top .. today .. index
過去のウエイ

7959.6/12/2019

ここから…88

=本体の見積もり=

大工さんが来られて、お店本体工事の見積もりが提示された。
飲食店は壁や床などお店本体の工事を大工さんが行う。
これに対して排気管や厨房機器などは厨房機器メーカーが業者さんと連絡を取りながら工事を行う。
その両方の話を聞きながら、建築士の方が全体の設計図面を作成する。
建築士の方は保健所への申請や許可も同時に代行する。

もちろん、もっと簡易な方法はあるだろう。
しかし、私はまったくの素人なので手を抜く術も、省略可能な手続きもわからない。
だから、すべてをゼロの地平からやるしかない。
それは手間と時間とお金のかかることだ。
しかし、長い教員生活を振り返ってみると、手間を省き、楽をした仕事は大きな成果に結びつきはしなかったことを知っている。
きっとどんな仕事もやればやるだけのことがあるだろうと信じて、遠回りかもしれないけれど、堅実で確実な方法で食堂を築いていく。

今回、建築士さんが保健所から従業員の更衣室を指摘された。
食品衛生法の改正で店内には従業員の更衣室が必要になったそうだ。もともと狭い店内にこれ以上のスペースはなかった。そこで居住区に当たる母屋に更衣室を設定することにした。そのために保健所には母屋の平面図のコピーを提出する。書棚の奥を探して、登記書類から平面図形を見つけた。

私が契約をする大工さんは地元鎌倉の業者さんだ。
鶴岡八幡宮の仕事も引き受け、長く地元で大工を続けている。

本体の見積もりは12の項目に分かれていた。

1.解体工事:これはすでに終了している。先日購入した母屋のエアコン代よりも安かった。

2.木工事:天井や壁などの工事のほかに、床下に根太を支える大引きと呼ばれる太い木が張られる。これが床下からカウンターを保持する。この大引きとカウンター骨組みが木工事の35%を占めている。
勝手口にあたる店内奥の戸口。現在は壁になっている。そこには柱があるが、これをカットして戸口を設ける。そのため強度維持が必要になり、戸口の両隣に新たに柱が必要になった。

3.ステンレス工事:厨房の火と油、温度を防ぐ壁側にステンレスが張られる。12平方メートルのステンレス壁ができる。

4.アルミ工事:入口ドアは網戸付きサッシの引き戸にする。サッシを引いた引き込み部もはめ込み式の素通しにして採光を可能にする。

5.建具工事:一階と二階をつなぐ階段下にドアを設けることになった。お店と住居部分の境界だ。トイレも位置をずらすので新たなドアが設置される。ホールとキッチンの境界にも開閉式の観音扉がつく。この観音扉がないと保健所の許可は出ない。

6.内装工事:床には靴のまま入れるシートを張る。

7.塗装工事:店内は枠のみの塗装にする。外壁はサイディングする。

8.ガス工事:これは中華料理店の宿命で既存のものは使えない。火力が強いコンロを使うので、従来のガス管はすべて撤去する。基本の配管をしたのちに、中華コンロ用の配管をつける。敷地を掘って、ガス管が交換される。

9.水道工事:全予算の20%。これも既存のものをすべて撤去する。排水用には直径の異なる二種類の配管が使われる。給水と給湯にも直径の異なる二種類の配管が使われる。また、給湯器は業務用の強力なものになる。これが水道工事では突出して高価だ。排水を処理するグリーストラップは三つのマスがセットになったものだ。便器や手洗いも含まれる。

10.電気空調工事:全予算の26%。スチームコンベクションオーブンは電気をたくさん使うので、新しい動力分電盤が必要になった。この動力を使って天井に埋め込むエアコンも使う。電灯は18ヵ所、スイッチは6ヵ所、コンセントは12ヶ所。このあたりの数字は一般住居とは大きく異なる。
水道と電気空調の工事で、全工事費のおよそ半分もかかることがわかった。

11.テント工事:これは入り口のドア口の屋根にあたる。伸縮式の布でできた屋根を設置する。

12.運搬諸経費

一つ一つの工事に、それぞれの職人さんがいて、プロの技でお店を作っていく。
その過程を楽しみながらフォローしたい。

===2019年6月11日===



私が小学校に勤務していた頃からずっと野菜作りを教えてくれた畑の師匠。佐々木食堂にも協力してくださっている。彼の農園で収穫されたつるなしインゲン「サクサク王子」の初物。2分ゆでるだけで、とてもうまい。2019年6月10日。

