かを伝えに来たのだが頼母の来訪でそれが叶わなかったらしい。久美代は夫の浅村が掴んだ江戸家老の不正をなんとかして暴こうとしていた。久美代は月山の力を借りようとして塾を訪ねていたのだ。そこへ成井藩の目付、寺沢が訪れ、浅村が公金を着服していると告げた。不正を暴かれたくない江戸家老の魔の手が浅村に伸びていた(2023/9/24)講談社文庫69020235

公家武者信平

ことはじめ

12領地の乱

将軍から直々に下総長柄郡下之郷村の領主になることが決まった信平は家臣選びを進めていたがなかなか捗っていなかった。そこで阿部豊後守に頼んで家臣の候補を選んでもらった。面接をした中から信平は千下頼母を選んだ。しかし頼母は直参から陪臣になることを拒み、信平の新領地での経営が軌道に乗ったら実家に戻るつもりでいた。そんな時、関八州で暴れ回る鬼雅一味が下之郷村を襲った。新しい領主に抵抗して名主らが年貢を隠していることを知り、村人を皆殺しにして米を奪うつもりだった。村で検地をしていて変事を知った信平はわずかな手勢だけで村に乗り込む。すると鬼雅から逃げ隠れていた男たちと出会う。単身、鬼雅の元に向かい、人質たちの命を救うことを優先した信平は善兵衛、佐吉、鈴蔵、お初らの活躍と鉄砲や槍を手にした坂東武者の末裔の村人たちとともに鬼雅一味を鎮圧することに成功した。領主が命をかけて民のために先頭に立って刃をふるう様子を目の当たりにした頼母は考えを改め、信平の家臣になることを決意した(2023/9/18)講談社文庫68020233

公家武者信平

ことはじめ

11乱れ坊主

同心の五味が信平に相談に来た。見知らぬ女を屋敷に匿っているという。詳しいことを聞いても何も答えようとしない。奉行所に出向いた五味は同役から、昨日、秋月という武士が訪ねてきたと知らされた。その屋敷を訪ねたが何も知らないと追い返された。その帰り道、何者かが五味を襲った。うまく逃げて屋敷に戻った。その夜、女は屋敷からさらわれた。応対した五味は手刀で首を打たれて気絶。しばらくして目が覚めて顛末を悟った。秋月の屋敷を訪れると昼間に追い出した秋月が殺されていた。死に際に女は妹の紗江だと語った。そこに町の治安維持を役目とする先手組が到着。五味は人殺しの疑いで捕縛された。先手組屋敷でひどい拷問を受けたが、五味は無実を主張し続けた。話を聞いた信平が五味を助け出し、紗江の捜索が始まった。すると小石川の寺に連れていかれたという情報が入る。その長仙寺は賭場を開き遊女を囲って違法な稼ぎを本業にしていた。賭場で借金が膨らんだ秋月が借金の代わりに妹がとられそうになり五味の所に逃がしたのだ。すべてを察知した信平は紗江を取り戻すために寺に乗り込んだ(2023/9/15)講談社文庫680202212

公家武者信平

ことはじめ

10宮中の華

江戸城内で御台所を狙った藤原が京に逃げ延びた。家綱から密かに京の様子を探り、悪化している治安を京都所司代の名代として支えよと命じられた信平。善兵衛、五味、お初、佐吉と妻と共に東海道を下って京に入った。噂の通り、京の町は治安が悪化していた。旅の途中で出会った鈴蔵を使って町の様子を調べてみると、あばた面の男が次々と浪人たちを雇って役人を辻斬りしていることがわかった。そのあばた面の住処を突き止め、押し入ろうとしたところで、中で夫婦が何者かに殺されていた。息のあった妻に信平が聞くと、下杉藩の家来に斬られたとうめいて死んだ。外様大名の下杉藩、藩主の勝幸は法皇の娘が内裏を追い出されて産んだ嵯峨殿という女の運命に同情し、朝廷を抑えて、幕府に対抗しようと画策していた。そこには藤原の悪巧みが仕掛けられていた。法皇はもともと忍びとして落ちぶれていた藤原を拾って育て上げ、嵯峨に徳川への恨みを捨てるように説得せよと命じたのに、反対の言葉を弄して騙し続けていたのだ(2023/9/12)講談社文庫68020228

公家武者信平

ことはじめ

9将軍の宴

万治4年の春、江戸城では将軍家綱の号令で宴の支度が進められていた。2年前に御台所として大奥に入った正室の顕子女王が近頃元気がないので家綱が外の空気を吸わせるために吹上庭園で桜が満開の頃に開かれることになった。この宴に悪い噂が立った。宴の席で御台所を暗殺する企てがあるというのだ。噂の出所を調べた老中の松平伊豆守と阿部豊後守は、朝廷と幕府を取り持つ伝奏の千田を訪ねた。公家の千田は、老中の問いかけをはぐらかした。武家に本心は漏らさない態度をとった。そこで老中は信平のことを探索の志木を委ねた。鷹司家に生まれた信平ならば千田とのやりとりに向いていると考えたからだ。すると、宴で 御台所の命を狙ったのは雅楽に合わせて踊りを舞う者だと判明した。宴の当日、信平は命を狙った者を取り押さえた。しかし、詳しく調べると暗殺の裏には朝廷のなかにもっと大きな存在がいることが判明した(2023/9/8)講談社文庫68020226

