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ほぼ毎日更新の雑感「ウエイ」
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堂場瞬一
syunichi douba

ラスト・コード
警視庁渋谷中央署刑事課に奉職する筒井明良。機動捜査隊で妻と子どもを殺した夫を追い詰めて自殺させてしまった過去をもつ。筒井は夫を発見しすぐに身柄を確保したかったが上司の命令は応援が駆けつけるまで待てだった。その短い時間に夫は飛び降り自殺をして死んだ。上司の命令に従った自分を恥じ、筒井は間違った命令を出した上司をぶん殴って顎の骨を砕いた。すぐに辞めさせられるかと思ったら、念願の刑事課への異動がかなった。組織は筒井を野に放って過去の出来事がもれることを懸念したのだ。化学薬品メーカーの研究者、一柳正起が殺された。ナイフで惨殺されていた。妻は先立ち、ひとり暮らしをしていた。一柳はナノマシンの世界的な研究者だった。しかし会社から研究費の打ち切りを宣言され、もう少しで完成するはずのナノマシンに関する研究を取り上げられていた。そこに中国の医療メーカーが目をつけた。間には中国通として知られる現職の与党国会議員西脇が介在していた。一柳は中国の医療メーカーに自分の研究成果を高額で売っていた。産業スパイとしてのトラブルから殺されたと判断した外務省・経済産業省は警察庁に圧力をかけて、殺人事件の捜査を積極的に行わないように指示を出した。いっときは特捜本部まで作った体制は上からの指示で渋谷中央署だけの捜査に縮小させられた。空港まで一柳の娘、美咲を迎えに行った筒井はなにも知らないまま、美咲とともに謎の集団に襲われ始めた。 (2016.7.5) 中公文庫 2015年11月 780円

鷹西と大江は大学時代の同級生だった。ともにバブル崩壊の後に大学を卒業した。国会議員の息子だった大江は大学を卒業してすぐに大蔵省に入省した。やがて政治家になることを目指していた矢先に、父親が病死する。葬式の後、母親から1億円以上の借金があることを告げられた。大江は選挙への出馬をあきらめ財産を処分したり、仕事をしたりしながら借金を返済した。そして、自分の力で会社を興し、財力をつけてから選挙へ望もうと考えた。会社を興す資金の相談に伊豆に住む恩師を訪ねた。当時、同じ伊豆の支局で新聞記者をしていた鷹西は久しぶりに伊豆で鷹西と再会した。小説家を志望していた鷹西は、記者をしながら小説を書く夢を抱いていたのだ。久しぶりに会った大江は「これから恩師の元に行くから」と告げて別れた。その翌日、かつて政界で影響のあった元国会議員が伊豆の別荘で殺されて発見された。 (2016.4.29) 集英社文庫 2015年8月 740円

奪還の日
一ノ瀬拓真シリーズ4
事務所に窃盗で入った島田は警備員を殺してしまう。そのまま逃走したが遺留品から人物が特定され、指名手配。地元の福島で逮捕された。一ノ瀬は後輩の春山とともに福島から東京へ島田を護送する。警察署から福島駅へ向かった護送車は、突然、盗難車に体当たりされ、運転していた男らに島田を奪われてしまった。失態の上塗りを防ぐために、福島県警と警視庁のメンツにかけた島田奪取計画が実行される。捜査が進むうちにただの窃盗犯と思い込んでいた島田が、次々と殺人を起こし始めた。 (2018.8.23) 中公文庫 2017年4月 860円

誘爆
一ノ瀬拓真シリーズ3
千代田署の一ノ瀬は巡査部長の試験に合格した。自分をずっと面倒見てくれた教育係の藤島からやがて離れて警視庁捜査一課へ配属されると目されていた。そんな実力が自分にあるとは思えなかったが、それでもいつかは本庁で仕事をすることを誇りに思っていた。そんなとき、管内でビルが爆破される事件が起こった。そのビルには世界各地に支社を置く大手企業が入っていた。最初から一之瀬はその企業が何かを隠していると感じていた。しかし、あくまでも爆破事件の被害者だったので捜査は慎重を究めた。やがて一人の社員が事件の数日前から行方不明になっている事実をつかんだ。そのことを幹部に確かめても会社は「あくまでも個人的な問題」として問題にしなかった。せめて捜索願でもとすすめてもその必要はないと回答した。同じ頃、また管内でナイフによる殺人事件が発生した。被害者は栃木県から東京に出てきた若い男だった。しかしこの男の評判はとても悪く、以前から脱法ハーブや振り込め詐欺へのかかわりが噂されていた。殺人事件の捜査を命じられた一ノ瀬は、事件を追ううちに爆破されたビルの企業から行方不明になっていた春日という社員との接点を探り出してきた。二つの異なる事件は、一つにつなっがっていたのだ。 (2016.3.8) 中公文庫 2015年5月 860円

見えざる貌
一ノ瀬拓真シリーズ2
皇居の周囲をランナーが走る。仕事帰りの時間を使ってランナーが走る。そのランナーを襲う事件が続いて二件発生した。半蔵門署と合同で警備と捜査に当たることになった千代田署の一ノ瀬は、同期の若杉と会う。勢いばかりが先行する若杉に閉口しながら、警備をしていた矢先に、三件目の通り魔事件が発生した。今度はタレントでランナーの杏奈が襲われた。平身低頭で仕えるマネージャーの由喜に違和感を覚えながら、一ノ瀬は杏奈の聴取を続ける。ふたたび襲われるかもしれないので走るのは控えるように頼むが指示を聞こうとはしてくれない。そんななか、四件目の通り魔事件が発生した。今度は襲われたランナーが死んだ。警備と捜査を中心にしていた捜査陣は、この段階から警視庁を中心とする特別捜査本部体制へと移行した。殺された女性は杏奈のファンで、ウエアも杏奈と同じメーカーのものを着用していた。そんななか、先の二件の通り魔の犯人が逮捕された。ランナー仲間から通報があったのだ。しかし、この犯人は杏奈と殺された女性への事件関与は否定した。アリバイも成立していた。同じ通り魔事件なのに、複数の犯人がいることがわかった。 (2015.5.22) 中公文庫 2014年9月 860円

ルーキー
一ノ瀬拓真シリーズ1
警視庁千代田署に配置された一ノ瀬は交番勤務から刑事になった。捜査一課で先輩の藤島から刑事の仕事を教わりながら仕事を始める予定だった。しかし、その初日に管内で殺人事件が発生した。休みのない捜査が続いていく。刑事の仕事のやり方への疑問を抱きながら一ノ瀬は藤島から多くのやり方を教わっていく。殺されていた古谷は、IT企業の総務課で子会社の収益管理をしていた。目標に達しない子会社に対して容赦なく利益を上げるように尻を叩いていた。その反面、震災があった福島の実家再建を願う一面もあった。一ノ瀬らは捜査の過程で子会社の一つが粉飾決算をしていた事実をつかむ。それを知った古谷が何者かに口封じをされたのではないかという見立てのもと、捜査が進んでいく。 (2015.4.16) 中公文庫 2014年3月 860円

異境
日報新聞社会部の記者、甲斐は東京本社で上司と衝突し横浜支局へ飛ばされた。赴任地で、2年目の若い記者、二階と出会う。二階はあけすけな性格で、先輩の甲斐に対しても堂々とものを言う。そんな二階が失踪した。それまで彼の言動を快く思っていなかった支局の面々は、二階がいなくなってもだれも心配をしなかった。上司は、本社から飛ばされてきた甲斐に、ひとりで二階の行方を捜すように命令する。だれも二階を心配していないことに不満を抱きながらも、甲斐は二階が何を追いかけていたのかを探っていく。やがて二階のアパートが何者かに荒らされる事件が起こった。神奈川県警に捜索の依頼をしに行く甲斐は、県警も進んでこの事案に取り組もうとしていないことに疑念を抱く。「このことはよほど注意しないといけない」。謎のメッセージを甲斐に届ける福沢という男。自宅マンションの駐車場で、いきなり甲斐は頭部を殴打されけがをする。県警の女性刑事、翔子はなぜかひとりこっそりと甲斐に情報を流す。だれが味方でだれが敵かわからないなか、甲斐は外国人組織の不法売買を二階が探っていたことを知る。そこに県警の幹部が癒着し、賄賂を受け取っていたことを、二階はつかんでいたかもしれないと気づき、甲斐は二階の安否が気にかかり始めた。 (2015.3.26) 小学館文庫 2014年5月 740円

