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ほぼ毎日更新の雑感「ウエイ」

 

門田泰明
yasuaki kadota

拵屋銀次郎半畳記

3汝戟とせば

ただ今読書準備中(2024.11.23)860円徳間時代小説文庫20249

拵屋銀次郎半畳記

無外流 雷がえし・下

大勢の神田の人々の温かな手伝いを得て、長之助の葬儀を厳かな雰囲気の中済ませることができた。その翌々日の早朝まだ薄暗いうちに銀次郎は飛竜とともに鍋屋の夫婦だけに見送られて、そっと神田の地を離れた。葬儀のはじめから終わりまでを強力に支えてくれた湯島天神下霊雲寺の住職覚雲和尚の判断に委ねる形で、長之介の亡骸はいわゆる亡骸埋葬はせず火葬され遺骨となって銀次郎の手で故郷の大坂へ帰ることとなった。骨壷に納められた。その遺骨はさらに白木の箱に入れられて目に眩しい純白の布でしっかりと掩われ、今、馬上の鞍前橋部に銀次郎の手によって固定されている。日本における火葬の歴史は古い。続日本記の文武天皇4年の頃に火葬の文字が見られることから、この辺りが始原であろうと考えられている。しかし、大坂地域の民間においては、それ以前にも火葬が行われていたことを示す遺跡が見つかっている(2025.1.12)670円徳間時代小説文庫20143

拵屋銀次郎半畳記

無外流 雷がえし・上

「あ、動いちゃなんねえよお内儀さん。曲がっちまいやす」「ごめんなさい」「そのまま、ちょいと右へ顔を振ってくんない。そっと…ほんの、ちょいとだけね」「こう?」「振り過ぎだい。どうも今日は呼吸が合わねえなあ。」「仲のいい俺たち二人なのによう」「だって上を向けだの下を向けだの、銀ちゃんたら注文が多過ぎるんですもの」「いつもそうだが私はお内儀さんのために一生懸命やっているんですぜい。中村座の雪之丞好みにしてくれだの、吉村座の団四郎に嫌われないようにしてくれだの、もう3年近くもハイハイと我儘を聞いてきたんだ。注文が多いのはお内儀さんの方でしょうがえ」(2025.1.10)650円徳間時代小説文庫201311

拵屋銀次郎半畳記

侠客5

大坂。天王寺村の茶臼山を背にする庵寺月祥院の奥まった真竹の林の中に、うなだれる男の姿があった。空気は冷え切り、竹林の内も外もうっすらと積もった雪に白く覆い尽くされている。男の足跡だけが物寂し気に、竹林の外から内へと点々と続いていた。身じろぎもせずに、ただうなだれているだけの男の面前に、一本の白木の墓標が立っていたが、その木肌には何も書かれていない。つい最近、立てられたばかりなのだろう。白木の肌は瑞々しいばかりに美しく、同時に男を突き離すかのように、冷ややかでもあった。寒さのせいなのであろうか。男の面相は濃い髭で隠され、うなだれた背には重い疲労の色がありありと窺えた

(2024.1.24)740円徳間時代小説文庫20195

拵屋銀次郎半畳記

侠客4

「待っておったぞ。坂本の小童。さっさとわしの前で土下座をし、泣きの涙でふるふると詫びを述べい」「な、なんじゃ貴様は」「己ごとき汚れし小童に、尊い。我が名を名乗るつもりはないわ。さあ、四の五の言わずに早く土下座をして深々と頭をたれんかい」「ぶ、無礼なやつ。この男を叩っ斬れい。八つ裂きにせよ」「おうっ」馬上の小童とやらに命じられた供侍どもがまるで忠実さを絵に描いたように一斉に抜刀した。馬上の小童とやらは抜刀もせずに手綱を強く引いて後方へと下がる。馬が怯えたようにいなないて前脚の蹄で地面を叩いた。侍どもを取り囲む深い青竹の林が風も吹いていないのに、上の方で大きく揺れザアッと音を立てた(2025.1.24)690円徳間時代小説文庫20188

