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桐野夏生
natsuo kirino

柔らかな頬
有香は5歳の少女。8月11日、両親とともに訪れた北海道の知人の別荘から姿を消した。母親のカスミは、別荘の主である石山と密会をするために家族ぐるみで別荘を訪れていた。夫やこどもを裏切った天罰が自らの下ったと必死で有香を探す。しかし、有香の痕跡はどこにも見当たらない。やがて、夏が終わると、家族や石山たちは東京へ戻った。カスミはひとり別荘に残り、有香の消息を追う。別荘の管理人、別荘地のオーナー夫婦。みんなで心配するが、行方はわからないままだった。やがて時間が過ぎ、テレビ番組を通じて有香の失踪を知った末期がんの内海は、ボランティアでカスミとともに有香を探す旅に出る。家出同然で逃げ出したカスミの生まれ故郷にたどり着き、ふたりはそこで静かな時間を送る。こどもが消えるという事実を通して、それまでの価値観が大きく変わり、ひとは「終わっていく」。謎解き物語ではなく、こころの変遷を丹念に追い求めた作品だ。(2010.9.2) 桐野夏生 文春文庫 2004年12月 590円(上)562円(下)