沈黙の檻
春木市。関東地方北部か東北地方南部の架空の都市。県警捜査一課から所轄に出向している氷室は、体調が戻ってきたので上司の望月から17年前の殺人事件の再捜査を命じられた。すでに時効が成立している事件だったが、出所した前沢という男が、殺人事件の真相を告白し、真犯人を公表したからだ。真犯人に名指しされた新富運送社長の末松はすべての取材や聴取に対して「ノーコメント」を貫く。会社の社員たちはすべてが末松の人徳をたたえ、彼が殺人を犯すはずはないと言明する。揺るがない末松の意思、社会貢献活動でも多くの弱者を救ってきた過去、末松の生き方と殺人が結びつかない。氷室は、なぜそんな末松が「やっていない」ではなく「ノーコメント」を貫くのかがわからなかった。17年前の被害者は新富運送の前の社長だった。後任社長になった末松は、被害者の息子まで会社に就職させていた。そのうちに、末松が何者かに車で襲われる事件が発生した。単なる交通事故ではなく、殺意のある事件だと直感した氷室は被害者としての末松によりそい、犯人を追っていく。そして、出所後に真相を告白した前沢が殺された。末松を襲ったのは前沢ではないかと思っていた氷室は、有力な容疑者を失ってしまう。 (2015.1.26) 中公文庫 2013年8月 800円

検証捜査
警視庁大島警察署の神谷警部補は、自分が本土から左遷されて2年近くになり、そろそろ復帰の声がかからないかと期待していた。そんなとき、警視庁の刑事部長からじきじきに直接戻ってこいという連絡を受けた。てっきり警視庁に戻るのかと思ったら、指定された場所は神奈川県警だった。不思議に思いながら、その日の高速船で横浜に向かった。神谷は神奈川県警の入り口で、警察庁の理事官である永井に声をかけられた。神谷に用事があったのは神奈川県警ではなく、警察庁だというのだ。何のことだかまったく意味がわからないまま神谷は永井に従っていく。そこは古いビルの一室だった。警察庁が急遽特捜本部として借りたフロアだった。そこには、神谷のほかに北海道警の保井、福岡県警の皆川、さらに埼玉県警、大阪府警から刑事が集められていた。永井は全員を前に特命チームの任務を説明した。高等裁判所であした「無罪」判決が出るという。一審では死刑になった事件が上告審で覆るのだ。神奈川県警の失態が明るみに出る。女性に暴行をして殺した容疑者が無罪になる。決定的な証拠によって、有罪が覆ってしまう。それを上回る証拠を神奈川県警は持ち合わせていないので、無罪は確定するだろう。では、なぜ神奈川県警は誤認逮捕をしたのか、そしてそれがいままで表に出なかったのはなぜか、誤認へと誘導していったのはだれなのか、真犯人はほかにいるのか。これらを特命チームが検証するという。警察官が警察官を取り調べる。その行為に対して、神奈川県警は組織をもって抵抗し始める。永井は体調を崩し、神谷は相手の胸ぐらをつかんでチームから外された。そんな永井を保井は必要としていた。自分自身が北海道で性犯罪の被害者だったことを神谷に打ち明けた保井。折れてしまいそうな保井の気持ちを想像し、自分を必要としてくれるひとがいたことに気づき、神谷はふたたび横浜へ戻っていく。すると、自分が大島へ左遷されるきっかけになった事件と、神奈川の事件に結びつきがあったことが判明した。 (2013.12.10) 集英社文庫 2013年7月 820円

夜の終焉
汐灘サーガ第三弾。厚木で喫茶店「アーク」を営むマスターの真野は、深夜から朝まで開店している。ひと目を避けるような営業だが、深夜業務の常連客が立ち寄り、自分が生活するには困らない程度には稼いでいた。ある日の早朝、そろそろ閉店時間迫っていた。そんなとき見知らぬ少女が来店した。ひとりでカフェオレを注文し、閉店時刻に店を出た。支払いをするときに、少女は真野の顔を見て「さよなら」と言った。その直後、ドアに駐車場で回転しようとした車が運転操作を誤り、店のドアに突っ込んだ。衝撃に驚いた真野は裏口から外に出た。そこにはドアと車との間にはさまった少女が横たわっていた。偶然、来店していた神奈川県警厚木警察署交通課の石田によって、逃げようとした車は抑えられ、運転手がひき逃げの現行犯で逮捕された。真野は少女を抱きかかえたが、呼吸をするだけで、真野の呼びかけに応じようとはしなかった。救急車で少女は運ばれた。後に石田から、少女の意識が戻らないことを聞かされた真野は、理由はわからないが、病院を訪れた。そこで担当医師から、少女の身元がわかるようなものが何もないと告げられる。携帯電話も持参していなかった。石田に勧められて、少女が持っていた汐灘の地図をもとに、真野は20年ぶりに故郷の汐灘に向かう決意をした。20年前、真野の両親は、汐灘で殺害された。建設会社を営んでいた真野の父親は下請け会社や孫受け会社に過酷なノルマを課し、安い仕事でさらにリベートをむしりとるあくどい商売をしていた。そんな下請け会社の経営者に惨殺されたのだ。情状酌量の余地はあったが、犯人の川上は死刑を望み、裁判の後、執行された。殺されても仕方がない両親というレッテルを町中のひとたちから貼られた真野は、汐灘を離れ、厚木でひっそりと暮らしていたのだ。それなのに、身元のわからない少女のために苦しい思い出しかない汐灘に、真野はなぜ戻ろうと決意したのか。 (2013.9.15) 中公文庫 2012年7月 (上下とも)667円

断絶
汐灘県警察捜査一課の石神は、砂浜で発見された女性の死体に疑問を抱いた。散弾銃で自らの顔を撃ち抜いた死体。女性は妊娠していた。警察は自殺扱いにしたが、独自の捜査で自殺とは思えない証拠が次々と発見された。しかし、突然、係長から捜査の中止を命令される。その代わりに窃盗捜査の手伝いをさせられることになった。石神は汐灘署の坂東という若い刑事と連携しながら、病欠扱いで捜査を続行する。代議士を長く務めた剱持は、次の選挙で息子の一郎を後継に指名しようとしていた。しかし、一郎には周囲を引っ張るようなオーラが感じられなかった。それを見越して、剱持の選挙区では、ほかの候補を擁立する動きが加速していた。死んでいた女性が東京に住んでいたことをつかんだ石神は、その周辺に剱持一郎の姿が浮かび上がることまで迫る。汐灘サーガ第二弾。(2013.9.1) 中公文庫 2011年7月 762円

約束の河
父親が死んで事務員として継いだ法律事務所。自身も国家試験を受けて法律家を目指したがその夢はかなわなかった。北見は、妻と娘と暮らしながら、事務所の弁護したちからの有形無形の圧力に屈していた。そのストレスから逃れるために、北見は薬物に手を出していた。あるとき、自分が気づいたら、薬物中毒の治療をする病院に強制的に入院させられていた。どういう経緯で自分がそこに入院したのかという記憶がまったくない北見は、自分の足取りを辿るうちに、親友である出川の自殺にたどり着く。出川は自分が小学生のときに、河原で遊んでいて変質者に襲われたとき助けてくれた命の恩人だった。出川はそのときに自分を助け出すために右腕を失っていた。命の恩人に何もできないまま自分が薬物中毒にはまっていたことを悔いた北見は、出川の死の真相を究明しようとした。出川は決して自殺をする男ではないことを北見がだれよりもしっていたからだ。 (2013.8.1) 中公文庫 2009年11月 857円

