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ほぼ毎日更新の雑感「ウエイ」
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千野隆司
takashi chino

鉞ばばあと孫娘

2まがいもの

煙管屋が依頼主の仕事へ向かうお鈴は新大橋の袂まで来た。思い詰めた顔で着物の袂に石を入れている貧相な50代後半の男を見かけた。よく見ると絵師の与三次だった。お絹のもとに金を借りにきたので覚えていた。石で重たくなった袂を抱えて与三次は橋を渡り始めた。そして橋の真ん中で立ち止まる。欄干に近寄った。履いていた草履を脱いだ。欄干に手をかけた。お鈴はしがみついて引き留めた。「死なせてくれ」ともがく与三次。通りかかった職人風がお鈴を手伝った。ようやく欄干から引き剥がし橋の袂まで連れていく。借金の返済期限が近づいているけど返せないという。絵を描けばいいじゃないかとお鈴は指摘する。しかし与三次は仕事がうまくいっていないと言い訳をした。病気の妻が先月亡くなった。その治療費が欲しくて与三次はお絹から金を借りた。お絹は誰にでも金を貸すわけではない。返す見込みのある者にしか貸さない。それなのに今回は見当が違ったのか。お鈴は諦めた与三次を引き連れて煙管屋へ行った。看板書きの仕事があったからだ。主人に下絵を見せると与三次が構図を変更した新しい見本をサラサラと描いた。言われたように看板を描くと煙管屋の夫婦が大喜びした。絵師としての腕が鈍っていないのに、なぜ仕事がうまく行っていないというのか。お鈴は訳を知りたくなった(2024.3.4)集英社文庫60020241

鉞ばばあと孫娘

1貸金始末

神田松枝町に住むお鈴は祖母のお絹と暮らしていた。父母は9年前の火事で亡くなった。当時7才だったお鈴はお絹に引き取られた。お絹は鉞を手に返金を渋る客に凄む金貸しだった。相手の素性を確かめて貸すので返金できないような事態には陥らないようにしていた。「あんた食べさせてやってんだからね」が口癖のお絹と暮らすお鈴は1日も早く独立するだけの力をつけたかった。しかし、生きていくのも困難な状況でお絹に助けられたお鈴には一人前になるだけの技術も蓄えも身につくはずがなかった。そんなお鈴はただ一つ現金を手にできる内職が看板書きだった。いつも仕事があるわけではないが、注文を少しずつもらえるようになったお鈴はいずれ看板書きの仕事でお絹から自立できればと夢見ている。お絹には倉蔵という弟がいた。お鈴は幼い時から倉蔵に優しく育てられた。だから今でも倉蔵のことを「おじいちゃん」と呼ぶ。倉蔵は十手を預かる岡っ引きだった。妻のおトヨと田楽屋うさぎ屋を営んでいた。事件が起こると捜査にかかるがそれ以外の時はおトヨと夫婦仲良く働いていた。お鈴は昌平橋近くで豆次郎を見つけた。幼馴染だった。9年前の火事で豆次郎も両親を亡くした。子どものいない甚五郎とお玉夫婦に貰われて錠前職の後継として仕事を叩き込まれていた(2024.3.2)集英社文庫60020234

1俺は一万石

竹腰正紀は美濃今尾藩竹腰家の次男だった。長男は家督を継ぐが次男は他家へ婿に出る以外にすることがない。若い時から道場に通い剣術の向上に努めていた。正紀に婿話が持ち上がり、下総高岡藩井上家へ婿入りすることになった。江戸の上屋敷を訪ねた時に、たまたま在所から藩邸を訪ねていた農民の申彦と出会った。地元の利根川が大雨で水かさを増し、堤防が決壊しそうなので杭打ちを願い出ていたのだ。しかし門前で相手にされなかったところを目撃した正紀は、婿入り前にも拘わらず、自らが杭を届けることを約束してしまう (2020.5.14) 双葉文庫 20179 602