7958.6/10/2019

ここから…87

=商品原価計算=

気が付いたら6月はもう10日になっている。
あと2ヶ月で厨房が完成する予定だ。
ダスキンにお勤めの知人がコック服のカタログをくださった。
ダスキンは業務用のユニフォームも扱っている。

8月中旬以降は、知人や近所の方を招いたモニタリング・テイストテストを予定している。
そこには予定値段も表記して、値ごろ感も評価していただく。

そのためには売価(商品の値段)をそろそろ決めていかなければならない。
売価の決定は、商品原価計算によって算出する。
これも専門学校で教わった。
こういうことを知らないで退職してすぐに飲食店を始めようとしていた自分が恐ろしい。

食材の場合、原材料の多くはそのまま食べられない。
皮や種、骨や汚れなどを除去して調理する。
例えばアスパラガスの場合、生で購入すると廃棄率は20%になる。
廃棄率は文部科学省発行の「日本食品標準成分表」に記されている。
アスパラガスを1本100円で購入しても、そのうちの20%は捨ててしまうので、食べられる部分(歩留まり)の値段を計算して商品の原価を算出する必要がある。
これを歩留まり原価と呼ぶ。
歩留まり原価の算出には歩留まり率の計算が必要になる。
日本食品標準成分表から調べてもいいが、簡単なのは食材の重さを計り、食べられる部分にしたときの重さを計ればわかる。

可食部分(食べられる部分)÷最初の重さ

アスパラガスの場合、これが80%(廃棄率が20%)なので0.2という値になる。

歩留まり原価は、購入時の値段÷歩留まり率でわかる。
100÷0.8=125円になる。

そのうち料理によって1本のどれだけを使うかでそのメニューに使われるアスパラガスの原価が決まる。
1/5本を使うとしたら
125÷5=25円になる。

このような計算をメニューに使われるすべての食材、調味料について行い、合計したものが商品原価になる。

先日、モニタリング・テイストテストを実施した鯵の唐揚げについて1人分の商品原価を計算した。

使った材料は15項目あった。
真アジ、下味用(老酒、醤油)、片栗粉、ふすま、万能ねぎ、煎り胡麻、合わせ調味料用(生姜、長葱、醤油、酢、老酒、砂糖、みりん、ごま油)

それぞれの「仕入れ単位」「単価」「重さ」「歩留まり」「歩留まり率」「歩留まり原価」「商品に必要な分量」「金額」を算出し合計したら161.4円になった。

これは鯵の唐揚げだけの原価だ。
皿にいっしょに盛る他の食材は含まれていない。
鯵の唐揚げを単品で頼んでくださったお客さんに161.4円の原価率をつけて税抜き価格を決定する。
原価率0.3なら538円(税抜き)
原価率0.35なら461.1円(税抜き)
原価率0.4なら403.5円(税抜き)
さらに消費税を上乗せする。10月から10%になるというのでそれを前提にする。
原価率0.3なら538円(税抜き)→591.8円(売価)
原価率0.35なら461.1円(税抜き)→507.2円(売価)
原価率0.4なら403.5円(税抜き)→443.8円(売価)

実際には1円単位の売価は扱いにくいのでジャストの値段を設定する。
この場合、500円がジャストなので原価率で調整する。
すると
原価率0.355なら455円(税抜き)→500円(売価)になる。

定食の場合、これにご飯、汁物、サラダなどをつけるので、それぞれの商品原価計算をして合算して定食の売価を決定する。
同じ原価率にするわけにはいかないので、商品によって粗利(税抜き価格-原価)は異なっていく。

代表的な外食メニューの原価率をしっておくと、何を食べようかと考えた時に参考になる。
カレーライスの原価率32%
ラーメンの原価率30%
冷やし中華の原価率23%
餃子の原価率14%
ハンバーガーの原価率50%
フライドポテトの原価率13%
ステーキの原価率34%
回転ずしの原価率20-80%
ピザの原価率25%
コーヒーの原価率8%
生ビールの原価率39%
(日本と世界の統計データ)より