長き雨の烙印
20年前、汐灘を揺るがした幼女殺害事件があった。そのとき逮捕された大学院生、庄司は12年の服役を追えて出所していた。出所してからは実家で兄と過ごしていた。わずかばかりの畑を耕し、季節ごとの野菜を作っていた。汐灘で刑事をする伊達は、庄司と同級生だった。こどもの頃からの友人だった。自分がまだ警察官になる前、汐灘に戻っていたとき、目の前で庄司が逮捕されたのだ。そのとき庄司の取り調べを担当し、最終的に起訴まで持ち込み、有罪にしたのが脇坂だった。脇坂は伊達が警察学校で教わった教官だった。警察官としての大先輩だった脇坂が、出所した庄司が当時の取り調べは間違っていたと訴えてから、狂気に走り始めた。伊達たち、捜査官も脇坂の異常ぶりは目にあまっていた。しかし、定年が近いベテラン刑事の脇坂を制止できる上司はいなかった。当時と同じ幼女殺害未遂事件が発生した。脇坂は別件で庄司を逮捕する。しかし、それは証拠不十分で保釈される。伊達は脇坂の捜査の裏をとっていくうちに、多くの一般人の証言が虚言であることに気づく。すべてが脇坂の狂言だったのだ。20年前に娘を殺された桑原は、妻と別れ、ひとりで外車の輸入セールスから会社を興し、汐灘の名士になっていた。しかし、心臓に持病をかかえ、庄司が出所していることを知ったときから、復讐を誓っていた。「実家に戻らせてほしい」。庄司の願いを聞こうとしない弁護士の有田。庄司を殺害犯人と思っているひとたちに命を狙われることを恐れていた。やがて、庄司は支援者の元を離れて単独行動をする。伊達は庄司の実家で、20年前の事件がまったくの冤罪で、庄司が犯人ではない決定的な証拠を発見していた。(2013.7.22) 中公文庫 2010年11月 857円

澤村慶司3
執着
長浦県警本部から長浦南署へ移動することになった澤村は一週間の休暇を課長の谷口からもらっていた。これまで仕事一筋だった澤村は、いきなり自分の時間ができてもすることがない。そんなとき、ストーカーが女性を焼き殺すという事件が起こった。自分が休暇中であることを最大限利用して、沢村は事件のあった新潟へ向かう。女性は長浦に住んでいて、長浦南署へストーカー被害の相談に行っていたのだ。しかし、警察の対応はおざなりで、直接的な被害が出ていないので、追い返したという。その後もストーカーは行動を激化させたので、女性は実家のある新潟に戻っていたときに、惨劇に遭遇した。 (2015.9.1) 角川文庫 2015年2月 680円

澤村慶司2
長浦市の県警本部。捜査一課の澤村は、こどもがマンションのベランダで凍死している写真を撮影していた。居間には、男性の斬殺死体。ここに住んでいたはずのこどもの母親がいない。虐待と殺し。地元の事件と判断しながらも、こどもが殺されていたことに強い憤りを覚える。同じ頃、別のマンションで男子学生の遺体が発見された。こちらは捜査一課の扱いとなる。一見、異なる事件に思えた二つの殺人事件が、ふとしたことから結びついていく。容疑者のふたりが同じ故郷の出身で、高校の同級生だったのだ。情報統合官の橋詰とともに捜査にあたる。橋詰を苦手にしている澤村は、つっけんどんな対応をするが、いつの間にか橋詰の考え方に同意していく自分に気づく。ひとを殺したことをなんとも思っていない容疑者の存在が、澤村のこころをざわつかせていく。数字には現れないレアな存在も、プロファイルには重要な要素であることを橋詰は強調する。やがて、振り込め詐欺のリーダーだった日向と、こどもの母親である女性の逃避行が発覚し、澤村は雪深いふたりの故郷へ車を走らせる。 (2015.2.11) 角川文庫 2013年11月 680円

澤村慶司1
逸脱
県警捜査一課の澤村は、連続殺人事件の現場に臨場した。そこには首を絞められた後に、後頭部側からナイフが刺された遺体があった。前の二件と同じ犯行と思われた。遺体にナイフを刺す殺し方は十年前にも似たような事件が起こっていたが、未解決のままだった。捜査本部は、同じ犯人がふたたび犯行を再開したのではないかと危惧する。管理官の西浦のやり方に反発する澤村は単独で行動し、捜査から外された。澤村はかつて覚醒剤中毒の男が二才の幼児を殺す事件の担当だった。男が幼児の首に包丁を突きつける前に拳銃を発射できなかった自分を事件後もずっと引きずっていた。幼児を殺したのは自分だと責め続け、最高の刑事になって亡くなった幼児への供養にすると誓っていた。だから、西浦のように無能な管理官のもとで無駄な捜査をするつもりはもともとなかった。捜査から外れた澤村は有給休暇を取得して独自の捜査を開始した。すると、二年前に傷害致死事件の捜査で上司を殴って依願退職した鬼塚という元刑事にたどりつく。(2013.2.1) 堂場瞬一 角川文庫 2012年9月 667円

虚報
東日新聞社会部の長妻は、連続した自殺事件を取材する。新聞は自殺は扱わないのが基本だが、事件性があると判断したら、取材に動く。長妻はビニール袋を頭から被り、睡眠薬を服用し、玄関を開けておく死に方が共通する連続自殺に違和感を覚えた。そんなとき、自殺したひとたちがみな同じサイトにアクセスしていたことを突き止めた。そのサイトの主宰者は、刑法の専門家の上山教授だった。テレビに頻繁に出演する上山が、なぜ自殺を推奨するサイトを開いていたのか。他社に特ダネで出し抜かれ、同僚に足を引っ張られ、上司に無理を押しつけられ、長妻は追い込まれていく。上山は自殺幇助、あるいは自殺教唆で逮捕された。長妻は上山に相談して自殺未遂に終わった女性を探し出す。直接会った上山が自分を自殺に追い込もうとするのが怖かったという証言を得た。特ダネは一面を飾った。しかし、女性は自殺した。遺族の証言から女性は上山に会っていないことが判明した。まったくのでたらめを書いた長妻は、自宅謹慎を命じられる。焦りから証言の裏を取らないという致命的 なミスを犯していたのだ。落ち込む長妻に、処分保留で釈放された上山から、会いたいという申し出があった。(2012.7.10) 堂場瞬一 文春文庫 2012年4月 676円

大延長
野球、ソフトボール、三角ベース、キックベースなど、ベースボールに興味があるひとなら、間違いなく一気に読み通してしまうだろう。また、運動全体に興味があったり、自らも日常的にからだを動かしているひとも、読みながら、ゲームの興奮がありありと伝わってくるのではないか。舞台は夏の全国高校野球、決勝戦。甲子園に集まる全国からの代表校の頂点を決める試合だ。それも前日に延長引き分けの再試合。西東京代表、5期連続出場の名門、恒正高校はプロでも通じるスラッガーの久保を擁する。新潟県代表、初出場の県立海浜高校は、エース牛木の好投で投げ勝ってきたチームだ。久保も牛木も少年時代に同じリトルリーグのチームメイトだった。互いを知り尽くしているふたりが、高校野球の決勝戦で顔を合わせた。恒正高校の白井監督と海浜高校の羽場監督も、互いに東京の大学時代にピッチャーとキャッチャーというバッテリーを組んだ仲だ。将来を嘱望されている選手たちが、高校時代に膝や肘を酷使して、その後の野球人生を送れなくなってしまうことが、本書を通じて深く描かれる。指導者の役割はチームを勝利に導くことだけなのか。長い選手生命を保証することではないのか。監督の苦悩は続く。いわゆる監督を頂点に絶対視した私立恒正に象徴される野球チームは全国に多い。そういうチームの多くが実際に有名な選手を育て、甲子園の常連校になっている。対する海浜高校は県内でも有数の進学高校だ。たまたま牛木という超高校生級の投手を得たことで、二度とはないかもしれない県代表になり、甲子園でも頂点まで上り詰めようとしていた。そういうシンデレラ的な高校が現れるのも、高校野球にはないとは言い切れないことだった。また、海浜は伝統的に選手が作戦を決め、練習を組み立てるという方法を採用してきた。まったくプレイスタイルも伝統も異なる両チームの息詰まる決勝再試合が全編に渡って描かれる。「あー、野球は楽しい。こんなにもおもしろいんだ」。わたしは、思わず、こころのなかで叫んでいた。(2011.8.30) 堂場瞬一 実業之日本社文庫 2011年6月 686円