2塩の道

高岡藩への婿入りが決まった正紀は祝言を済ませて井上家で暮らし始めた。剣術道場仲間の与力、山之辺から塩問屋の若旦那が倒れた樽の下敷きになり亡くなった事件を調べていることを教えられた。その塩問屋とかつて出会った千葉の塩問屋につながりがあることを知った正紀は山之辺に協力しながら、高岡藩の新しい財政政策の実行を思いついた。米しか取れない高岡藩の財政を塩の中継地にしようというものだった。それを知った高岡藩の家老園田は正紀の命を奪って、塩の取引を独り占めしようと計画した (2020.5.19) 双葉文庫 201710 672

3紫の夢

利根川の高岡河岸を物流の要にして、藩への実入りを増やそうと正紀は考えていた。そんな時、それまで高岡河岸に納屋を設けて藩の米の出入りを扱ってきた戸川屋から多額の借金の返済を求められた。戸川屋の娘は、塩取引で正紀の命を狙い切腹した国家老の園田の妻だった。妻と息子は戸川屋に戻らされた。借金は園田が藩の名前で勝手に戸川屋から借りたものだった。塩取引の桜田屋に相談し、龍野の淡口醤油を扱うことを考えた。江戸湾で龍野醤油を受け取った荷運び舟が何者かに襲われ、醤油も舟も消えてしまう (2020.5.28) 双葉文庫 20182 611

4麦の滴

正紀の本家にあたる浜松藩で菩提寺の浄心寺改築の命が下された。支藩の下妻藩と高岡藩にも改築費用の負担が求められた。世子の正紀と正広には費用を集める奉行役が発せられた。ともに飢饉にあえぐ国許を抱えていた。寺の改築費用など出せるわけがなかった。これは浜松藩の井上本家が正紀と正広にしくじりを起こさせ、世子の座を引きずり下ろすことが目的だったのだ (2020.6.5) 双葉文庫 20184 593

5無節の欅

菩提寺の材木をどこの店に任せるか。入札が行われた。浄心寺の改築を使って私腹を肥やそうと企む本家筋は、同時に正紀と正広を世子の座から引きずり降ろそうとしていた。檀家の材木屋が入札で決まり、ほかの材木屋を使うはずだった本家筋は檀家の材木が江戸に届く前にこれを妨害する手はずを整えた4 (2020.6.10) 双葉文庫 20185 602

6一揆の声

全国で米がとれない年だった。高岡藩では年貢割合を引き上げ、さらに農民から貸し米として米を差し出させる触を出した。これに対して、一部の村が結束して貸し米の取り消しを求めた一揆を起こした。代官所では、頭取を拘束して訴えを退けた。農民たちは頭取の解放と貸し米の取り消しを求めて陣屋へ強訴するため集団で行動した。正紀は病院療養を理由に公務を退き、秘かに在所に赴き、事態の収拾を計る決意をした (2020.6.25) 双葉文庫 20188 630

7定信の触

田沼意次の失脚によって幕政の中心に立った松平定信は高騰する米の値段を下げるために、余っている米を江戸に廻す命令を出した。高岡藩は他の藩よりも割当が多かった。これは高岡藩の失敗を通じて、田沼意次なき後の幕政になおも影響力を残そうとする老中水野の狙いがあった (2020.7.14) 双葉文庫 201811 672

8囲米の罠

正紀らが犠牲を出してまで回送した国許の米が、江戸の町ではなぜな小売りに出回らず、米価の高騰は続いていた。両替屋の房之助とともに回送された米の行き先を探っていた青山は沼津藩が不正に米を蓄え、高値で売り抜けようとしていた現場を押さえた。しかし、青山はしくじりから沼津藩に囚われてしまった。正紀は山野辺とともに、新たに届く米の不正現場を暴くために立ち上がる (2020.7.20) 双葉文庫 20193 611

