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ほぼ毎日更新の雑感「ウエイ」
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宮部みゆき
miyuki miyabe

きたきた捕物帖

深川元町の岡っ引き、文庫屋の千吉親分がフグに当たって死んだ。地元では人情の厚い親分だったので多くの人たちが惜しんだ。親分は自分の後継を指名しなかった。文庫屋は一の子分の万作が引き継いだ。妻のおたまは文庫屋の女将気取りでどんどん図々しくなる。3歳の夏に親とはぐれて迷子になった北一を拾って千吉はずっと育てた。北一は親分が亡くなっても文庫屋の仕事を続けた。しかしおたまは北一を邪険に扱い、常日頃から嫌がらせを繰り返した。親分の寡婦となった妻の松葉は目が見えなかった。親分が預かっていた十手は同心の沢井に返上された。北一が住む富勘長屋の差配人、富勘は北一の困りごとになんでも乗ってくれた。逆に北一に相談事を持ってくることもあった。しがない文庫売りと自覚している北一は自分が期待されることに慣れていない。ある日、富館は北一に呪いの福笑いの話を持ち込んできた。出して遊ぶと遊んだ人を祟る怖い福笑いだ。目隠しをしてちゃんと元の場所に目鼻を戻さない限り祟りは続くという。松葉に相談した北一は思いもよらない解決策を教えてもらった(「ふぐと福笑い」より)

(2022.12.7)PHP文芸文庫88020223


ソロモンの偽証6

事故のあった1224日の夜。地元の電器店近くの公衆電話で電話をかけていた少年を見かけて声をかけた小林老人が証人として出廷した。証人はその少年は、この裁判で弁護人をしている神崎だと証言する。そして神崎もそれを認めた。裁判最終日。藤崎検事は、だれに電話をかけていたのか。なぜ電話をかけていたのか。神崎に質問した。神崎は、亡くなった柏木からひとが生きるということ、死ぬということ、生きる意味などについて何度も質問されていた。それは神崎の両親の死に方とリンクしていたのだ。そして、人殺しの子どもである神崎に生きていく意味があるのかとまで問い詰めた。それがクリスマスイブの屋上でのやりとりだった。しかし、柏木はこれ以上神崎と近づきたくなくて「勝手にしろ」とその場から逃げ去った。その後、柏木は屋上から飛び降りたのだ。それでも三宅は自分が当日の夜に屋上で大出たちが柏木を突き落とすのを目撃したと主張する。それは、罪は神崎にではなく、大出たちにあると主張することで神崎を守ろうとするものだった。陪審員は、大出に無罪の評決を出した。 (2016.2.9) 新潮文庫 201411月 840


ソロモンの偽証5

夏休み中の5日間。城東第三中学校の体育館で、柏木卓也の事故についての裁判が始まった。弁護側の神崎と助手の野田、被告人の大出は、自分たちの証人を探し、裁判対策を練った。検事側の藤崎と助手の佐々木らは、大出の手下だった井口と橋田と面会し、供述調書を得た。判事の井上は、陪審員に心構えや注意事項を説明する。開廷初日、体育館には冷風機があるとはいえ、多くの傍聴人があふれ、関係者は汗まみれになった。それぞれの証人を呼びながら、検事側と弁護側のいくつかの攻防が繰り返された。そして3日目、告発状を書いた三宅樹理が証人として登場した。傍聴人を排除し、被告人不在の条件を判事はのんだ。そこで樹理は、親友の松子が柏木が死んだ夜に自分を呼び出して、偶然、大出たちが柏木を屋上から突き落とすのを見たと証言する。また告発状も松子が書いて自分は手伝ったと主張した。声が出なくなっていたはずの樹理は、裁判で自分の考えを主張しようと考えたときから、声を取り戻していた。3日間の裁判で、藤崎・井上・野田・倉田ら陪審員の何人か・廷吏の山崎が、弁護人の神崎の所作や言動に違和感を抱き始めていた。まるで自分はすべてを知っていて、あえて大出を弁護しているように感じ始めていたのだ。 (2016.2.8) 新潮文庫 201411月 790


