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伊坂幸太郎
kotaro isaka

ゴールデンスランバー
青柳雅春は、宅配のドライバーをしていた。そのとき、たまたま荷物を届けた家で強盗をやっつけて住んでいたアイドルを救った。当時、その話題はワイドショーを席巻した。取材のためにメディアが会社や仕事先を訪れ、多くのひとに迷惑をかけた。そのうちに青柳のもとに嫌がらせとも思える誹謗中傷も届く。「お前、あのアイドルとやったのか?」。青柳は仕事を辞めた。そんなとき、大学時代、同じサークル「食文化研究会」のメンバーだった森田が会いたいと電話をしてきた。東京で仕事をしていた森田は仙台に異動になった。ふたりで仙台の町を行く。車の中で森田は青柳に睡眠薬を飲ませて眠らせた。その時間帯に、新進気鋭の総理大臣、金田が仙台の町をパレードしていた。若手の金田は多くの老獪な国会議員を追い越して首相の地位を手に入れていた。パレードの車がテレビ中継される。空からリモコン操縦のヘリコプターが近づいた。金田の頭上でヘリコプターに搭載された爆弾が爆発した。金田は夫人もろとも爆死した。睡眠薬の効き目からさめたとき、青柳は首相暗殺の犯人にされて、得体の知れない「警察官」たちに追われることになる。「俺にも借金があってさ、家族もいるし、ごめんな」。泣きそうな顔で森田が青柳を売ったことを告白する。理由がわからないまま、車を飛び出す。背後で森田を乗せた車が爆発した。自分は首相暗殺の犯人として殺されるところだったのか。次々と青柳を追い詰める警察官たち。自分は犯人ではないと叫んでも叫んでも、相手は信用しようとはしない。たどり着いた考え。自分は犯人にされているということだ。どうせ、犯人としてつかまるなら、テレビを通じて無実を訴えてからにしようと決意した青柳は、思い切った作戦に打って出る。アメリカのケネディ暗殺をベースにした物語。国家権力の陰謀を壮大な物語として再現した。(2012.7.23) 伊坂幸太郎 新潮文庫 2007年12月 857円

陽気なギャングの日常と襲撃
シリーズ2弾目。成瀬、響野、久遠、雪子の4人が繰り広げる銀行強盗物語。しかし、2作目は前作と大きく異なり、それぞれの日常生活が描かれる。それらが再結集して、一つの物語に組み込まれていく。だから、前作よりも登場人物が多くなる。(2012.6.23) 伊坂幸太郎 祥伝社文庫 2009年9月 657円

陽気なギャングが地球を回す
横浜を舞台にした4人のギャングが銀行を襲ったり、罠にはまったりする物語。
成瀬は市役所に勤務する公務員。ギャング団のリーダーだ。ひとの嘘を見抜く特殊な能力をもっている。雪子は慎一という中学生をひとりで育てているシングルマザー。体内時計を持っていて、あらゆるものの進行時間を読み当てることができる。久遠は天才的なスリ。響野は妻の祥子と喫茶店を経営しているオーナー。成瀬とは幼馴染だ。4人は映画館に爆弾が仕掛けられる事件をきっかけに出会った。ひとを殺さないで、犯罪らしい犯罪を遂行することを目指す4人のギャングたち。低次元な人間たちによる残虐で行き当たりばったりの犯罪にうんざりしている。ある銀行の強盗に成功した逃走中に、別の現金輸送車強盗犯人たちと出くわして、盗み出したお金をさらわれてしまう。奪った犯人から免許証を掏った久遠の努力により、成瀬たちは奪われたお金の奪取計画を立てる。そんなとき雪子の様子がおかしいと気づいた成瀬は、ひそかに雪子の身辺を探っていく。するとそこには過去に彼女が離婚した地道という男が浮かび上がった。(2012.6.12) 伊坂幸太郎 祥伝社文庫 2006年2月 629円