9贋作の謀

正紀の姑、和が手に入れた絵が贋作なので、誰がどのような謂れでこれを描き、流出させたのかを調べてほしいと言ってきた。全く乗り気のしない正紀は姑の頼みだから、仕方なく探索を始めた。すると、鹿島沖で東回りの廻船が海賊に襲われ、米や昆布が奪われる事件に繋がっていく。しかも奪われた米が、高岡河岸に一時的に保管されていることに気づく (2020.7.31) 双葉文庫 20197 620

10無人の稲田

府中藩では村民の一揆を武力で押さえ込み、犠牲者を出していた。特に一揆を起こした三村に対して代官所は名主を呼び出し貸し米を命令した。凶作が続き、米など食べられない生活を送る村民らは村を捨てる逃散を決めた。江戸では一人の水夫が殺された。高積もりを監視する山野辺が探索を進める。その中で水夫の周囲に、正紀らが海賊退治で取り逃がした鮫五郎と盗んだ米や昆布を換金化していた伝兵衛の姿が見え隠れした。山野辺は正紀に事情を伝えた。正紀は植村と青山に探索を命じた (2020.8.23) 双葉文庫 20198 610

11繰綿の幻

関東や東北では麻の服から木綿の服の需要が高まっていた。綿から種や殻を取り除いた繰り綿の値段が上がっていた。綿は関西で収穫される。関東へは船で運ばれていた。高岡藩の勘定方の井尻は繰り綿を扱う問屋から空売りを持ちかけられた。確実に多くの繰り綿が江戸に届く報せがあったので、繰り綿の空売りに藩の金を使った。しかし、その船はいつまで待っても江戸には到着しなかった。先物取引の空売りは、買う契約をした時の値段よりも繰り綿が安くなるから利益を得られる。反対に繰り綿の値段が上がっては契約をした時よりも少ない繰り綿しか手にできない。難破したという情報は無いのに、繰り綿がない。不思議に感じた正紀らは、井尻とともに探索を始めた (2020.8.23) 双葉文庫 201912 610

12慶事の魔

孝姫が産まれた井上家と婚儀が決まった山野辺家に、法外な祝いの品が届いた。受け取りの担当者は、こうかすぎることに疑念を抱きながらも受領証を発行した。しかし、それらは繰綿の商いで不正を働き、処分を受けた蓬莱屋と奏者番職を狙う石川家の策略だった (2020.8.29) 双葉文庫 20203 620

13訣別の旗幟

老中の松平定信は旗本や大名の借金を帳消しにする策を練っていた。それを実現すれば旗本や御家人は一時的に助かるが、金を貸していた札差たちは大損をして二度と金を貸さなくなる。再び旗本や御家人たちが困窮することが目に見えていた。また天皇家の扱いについて家斉と意見が対立した定信は、少しずつ孤立していく。正紀の父、正国は幕府で奏者番をしていたが、突然、病を理由に辞職することになった。元気な正国が役職を離れることを知った正紀は尾張徳川家が定信政権と訣別することを決めたと気づく。そんな時、藩邸の門が燃やされた

2020.12.9)双葉文庫20208620

14商武の絆

松平定信による武士の借金を帳消しにする命令によって、それまで金を貸していた札差たちは窮地に陥った。札差たちもまた金を貸すために、ほかの商人から金を借りていた。しかし、こちらは帳消しの対象ではなかったからだ。新しい借金を申し込む武士や大名に対して、商人たちは札差だけでなく一切の貸金を断り始めた。高岡河岸に新しい納屋を建てるために50両の借金を申し込んでいた高岡藩も同様だった。すでに材木の注文は終わっていた。しかし、支払うべき金のあてが無くなってしまったのだ。そんな時、家老の佐名木の弟が辻斬りの容疑をかけられた。高岡河岸では利根川が水嵩を増し納屋の土台を飲み込もうとしていた