公家武者信平

ことはじめ

8黄泉の女

女盗賊の蛇の権六が捕らえられて獄門に晒された。これで江戸の町に平穏な暮らしが訪れずと思われた。ところが、権六の墓が荒らされ、権六の調べにあたった者たちが次々と殺される事件が続いた。信平も一味に襲われ、頭の顔を見て驚いた。それは斬首された権六そのものだったからだ。奉行所も町の者も、権六が黄泉から怨みをはらしに戻ってきたと怖れた。大坂で西町奉行だった旗本が江戸に戻り、大金をばらまいて大名格への昇進を画策していた。男は双子の姉妹、盗賊の権六を使って金を集めていた。何も知らずに大名家での剣術指南役に就くことを夢見ていた姉妹の弟は真実を知り驚愕した。探索にはいった目付が己の命と引き換えに弟に信平のことを告げ助けを求めるように願った

(2023/9/7)講談社文庫66020224

公家武者信平

ことはじめ

7十万石の誘い

明暦の大火で焼け野原になった江戸の町は少しずつ復興が始まっていた。紀州徳川家の中屋敷に隣接する形で信平の屋敷の建設も進んでいた。松姫は大火の時に火事から逃れる男の子を守るために自らの足に火傷を負った。国許で治療を進め、少しずつ歩けるようになっていた。将軍、家綱から江戸に戻るように書状を受け取った頼宣は箱根で岡村藩の家老から信平が岡村藩に婿入りをするので松姫との婚姻は無かったことにすると決めたと知らされる。その裏に隠されているものを感じた頼宣はすぐに信平の屋敷を訪ねた。しかし主人の信平は行方不明になっていた。岡村藩藩主から茶会の誘いを受けて訪ねた信平は、そのまま屋敷に幽閉されてしまったのだ。大火の時に後継が火事で亡くなっていたことを幕府に報告していなかった岡村藩では藩の存亡をかけて、姫の婿探しをしていた。そのターゲットとして信平が選ばれたのだ。信平は鍵のかかった牢に閉じ込められ飲まず食わずで数日を過ごしていた(2023/9/3)講談社文庫70020222

公家武者信平

ことはじめ

6妖し光

後に明暦の大火と呼ばれる火事のあった時、信平は領地にいて難を逃れていた。しかし、江戸城まで焼け落ちた惨状を見て妻の松姫が住む紀州徳川家屋敷が気になった。急ぎ向かうと上屋敷は全焼し跡形も無くなっていた。姫の状態を心配して顔馴染みの家臣に尋ねると惨状を見て心を乱しているという。町の復興を最優先することが姫の心を回復させる特効薬と察した信平は焼け出された人たちのための長屋を深川で材木問屋を営む剣術仲間の立木屋に依頼した。そんななか、材木問屋を狙った殺しが横行した。需要が高まる材木の利益を一手に使用とする飛騨屋の仕業だった。信平は町奉行所とともに飛騨屋の始末に出向く。紀州徳川家の新しい屋敷が赤坂に認められた。将軍家継は信平の屋敷を紀州徳川家の敷地に隣接する形で認めた。国許に戻った松姫が戻ってきたら、互いに目と鼻の先で暮らすことが可能になった(2023/8/31)講談社文庫660202111

公家武者信平

ことはじめ

5千石の夢

京都で父の病気見舞いをした信平は将軍家綱の願いにより朝廷に出されていた官位を任官し1400石の知行取りになった。しかし、松姫の父親の紀州徳川頼宣はなかなか姫を信平のもとに嫁がせなかった。老中たちの策謀により、上野国岩神村という曰くのある知行地の領主になった信平。実際はとれた米を盗賊たちに攫われえてほとんど年貢として納められていない場所だった。頼宣は激怒し、せめて500石以上の年貢が納められなければ松姫とともに暮らすことは許さないと宣言した。知行地に赴いた信平は盗賊たちと戦い、川に落ちて農民に助けられた。その夫婦たちから、本当の悪者は代官たちだと教えられた。年貢のほとんどを懐に納めて私服をこやしているという。信平は盗賊の首領に会う。大海は諸国を行脚していた時に岩神村に立ち寄り、悪行に苦しむ民百姓たちを救うために代官たちが奪う米を奪い返し、人々に分け与えていた。真実を知った信平は代官を捕縛して公儀に真実を報告した(「盗賊」より)