拵屋銀次郎半畳記

侠客3

伯父屋敷の騒動を全身から炎を噴き上げるようにして鎮めた銀次郎は、その後の伯父のテキパキとした家臣への指示や動きを、感心したように眺めた。そして、「ははぁん、これが目付の力というものか」と、今更のように伯父に対するこれまでの見方を改めたりした。とくに骸の処分では、銀次郎がこれまでに聞いたことのない場所とか人の名が、伯父の口から家臣へ次々と発せられた。それに対し「えっ?」と訊き返す家臣は一人もいなかったのだから、万端心得ているのだろう。目付おそるべし、と新たな印象てわ伯父を眺める他ない銀次郎だった(2025.1.22)690円徳間時代小説文庫20181

拵屋銀次郎半畳記

侠客2

元は品川の総網元で苗字帯刀を許された海道権三郎が営む料亭帆亭の前まで来て、銀次郎の歩みがふっと止まった。「はて?」と首をかしげた銀次郎は辺りを見回してから再度「はて?」と眉間にシワを刻んだ。大身の武家が妖しい連れとともに訪れることが多いと言われているこの料亭は忍び料亭の別名でささやかれている。しかし、町屋敷風の建物は外観、内側ともに立派で、特に内部は武家造りの印象が強い。料理の味、接客の作法ともにその作りにふさわしく一流と評されている。その名料亭が上品な静けさの中に沈んでいるのは良いとして、銀次郎は納得しがたい雰囲気を感じつつあった。大奥女中の筆頭と称される大御年寄り絵島が訪れているはずにもかかわらず、料亭の表御門の付近どこにも乗り物は見当たらず、供のものの姿も1人として見当たらないではないか(2025.1.19)680円徳間時代小説文庫20176

拵屋銀次郎半畳記

侠客1

「目を閉じていなせえ」「こう?」「気取って閉じると、額も鼻筋も強張るんだ。肩の力を抜いて気楽な気分で閉じなせえ」「こう?」「うん、それでいい。そのままじっとしてな」「はい」「返事は要らねえよ。黙ってあっしの言うとおりにしてりゃあいい」「判りました」「判っていねえじゃねえか」「・・・」「そう。その表情でいい」「呼吸を止めた銀次郎の顔が、すうっと若い、十七、八の娘の顔に近づいてゆく。自分の呼吸が娘の顔をふわりと撫でることによって、女の顔の皮膚にかすかな震えが本能的にだが生じると経験的につかんでいるからだ。「動かねえで・・・ゆったりと・・・気楽に」銀次郎は女にそう告げながら右手の人差し指と親指とを相手の頬に軽く触れた    

(2025.1.15)680円徳間時代小説文庫20171

ぜぇろく武士道覚書

一閃なり・下

ついに、その日がきた。吉田山の麓、朝六つ半過ぎ。馬2頭の手綱を持つ高柳早苗に、政宗は静かに近づいていった。「待ったか」「ほんの少し前に着いたところでございます。手形も2人分、粗相なく整えました」「左様か。そのあたりは流石よのう。ともかく参ろうか。一気に駆けるぞ」「はい」と、早苗が栗毛の手綱を、政宗に預ける。早苗はキリリと若武者の身なりであったが、政宗はそのことには触れない。「あのう、政宗様」「ん?」「私の旅姿は、二刀を腰にしたこれで差し支えございませぬか」「そなたは、どのように姿を変えてもよく似合う。心配致すな。今日も白い百合のように綺麗じゃ」(2025.2.2)730円徳間時代小説文庫20215

ぜぇろく武士道覚書

一閃なり・中

慶長8年にほぼ完成した徳川将軍家の武装された京屋敷。そう位置づけされているのが二条城であった。銃眼の開いた石垣を持ち、本格的な堀を有して城郭そのものであったが、性格としては将軍が今日へ居住する、あるいは滞在する、京屋敷というよりは屋敷城であった。これと同じ性格の城郭的京屋敷がこのようにかつてもう1つあった。天正13年朝廷より関白を与えられ、豊臣姓を許された秀吉が天正15年に完成させた聚楽第である。それは石垣、堀、天守を有し二条城よりもさらに広大であった。この日昼9つ過ぎ。松平政宗は均整の取れた長身を紺の着流して包み、小さな菊の花を散らした白のやや幅広い帯に粟田口久国の大小刀を通して、ゆっくりと二条城東大手門に近づいて行った。唐木得兵衛の要請を受けてから2日が経っていた。(2025.1.31)730円徳間時代小説文庫20215