ソロモンの偽証4

815日の開廷へ向けて弁護側も検事側も準備を進めていた。そんななか大出俊治の家が何者かに放火されて全焼した。大出の祖母が死んだ。テレビで柏木の自殺が大出らのいじめによる可能性があると報じられて以来、大出の家には脅迫電話が続いていたという。その延長上に放火があったのではないかと噂された。しかし、警視庁の刑事である藤野涼子の父親は、この件には触れるなと釘を刺す。まったく柏木の件とはかかわりがないと言い切る。辞職した元校長の津崎や退職した元担任の森内たちとも面談をした神崎ら弁護側は、森内がマンションの隣人によって告発状を盗まれ、それを悪用されていた事実を教えられた。告発状を書いた三宅樹理は声が出ないまま学校にも通わなくなっていた。その樹理が検事側の藤野に協力すると申し出てきた。そしてあの告発状は死んだ浅井松子が書いて送ったもので、自分はその手伝いをしていただけだと告げた。どこまでも自分を守る樹理の態度に怒りを覚える涼子だったが、真実を突き止めるためには樹理の発言が必要だと感じる。神崎と裁判の準備を続ける野田健一は、和彦がときどき精神的に不安定になり、茫然自失になる背景に何かが潜んでいると感じ始めた。和彦はかつて母親が父親に殺され、父親もその後自殺した過去をもつ。養護施設に預けられた後に現在の養父母に引き取られていた。開廷の前日、藤野は樹理に呼び出された。ふたりで部屋に入った。そこで樹理は裁判で発言すると言った。樹理に声が戻ったのだ。いくつもの中傷ビラに涙したとき、声が戻ったのだ。 (2016.1.31) 新潮文庫 201410月 750


ソロモンの偽証3

1991720日。城東第3中学校の体育館に3年生が集まっていた。2年生のときのクラスで集まり、卒業制作のテーマを考える集会だった。旧2A組ではクラス委員だった藤野涼子が、自分の考えを説明した。何度も両親と話し合って決めた内容だった。それは柏木の死によって巻き起こった様々な出来事に対して当事者の自分たちは何も知らないし、何も知らされていないというものだった。だから夏休みの一定期間を使って陪審員制の裁判を開き、自分たちの手で事実を糾明しようというものだった。多くの参加者がその必要性に疑問を感じていた。告発状を破り捨てた疑惑で退職した担任の森内にかわって、その場にいた学年主任の高木は、藤野の考えを真っ向から否定し、頬を叩いた。体罰と受け止められる暴力によってクラスメイトたちの気持ちは一蹴され、藤野は岡野校長代理に母親とともに裁判の実施と校舎の使用を許可させた。体罰事案として訴えることを取り下げる交換条件だったのだ。そして夏休みに入って、参加者を募ったところ、気心の知れた数人しか集まらなかった。そこにバスケット部顧問の北尾が不良の勝木恵子を連れて登場した。勝木は大出の元彼女だった。大出への接触を含めて勝木の登場は必要だと北尾は説いた。大出の弁護人をやり、でたらめの告発状を払拭したかった藤野は恵子を受け入れる。後日、大出は父親に暴力をふるわれて藤野たちのもとに現れた。藤野の考えは何かの策略だから、裁判なんかに参加するなと殴られてきたのだ。それでは、逆に自分が検事になることで裁判が実行できると、藤野は判断した。そこに死んだ柏木と塾がいっしょだったという神崎和彦が現れて弁護人を引き受けることになった。 (2016.1.20) 新潮文庫 201410月 750


ソロモンの偽証2

柏木の死は他殺だったという告発文書が担任の森内にも届いた。しかし、その速達は隣りに住む女にポストから盗まれた。女は日ごろから森内の態度が気に入らなかった。入手した告発文書をわざと破り、それをテレビ局に送った。自分がゴミの集積所から拾ったものだとして。テレビ局では学校問題を扱う記者がこれを重要視し、担任が自殺とされた子どもの案件をもみ消したのではないかと取材を始める。やがて、告発文書を書いた生徒、三宅を学校側は特定した。しかし、事件の捜査ではないので時間をかけて三宅のこころに迫る方法が選択された。このとき三宅はテレビで自分の告発が取り上げられて有頂天になっていた。その後の学校説明会で、警察署の佐々木刑事は告発文書に書かれていた内容は虚偽であると断言した。内容の通りのことが現実的に起こる可能性は少ないと推論を述べた。これを聞いた浅井松子の母は帰宅後に家族でこのことを話題にした。松子は仰天した。三宅から文書を郵送する手伝いを頼まれたとき、三宅の話をすべて信じて協力したのだ。しかし母親の話を聞いて、三宅の嘘に気づき、そのことを三宅に確かめに家を出た。そしてその帰り道、急に道路に飛び出した交通事故で亡くなった。自分の告発が嘘であることを見破った浅井が死んで、三宅はこころの底から喜んだが、なぜか言葉が喋れなくなってしまった。 (2016.1.6) 新潮文庫 20149月 750