原価率が高い商品は粗利が少ないので、お客さんとしては嬉しい商品だ。ハンバーガーは意外と利益が少ないことがわかる。
反対に原価率が低い商品は粗利が多いので、お店にとって嬉しい商品だ。コーヒーの8%には驚く。一杯売れば92%の粗利。そりゃ、安売り店が増えるわけだ。

===2019年6月10日===



鯵の唐揚げを作るとき、三枚におろした中骨と頭を以前はスープにして出汁をとっていた。今回は中骨の肉を可食にするため、グリルで焼いた。このように捨てずに使う部分を増やすと歩留まり率が高くなり、結果として商品原価が抑制される。 2019年6月8日。

7957.6/9/2019

No.7957

ここから…86

=メニュー開発=
[鯵の唐揚げ定食]

中華の料理法で高温の油でカリッと揚げる方法を「炸・ぢゃあ」と呼ぶ。
唐揚げのように下味をつけた食材にでんぷん粉をつけて揚げる方法を「乾炸・がんぢゃあ」と呼ぶ。

鯵のようにとれたての魚は鮮魚・しぇんゆい。
日本語でも「せんぎょ」と呼ぶ。

だから鯵の唐揚げ定食は、「乾炸鮮魚定食」になる。

実習では揚げた魚を、野菜とともに合わせ調味料でからめて、さらに炒めた。
妻に提供したら「カリッとしたのが食べたい」とのこと。

そこでモニタリング・テイストテストでは別の器に合わせ調味料を入れて、自分でつけてもらう方法にした。

定食内容

鯵の唐揚げ(半身を半分に切って二枚分)
盛りつけ(皿に揚げた千切りジャガイモを敷き、レタスを乗せ、そこに唐揚げ。中骨のグリル。香の物)

小鉢(インカのめざめのポテサラ・イワシの南蛮漬け・牛筋煮)

サラダ(千切りにした大根と人参と胡瓜、スライスした玉葱、ハムに中華ドレッシング)

味噌汁(中華スープを味噌玉でとく。具は長葱のみじん切りと豆腐)
味噌玉は長生き味噌

デザート(デラウエア入り杏仁豆腐)

唐揚げには小麦の外皮である「ふすま」を使った。
半身にしたの小骨を処理して、下味をつけて一晩休ませた。
翌日、水気を落としてふすまをつけて、少量の片栗粉をまぶし、180℃の油で揚げた。 モニタリング・テイストテストレポートより (30代女性) ・ふすまで揚げられた鯵の唐揚げがライトでおいしかったです。 ・サラダまでいただくとだいぶボリュームがあったのでもう少し量を少なくしてもいいかもしれません。 ・ジャガイモの揚げたものは半分に切って敷くと食べやすいと思います。 ・味噌汁が濃いめに感じられました。好みにもよると思うのですが小鉢の味がしっかりめなのでもう少し柔らかくてもよいかもしれないです。 今回もありがたい評価をいただいた。 ふすまは米で言うと米ぬかのこと。 小麦一粒の15%がふすまと呼ばれる表面の皮になる。 これは製粉の過程で除去され、牛や豚の飼料になっている。 しかし、栄養分はとても豊富で、鉄分・亜鉛・マグネシウム・胴・カルシウムなどのミネラルが多く、食物繊維も含んでいる。 ふすまはぱさぱさしていて、グルテンをほとんど含んでいない。そのため、単独でパンやうどんを作ることは難しい。 唐揚げのように食材の水分を使って表面に塗りこみ、油で食材といっしょに揚げて吸着させてしまうと有効だ。 糖質を減らし、血糖値の上昇を抑制するので、小麦や片栗粉に混ぜて使っても効果を発揮する。

===2019年6月9日===



モニタリング・テイストテストで作った鯵の唐揚げ。生姜醤油に漬けたたたき胡瓜を添えた。鯵の表面のふすまが素材の旨味を閉じ込め、カリッとした食感を提供した。千切りジャガイモは穴の開いたお玉に平らに敷いて、形を崩さないように揚げた。 2019年6月8日。

7956.6/8/2019

ここから…85

=味噌玉作り=

ランチでは定食を出す。
メインのメニューにご飯と汁物をつける。
汁物は中華スープか味噌汁を選んでいただく。
2つの汁物を作り置きすることはできない。
そこで、中華スープに味噌を入れて味噌汁にする。

