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奥田英朗
hideo okuda

オリンピックの身代金
1964年8月。東京は開幕間近に迫った東京オリンピックで盛り上がっていた。第二次世界大戦からの復興を宣言するために政府が威信をかけて成功を約束した大会だ。代々木体育館、武道館、東京モノレール、東海道新幹線、首都高速道路。オリンピックの開催に向けて、東京は戦前からの町並みを一新させていく。その建設現場で、人間としての尊厳を奪われ、働く部品のように酷使された多くの出稼ぎ人夫たち。事故でケンカでヒロポン中毒で、あるいは事件で、100人を越えるひとたちが死んだ。地方が差し出した生贄だ。東京オリンピックを成功させるために。「東京は世界からの祝福を独り占めしている」。出稼ぎの夫がヒロポン中毒で死んだ妻が、田舎から葬儀のために上京してつぶやいた。秋田出身の東京大学大学院生の島崎国夫は、兄が飯場で死んだ葬儀に参列した。父親が異なる兄とは、ほとんど話をすることはなかったが、飯場に足を向けて、ひ弱な自分の生き方に疑問を抱く。マルクスを研究しながら、労働者の苦労や痛みを知らない自分に猛省を促した。遺骨を秋田に運ぶ車内で、鉄道専門のスリ師、村田と出会う。やがてふたりは、オリンピックを人質にして、国から金を奪う計画を実行していく。著者自身の帯に「これが私の現時点での最高到達点です」と書いている。巻末に紹介されている資料の膨大なこと。いわゆるミステリーでも警察小説でもない。犯人は最初からわかっている。結果的に犯行は成功しないこともわかっている。なのに、引き込まれていく。それは、華やかな情報でしか知らなかった東京オリンピック開催時期の日本社会の本当の姿を、丹念に描き出し、高度経済成長時代に突入する前夜を歴史的にも緻密に再現していたからだ。島崎の計画は、左翼学生たちでさえ敬遠した。「結局、セイガクさんたちにとっての抵抗は、お祭、青春のお祭なんだべな」。村田が振り返る。(2011.12.11) 奥田英朗 角川文庫 2011年9月 705円(上下とも)

イン・ザ・プール
精神科医の伊良部は、生理食塩水をすぐに患者に注射したがる。注射針が皮膚に食い込む瞬間に、エクスタシーを感じる精神構造をもち、患者とともに病気の世界に没入する仕事ぶり。抱腹絶倒の痛快コメディーでありながら、パンチのきいた風刺が心地いい。露出趣味の看護師マユミもいい味を出す。収録作品「イン・ザ・プール/勃ちっ放し/コンパニオン/フレンズ/いてもたっても」 (2008.12.7) 奥田英朗 文春文庫 2006年3月 530円

空中ブランコ
「いらっしゃーい」と患者を招く精神科医伊良部と露出趣味の看護師マユミが巻き起こす精神病診察ファイルの第二弾。収録作品「空中ブランコ/ハリネズミ/義父のヅラ/ホットコーナー/女流作家」(2008.12.7) 奥田英朗 文春文庫 2008年1月 500円

最悪
まじめに働いても銀行も地域も警察も何も助けてはくれない。中小企業の経営者が、社会から切り捨てられていく。自分の思っていなかった末路へ向けて、物語は加速する。(2008.12.7) 奥田英朗 講談社文庫 2002年9月 920円

サウスバウンド
父は元過激派。母も革命の闘士。全共闘世代が社会に適応した変化を憎みながら理想郷を求め、南の島に移住する家族の物語。国家とは、組織とは、自由とは何かを作者独特の文体で明確に語る。(2008.12.7) 奥田英朗 角川文庫 2007年8月 上580円 下540円

邪魔
パート従業員の妻。日常のささやかな幸せが、夫との関係や家族のあり方、政治的な運動とのかかわりによって、次々と崩れていく。ひとのこころに住む魔物が、日常生活の中で目を覚ましたとき、それまでの幸せには支えがなかったことに気づく。(2008.12.7) 奥田英朗 講談社文庫 2004年3月 上660円 下660円

マドンナ
40代の管理職が複数登場する短編集。自分の持ち場に、素直で有能かつ好みの入社4年目のマドンナが配属されてきた。困惑しながら、上司たらんとする愚かな男たちをユーモアたっぷりで描く。(2008.12.7) 奥田英朗 講談社文庫 2005年12月 620円