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氷月 葵
aoi hiduki

神田のっぴき横丁
7
返り咲き名奉行

ただ今読書準備中(2024.8.28)二見時代小説文庫80020246

神田のっぴき横丁
6
はぐれ同心の意地

12月の冷気を感じながら、登一郎はふと目を覚ました。外で声や足音が聞こえる。捕物かと思った。階下から物音がした。階段へ登一郎は近づく。耳を澄ませると「静かにしろ」。覗きこむと佐平が何者かに馬乗りにされていた。「金を出せ」「金なんぞ」「やめろ」。登一郎は階段を飛び降り、刀掛けから脇差しを手にした。賊は「なんだ、爺か」と油断する。「見くびるな」登一郎は刀を振り上げ男の腕を斬りつけた。男の手から短刀が落ちた。佐平は男の膝裏を蹴る。崩れる男の首を登一郎の柄頭が打つ。膝をついた男の足を佐平が縛った。表から声がかける。永尾清兵衛が入る。次いで黒羽織の役人が入る。捕らえた男を登一郎は役人に渡した。男はさる商家に押し入った一味の者だった。未然に盗みを防ぎ、散り散りに逃げた中で、その男だけ逃げ遅れたという。同心は男を連れていった。前をはだけたままの佐平と登一郎、互いに慌てて前を重ねて苦笑した(2024.9.5)二見時代小説文庫80020242

神田のっぴき横丁
5
名門斬り

10月の風が横丁に吹く。朝の空を見上げながら登一郎は竹箒を手にしていた。その時、横丁に女が2人駆け込んできた。若い女は赤子を抱え、母親らしい女は娘の背中を押している。目が合った登一郎に年配の女が問う。「こちらはのっぴき横丁でしょうか」。子どもを預かってほしいという。登一郎はすぐに2人をお縁の家に連れて行く。お縁は子どもの預かりを生業にしていたが、赤子は預かっていないという。逼迫した事情があるらしい。お縁は登一郎にも家に入ってもらい事情を聞くことにした。娘の名前は喜代、母親は富美、赤子は幸丸。乳のあてがないので赤子は預からないと告げるお縁に、娘の喜代ともども預けたいというのだ。登一郎が事情を聞いた。さる大名家に奥女中として奉公に上がった喜代は、当主の次男に無理矢理手を付けられ懐妊させられた。健やかに育った後に屋敷に戻すという勝手な言い分で放り出されたのだ。それがこのままでは幸丸が屋敷の者に殺されるかもしれないと知らされた。どこかに身を隠すために選んだのがのっぴき横丁だった(2024.7.26)二見時代小説文庫800202310

神田のっぴき横丁
4
不屈の代人

湯屋を出た真木登一郎は、額の汗を拭った。もっと朝早く来れば良かった。7月初旬の中天の日差しが注ぐ。登一郎は前から来る男に目を留めた。総髪に短く切った茶筅髷の男はキョロキョロと辺りを見渡している。背中に荷物を背負って胸で風呂敷を結んでいた。よれた袴が旅人の長さを思わせた。男と登一郎はすれ違った。背後で大声が起こった。振り向くと男が倒れて二人の男に押さえ込まれていた。破落戸の二人は旅人を懐から財布を盗み、脇差しを鞘ごと奪った。登一郎は慌てて近づき、破落戸と対峙した。脇差しの峰で男たちを打ち付けたが砂で目潰しをくらい、ひるんだ。その隙に破落戸たちは走り去った。涙の溢れる目をしばたたせながら登一郎は旅人をのっぴき横丁へ連れて帰る。破落戸たちに脚を打たれて歩けなくなっていたのだ。長崎から来た旅人は、柴崎正二郎と名乗った。長崎で蘭方を学んだ医師の正二郎に横丁の漢方医、龍庵は弟子の信介に蘭方を教えてほしいと依頼した

(2024.7.26)二見時代小説文庫80020236

神田のっぴき横丁
3
笑う反骨

登一郎の家の前を男がいきつもどりつしている。そこは、錠前屋の作次の家だ。登一郎は何事かと声をかけた。男は錠前屋に用があるという。昼過ぎに出かけた作次はまだ戻ってこない。男は千歳屋という呉服屋の次男だった。登一郎は家にあげたが、なかなか作次が戻ってこない。そのうちに嘉助という男は医者もいると聞いたと話し出す。のっぴき横丁には龍庵という医者がいた。登一郎は嘉助を連れて龍庵を訪ねた。嘉助の父が三日前に中風で倒れたという。その相談だった。翌日、家に戻った作次に昨日の男のことを伝えた。するとちょうどそこに嘉助が訪れた。登一郎は作次に嘉助を紹介した。嘉助は箪笥にある錠前を明けてほしいと頼んだ。鍵が見つからず開けられないそうだ。そこには中風で倒れた父親が記した大事な書き付けがしまってある。それをなるべく早く手にしたいということだった(2024.5.29)二見時代小説文庫75020232

神田のっぴき横丁
2
慕われ奉行

真木登一郎はのっぴき横丁で隠居生活を始めた。暮らしになじみはじめ、長屋の住民たちとも少しずつ打ち解け始める。朝と夜の湯屋は混むことがわかったので昼のうちに湯屋に行くことにした。細い横町から表通りに出ようとした。すると若い男が二人走りこんできた。先に走る男がもう一人の男の手首をつかんでいる。その男の袖は切られ、腕から血が流れていた。背後からは抜き身の刀を手にした侍が追いかけて来る。登一郎は脇差を抜いて切っ先を侍に向けた。「町人相手に刀を向けるとは何事か」と声を出す。周囲にはやじ馬が集まり、登一郎たちを応援し始めた。侍たちは背を向けて逃げた。腕を切られた男は米造、手を引っ張られた男は札差の若旦那だった。登一郎は横丁の医者、龍庵のもとに二人を連れて行く。金創医ではない龍庵はとりあえず止血だけした。龍庵の向かいに住む新吉が札差の深田屋を知っていたので知らせに走る。登一郎は襲ってきた侍について事情を聴いたが、若旦那はまったく知らない侍だったという。ただし、手代の米造は両国ですれ違ったときからつけてきたことに気づいていた(2024.5.29)二見時代小説文庫750202210

神田のっぴき横丁
1
殿様の家出

天保131842)年115日。江戸城奥の控えの間で真木登一郎は、立ち上がった。毎月15日の総出仕。将軍家慶の顔さえ見ないまま拝謁する。廊下を歩いていると後ろから「邪魔だ」と知人を押し除けて追い抜く者がいた。勘定奉行の跡部大膳だった。老中水野忠邦の覚えがよく出世し権勢を恣にしていた。登一郎は無礼なのは跡部の方だと嗜めた。そこに南町奉行の鳥居耀蔵が通りかかり、ことの顛末を知った。水野、跡部ラインの鳥居は登一郎排斥に動き出す。後日、佐渡奉行への役目替えが噂に上がった。憤慨した登一郎は場内で水野老中に聞こえる場所で水野の政策を大声で非難した。すぐに役宅に戻り、家族一同に本日をもって隠居し、長男に家督を譲ると告げた。加えてかねてから気になっていた神田の長屋で一人暮らしをするとも。妻の照代は隠居と聞いて不満そうな顔をしたが、一人屋敷を出て長屋住まいをすると知り笑みを浮かべた。これで芝居や町歩きが自由にできると思えたのだ。炊事も洗濯もできない登一郎に照代は中間の佐平をつけてくれた。かくして登一郎は清兵衛が差配する、神田のっぴき横丁での暮らしを始めることになった(2024.5.28)二見時代小説文庫70020226