鰹節と昆布の合わせ出汁でなくて、味噌汁になるのかと心配したが、試作するとちゃんと味噌汁になった。
考えてみれば、豚汁は豚肉の旨味と味噌が溶け合った料理だ。

そこで中華スープ一杯(だいたい180t)にどれだけの味噌を使えばいいのか。
試行錯誤したが、その都度計量するわけにはいかないことに気づいた。

そんな時一冊の本に出会った。

小林弘幸著「医者が考案した『長生きみそ汁』」アスコム

著者は順天堂大学医学部の教授だ。
自律神経と腸の専門家である著者は、病気と生活習慣との関連に気づき、味噌を使った食品が健康に良いことを発見した。

「医者が考案した『長生きみそ汁』」より要約して抜粋ここから

味噌の健康効果
1.老化制御機能(東京農業大学・小泉名誉教授)
2.血圧上昇を抑制し脳卒中の予防(広島大学研究グループ)
3.胃がんの抑制(広島大学・渡邊名誉教授)

その味噌を使った料理でもっとも体にいい料理が味噌汁だった。

味噌汁のよさ
1.一度に複数の食材がとれるので栄養が豊富
2.かさが減るからサラダよりも多くの野菜がとれる
3.栄養が食材から溶け出しても汁から逃さない
4.食材の組み合わせが自由で飽きにくい

研究をもとに考案したのが、長生きみそ汁だった。

長生きみそ汁
1.抗酸化力を高めるメライノジンが豊富な赤味噌
2.ストレス抑制効果のあるGABAが含まれる白味噌
3.解毒効果抜群のアリシン、ケルセチンが豊富なおろし玉葱
4.塩分排出効果のあるカリウムが含まれるリンゴ酢

この4つが含まれた長生きみそ汁を一日一杯飲むだけで健康効果が期待できる。

これまで味噌が敬遠されてきた塩分問題。
2017年、広島大学研究グループが食卓塩と同量の塩分を味噌から摂取しても味噌を口にした場合は血圧が上昇しないという発表をした。まだ降圧作用の成分特定はできていない。
さらに余分な塩分を体外に排出するカリウムを含むリンゴ酢を使う。

抜粋ここまで

というわけでレシピをもとに味噌玉を作った。

赤味噌 80g
白味噌 80g
玉葱 150g(1個)
リンゴ酢 大1

1.冷凍した玉ねぎをすりおろす。
冷凍したほうがおろしやすいと書いてあったので実施したが、玉葱を持つ手が凍り付きそうだった。たしかに玉葱がばらばらにならず、シャーベットのようになった。
2.すりおろした玉葱に赤味噌・白味噌・リンゴ酢を加えて混ぜる。
3.製氷器に入れて冷凍庫へ。
10個分の分量なので10個作れる製氷器が有効とのこと。1個が30gになり、これが長生きみそ汁一杯分。味噌汁を作るときにお椀に味噌玉を入れてお湯を張り混ぜれば味噌汁ができあがる。

私はこの倍量を作って30gずつラップでくるみ冷凍した。

中華スープに醤油だれ、そしてこの味噌玉が加わって、食堂の味のベースが整った。

===2019年6月8日===



味噌は冷凍してもカチカチには凍らない。また室温に戻せばすぐに粘性を取り戻す。 2019年6月7日。

7955.6/7/2019

ここから…84

=農事ごよみ=
[シンシアの収穫]

日常の出来事を記す日記と別に、畑作業や収穫したものの扱いを専門に日誌をつけている。

それによると藤沢の俣野農園で私がシンシアの種芋を植えたのは3月9日だ。
30個の小さな種芋と、27個の大きな種芋があった。そこで大きな種芋は半分に切って植えた。合計で84個の株になった。
重量で7キロだった。

3月28日。発芽を確認した。発芽率はなんと100%。
専門学校で過ごす最後の時間。仲間たちと旅行に行ったり、飲みに行ったりしていた。そんな時期、シンシアは土から養分を吸い取り、根を張り始めていた。

4月23日。植えてから46日目に芽かきをした。
一つの種芋から数本の芽が伸びる。
それぞれの芽が新しいイモをつけるので、イモを大きくするために芽かきは必要になる。
シンシアはあまり芽を少なくするとイモが大きくなりすぎて中にすが入ってしまう。だから3本の芽を残した。