ぜぇろく武士道覚書

一閃なり・上

「無礼者っ」「ぎゃあ」昼どきの京都三条通、老舗の菓子舗「春栄堂」の店先で突然、怒声と女の悲鳴が前後して生じた。絶品の大福や葛餅、麦代餅などで客の出入りが絶えることのない春栄堂の内と外で、人の動きが一瞬にしてシンとなる。だが直ぐにそれは、怯えたようなざわめきに変わった。「旦那様、旦那様」店先に掛かった黒艶のある「春栄堂」の大きな彫り看板を手拭いで磨いていた小僧が、その手拭いを放り捨て甲高い声と共に店の中へ駆け込んだ(2025.1.30)730円徳間時代小説文庫20215

ぜぇろく武士道覚書

討ちて候・下

人の話し声が耳元でした。それが遠のいたと思うと、また近づいた。男の声であったり女の声であったりしたが、何を話しているのかまではわからない。波が打ち寄せては引いていくようであった。幾度かそのような感じがあって、政宗は薄目を開けた。薄暗い天井が認められた。その天井の様子だけで、ひどく粗いと言うか、貧しい作りであると想像がついた。薄目を開けた時から意識はしっかりと戻っていた。気分も悪くはない。ただ、左足を試しに少し動かしてみると大腿部に鈍痛が走った。政宗はそれによって左大腿部に矢を射られたことを思い出した。(矢を受けるなどとはなあ。未熟極まりないわ)そう思いつつ、政宗は視線をゆっくりと上下左右に振ってみた。(2025.2.5)730円徳間時代小説文庫20217

ぜぇろく武士道覚書

討ちて候・上

「降ってきたか」汚れの目立つよれよれの着流しに二本差し、という如何にも金に縁が無さそうな侍は、不精髭に覆われた顔で夕焼けが残っている西の空を仰いだ。その顔に夕雨が、ぽつりぽつり落ちてくる。「お前の涙雨かのう、止めてくれるな、足が鈍る」呟いて侍は、ゆっくりと振り向いた。直ぐの所にさほど大きくも立派でもない山門があって、侍はその奥に在る寺院の住職にたった今、若い女の骨壺と永代供養の金を預けてきたのだ。骨壺に入った女の菩提寺が、この寺院だった。侍は歩き出した。足元の擦り切れた薄い雪駄は、長旅の証、とでもいうのであろうか(2025.2.2)730円徳間時代小説文庫20217

日暮れ坂右肘斬し

竜之助は江戸でも有名な武術道場の師範だった。ある日、長く病を患っていた無二の友が回復したので祝いに行った。その翌日に、友夫婦が何者かに襲われたことを知った。友は殺され、友の妻は重傷を負った。犯人を探して仇を討つことを決意したが、なかなか犯人につながる手がかりが見つからなかった。竜之助は若い頃に相思相愛だった女性と別れて以来、独り身を通していた。武家の定めで他家に嫁いだ彼女の子どもが武芸大会で相手の卑怯なやり方により絶命した。そのことを知った竜之助は相手の行動を調べて、それがかつての友を殺した犯人の息子だったことを知った。日暮坂道場の老いた師範は、仇を討つために若い剣豪に挑んだ(2023.10.24)徳間文庫85020236


冗談じゃねぇや

江戸時代、浮世絵師の宗次はあばら屋で暮らす町人だった。しかし、剣の腕は立つし、度胸もある。誰もがその出自を武士だったのではないかと疑っていた。宗次の出自を知っているのは、夢座敷の女将、幸のみだった。寺の境内を借りて宗次の襖絵の即売会が開かれた。売り上げはすべて寺に寄付され、地域の貧しい人たちを支える資金として使われる。多くの絵を一度に買い上げた商家があったので礼を届けに行った宗次は、いくつかの商家で同時に多くの小判が消えていたことを知る。にもかかわらず、どの商家もそれを奉行所に届けようとはしなかった。謎は深まるばかりで、宗次の探索が始まった。 (2018.12.6) 徳間文庫 201011 724


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