潜る女
アナザーフェイス8
刑事総務課の大友は二課から捜査協力を頼まれた。それは大掛かりな結婚詐欺グループを裏で操る女への接近だった。 (2018.7.14) 文春文庫 2017年3月 720円

愚者の連鎖
アナザーフェイス7
蒲田で小さな工場が荒らされ、金庫が盗まれた。しかし、警備会社の通報によって警察が犯人を現行犯逮捕した。男は若居。すぐに容疑を認めると思われたが、蒲田署の取り調べに対して若居は完全黙秘を貫いた。警視庁から異動した沖縄出身の玉城という若い警部補が担当したが自分が自供を引き出せない焦りから、部下に厳しくばかり当たっていた。参事官の後山から大友に取調べを担当するようにとの指令が飛ぶ。刑事総務課で研修の準備などをしている大友だったが、いつけ捜査一課への復帰を願って参事官から事件への参加をこれまでも命令されてきた。殺人事件の捜査が多かったのだが、なぜ窃盗事件なのかという疑問を抱えたまま、大友は蒲田署へ出向く。自分たちの力不足を警視庁から指摘されたようなものなので、所轄では快く迎えなかった。しかし、もともと玉城に反感を抱いていた部下たちからは逆に信頼の念で迎え入れられて捜査が始まる。若居は大友に対しても完全黙秘を貫く。周辺捜査が足りないと判断した大友は、若居に恋人がいることを突き止めて、そこから重要な証言を引き出した。その結果、若居がなぜ黙秘を貫くかという理由にたどりつく。同時に、若居は、窃盗以外に口にできなかった大きな事件についても語り始めた。小さな窃盗事件の捜査に、検察庁の海老沢検事がたびたび口を挟むという異例の展開を見せる。 (2016.7.27) 文春文庫 2016年3月 720円

高速の罠
アナザーフェイス6
大友は胸を拳銃で撃たれて療養していた病院から退院した。しばらく実家のある長野県佐久市で休養することになった。春休みを利用してそこへ町田からひとり息子の優斗を呼び出していた。新宿から高速バスに乗った優斗は途中のサービスエリアで行方不明になった。大友は佐久から現場に直行し、サービスエリア外の鉄塔で優斗を発見する。誘拐しておきながら、何も要求せず、放置した犯人の意図が読み取れなかった。その後、優斗が乗っていたバスがインターチェンジの出口で交通事故を起こした。運転手の話によれば、ハンドルが利かなくなったという。事故を起こしたバスからは、遠隔操作を行うブラックボックスが見つかった。これによって、何物かがバス会社のインターネットに侵入し、バスのコントロールを狂わせていたことが分かった。やがて、バス会社に脅迫状が届けられた。真相を明らかにしろというものだった。大友はバス会社が何かを隠していると感じながらも、何を隠しているのかに近づけていなかった。やがて、同僚の敦美が警備で乗ったバスが乗っ取られた。 (2015.9.17) 文春文庫 2015年3月 680円

凍る炎
アナザーフェイス5
メタンハイトレート。新しいエネルギーとして注目されている地下資源の掘削を研究開発している会社の研究者、中原が何者かによって殺された。同じ頃、銀座で窃盗犯の逮捕に向かっていた大友は、爆破事件に巻き込まれた。同期の柴は耳をやられ、入院した。やはり同期の敦美とともに大友は窃盗事件と殺人事件の両方を追うことになる。そこには先端技術の漏洩と、ロシアと中国のスパイ対立の構造があった。義母から見合い話を持ち込まれた大友は、自分からどんどん離れていく優斗を寂しく感じながら、将来の姿を模索していた。やがて研究所の人間が再び殺された。敦美が何者かに襲われた。大友が追跡された。入り組んでくる大掛かりな相手に対して、大友らは真っ向から対決していく。一見、事件が解決したかに見えた次の瞬間、凶弾が大友を狙った。(2014.6.8) 文春文庫 2013年12月 690円

消失者
アナザーフェイス4
警視庁刑事総務課の大友は、参事官の福原の指令で捜査三課の協力をすることになった。町田駅周辺でスリの現行犯を逮捕する仕事だった。容疑者はスリの常習犯の平山。しかし、平山は最後に出所してからは担当した森刑事が紹介したガソリンスタンドで働きながら、スリから足を洗っていた。その平山が仕事を辞めて、スリやひったくりを再開したのだ。定年を前にした森は、更正を信じていた平山に裏切られた思いが強く、平山の逮捕に意地をかけていた。大友の無線に森から平山が通行人のアタッシュケースを盗み逃走という情報が入る。現行犯逮捕のチャンスだった。そのときちょうど大友の正面にアタッシュケースを胸に抱えた平山が逃走してきた。正面から確保しようとしたとき、大友の視野に、町田駅周辺のロータリー部分から乗り出して自殺しようとする若者が入った。逮捕を優先するべきか、自殺を阻止するべきか。大友は自殺しようとする若者を思いとどめようとした。その結果、平山を逃がしてしまう。その後、平山は死体で発見された。盗んだアタッシュケースは見つからなかった。何者かが、平山の盗んだアタッシュケースを取り戻すために拷問を加えたと判断された。平山の盗んだ物は何だったのか。盗まれた被害者も現場から見えなくなっていた。なぜ被害届を出さないのか。窃盗を担当する捜査三課と殺人を担当する捜査一課が協力して事件を担当する。するとそこにいつも秘密主義に徹している捜査二課が横やりを入れてきた。(2014.6.1) 文春文庫 2012年11月 676円

第四の壁
アナザーフェイス3
警視庁刑事総務課の大友鉄は、息子の優斗と義母の聖子とかつて鉄が所属した劇団の記念公園に招待された。「夢厳社」は鉄が大学時代に所属していた劇団だ。当時はアマチュア集団だったが、いまはプロ集団としてチケットが取りにくい。劇団創立20周年を記念した芝居「アノニマス」。それは鉄が大学時代に演じた作品のリメイク版だった。第一幕のラスト、主人公が胸にナイフをつき立てて死ぬ。緞帳が下がる。だれもが演技だと思った。しかし下がった緞帳の向こう側で、主人公は本当にナイフを胸につき立てて死んでいた。主人公を演じたのは、劇団の主催者の笹倉逸朗だった。混乱する劇団員に助けを求められて鉄が舞台の中止と現場保存の指揮をとる。笹倉は鉄が所属した当時から、自分にもひとにも厳しい存在だった。だから、劇団員の多くが何らかの恨みを笹倉に抱いていた。つまり、笹倉が自殺していない限り、容疑者は劇団員すべてだったのだ。かつての仲間を容疑者として取り調べる鉄は、冷徹な刑事になりきれず、取調べでは私情が混じってしまう。「お前はどうして劇団を辞めたんだ」「安定した道を選んだのか」「夢を捨てたんじゃないのか」。かつての仲間たちから、多くの指弾を受け、鉄は傷つく。そして、第二の事件が起こる。そのストーリーはまるで「アノニマス」の脚本のままの流れだった。それでは、次にターゲットになるのは看板女優だ。鉄をめぐって、大学時代に奈緒と争った看板女優、早紀のいのちが危ない。(2012.3.30) 堂場瞬一 文春文庫 2011年12月 676円