5月8日。だいぶ葉が茂ってきた。
他にもたくさんの畝があり、たくさんのひとが野菜を育てている。
品種は違っても、ジャガイモもたくさん植わっているので、「佐々木食堂」の柵を埋めた。

5月20日。植えてから73日目。
試しに掘った。新しいイモはでき始めていたが、まだサイズが小さかった。

6月1日。同時に育てていたインカのめざめをすべて収穫した。
その時にシンシアも試しに掘ったら、もう十分な大きさに成長していた。

6月4日。植えてから87日目。
すべてのシンシアを収穫した。
大豊作だった。推定で120キロは収穫したと思う。

シンシアは麒麟麦酒のグループ会社のフランスGermicopa社が1996年から育成している。

日本では2003年2月に品種登録された。

フランスのGERMICOPA社で「ランディア」と「オーシャイアン」という品種を交配させ育成された。

卵形のなめらかな形状をしていて、貯蔵性に優れ、煮崩れが少ない。

表面は凹凸が少なく、芽も浅いので綺麗な形をしている。凹凸が少ないことから皮が剥きやすい。

貯蔵性が高く、長く貯蔵できる上に、低温貯蔵をすればシンシアが持っている甘さがより増す。甘く、風味が濃厚な品種。

果肉は粉質より粘質が多いのでしっとり系の食感がする。滑らかで煮崩れしにくい。

煮込むような料理に向いているが、シンプルに食べると、深い味わいが感じられる。

私は単純にジャガバターが一番おいしいと思う。
このシンシアは半年以上保存できるので、9月からの開店ではお店でもお客さんに提供する。

===2019年6月7日===



千切りシンシアの炒め物。中華庖丁を使って横薄切りから千切りにした。乾燥トマトやアンチョビを加え、西洋料理の方法で作った。 2019年6月5日。

7954.6/6/2019

ここから…83

=本格工事を前に=

月曜日。
ダクト工事の方が来られた。
梁がむき出しの天井を見ながら図面に計測した数値を記入していく。
「裏には一般の住宅があるから、ダクトはこっちの壁から外に出したらどうだろう」
大工さんが提案する。
ダクト屋さんは外に出て隣りの様子を確認する。
「ベランダに洗濯ものがあるから、こっちの壁は風の具合で匂いがいっちゃいますね」

飲食店への苦情で最も多いのが匂いと油なのだそうだ。
とくにどちらも強烈な中華料理の場合は周囲からの苦情は多いという。

「天井裏にダクトを這わせて、いっそのことこちらの正面に出しましょう。そうすれば隣りの家からはダクトそのものが見えないし、反対側に出したダクトにはさらに覆いをつけて煙が行かないようにしましょう」
なるほど、プロは考える。
「それだとダクトが長くなるからちょっと値段が高くなるかな」
大工さんが心配している。それは重要なことなので、値踏みはしないと伝えた。

火曜日。
水道屋さんが来られた。
床下の配管を見ながら図面に必要な配管の位置と調整していく。
現在のまま使えるのか、新たに設置するのかを大工さんと検討していた。

トイレのカタログを見せてくださった。
「人感式のトイレということでしたが、実際には故障や修理が多く、もっと値段が安くておすすめできるものがありますがどうでしょうか」
自動的に蓋が開閉したり、洗浄水が流れたりする便器がいいのかと思ってリクエストしておいた。
しかし実際には飲食店でそれらを導入する店は減っているという。無理に蓋を手動で開閉したり、自動洗浄するのにさらに手動で洗浄スイッチを押してあふれてしまったりというトラブルがあるのだそうだ。

「自宅では洗浄機能付きは使うけど、外では使わないという女性はとても多いので、洗浄機能付きそのものもいらないかもしれません」
へー、それは知らなかった。妻に後で言ったら
「私はそうよ。誰が使ったからわからないじゃないの」
とのこと。あのノズルはきれいだと思うのだが、多くの女性はそうは思わないらしい。