ソロモンの偽証1

都内の公立中学校。第三中学校で柏木卓也が屋上から落下して死亡した。家族も警察も死亡は自殺と判断した。しかし、学校と藤野涼子あてに、それは自殺ではなく殺人だったという告発状が届く。発信人はわからない。柏木が第三中学校の不良たち3人に屋上から落とされたところを見ていたと告発している。落としたと名指しされた3人のリーダーは大出。父親がバブル景気に乗って多くの建物建設に建材を供給する会社の社長だ。金持ちの息子は、ありとあらゆる悪行を繰り返すが、いつも強引な論理と暴力を使って息子の悪行をもみ消してきた。その3人がとなりの第四中学校の生徒を襲って怪我を負わせて金を盗んだ。やられた当人がやったのは大出たちだと証言している。それでも大出らはアリバイを主張し、大出の父親は不当逮捕だと弁護士を呼んだ。 (2015.12.22) 新潮文庫 20149月 750


模倣犯

ピースこと網川浩一は、栗橋浩美とともに女性を誘拐し殺害した。犯行は繰り返された。高井和明は、栗橋浩美を疑い、これ以上の犯行を阻止しようとした。不幸にも高井は栗橋と自動車事故を起こして死んだ。よのなかは連続殺人犯として、栗橋と高井を扱う。高井の妹の由美子は精神のバランスを崩しながら、兄の無実を訴える。由美子を利用して、真犯人は別にいるとピースこと網川浩一が主張した。なぜなら、それが網川の描いたシナリオだからだ。塚田真一は、家族を皆殺しにされた。犯人の娘の樋口めぐみにつきまとわれる。父が殺人をしたのは、真一のせいだと。彼女のストーキングに苦しみながら、ピースたちの事件にからんでいく。前畑滋子はフリーライターだ。独自の視点から、栗橋と高井のルポを書く。しかし、高井の人間性を追いながら、彼の犯人説に違和感を抱く。マスコミの寵児になった網川の背景を調べた滋子は、彼こそ真犯人ではないかと気づいていく。孫を誘拐され殺された有馬義男は、犯人からの電話に応対しながら、栗橋たちの事故死を知る。犯人を憎みながら、犯人の妹の由美子の声を知ろうとする。テレビで前畑と同席した網川は、前畑に一連の犯行はアメリカの小説からの模倣であると指摘され、逆襲する。警察は、容疑者が死んだので、ふたりを犯人として事件を集結したがっていた。しかし、刑事の武上と篠崎は、高井の介在に疑問を抱く。壊れていく家族。家出したはずが殺される少女。休日返上で働きながら、道に迷い、捕らわれ、殺される男性。病人を病院まで運ぶ善意を逆手にとられて殺される女性。悪を演出し、テレビを使い、大衆に恐怖を経験させる。被害者を自らのシナリオの登場人物として始末していく網川と栗橋たち。わたしには実際のある事件が頭に浮かんだが、作者が何にヒントを得たのかは明かされていない。(2010.9.12) 宮部みゆき 小学館 20014月 上下各1900


龍は眠る

超常能力をもって生まれた2人の若者。稲村慎司と織田直也。ふたりは互いの特徴を認め合っていた。ひとのこころのなかが読めてしまう能力をもつ。慎司は、自分の能力をよのなかに役立てたい。直也は、自分の能力をひとに知られてはいけない。同じ能力がありながら、よのなかとの向かい合い方はまったく逆だった。嵐の晩に、週刊誌記者の高坂昭吾が偶然、ツーリングに来て身動きができなくなっていた慎司と出会う。すべてはそこから始まった。濁流がアスファルトを川に変えた。だれがいたずらをしたのか、マンホールのふたが開けてある。そこに濁流は、一気に流れ込んだ。小学生のこどもが行方不明になり、その流れのなかで死ぬ。小学生が持っていた傘を手にした慎司は、物質の記憶を読み取った。高坂のもとに、その後、白紙の脅迫状が届くようになる。やがて、高坂の元恋人が誘拐される。彼には、その恋人と結婚できない身体的な特徴があったのだ。すべてが終わった後で、高坂が物語を「語る」形式で、小説は書かれている。そこには、慎司と直也への深い深い感謝の気持ちがあふれている。彼らの連係プレーが、高坂を利用して、誘拐をたくらんだ者たちの殺意を証明したのだから。(2010.7.29) 宮部みゆき 新潮文庫 19952月 680


かまいたち

「かまいたち」「師走の客」「迷い鳩」「騒ぐ刀」の4篇からなる短編集。どれも、舞台は江戸元禄時代。場所は深川を中心とした庶民の暮らし。事件が起こる。それを解決するひとたちのこころの動きや、事件に翻弄される庶民の嘆きや驚きをとらえている。「迷い鳩」「騒ぐ刀」は、作者がデビューする以前に書き上げた作品だという。六蔵親分と超能力を発揮するお初を物語の中心にすえた連作物だ。「かまいたち」を発行するにあたり、作者の「わがまま」で書き直しながらも含めてもらったそうだ。刀鍛冶の国広と国信が、互いに腕を競って作った脇差が、後世になって、ふたりの魂のぶつかりあいとして描かれる「騒ぐ刀」は、短編ながらも内容が深い。宝は傷つくと宝ではなくなる。石は傷ついても石でいられる。その言葉が印象に残った。(2010.7.27) 宮部みゆき 新潮文庫 199610月 514