焔 The Flame
日本プロ野球スターズのスラッガー沢崎は、高校野球で活躍し、ドラフト一位で念願のスターズに入団。いきなり新人王獲得。野球界のエリートは、その後は一定の成績をおさめるのに、なぜかタイトルからは見放されていた。ことしFA権獲得の権利がある沢崎には、何とかしてタイトルを獲得する必要があった。それは、来年はアメリカの大リーグでプレイをしたいという願いがあったからだ。そのためには、なんとしてもタイトルが必要だった。アメリカでプロスポーツ選手のエージェントを手がける藍川は、高校時代、沢崎と同級生だった。互いに同じ野球部に所属していたが、万年補欠の藍川が沢崎と話をする機会はほとんどなかった。しかし、藍川は沢崎がアメリカに来るときの代理人として名乗りを上げる。ペナントレース終盤。スターズは優勝にもっとも近い位置にいた。藍川のアドバイスを受けて、マスコミ対策やプライベート面も改造した沢崎は、周囲も驚くほどのイメージチェンジを成功させていた。バッティングの成績も、首位打者は安泰、加えてホームラン王や打点王まで視野に入れていた。そんなとき、ライバル選手の神宮寺にスキャンダルが起こる。写真週刊誌が神宮寺の女性問題を暴露した。また、試合では傷めていた右手首への死球など、どう考えても、沢崎に有利な状況ばかりが作られていった。その背景に、「なんとしてもタイトルを取らせる」と豪語した藍川の暗躍があることを沢崎は知らない。(2011.6.14) 堂場瞬一 中公文庫 2007年9月 952円

敗者の嘘/アナザーフェイス2
神田神保町で強盗放火事件が発生した。容疑者の渋谷は警察の執拗な取調べに耐え切れず、容疑否認のまま自殺した。執拗な取調べを指揮したのは、警視庁捜査一課の岩永管理官を中心とする特捜部だった。岩永は、自分の失態でマイナスを重ね、挽回のチャンスを狙っていた。そのタイミングでの容疑者の自殺だった。容疑者死亡のまま送検しようとする岩永ら特捜に、大友はまったをかける。おりしも、自分が犯人だと名乗り出る女性弁護士、篠崎優。渋谷を送検したい特捜部は、自首してきた篠崎に翻弄される。大友は篠崎の狙いがわからない。刑事部の指導官・福原から直接に捜査権限を与えられた大友は、渋谷と篠崎が同じ高校の同級生だった接点をつかむ。なぜ、篠崎は自らはやってもいない事件の犯人として名乗り出たのか。捜査一課の親友、柴と警察学校動機の敦美が大友を助ける。優が新聞記者と密会していた事実をつかんだ大友は、直後に優の拉致と直面する。監視と警護をしていたのに、優を拉致された大友は、自らの責任を痛感しながら、所轄の枠をこえて優の探索に向かう。だれが何のために優を拉致したのか。柴と敦美の協力で、優の拉致には警視庁の公安部や外事がかかわっていることが判明する。このままでは、大友は警察組織を相手にした大博打をすることになる。そんなとき、岩永から渋谷を被疑者死亡のまま送検し、特捜部は解散するという連絡を受ける。優のいのちを心配しながら、だれが何のためにこんなことをするのか。穴の一つ一つを埋めていくなかで、大友は警察署長までも自分の指揮下に置くほどの強い意志を発揮する。 (2011.5.15) 堂場瞬一 中公文庫 2011年3月 657円

献心/失踪課10
12年前に失踪した高城の娘、綾奈。火事で焼けた民家の土台部分から偶然に発見された。捜査本部が設置されたが、関係者である高城は捜査にかかわることができなかった。しかし、これは自分の事件だと信じる高城は周囲に迷惑がかからない範囲で独自の捜査を続ける。そして、当時の同級生のなかから唯一連絡先が不明だった黒原弥生と晋の母子にたどり着いた。ふたりは弥生の故郷である盛岡に戻ったいたが、住民票のあることろには住んでいなかった。弥生を知るひとはみな「何かから逃げるように忽然と消えていく」と語った。そして、晋が勤めていた新聞配達の集配所で、交通事故で晋が死んでいたことを知る。その後から弥生の行方がわからなくなっていた。一方、捜査一課の長野らが独自に調べた通信機器会社の平岡という男が事件に関与している可能性と、弥生との接点がわかった高城は、平岡から弥生の居場所を突き止めた。弥生は肺がんになって残りわずかな時間を病室のベッドで送っていた。死に際に、高城に会って、当時のことを語りたいと願っていた。綾奈の失踪のすべてが明らかになる。 (2014.8.15) 中公文庫 2013年6月 857円

闇夜/失踪課9
高城の娘、綾奈は殺されていた。10年間探していた娘は、行方不明になってすぐに殺されていたことがわかった。たまたま火災で焼失した民家の基礎部分から白骨化して発見された。酒びたりの日々に陥った高城は、同じ幼女誘拐の事件に投入された。そして、幼女も殺される。犯人を許せない高城は、ふたたび刑事の仕事に戻っていく。そんなとき部下の明神に訃報が届く。静岡の両親が交通事故に遭い、母が死亡、父が重傷とのことだった。明神を静岡に戻し、孤独な捜査を続ける。そして第二の誘拐が発生した。今回は、幼女が犯人の隙を見て脱走し、派出所に保護された。少女の証言をもとに作られて似顔絵。失踪課の田口が「自殺した警察官に似ている」と発言した。裏をとる高城は、警察官の兄がこの似顔絵の男ではないかと推測した。第三の犯行を食い止めるために、高城は犯罪被害者の会の伊藤に助けを求める。 (2014.8.10) 中公文庫 2013年3月 857円

牽制/失踪課8
千葉県出身で東京の私立高校で野球部に所属した花井就太の家族から失踪届けが出た。花井は春から横浜を本拠地にするパイレーツへの入団が決まっていた。もっとも身辺に気を配る時期に家族へも学校への知られないように姿を消した。事件の可能性、それとも自分の意思で逃走したのか。高城は高校の野球部監督である平野から話を聞く。高校野球がOB会、プロ野球から多くの期待で見守られていることを知る。また高校側からのプレッシャーも多く、花井の失踪は公表しないでほしいと懇願された。中学校の同級生でともに野球部だった生徒の証言で、花井が野球賭博や八百長に関与していたらしいとの情報を得た。犯罪に手を染めて姿を消したのであれば、失踪よりも重大な問題に発展する。同じ頃、娘が行方不明になっている高城はもしかしたら娘ではないかという殺人死体の検分をしていた。結果的にはそれは娘とは異なったが、いまでも時間ができれば行方不明になっている綾菜を探す毎日だ。花井の捜索の途中で、警察OBの自宅が火災になった現場に遭遇する。偶然、その跡地から綾菜と同じ背格好の白骨死体が発見された。DNA鑑定をしないと綾菜かどうかはわからない。花井は右肩のけがを隠して、彼女とホテルにこもり、こっそり手術をしていた。経過は良好で、本人はシーズン開始までにリハビリをして、手術のことはだれにも言わないつもりだった。それを支えた、あるいはそれを指示した人物がいたはずだと高城はにらんだ。同じ頃、白骨死体の鑑定結果が高城の友人である長野にもたらされた。長野はその結果を失踪課まで赴いて知らせようとしていた。彼は瞳を潤ませて全身で震え、泣いていた。(2013.2.9) 堂場瞬一 中公文庫 2012年12月 857円