水曜日。
電気屋さんが来られた。
父が設置したエアコンを外しに来た。

「これ、かなり新品ですけど外していいんですか」
「施主さんは天かせにするから大丈夫」
電気屋さんと大工さんが話す。

父は2階で過ごすことが多く、結果として1階のエアコンはあまり使わなかったのだろう。
また、大工さんの事務所のエアコンが古くなっていると言っていたので、ちょうどそこで再利用していただくことにした。
天かせのエアコンは壊れやすく、また壊れると一日では直らないと、うちに出入りの電気屋さんが教えてくださった。壁掛け型のエアコンをそのまま使った方がいいとも。
しかし、お客さんへの風の通り道を考えた時、壁掛けだと座る場所によって条件が異なってしまうことがはっきりしていた。まぁ、壊れたら壊れたで「臨時休業」にして修理を名目に休養してもいい。個人店なのでそんないい加減さも大事にしたい。

厨房機器メーカー、ホシザキの担当の方がスチコンの試用をぜひと声をかけてくださった。藤沢にある営業所には試しに使える調理器具が用意されているという。
メニューがほぼ決まってきたので、食材を持参してそろそろどんなオペレーションで料理できるかを試してみようか。

===2019年6月6日===



近所の山崎農園。苗を植えてからすくすく野菜が育ち、胡瓜・ピーマン・水茄子が収穫でき始めた。胡瓜はポテサラに、ピーマンは醤油洗いに、水茄子は糠漬けに。小鉢のおつまみに変身する。2019年6月4日。

7953.6/5/2019

ここから…82

=スープ完成=
[4回目の試作]

中華料理全般の味を決めるベースとなるスープ。
2リットルの試作から始めて、今回で4回目になった。

今回は完成を目指して、これまでで最大の10リットルのスープを目指した。
まだお店ができていない段階で10リットルのスープを作って、保管や利用はどうするんだという問題を考えないでトライした。

A
鶏ガラ 6羽分
もみじ(鶏の脚) 6本(3羽分)
豚スペアリブ 600g(3本)
牛筋 328g

B
葱の頭 4本分
生姜 薄切り(皮つき)5枚
粒胡椒 少々
新玉葱 1個

水 10リットル

冷凍しておいたA材料を室温で解凍。
やや溶けてきたら鶏ガラを首と胴の半分で折り、3つに分けた。脂や血の取り残しを除去。溶け切っていないので取りやすかった。
豚スペアリブは20センチぐらいのあばら骨のままを購入。お店で
「切りましょうか?」
と言われたが、断った。
牛筋は300g程度を考えていたので、それに近いパック売りを探した。

普通の鍋で湯を沸かし、3つに分けた鶏ガラともみじを入れる。
肉の周囲が白濁したらすぐに出して、大きめのボウルに張った水でさらに洗う。

スペアリブと牛筋は10リットルの水を入れた寸胴鍋にそのまま入れる。
スープは水からとる。

洗った鶏ガラともみじを寸胴鍋に入れて強火にかける。
ここから時間を計った。
灰汁が出てきたら除去。
やや火を弱めて、葱の頭、生姜、粒胡椒を入れる。
ほとんど灰汁が出てこなくなったら、消えそうなほどの弱火にして煮出し続ける。
蒸発を抑えるため、蓋は少しだけずらして乗せておく。完全に蓋をすると逆に内部が高温になりすぎる。蓋を外すとどんどん蒸発が進んでしまう。

ここまででだいたい1時間。
400ミリリットルの水をさす。

これまでの試作で、だいたい1時間に400ミリリットルずつ蒸発していた。
そこで今回は1時間ごとに400ミリリットルの水をさすことにした。

2時間が経過。
弱火でスープ表面が安定していく。水をさす。

3時間が経過。
それまで表面に浮いていた鶏ガラが見えなくなる。底部に沈んでいったのだろう。水をさす。

4時間が経過。
豚や牛筋の脂が浮いていたのが消えていく。湯と乳化したのだろうか。透明感が増す。水をさす。

5時間が経過。
試しに肉をすくってみたらぼろぼろになっていたので、火を止めた。

最初は8時間を考えていたが、もう旨味が出きってしまったと判断した。

捨ててしまうものを先にすくい取る。
葱の頭、粒胡椒、玉葱、生姜、もみじ、鶏ガラ、スペアリブの骨。

スペアリブは5時間の煮出しで骨から肉がすっかり剥がれ落ちた。

30分ぐらいしてからスペアリブの肉と牛筋を取り出す。
これは味付けをして料理に使うので粗熱をとったら冷凍する。

寸胴鍋のスープは高温状態をキープするので、室温で一昼夜冷ました。

翌日になってから2リットルずつリードペーパーで濾しながらペットボトルなどに移し替えた。
最終的に10リットルの水が1時間ごとに400ミリリットルの水をさして、5時間で9.8リットルのスープになった。400ミリリットルのさし水は有効だった。