2020.12.16)双葉文庫20208620

15大奥の縁

主家の行事で大奥の滝川の世話を正紀がすることになった。感情を顔に出さない滝川に辟易しながら役目を終える。後日、父から滝川の機嫌がとても良かったと聞かされる。合わせて滝川に拝領されている町屋敷の扱いを任された。居酒屋や蕎麦屋を入れて店賃を取っていたが、何者かの嫌がらせを受けて、今は空き家になっていた。川に沿った商いに向いた建物なのに、なぜ嫌がらせを受けるのかを正紀は調べていく。すると老中、松平定信につながる用人がバックにいて反定信派の滝川を追い落とす計画が練られていたことを知った

(2021.3.27) 双葉文庫202012620

16出女の影

高岡藩井上家の世子である正紀は義父の正国が参勤交代でお国入りする費用の捻出を命じられた。関わりのあった商家を回ったがどこも松平定信の棄捐令のせいで金回りが悪くなり、とても費用を貸すことはできないと断ってきた。途方に暮れた時、以前、世話をした大奥の滝川から内々の頼みを持ちかけられた。幼い頃に世話になった叔母が病で倒れ、瀕死の状況とのこと。正国の奥に入りの途上に叔母の村があるので、行列に混ざってこっそり自分を連れて行って欲しいという頼みを持ちかけられた

(2021.5.4) 双葉文庫20213620

17金の鰯

高岡藩藩主の井上正国は無役になり他の大名と同じように定期的に国元と江戸を参勤交代しなければならなくなった。元来、金の無い高岡藩では参勤交代の次の費用の目処が立っていなかった。江戸藩邸の世子である正紀は家老らとともに費用の捻出を図る。両替屋の房太郎が鰯を原料にした魚油、干鰯、〆粕の値段が上昇していることを掴む。これは鰯漁の盛んな銚子で不漁が続いていることが原因だった。そんな時、先代の正森が屋敷を訪ねた帰りに何者かに襲われた。秘かに正森の後を追っていた正紀は老いてなお剣筋に乱れの無い正森に興味を抱く。房太郎と家臣の佐名木源之助が銚子を訪れて鰯取引きに絡む代官と商人との不正に気づく

(2021.9.21)双葉文庫20217620

18大殿の顔

銚子で悪事を働いた高崎藩の奉行と鰯問屋。その息子たちが親たちの悪事を暴いた先代の藩主、正森の正体を探り出す。本来は病気療養を理由に高岡にいなければならない正森が小浮と名を変えて銚子の漁師たちを陰で支えていることは表ざたにできないことだった。正紀は銚子に赴き、正森を守りながら、不正を続ける一味を一気に追い詰めていく

2021.12.30)双葉文庫20218620

19尚武の志

定信の改革は倹約と文武奨励を優先したが、実質的には経済が行き詰まり、承認も武士も暮らしの目途が立たなくなっていた。そんな矢先、江戸に野分が襲った。おりからの大潮と重なり、海と大川に面した多くの家々が被害を受けた。佃沖に埋め立てて造られていた人足寄せ場も大破した。人足寄せ場は軽微な罪を犯した者たちを集め職業訓練を施して世間に戻す役割を果たしていた。火付け盗賊改めの長谷川平蔵が尽力した寄せ場。長谷川の出世を快く思わない御家人からの横やりで寄せ場の廃止が決まろうとしていた。定信に反対する尾張一族は多くの滝川とともに寄せ場の復活を井上正紀に託す。正紀は文武の奨励をはかる定信のやり方を使って、剣術大会を企画した。その賞金を寄せ場の入用とする計画だった。長谷川の息子の辰蔵が優勝すれば賞金が入手できる算段だった

(2022.3.10)双葉文庫630202112

20花街の仇討ち

正紀は30年前に高岡藩であった不祥事による仇討ちと関わることになった。たまたま仇と間違えた高坂を助けたことから現在に続く仇討ちの物語を知る。それは先代の正森がいまも後悔している事案だった。正紀は正森の協力を得て仇を探し出すため江戸の町を歩く。町奉行所同心の山野辺は借金の担保として売られていく娘を力づくで取り戻そうとして反対にけがをした若侍、大志田を助けた。娘を買った者たちは御家人で高利貸しの北沢の命令で娘を銚子の網元に高額で売り渡す企みを実行しようとしていた