ラッシュライフ
 仙台を舞台とした群像劇。
 拝金主義者の画商の戸田と、戸田に見込まれ作品を投機の対象にされることを自覚しながらも従うしかない新進女性画家志奈子。
 空き巣に入ったら必ず何を盗んだかというメモを残して被害者のこころの負担を軽減することを忘れない泥棒の黒澤。
 新興宗教の教祖にひかれ、その幹部である塚田から教祖の解体を手伝わされることになった画家志望の河原崎。
 互いの配偶者を殺す計画を実行しようとする女性精神科医の京子とプロサッカー選手の青山。
 会社をリストラされて、40社連続不採用の失業者、豊田。
 5組の物語が、時間軸をずらされて展開していく。また、豊田になついて離れない老犬や、京子の夫で黒澤の同級生の佐々岡など、サイドキャラクターの味わいも深い。
 伊坂はデビュー作の「オーデュポンの祈り」で「神のレシピ」を倫理の柱とした。その精神は、ラッシュライフでも貫かれている。駅前で日本語のじょうずな白人女性がスケッチブックを片手に「あなたの好きな日本語は何ですか」とインタビューしている。登場人物たちは、時間軸をずらしながら、白人女性のスケッチブックに言葉を記している。「力」「こころ」「夜」「無色」。そして、物語の最後にもう一つ加わる。
 失業者の豊田は、拝金主義者の戸田の賭けに巻き込まれる。戸田は仕事と高額の給料を約束するという。幸運を目の前にして有頂天になる豊田。そのかわりに豊田が駅前で拾った老犬を差し出せと言う。もともと自分の飼い犬でもない老犬なので、すぐにでも差しだそうと一度は思う。しかし、次の瞬間、老犬とともに過ごした数日間が豊田の脳裏を横切る。
「これは手放してはいけない気がするんです。譲ってはいけないもの。そういうものってありますよね?」
 憤慨した戸田は怒り出す。
「おまえの人生はどうなっても知らんぞ」
 その言葉に豊田は苦笑する。
「いえ、すでに人生はどうにもなりません」
 老犬の首輪には、当たることが約束されている宝くじがはさまっている。その宝くじが当たりくじだということを豊田は知らない。(2012.5.22) 伊坂幸太郎 新潮文庫 2002年5月 629円

重力ピエロ
 仙台を舞台としたミステリー的家族物語。
 ラッシュライフに登場した泥棒の黒澤が、探偵としていい味を出す。
 泉水(いずみ)と春は兄弟だ。しかし父親が異なる。
 ふたりの父は退職してから癌にかかり入院している。母はもっと早く病気で他界した。
 かつて東京でモデルをしていた美人の母は、父と出会ってさっさとモデルの仕事を辞めて仙台にやってきた。市役所で働く父の元に行き、いっしょに暮らしますと宣言する。
 その母が、28年前に非行少年にレイプされ、妊娠した。
 そのこどもが春なのだ。
 父と母は春に誕生の秘密を隠さなかった。そんなことで、泉水も春も父母のこどもでなくなるわけではなかったからだ。
 泉水の働く遺伝子情報を扱う会社が放火された。落書きを消す仕事をしていた春が、泉水に放火の予言をした。そして、放火は予言どおりに実行された。泉水と春、父の3人で、放火した犯人探しの物語が始まった。
 そんなとき、泉水は葛城という男の遺伝子情報を個人的に調べていた。
 春は、「夏子さん」というかつて春を追い掛け回した女性からふたたびストークされ始めていた。その夏子さんが、泉水に「最近の春さんは、精神的に不安定です」と相談を受ける。(2012.6.3) 伊坂幸太郎 新潮文庫 2003年7月 629円