スペアリブを使ったのは豚骨のコクがほしかったからだ。
冷めたスープをなめてみて、想像以上にコクのあるスープができた。
沸騰させずに5時間、弱火で煮出す。
ずっと鍋のそばで様子を見続ける。
この対応を考える必要が生じた。

この鍋ならば5時間でなく、4時間で旨味は完全にとれていたのかもしれない。

===2019年6月5日===



中華スープは、日本料理の合わせ出汁であり、西洋料理のフォンドヴォー。これに味噌を入れるとちゃんと味噌汁になる。2019年6月4日。

7952.5/21/2019

ここから…81

=100日切り=

開店予定は9月1日。
あれよあれよと、6月になって3日になってしまった。

過日、大工さんと建築士さんが来られたときに
「8月10日頃にはキッチンが使えるようにしましょう」
と言っていた。お盆前に立ち上げるということだろう。

実際のキッチンを使って、近所の知人にモニタリング・テイストテストをしたいので、8月後半は試食の繰り返しになる。

そう考えると、メニュー開発はそろそろ終えて、調理方法や原価計算をしなければならない。
今日はいよいよ10リットルの水を使って最終的なスープ作りを始める。
これまでで最も長い8時間の煮出しをする。
20リットルの寸胴を買ったので、10リットルのスープ作りはかなり本番に近い。
2リットル、3リットル、5リットルと試作を重ねて、ここまで来た。
今回のスープ作りで、食堂オープン時の味にしていくつもりだ。

立ち飲みでお世話になっている酒屋さんが倉庫で眠っていた皿やコップをたくさんくださった。業者さんからのサービス品なのだそうだ。
小さなお皿サイズの蒸し器はスチームコンベクションで役立つ。
サッポロの名前が入ったジョッキは生ビールで使える。
定食に添える小鉢用の皿もあった。

準備をしてきた畑では、少しずつ収穫作業が始まった。
ジャガイモ、ニンニク、玉葱、胡瓜、ピーマンがどんどん玄関にたまっていく。
とくにニンニクと玉ねぎはネットに入れて干しているのだが、ものすごい匂いを玄関に発している。

===2019年6月3日===



無農薬畑、藤沢の俣野農園で「インカのめざめ」を収穫した。小粒で休眠期間が短いので農家はあまり扱わない。 2019年6月2日。

7951.6/2/2019

ここから…80

=モニタリング=

どんなに自分ではいいと思っても、料理を食べる人の感想は自分と同じとは限らない。
前回は息子夫婦を評価者にしてモニタリング・テイストテストを実施した。

今回は友人とシェアハウスで暮らしている娘の帰宅に合わせて行った。

メニューは「生姜焼き定食」

ほぼレシピが決まってきたメニューから定食化してテストしていく。

ご飯(大根皮と人参と油揚げの炒め物乗せ)
中華スープ
小鉢(糠漬けと塩タコ)
中華サラダ
生姜焼き

タコは今朝、鎌倉の海でとれたものを魚を仕入れる漁師さんが近隣で配り、それを調理したものを使った。

大根皮と人参と油揚げの炒め物乗せは、日本料理実習で試験対策で大根の桂剥きをしたときに大量に出る大根皮。その使い道として教わったものだが、炊きたてご飯に混ぜて食べた。これがとてもうまくて、家でもやったところ、大ヒットした。

ただし、炒めているので混ぜご飯にするとどうしてもご飯が油っこくなる。
そこで、ふりかけのように少量をご飯に乗せて、食べる人が自分でご飯と合わせてもらう方法にした。