(2022.5.17) 双葉文庫64020223

21世継の壁

藩主の正国が同じ月に二度の心臓発作で倒れた。下総高岡藩では正国の隠居と正紀の藩主着任を幕府に申し出ることになった。しかし、元来の高岡藩旧主の井上家から正国に続いて尾張家出身の正紀着任へ反対する動きが活発になった。同じころ、江戸の町では3人組の強盗団が暗躍していた。干鰯問屋の宮津屋が襲われ用心棒と店主が殺され420両もの大金が盗まれた。用心棒に殺された賊の一人を北町奉行所寄騎の山野辺が探索し才蔵という3人兄弟の末っ子というところまで調べ上げた。その過程で高岡藩をめぐる藩主抗争に関わる重臣たちと宮津屋襲撃にからむ者たちとの接点が明らかになり、正紀に相談した

(2022.10.18)640円双葉文庫20227

22藩主の座

房川屋で働き、後に主の娘と結婚し婿入りした以蔵。婿になったのに主夫婦からも嫁からも奉公人時代と同じ扱いを受け続けたことに反発し、主を殺して店の50両を盗んで姿を消した。その時に思いを寄せ合っていたお由という女は身ごもっていた。以蔵はお由とともに江戸から姿を消して取手に逃げた。弟たちが暮らす銚子に金を送り、その後は江戸で数年に一度の押し込みを繰り返しながら貯えを増やした。干鰯問屋の宮津屋が襲われたのもその一つだった。正紀の廃嫡を目指す井上家関係の各藩主は宮津屋から得意先を奪ってのし上がった東雲屋とつながりを持った。取手で宿屋の女将として丁寧な商いを続けていたお由から以蔵が隠していた金を奪い取る算段に正紀が関わったという噂を流して老中に働きかけた。小伝馬町に捕まった以蔵に正紀が協力したと白状すればお由と子どもの暮らしを援助すると約束した。しかし、その約束はお由の子どもを誘拐したことで破綻する。盗んだ金を奪い取り、お由と子どもを殺して、正紀を廃嫡する計画が動き始めた

(2022.10.19)640円双葉文庫20228

湯屋のお助け侍

 

1菖蒲の若侍

御家人の次男坊。大曾根三樹乃助。互いに好きあっていた女性との結婚を間近にしていた。しかしその女性は上役の男にいたぶられた結果自害した。生きていく意味を無くした三樹乃助は親が決めた婿入りの話にしぶしぶ従う。見合いの席で相手の姫の冷徹な表情とそれに従う強面の女中に圧倒される。三樹乃助はその婚姻がかつての許嫁を自害に貶めた上役たちの画策だったことを知り出奔した。偶然たどり着いた先は湯屋の夢の湯。そこで下働きをしながら主人で岡っ引きの源兵衛とともに女性惨殺事件を探索することになった

2022.1.6)双葉文庫20219640

2桃湯の産声

三笠屋という両替屋が盗賊に襲われた。探索をしていた同心の豊岡と岡っ引きの源兵衛のお陰で盗賊はその場で取り押さえられた。二人の盗賊には三人目の弟がいた。もしも自分たちが捕らえられた時は捕らえた者を見つけ出し恨みを晴らせと教えられていた。時が経ち、夢の湯に客として出入りするようになった弟は捨吉と名を変えていた。八丈島に流された盗賊が島抜けをして江戸に戻ってきた。捨吉から情報を得て豊岡襲撃に成功した。次は源兵衛を襲う計画が立てられた。酒井家の姫である志保はなぜか守り役のお半を連れて夢の湯に通うようになっていた。捨吉の兄の弥蔵は志保を攫って源兵衛を誘き出した