本所深川ふしぎ草紙

本所深川に伝わる七不思議を題材にした七つの物語が収録されている。どれも、作者が考案した物語だが、七不思議そのものは昔から伝わっているものだという。七つの物語(事件)を解決する回向院の茂七親分。岡っ引きとして名高い親分が、殺しや誘拐事件を見事にさばいていく。「方葉の芦」。近江屋藤兵衛が死んだ。容疑は娘のお美津にかけられた。握り寿司屋として繁盛した近江屋は、その日の残りを川に捨てた。古い米は翌日には使わないという宣言だった。そういう父親のやり方が、娘のお美津には許せなかった。ひとに恵むということ、ひとの面倒をみるということ。その違いを作者は問いかける。(2010.7.23) 宮部みゆき 新潮文庫 19957月 476


火車

クレジットカードの使いすぎによって、多重債務者に陥る。地獄の淵はだれでもかんたんに覗き込める距離にある。貸すだけ貸して、金利でがんじがらめにしていく。新城喬古子は、親の多重債務によって、取り立て屋に追われていた。自分が別人になりかわらない限り、生きてはいけない。自分と似た年齢の関根彰子が、頼る親戚も両親もいない存在だと気づいたとき、計画は動き出す。休職中の本間刑事が、熱い仲間たちと事件の真相に迫る。(2010.7.17) 宮部みゆき 新潮文庫 19982月 743


返事はいらない

東京を舞台にしたひたむきに生きる者を主人公にした短編集。なかでも若い頃の宮部みゆきさんと似た境遇の速記者を目指す男性を主人公にした、ダルシネアへようこそは、ラストのどんでん返しが見事だ。貧乏で時間もない。速記者になる夢の実現に向けて毎日を必死に生きる若者。週末の駅の伝言板に目一杯見栄を張ったメッセージを残すことがささやかな楽しみだった。(2010.7.12) 宮部みゆき 新潮文庫 199412月 514


あやし

江戸深川情緒を全編に散りばめながら、超自然界のちょっと妖しい小話を集めた。ひとのこころの鬼。ひとがつくる鬼。鬼としてこのよに残る魂。庶民がお店に奉公に出て、何年もかけて店のために働く。江戸時代。教科書にないひとびとの生活と、生きる仕組みがよくわかった。(2010.7.8) 宮部みゆき 角川文庫 20034月 552


レベル7

祐司と明恵は記憶を消されて目覚めた。貝原みさおは、レベル7まで行ったのに戻ってきた。東京、仙台、千葉を舞台に陰謀を暴く者たちが闘いを挑む。電話相談で疑似友人をする真行寺悦子。娘のゆかり。父親の義夫。エセジャーナリストの三枝。若い精神科医の榊。ひとの記憶を消去させる技術と薬を確立した友愛病院の村下猛蔵は、ほかの病院から見放されたアル中患者を引き受け、記憶を消去することで治療に成功していた。その治療の真の狙いと、友愛病院で行われている恐ろしい人体実験。そんなとき、友愛病院近くの幸山荘で利用者4人が射殺される事件が注目を引く。どんでん返しの繰り返しで、ラストの一行まで読み込んだ。(2010.6.29) 宮部みゆき 新潮文庫 19939月 940


孤宿の人

瀬戸内海に面した丸海藩は、お上から流刑の罪人を預かる。その罪人はお上の勘定方を勤めていた加賀様だ。罪人ではあるが、お上からの預かり者なので、丸海藩の重臣は難しい扱いに苦慮していた。そんな折、城下では不穏な事件や事故が相次ぐ。ひとびとは「加賀様の呪い」「加賀様の祟り」と恐れる。その屋敷で日々、加賀様の下女として働くのが「ほう」。両親に捨てられ、拾われた商家からも追い出され、流れ流れて丸海の町にたどり着いた女性だ。「阿呆のほう」。しかし、純粋な気持ちのままに加賀様に奉公するほうは、やがて閉ざされていた加賀様のこころを開かせていく。阿呆のほうは「方」という字を加賀様にいただく。さらに今生の別れでは、もっとすばらしい文字をいただく。ほうを屋敷に送り込んだ罪の意識で姉同様の宇佐は苦しみ続ける。ほうを救いに嵐の山に入り込み、雷と闘うことになる。ひとびとのこころの恐れや怒りが束になったとき、それはだれにも抑えられないかたちになって、すべてを破壊した。(2010.5.14) 宮部みゆき 新潮文庫 20092月 743円(上)781円(下)