遮断/失踪課7
失踪課刑事、六条舞の父親が失踪した。厚生労働省の審議官を勤める六条は、昼食をとりに庁舎を出たまま戻らなかった。失踪課の高城は六畳邸を訪ねる。あまりにも豪勢な建物に驚きながら、家族から事情を聴く。しかし、なぜか妻の態度は冷ややかだった。失踪から数日が経過して、身代金の要求があった。現金で一億円を用意しろというものだった。すぐには用意できないと思っていた高城だったが、妻は室内の金庫から現金で一億円を用意した。高級官僚とはいえ、公務員の六条がそんな大金を稼いでいるとは思えなかった。そんなとき六条に脱税の疑いがあるとマスコミが騒ぎ出す。だれが情報を流したのか。警視庁捜査一課では失踪課に疑いをかける。ところが、ある朝、六条が帰宅した。疲れてはいるようだったが、誘拐など何も知らないと言いながらの帰宅だった。どこで何をしていたのかという質問には、個人的なことなので答える必要がないと口を閉ざした。横浜地検の城戸南がいいネタを高城に提供する。なぜかアナザーフェイスの大友鉄も、室長の口から登場する。 (2014.7.30) 中公文庫 2011年10月 857円

波紋/失踪課6
失踪課シリーズ6。前作で阿比留室長が失態を演じて、失踪課全体は、バラバラになっていた。高城が頼りにしていた法月は異動した。法月が高城に託した5年前の失踪事件。娘が行方不明になってから9年が過ぎていた高城に法月が託したメッセージは?5年前の失踪。医療用ロボットの開発者として優秀な技術者だった野崎が失踪した。数日後、首都高で起こった事故。玉突き事故に巻き込まれた車から野崎が逃げる様子が撮影されていた。以来、5年間、野崎はまったく人前から姿を消した。しかし、今回、野崎が勤務していた一族会社ビートテックに野崎を名乗る脅迫状が届いた。文面は、新開発した歩行ロボットの発表会を延期せよとのことだった。欠陥を隠して、新しい製品を発表しようとする会社への脅しだった。実際に発表会会場からは小型の爆弾が見つかる。さらに脅迫はエスカレートする。会社は警察に隠して、ひそかに犯人と接触を図ろうとする。その結果、社長は爆弾で吹き飛ばされ怪我をする。失踪したひとを探す高城、明神、醍醐らは、自分たちが探している野崎が事件の容疑者かもしれないという疑念を抱く。しかし、ひとは5年間もだれにも見つからないように生きていられるものなのか。最後の脅迫状にしたがって現金の受け渡しをしようとした警察は、その直前に本当の容疑者を確保した。そして高城らは、その容疑者を通じて5年前に失踪した野崎に迫る。エピローグで、法月はなぜ野崎の失踪を高城に託したかの謎解きをする。失踪課の面々が、高城の娘の捜索に名乗りを上げた。(2011.5.10) 堂場瞬一 中公文庫 2011年2月 857円

策謀/追跡捜査係2
警視庁捜査一課追跡捜査係。西川と沖田は別々の事件を追っていた。西川は殺人事件。沖田は放火事件。国外に逃亡した殺人事件の容疑者、船田が韓国から帰国することがわかった。空港で張り込んでいた西川たちは、船田を逮捕する。逮捕されることがわかっていたのにわざわざ実名で帰国した船田に違和感を覚えながらも、西川は取調べを行う。船田は、殺人事件への関与を否認。また、なぜ逮捕されることがわかっていながら帰国したのかという理由も語らない。渋谷のビルが放火されオーナーの小森とカラオケ客らあわせて15人が死んだ。放火犯人がつかまっていない。沖田は、オーナーの小森周辺を洗いなおすうちに、火事の後で解散した小森のビル管理会社の従業員、本間の所在が不明になっていることを知った。デスクワークが得意な西川と、感情で突っ走る沖田。異なるふたりの刑事が、互いを信頼して、捜査情報を共有したとき、追跡捜査が動き出した。(2011.4.1) 堂場瞬一 ハルキ文庫 2011年1月 705円

烈壊/失踪課5
失踪課三方面分室の室長、阿比留が携行して消えた。同時に女子大学生が失踪した。ふたつの失踪を警視庁のお荷物と揶揄されてきたメンバーが高城を中心にして捜査にあたる。三方面分室を潰したい石垣課長の査察が迫っていた。それまでに阿比留室長を見つけなければならない。高城たち、失踪課のメンバーは、あらためて阿比留のプライベートを何も知らなかったことに気づく。住所さえ知らなかった。調べを進めるうちに、夫と娘とは別居状態。過去に家族よりも仕事を優先して、出世したこと。そして、5年前の高校生の爆弾事件を解決して、捜査一課に栄転した出来事が、女子大学生の失踪とつながることをつかんだ。失踪した女子大学生は、別居状態の阿比留の娘だった。娘は5年前に事件のあった高校に通っていた。同じクラスの不良にカツアゲされていたふたりの男子が、復讐のために爆弾を作成した。その爆弾を教室で爆破させる計画を知った娘は、警察官の母親に連絡した。爆弾を作成した男子は、娘を爆破に巻き込みたくなくて、事前に情報を漏らしたのだ。警察官の母親、阿比留はためらうことなく男子の自宅を捜索して爆弾を見つけ出した。逮捕され、少年刑務所を出所した男子たちが、今度は復讐の刃を阿比留と娘に向けた。(2011.2.11) 堂場瞬一 中公文庫 2010年6月 857円

漂白/失踪課4
人気作家の藤島が失踪した。事件解決の打ち上げの夜、高城は目前で部下の明神が火事の勢いで吹っ飛んだバーの扉にぶつかり、脳震盪になるのを目撃した。火事の現場には、ふたりの他殺体があった。ひとりはマスター。もうひとりはネックレスの特徴から藤島と思われた。しかし、DNA鑑定で、死体は別人と判明した。捜索願を出した編集者の井形は、藤島の才能を見抜き、未来を待望していた。高城は、藤島の周辺を追う。捜査の過程で、編集者の望む小説と作家の望む小説との間に深い溝があったことに気づく。著者自身の作家活動の苦悩を感じさせるセリフが散りばめられている。また、著者のシリーズ作品で有名な鳴沢刑事が、数行だが登場する。(2011.2.5) 堂場瞬一 中公文庫 2010年2月 857円

邂逅(かいこう)/失踪課3
邂逅とは、しばらく会わなかったひとに思いがけないところで、再び会うこと。その出会いが人生の重要な機縁になること。港学園理事長の占部利光が失踪した。同じ時期、森野女子短期大学総務部長の藤井碧が失踪し、やがて自殺死体で発見された。心臓に病を抱える法月が、なぜか病を押してまで捜査にのめり込む。その理由が見えないまま、高城たちは、まったく異なると思われていた占部と藤井の失踪の接点をつかむ。多くの謎は仙台から始まっていた。大学同士の合併をめぐるトラブルや、牛タン情報など、サイドストーリーも楽しい。失踪したはずの占部が、物語の途中で「登場」してしまう。捜査はそれ以上続ける目的を失った。にもかかわらず、高城の勘は、穴の空いたパズルをそのままにできないと警告を発していた。(2011.1.29) 堂場瞬一 中公文庫 2009年8月 857円

相剋(そうこく)/失踪課2
相剋とは、対立するものどうしが、相手に勝とうとして争うこと。デジタルプラスワン社長の里田は娘の希が行方不明になったのに「いつもの家出だから、じきに戻る」と言って、失踪課の高城たちの捜査に協力しない。希は中学3年生。高校受験を終えて、4月からは新しい生活が待っていた。友人の川村拓也は心配して警察に希がいなくなったことを相談する。「家出をするようなひとではない」という友人たちの証言を、高城は信じる。かつてデジタルプラスワンを立ち上げたとき、里田は弟の堀と共同で事業を拡大させた。その後、堀は会社の金を使い込み、解雇された。里田との関係はあまりよくなかった希だが、叔父の堀とはいい関係を保っていた。そんなとき、デジタルプラスワンの株をひそかに買い集め、会社の乗っ取りを企画していたSIという暴力団のフロント企業の鉄砲玉、安岡が襲われる。事件の目撃者、堀からの通報。しかし、事件の後、目撃者の堀も姿を消す。失踪課と捜査一課の追いかけっこが始まる。元野球選手の醍醐は、高城とペアを組み、自身の過去と対峙する。かつてプロ野球で得た契約金のほとんどを兄の借金の穴埋めに使った醍醐は、里田と堀の兄弟対決にこころを痛めていく。(2011.1.25) 堂場瞬一 中公文庫 2009年4月 857円

