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福井晴敏
fukui harutoshi

人類資金3
大阪の酒田組組長酒田忠は、かつて詐欺師の真舟に煮え湯を飲まされ、ことある毎に真舟の所在を確認していた。見つけたときにはただではおかないと。石とともに真舟まで逃がしてしまった防衛省の高遠は酒田に近づき、真舟の情報を渡す代わりに自分の仕事を依頼した。外国へ逃亡してしまった真舟たちを拘束する権限が高遠にはなかったからだ。真舟たちは、国内を逃亡しながらM資金を詐取する計画を綿密に立てていた。サンクトペテルスブルグに到着した真船たちは、財団の特別査察官に成りすまして、現地での取引を任されている鵠沼に近づいた。鵠沼は財団の許可を得ないで独自の危険な取引を繰り返していた。そのために多額の損失を負う。損失を補うために多くの借金をする。その利息を返すだけでも大変な日々を送っていたのだ。このことが財団に露見すれば、確実に鵠沼は殺された。特別査察官の登場は、鵠沼にとって死刑宣告と同じだった。しかし、木下と名乗る査察官は、鵠沼に自分といっしょに財団の金を盗み、損失の補填をしないかと持ちかけた。始末されると覚悟していた鵠沼は、木下の提案をすぐに受け入れた。それは北方領土に関するとてつもない詐取だった。(2014.2.22) 講談社文庫 2013年8月 500円

人類資金2
MにUSBメモリを手渡された真舟は、ネットカフェで詐欺仲間の沖山からMに関する情報を入手していた。M資金に関する情報にアクセスすべきか否かを迷っていたところに高遠美由紀が現れた。真舟にUSBメモリを渡すように命令する。防衛省の情報将校である高遠は、M資金を管理する笹倉財団からの指令を受け、Mの計画を阻止しようとしていた。仕方なく真舟は美由紀にメモリを渡す。そのとき隣りのブースから石が飛び出して真舟を抱えていた美由紀の部下を撃退する。ふたりはバイクに乗り、地下を抜け、美由紀らから逃げていく。財団理事長の笹倉は防衛庁幹部からの報告を受け、Mが仕掛けてくる攻撃を排除できなかった事実に接した。すでに石と真舟は海外へ逃亡するかもしれないと言う情報まで得た。同じときニューヨークのローゼンバーグ銀行ニューヨーク支店役員のハロルド・マーカスからMに関する情報が入った。もしも石たちを外国で発見したときは笹倉や財団に関係なく、その場で清算すると通告した。(2014.2.16) 講談社文庫 2013年8月 500円

人類資金1
大日本帝国陸軍大尉の笹倉雅実は、終戦の日にそれまで陸軍が接収した金銀などの財宝を処分する役割を担った。それまで日本銀行に保管されていた財宝は、終戦直前に窃盗団に盗まれていた。それを取り戻すことに成功した笹倉は大本営から、アメリカ軍に持って行かれる前に持ち出すように秘かに命令されていた。戦後の多くの復興をやがて影から支えることになるM資金は、そうやって闇に消えていった。東日本大震災が起こり、原発がメルトダウン、復興もままならないまま、政治は二転三転を繰り返す現代。真舟雄一は、M資金をネタにする詐欺を繰り返していた。今回も大口の詐欺で2億5千万円をだまし取った。仲間に分け前を分配し、事務所などで世話になった地元の暴力団に「税金」を納め、再び1年間の地下生活に入ろうとしていた。その目の前に石優樹が現れた。自分たちの仕事に協力してほしいという。本名を知っていた石に警戒心を抱きながらも真舟は、M資金に関する仕事だということで興味を抱く。やがて、真舟はMと名乗るITベンチャー「アイネアーク・イェーネ」社主に会って、M資金を奪ってほしいと頼まれた。(2014.2.15) 講談社文庫 2013年8月 500円

川の深さは
 保と葵は逃げていた。元暴力団対策の警察官をしていた桃山は、警察を辞めてから、民間警備会社に勤めていた。ある夜、自分が警備しているビルに葵と怪我をした保が逃げ込んできた。
「自分と同じ目をしている」
 そう感じた桃山は、保の怪我の手当をして3日間、ビルで面倒を見た。しかし、3日目の朝になって二人は姿を消していた。かつて自分が担当していた地域のやくざが同じように二人を捜していることに気付いた桃山は、その頃のつてで金山というやくざと会う。金山から聞かされた話は、本当はやくざも関わりを持ちたくない危ない頼み話に親分が乗っているというものだった。
 陸上幕僚部。市ヶ谷駐屯地の地下深くで、警察の公安とも内閣の調査部とも異なる情報活動に従事するだれにも知られない組織があった。通称在日CIA。アメリカからの極秘の依頼を受けて、北朝鮮が日本を侵略するというシナリオを未然に防ぎ、国防の必要性を高める計画が進行していた。
 しかし、その計画はベルリンの壁の崩壊、ソビエトの崩壊などによって中止された。さらにその計画に関係していた協力者たちを抹殺する命令が出された。命令の実行者だった保が、結果的に命令を無視して逃亡したのだ。そのときに、日本侵略計画が記録されたフロッピーを手にしていた。そのフロッピーには、計画の実施を総理大臣が許可した認証が含まれていた。だれの目にもそのフロッピーを見せたくない市ヶ谷の上官たちは、必死になって保を捜し、フロッピーの回収を命令していたのだ。その一翼をなぜかやくざが担うことになった。
 かつては保とともに訓練を受けた涼子は、いまは上官の佐久間とともに保を追いつめる立場になっていた。涼子は、桃山が二人をかくまったことを知り、接近をはかる。桃山は涼子の指図のままに保を危険にさらした。
「これはあんたが預かってくれ」
 桃山は、保にフロッピーを渡された。
 やがて、保は葵をかくまいけがをさせた金山の親分を見つけ暗殺する。事前に金山と連絡を取り合っていた保は、そこで大芝居を打って、金山とその後の計画の連携を計る。金山はすべてを桃山に話し、自分といっしょに北朝鮮へ渡らないかと誘う。休みの日に横浜で偶然会った涼子とデートの約束をしていた桃山は金山からの申し出を断る。その夜、自宅に戻った桃山は佐久間とその部下にフロッピーごと拉致された。
 市ヶ谷の地下でフロッピーの解析が始まった。暗唱番号の解析が進んだとたん、フロッピーから放たれたウイルスがすべてのセキュリティマシーンをダウンさせた。市ヶ谷に忍び込んだ保は、葵を無事に北朝鮮に逃がすために爆弾を爆発させて、アパッチヘリを盗む。行きがかり上、いっしょになった桃山はアパッチに乗って北朝鮮に逃げる葵と金山を救おうと日本海へ向かう。それを待ち受ける護衛艦「こんごう」。海上に落水した桃山の目前で、保は「こんごう」に体当たりして葵らの逃亡を助けた。(2012.8.4) 福井晴敏 講談社 2003年8月 648円