オーデュポンの祈り
牡鹿半島の先に浮かぶ萩島。数百年も住民は外に出ない生活を続けていた。しかし、外国とは独自に交易を続けてきた。だから、住民は着る服も日常生活に必要なものも、現代のものと同じだった。伊藤は、目覚めたら、萩島にいた。迎えにきた日比野に島を案内してもらう。喋るかかしの優午は未来を予測できる。妻が殺された園山は、それ以来、反対のことしか話さない。多くの生き物を犠牲にして生きている人間は、生きている必要がないとして、撃ち殺す桜。市場で店番をしているうちに太りすぎて動けなくなったウサギという女性。地面に寝転んで音を聴いている若葉。萩島の常識が理解できない伊藤は、仙台から逃げてきたことは覚えていた。コンビニ強盗未遂で逮捕されたのだ。逮捕した城山刑事は、伊藤の小学校のときの同級生だった。成績がよく、残忍な城山は、刑事になって、悪事を繰り返していた。城山と伊藤を乗せたパトカーは、警察署へ向かう途中で事故を起こした。ひしゃげたパトカーから、伊藤は逃げ出した。そして、気がついたら、萩島にいたのだ。島で唯一、外 の世界と行き来できる轟に連れて来られたのだ。喋るかかしの優午は、未来を予測できても、未来を語りはしない。その優午が、伊藤には、これからすべきことを教えた。萩島に伝わる言い伝え。この島には何かが欠けている。それは外からもたらされる。日比野は、それを伊藤に期待した。しかし、伊藤には見当もつかない。優午が殺された。かかしが壊されたことが、萩島の住民には殺されたと受け止められるほど、優午の存在は大きかった。翌日になって、曽根川が殺された。曽根川は、伊藤の前に外から来た人間だった。轟と儲け話をシェアするために島に来たが、住民のだれからも嫌われていた。死にゆくひとの手を握ることが仕事の百合は曽根川を嫌っていた。優午の存在を曽根川は信じなかった。優午の指示で鳥が好きな田中に会った伊藤は、アメリカの鳥類学者オーデュポンの話を聞いた。リョコウバトを絶滅に追い込んだ人類の歴史を田中は語る。(2011.11.19) 伊坂幸太郎 新潮文庫 2003年12月 629円

終末のフール
8つの短編集だ。「終末のフール」「太陽のシール」「籠城のビール」「冬眠のガール」「鋼鉄のウール」「天体のヨール」「演劇のオール」「深海のポール」。どれも「○○の○ール」というタイトルになっている。8年後に地球に小惑星が衝突し、人類は滅びることがわかった。その後の数年間は、自暴自棄になったひとたちによって社会活動は停止した。互いに憎み合い、奪い合い、殺し合った。多くのひとたちが未来を悲観して自殺した。それから5年後、あと3年したら小惑星が衝突する時期の物語が、この終末のフールだ。フール、つまり愚か者とか愚かな行為を表す言葉が意味しているのは、死ぬことを直前にしたひとびとの姿なのだ。舞台は仙台。作者は、デビュー作の「オーデュポンの祈り」でも仙台を舞台にした。愛着があるらしい。郊外にあるヒルズタウンに住むひとたちが、それぞれの物語の主役だ。さらに、異なる物語でも、それぞれの主役たちがちょい役で登場する。とても構成が練られている。天文学の研究をする若者が「いつも望遠鏡で遠くの星を眺めていたけど、3年後には確実に自分に近づいてくる星を観測できる」と大喜びする。ただし「昼間では明るすぎて星が見えない。たとえ夜で雲が出ていてはだめだ。晴れた夜に衝突してくれないと困る」と悩む。天体のヨール。思わず、笑ってしまうが、専門家とはそういうものかと納得してしまう不思議さがある。太陽のシールでも、「俺は衝突の日まで幸せに生きられる」という青年が登場する。これまでは生きつづけることが不安で仕方がなかった。理由は彼のこどもに先天的な障がいがあったからだ。彼らが生きている間はいいが。彼らが死んだ後、こどもはどうなるのかと考えたら不安で仕方がなかった。しかし、3年後に自分といっしょにこどもも死ぬとわかったら、その日までを精一杯生き抜こうと思えるようになったという。このほかにも、終末を迎え、それぞれの生き方や生きる意味を問いかける物語が清々しい文体とともにこころに迫る。(2011.11.26) 伊坂幸太郎 集英社文庫 2009年6月 629円