蝕罪(しょくざい)/失踪課1
多摩東署から警視庁渋谷中央署に間借りしている失踪人捜査課三方面分室に異動してきた高城賢吾は、二日酔いでヨレヨレの45歳。7年前に小学生の娘・綾菜が行方不明になり、弁護士の妻と離婚した。それ以来、生きる希望を見失いながら、酒に逃げる生活を送っていた。室長の阿比留真弓は、上昇志向の強い死ぬほど働く管理職。同じ日に金町署から異動してきた明神愛美巡査部長とペアになった。そこに矢沢翠とやがて義母になる赤石芳江が翠の婚約者の赤石透が失踪したと届け出があった。本来は捜査一課への異動が決まっていた若い明神は、失踪人がいればちゃんと捜査しますというアリバイ作りの組織になじまない。元野球選手の醍醐。心臓が弱い法月。合コンに飛び回るお嬢様の六条。その腰巾着の森田。失踪人捜査課のキャラクターは濃い。捜査を進めていくうちに、就職に失敗した若者たちを営業マンとして採用して、厳しいノルマをかけていた悪徳商法の存在が明らかになる。あっという間に解散したその会社の元社員が二人死体で発見された。鳴沢了とは対極にある新しいシリーズ刑事・高城賢吾の誕生である。(2011.1.6) 堂場瞬一 中公文庫 2009年2月 857円

アナザーフェイス
警視庁刑事総務課。刑事部全体の調整役が主な仕事。経費の書類を処理し、課と課の間の協力体制が円滑に進むように根回しをし会議をうまく運営して議事録を作る。大友鉄は、前捜査一課の刑事だったが、妻を交通事故で亡くしてから、息子の優斗を男で一つで育てるために、定時で帰ることができる刑事総務課に配属されていた。目黒署管内でこどもの誘拐事件が発生する。特別捜査本部が設置された目黒署に応援に行く大友。そこでは上からの命令で大友に、刑事として協力させるよう指示が出されていた。かつての記憶を取り戻すように、関係者に当たっていく大友。優斗との時間が少なくなり、このまま刑事を続けていていいのか悩む。いつも2セット以上の変装用具を持参し、TPOに合わせて、別の人物になりきる。めがねをかけた印象とかけない印象で、こどもの記憶が異なることをつかむ。誘拐事件は、父親の勤務する首都銀行に身代金が要求される。人質そのものではなく、勤務先に荷の白金が要求されるという特異な展開に、大友は違和感を覚える。かつて大友の上司だった福原刑事部特別指導官。彼が大友を捜査の前線に引き戻そうと踏ん張る。(2010.12.27) 堂場瞬一 文春文庫 2010年7月 657円

青の懺悔
神奈川県警を退職した元刑事、真崎薫は開店休業の探偵業を始めていた。迷子の猫を探してほしいという依頼を断る。そのとき、高校時代にともに野球で汗を流した結城と長坂が飛び込む。結城はプロ野球からメジャーリーグに進んだ。今季、プロ野球に復帰するという。長坂はメジャーリーグからプロ野球に復帰する結城の代理人をしていた。仕事の依頼は、結城の息子が誘拐されたので、警察に知られずに救出してほしいという難題だった。中華街、みなとみらい、関内。ベイエリアお馴染みの舞台で、神奈川県警を無視した真崎の追撃が始まる。シリーズ第2弾。(2010.5.17) 堂場瞬一 PHP文庫 2010年3月 705円

棘の街
北関東の北嶺市。そこで生まれて、一度は街を離れた上條は刑事だ。予備校生が誘拐され殺された。身の代金の受け渡しに失敗した上條は、事件の捜査から外され、遠隔地に異動していた。事件から一年が経過し、上條は再び北嶺に戻った。捜査本部の流れを無視し、単独行動ばかりして、同僚から疎まれる。死んだ父親が残したレストラン前でリンチを受けた若者を救う。彼はショックで記憶を失っていた。上條はなぜか彼をかくまい、生活の面倒をみた。やがて、上條の周囲に暴力と破壊の恐怖が忍び寄る。(2010.4.13) 堂場瞬一 幻冬社文庫 2009年10月 800円

蒼の悔恨
真崎薫は神奈川県警捜査一課の刑事。連続殺人犯逮捕の場面で、逆にナイフで刺された。犯人は逃がした。ペアの赤澤奈津は所轄の若い刑事。彼女は右手をケガした。輸血が必要な手術をした真崎は退院したが休職扱い。警察は犯人を取り逃がした刑事を事件から外そうとした。真崎の独走が始まる。それはやがて暴走になり、真崎に連なる男が殺された。横浜を舞台にしたハードボイルド。調理の描写が冴えていた。(2010.4.29) 堂場瞬一 PHP文庫 2009年4月 724円

交錯/追跡捜査課1
警視庁捜査一課追跡捜査係。40歳の西川と沖田は同期の捜査員だ。強行班が暗礁に乗り上げた事件を別角度から再検証する仕事だ。西川は1億円相当の時計窃盗事件を、沖田は無差別通り魔事件の犯人を刺した名無しの逃亡犯を追う。互いに異なるふたつの事件。いつしか交錯していく。刑事の本分とは、正義とは。事件を通じて、法律をこえたものに動かされやすいひとの心理が見えてきた。新しいシリーズものの第一作と言われている。(2010.2.9) 堂場瞬一 ハルキ文庫 2010年1月 686円

神の領域 検事・城戸南
横浜地検の城戸南検事は、優秀な大沢事務官と学生の殺人事件の捜査にあたる。刑事ではなく、検事が主人公。事件は、かつて学生時代に陸上部でともに汗を流した城戸の友人であり、憧れでもある久松にたどりつく。スポーツ界に蔓延するドーピング問題に焦点が合う。(2009.12.10) 堂場瞬一 中公文庫 2008年10月 857円

七つの証言 刑事・鳴沢了外伝
刑事・鳴沢了を彼を取り巻く人間の視点から描いた短編集。瞬断:警視庁失踪人捜査課の高城と明神は結婚式場で鳴沢と隣り合わせになった。ていねいに肉の脂身を切り分けて、ゆっくりと咀嚼する鳴沢。呆気に取られる高城。式場に爆破予告の脅迫状が届いた。分岐:静岡の寺で住職をしながら、犯罪を犯し刑務所から出所した者たちの再就職厚生施設を作った今敬一郎は、施設から水野が行方不明になったことを知った。水野はかつて自分がひとを殺すことになった遠因の者たちを恨んでいた。今は鳴沢を頼って東京に行く。上下:新潟県警で鳴沢の部下だった大西海は警視庁の依頼を受けて、逃亡者を確保した。東京への護送に鳴沢から「お前も来い」と命令される。被疑者を取り調べるとき、なぜか大西は鳴沢の取り調べに同席させられた。強靭:新聞記者だった長瀬龍一郎は小説家に転進していた。新たに鳴沢をモデルにした「雪虫」という小説を書くために、横浜地検の城戸検事に取材を申し込んだ。脱出:鳴沢ストッパーとしてコンビを組んでいる藤田。ふたりは工場跡地で麻薬の取り引きがあるという情報を受けて潜入した。しかし、途中で犯人に地下室に閉じ込められてしまう。暗くて高温多湿の地下室で足首を骨折した藤田は身動きができなくなった。不変:警察官を辞職して探偵に転進した小野寺冴は、所長の引退によっていよいよ単身での開業を控えていた。不安がふくらんだとき、事務所のドアが開き鳴沢が依頼を申し込んできた。信頼:息子の勇樹は映画俳優になっていた。ハワイでのロケに休暇を使って鳴沢が同伴する。しかし、鳴沢の挙動は刑事のものだった。自分に何かを隠しているのではないかと勇樹は不安になりながら、ロケを進めていく。 (2013.1.19) 堂場瞬一 中公文庫 2012年2月 629円