2022.1.12)双葉文庫202110640

3覚悟の算盤

七夕が近づく。笹に願いがぶら下がる。町が活気づく。一人の老人が腹を空かせて饅頭を食べた。体も衣服も汚れて臭い。懐の銭が足りなかった。茶店の女房は岡っ引きの源兵衛に男を引き渡した。湯屋に連れて行かれ体も衣服も綺麗になった男は自らを瀬古と名乗った。しかし、それ以外のことはまったく話そうとしなかった。湯屋の手伝いは手を抜かずにこなす。毎日、決まった時間に店を出て一刻の後に戻った。湯屋の近くで火事があった。瀬古は火事場に残された老婆を助けるために火の中に飛び込んだ。無事に助け出し、湯屋の人々に受け入れられた。大曽根三樹之助はある時、瀬古を秘かにつけた。そして越後屋という米問屋の若女将を影から眺め続ける瀬古を見つけた。瀬古に知られないように若女将に事情を告げた。二人は兄妹で、与板藩での不正がらみで藩を追い出され江戸に来たことを知る。藩の重臣が藩主に無断で私腹を肥やした証拠を瀬古がつかんだにもかかわらず、全ての罪を瀬古に被せて藩主に瀬古を討つ命を出させていたのだ。藩の内紛がらみなので三樹之助には手も足も出なかった。そんな時、酒井家の姫君、志保が瀬古を窮地から救うために奔走し始めた

(2022.7.2)双葉文庫64020221

4待宵の芒舟

上野広小路で仏具を扱う川角屋の主、太左衛門は読売屋の八十兵衛に脅されていた。妻に内緒でおらくという女に屋敷とお金を与えて自分の囲い者にしていることをかぎつけられたのだ。呼び出された場所に用心棒の前園と連れ立って赴くが二度と店に戻ることはなかった。湯屋の夢の湯では夫を亡くして二人の子どもを育てながら湯屋を切り盛りするお久が困惑していた。主の源兵衛は岡っ引きの仕事を兼務しているので湯屋の仕事はお久に任せきりにしている。大曾根三樹之介は番頭から店に若い男が訪ねてきてから様子が変わったと教えられた。源兵衛によると男はかつて亡くなった乙松の弟弟子だった竹造だった。版木職人として腕の立った竹造は公儀によって禁止されているあぶな絵に手を出し源兵衛の助けによって上方に逃れていたのだ。その竹造が何年も経って江戸に戻ってきた

2022.8.12)双葉文庫64020225

5神名の恋風

材木問屋の信濃屋が何者かに襲われた。たまたま近くを通りかかった三樹之助の助けによって信濃屋は軽い傷だけで助かったが小僧が犠牲になった。別の日に寛永寺の高僧が背の高い侍に殺された。二人を襲ったのは同じ人物と思われた。湯屋の源兵衛は三樹之助と共に探索を開始した。自分が屋敷を飛び出して湯屋で世話になりながら暮らし始めるきっかけになった二千石の大身旗本酒井家の姫、志保は湯屋に桶を置いてすっかり湯屋の子どもたちともくつろぐ間柄になっていた。探索の手伝いを志保が申し出て三樹之助は大いに助けられた。その途中で志保は曲者に攫われて頬を張られた。赤く腫れた頬に心の痛みを覚えた三樹之助は自分が志保との婚儀を避けて実家を飛び出した経緯を初めて話した。小笠原正親によっておもちゃにされ自刃した美乃里。志保は美乃里の苦しさに心底から悲しみ、正親を恨んだ。寛永寺本堂の改築に伴って新しい材木を仕入れる問屋として信濃屋が選ばれることを阻むために但馬屋が祈祷師と侍を雇って高僧と信濃屋を襲ったことが判明し三樹之助と源兵衛は捕縛に向かう。そんな時、酒井家から志保の琴を三樹之助に聞かせたいので親子で招きたいという話が届いた

(2022.11.29)双葉文庫66020229