(2023.7.24)講談社文庫72620219

公家武者信平

ことはじめ

4暴れ公卿

鷹司松平信平は将軍家継の許しを得て、佐吉を家来にすることに決めた。その知らせを届けに向かった葉山善衛門。喜ぶ佐吉夫婦が夕食を共にと言われ、酒も入りながら、すっかり遅くまで付き合ってしまった。その帰り道、幼子を抱く女を複数の浪人が斬りつける場に出会した。浪人たちを退治したが女は幼子を守りながら息を引き取った。再び、浪人たちが子どもを襲いに来るのではないかと心配した善衛門は幼子を抱いて信平が待つ屋敷へと戻った。事情を知った信平は恐怖体験で言葉が出なくなってしまった男児を一晩預かることにした。翌日に番屋に届けると同心の五味正三と岡っ引きの金造が現れた。幼子を襲い、女を殺した者たちを洗ったが、何も出てこなかった。数日間、屋敷で幼子を預かった善衛門は孫のようになつく様子に気持ちがうつり、面倒を積極的に見るようになった(「子連れ善右衛門」より)

(2023.7.22)講談社文庫77020216

公家武者信平

ことはじめ

3四谷の弁慶

旗本が住む四谷に不思議な事件が頻発していた。昼間に吉原で遊んだ旗本たちが一人こっそり屋敷に戻る刻限に大男に襲われた。殺されたわけではなく、みな刀を盗まれていたのだ。男の名前は佐吉。越後国に生まれた佐吉。父は生まれた時には浪人だったが、賭場のいざこざに巻き込まれて死んだ。母方の百姓家でのびのびと育った。ある日、旅の剣客の目に止まり弟子になって10年もの厳しい修行に耐えた。江戸に出た佐吉は旅の途中で国代と出会い夫婦になった。自分よりも強い武家を見つけて家来になろうと考え、旗本たちに勝負を挑んでいた。しかしどの旗本も腰抜けばかりで佐吉の腕が上だった。そんなある日、佐吉は信平と出会い、生涯の主人を見つけた

(2023.1.21) 講談社文庫70020212

公家武者信平

ことはじめ

2姫のため息

紀州徳川家の姫である松。信平と夫婦になったが父親の藩主頼宣の策謀によって二人で暮らすことが許されていない。女中の糸に付き添われて密かに屋敷を抜け出して浅草で偶然、信平に出会った。腹痛を起こした自分を優しく介抱してくれた信平を忘れられない日々が続いていた。食べ物が喉を通らず、夜はため息ばかりで眠れない。心配した糸は藩主に寺社への参拝という理由で屋敷から出る許可をもらう。出入りの商家で深川への屋形船に乗り移り、信平を探すことにした

(2023.1.17) 講談社文庫680202012

公家武者信平

ことはじめ

1狐のちょうちん

京都の公家、鷹司家の地を引く信平は庶子の出だったので仏門に入るか、婿に入るかしか道が残されていなかった。姉の孝子が3代将軍家光の正室になったことをきっかけに信平は江戸に出た。わずか五十石だが直参旗本になった信平は深川に狭い屋敷を賜り、あこがれだった武士としての暮らしを始めた。妖剣「狐丸」を自在に扱い、深川にはびこる悪と対峙していく。目付として屋敷に暮らす葉山善右衛門とお初。二人は次第に信平に心を寄せて強い信頼関係で結ばれていく

(2023.1.12) 講談社文庫740202010

公家武者信平

3比叡山の鬼

高家に格上げされた信平は将軍家綱の名代として朝廷に赴く。そこでは比叡山の鬼と呼ばれる盗賊が帝の姫をさらう事件が起こっていた。帝の頼みを聞き入れ比叡山の鬼と対決する。しかし、姫がそばに置いていた狐に導かれていくと、そこには姫を守るためにさらった比叡山の鬼こと左門と出会う。食べ物に少しずつ毒を盛られて弱り切っていた姫を救った信平は帝を欺く新たな敵と対峙していく

(2023.1.20) 講談社文庫64020186

公家武者信平

2逃げた名馬

旗本、青山主計の屋敷で茶会に呼ばれた信平は明るいうちに帰途についた。赤坂の屋敷近くまで来た時、悲鳴が上がった。雪合戦をしている子どもたちに暴れ馬が突進する。信平はとっさに子どもを助け、供をしていた江島佐吉が暴れ馬を鎮めた。馬の持ち主は直参旗本の大藪為康だった。弟が作った借財を返済するために名馬を売りに行くところだった。馬は自分が売られることに気づき、暴れたのだ。旗本が馬を手放すとは余程のことと感じた信平は為康から詳しい話を聞き出していく(「逃げた名馬」より)

(2023.1.15) 講談社文庫64020182

公家武者信平

1公家武者信平

鷹司松平信平は神宮司との戦いに勝利し徳川幕府滅亡の危機を救った。戦いの過程で妻の松姫がさらわれた。無事に救済したが松姫は長く心を病み、4代将軍家綱からしばらく登城を休んで妻の傍にいるように命じられた。屋敷で夫婦と息子とのんびり暮らす時間が戻っていた。家臣団も忍びの者もこれまでの戦いに明け暮れた時間を取り戻すように互いの穏やかな暮らしを慈しんでいた。にもかかわらず、北町奉行寄騎になった五味が巷で横行している辻斬りの一件を屋敷に持ち込んできた。二度と信平を危険な場所に出したくない家中の者たちは五味を恨む。しかし、背中を押してくれた松姫の気持ちを受けて信平は再び悪の前に身をさらす

(2022.11.24) 講談社文庫620201710