久遠(上下)刑事・鳴沢了(10)
鳴沢が殺人容疑で調べられる。被害者は岩隈。情報を売って生きる。殺害の前夜にふたりは食事をした。岩隈は重大な情報をちらつかせた。鳴沢は、どうせガセネタだろうと無視した。その夜に岩隈は殺された。自分を嵌めようとする存在がいる。その確信を得るために、公安部の山口に相談した。その山口も殺された。鳴沢の鉄アレイが犯行現場で見つかる。自宅待機を命じられた鳴沢は、ひとりで犯人探しの捜査を始めた。そのさなか、鳴沢自身のいのちが狙われた。これまで自分がかかわった事件で、有罪になった者たちや、その仲間たちが、密かに鳴沢を陥れようと画策する。その鳴沢をこれまでの仲間たち、小野寺・今・藤田・大西らがチームを組んで援護する。シリーズの最終章を宣言する意味か、文末に「了」と記された。後日、別冊として完成する「神の領域」の主人公、検事・城戸南も登場する。(2009.11.21) 堂場瞬一 中公文庫 2008年6月 各762円

疑装 刑事・鳴沢了(9)
日系ブラジル人のこどもが殺された。殺される直前に少年を病院に搬送した鳴沢は、病院から消えた少年を追っていた。少年の父親は群馬県でひき逃げ事故を起こしていた。その後、ブラジルに出国。代理処罰の原則で、日本の法律で少年の父親を裁くことはできない。鳴沢は群馬県を訪れ、ひき逃げ事故の真相に迫る。そこには、ひとつの社会に日本人と日系ブラジル人がともに生きていくことの難しさが漂い、捜査を阻んだ。探偵である冴と偶然にも同じ事件を追いかけることを知った鳴沢は、互いの職務の違いから情報を交換しない。その意地が、結果として少年の死を早めてしまう。児童虐待がキーワード。(2009.11.18) 堂場瞬一 中公文庫 2008年2月 857円

被匿 刑事・鳴沢了(8)
アメリカの研修を終了前に切り上げさせられた鳴沢。だれもやる気のない西八王子署に飛ばされた。着任前日に代議士が橋から落ちて死んだ。所轄の西八王子署は事故死扱いにした。鳴沢に東京地検の野崎検事から事故死洗い直しの特命が下る。今回の相棒は警視庁捜査一課の藤田刑事。鳴沢の仕事を評価し、互いに磨きあう。東日新聞の長瀬が書いた小説「烈火」が事実をもとにした話だったことを突き止めた鳴沢は、ひとの縁と罪をはかりにかけながら、真実を求める。そしてクライマックスは、燃え盛る炎の中に鳴沢は突入していく。(2009.11.12) 堂場瞬一 中公文庫 2007年6月 857円

血烙 刑事・鳴沢了(7)
鳴沢はニューヨークにいた。愛するユミとユウキのもとで警視庁から研修目的でニューヨーク市警察に派遣されていた。ドラマ出演で有名になったユウキが何者かに誘拐される。誘拐事件の影に、ユミの兄ナナミが追う中国マフィアのトミー・ワンがいた。細かい糸をたどって、鳴沢はニューヨークからアトランタへ。アトランタからマイアミへ。アメリカを縦断する。ユウキが誘拐されても、犯人からは何も要求が来ない。犯人の意図は何か。自分ひとりで何もかも片づけてきた鳴沢が、アメリカで友人たちの支えに気づく。(2009.11.3) 堂場瞬一 中公文庫 2007年2月 857円

讐雨 刑事・鳴沢了(6)
幼いこどもばかり3人が誘拐され、殺された。犯人はつかまり、捜査本部は解散する。そこに犯人を釈放しろという脅迫が届く。さもないと、ダイナマイトを使った爆破事件を起こすとも。犯人の釈放などには応じない警察。予告通りに、ダイナマイトを使った爆破事件が発生した。裁判では精神鑑定により無実になるかもしれない犯人を自らの手で苦しめ抹殺しようとするのはだれだ。鳴沢が、全身傷だらけになりながら、爆破事件の核心に迫る。ひとびとを守るべき法律が、極悪非道な罪人を裁かずに野に放つ。そのとき、だれが法律のかわりに罪人を裁くのか。シリーズ衝撃の深さ。(2009.10.27) 堂場瞬一 中公文庫 2006年6月 857円

帰郷 刑事・鳴沢了(5)
父親の葬儀のために新潟に帰郷した了。同じ日に殺人事件が時効を迎えた。それは了の父親が唯一解決できなかった事件だった。時効の翌日に被害者の息子が了を訪ね、真犯人をつかまえてほしいと依頼した。警視庁の刑事が新潟で捜査はできない。忌引き休暇を使って一般人としての真相究明に乗り出した。雪の新潟を了が走る。事件の背景にある身体的虐待が悲しく横たわる。緑川や大西が登場し、了を支える。(2009.10.20) 堂場瞬一 中公文庫 2006年2月 762円

孤狼 刑事・鳴沢了(4)
刑事・鳴沢了シリーズの4作目。シリーズ最高の読み応えあり。今回の相棒は、100キロ越えの巨漢、今刑事。実家が寺でやがては仏門を目指す。ふたりは警視庁の理事官から特命を受け、内部調査を開始する。現職刑事らの覚せい剤横流しをあばき、失踪した刑事の監禁場所までたどり着く。冴が退職して探偵として登場する。(2009.10.10) 堂場瞬一 中公文庫 2005年10月 857円

熱欲 刑事・鳴沢了(3)
警視庁多摩署から青山署の生活安全課に異動した鳴沢了は、ねずみ講被害者の訴えを受け、内偵捜査を開始する。刑事課ばかりの経験しかなかった鳴沢は、詐欺の捜査がはがゆくてやりにくい。そんなとき、大学時代のルームメートがアメリカから目の前に現れた。出資、配当、利息、借金、返済、DY、自殺、殺人。金にまつわる悪の連鎖に鳴沢は迷い込んでいく。一作目の雪虫で祖父の自殺を止めなかった。二作目の破弾で、世話になった先輩を撃ち殺した。三作目の熱欲は、二つの死を背負いこみながら、刑事を続ける意味を鳴沢自身が問い続ける。(2008.9.29) 堂場瞬一 中公文庫 2005年6月 857円

破弾 刑事・鳴沢了(2)
新潟県警を辞職した鳴沢は、警視庁に就職した。多摩の警察署に赴任したが、同僚刑事たちから疎遠にされる。わざわざ新潟県警を辞職した男がなぜ東京で再び刑事を志すのか。同僚たちの理解を得られなかったのだ。そんなときホームレスが襲われ、行方不明になる事件が発生した。鳴沢と同じように刑事たちから煙たがられていた小野寺冴という女性刑事とペアで捜査を始めた。(2008.9.18) 堂場瞬一 中公文庫 2005年1月 857円

雪虫 刑事・鳴沢了(1)
新潟県警の刑事・鳴沢了が主人公の長編小説。パトリシア・コーンウェルのスカーペッターを思い出した。事件解決だけではなく、鳴沢の人物像を深く掘り下げ、父と祖父と自分の三代に渡る刑事家族が描かれる。かつての宗教団体が犯した罪が50年の歳月を経て復讐の悪夢としてよみがえる。(2008.9.15) 堂場瞬一 中公文庫 2004年11月 857円