見た目 4
分量 4
味 3
5点満点

意見

大根皮炒めでご飯がたくさん食べられる。
生姜焼きは味が薄い感じがした。
中華スープではなく味噌汁がいい。
糠漬けは苦手。

要望

ご飯と小鉢がおいしかった。
生姜焼きの味をグレードアップしてほしい。
生姜焼きにあうスープがいい。

なかなか厳しい意見だった。
しかし、一つ一つが大切な「磨き」だと受け止める。

確かに生姜焼きは日本発祥の定食メニューだから、汁は中華スープではなく味噌汁がしっくりくるのだろう。
味については、下味をしっかりつけたつもりだったが「塩」「醤油」「中華醤油」「酒」「砂糖」「みりん」などを工夫してみよう。おそらくもっとはっきりした味がほしいという意味なのだろう。

糠漬けが苦手な人はいるので、香の物にいつも糠漬けではいけない。
提供する前に確認するようにしよう。

小鉢の評価がよかったので、副菜を工夫することも大切だ。

===2019年6月2日===



メニュー開発で作った生姜焼き定食。私と妻で食べた時はちょうどよかった。若い人たちの味覚を意識するようにしよう。2019年5月28日。

7950.5/31/2019
ここから…79

=メニュー開発=
[ポテトサラダ]

家庭料理として定着しているポテトサラダ。
お金がとれる小鉢料理にするために考えたのは、食材を作ることだ。

主菜のジャガイモ。
これは「インカのめざめ」という特別なジャガイモを使う。
ポテトサラダはホクホクの食感にしたいので、水気の多いジャガイモは使わない。
インカのめざめは、北海道農業試験場による育成品種だ。
登録品種名は農林44号。
味や色はサツマイモに近い。
登録されたのは2001年3月と新しい。

平均の重さが50gの小ぶりなイモだ。
男爵イモよりもでんぷん価が高く、調理特性にも優れている。

独特の黄色い色素はゼアキサンチンと呼ばれるカロテノイド系色素。キタアカリの7倍も含まれている。
小ぶりで、休眠期間が短いので大規模栽培には適していない。そのため流通する生産量はとても少ない。
煮崩れしにくく、黄色い色が変色しないので、煮物、揚げ物、茹でに適している。

私は藤沢の俣野農園で、3月9日にインカのめざめを49粒植えた。
およそ90日で収穫できるので今週に入って試し掘りをしている。そして掘ったイモを使ってポテトサラダを作った。

材料
インカのめざめ 7個(300-350g)
きゅうり 1/2本
玉ねぎ 1/4個
ゆで玉子 2個分
ハム(薄切り) 2枚

マヨネーズ 60g(大4)
粒マスタード 小さじ1/2
塩 小さじ1/2
粗挽き黒胡椒 少々

1.皮をつけたまま水からインカのめざめを塩茹で
2.楊枝が通るぐらいまでしっかり茹でる
3.柔らかくなったらざる上げして、そのまま粗熱を取る
4.手で触れるぐらいになたっら皮を手でむく
5.冷蔵庫に入れて冷やす

しっかり冷やすことが大切。マヨネーズとの相性が良くなる。

6.玉ねぎときゅうりは、それぞれ薄切り
7.たて塩(3%の食塩水)に氷を一つかみ加え薄切りにしたきゅうりと玉ねぎを10分ほどひたす
8.ざる上げしたら両手でしっかりと水気をしぼる
9.ハムは1p弱の幅の短冊切り、卵を固ゆでにして、黄身も白身もすべて粗く刻んでく

卵は水に少量の酢を入れ割れて溶けだす白身を防ぐ。
水から卵を入れ、沸騰からきっちり13分間で取り出し、すぐ氷水に浸す。
卵白の硫化水素と卵黄の鉄が熱せられると15分で結びつき硫化第一鉄になり黒色変化するので、13分間で取り出すことが大事。
触れるようになったら殻をむく。

10.インカのめざめがまだ熱い状態だと、マヨネーズが分離してしまうので、しっかり冷ましてから味付けをする
11.ボウルにゆでたインカのめざめをいれ、マッシャーでつぶす
12.マヨネーズ、胡椒、マスタード、ゆで玉子を加える
13.ゆで玉子はマヨネーズだけだとコクが物足りないので、加えるとぐっと美味しくなる
14.粒マスタードは風味をほんの少しよくするための隠し味程度
15.きゅうり、玉ねぎ、ハムを加えて混ぜ、味見
16.全体的に味が薄ければマヨネーズを足し入れ、コクは十分あるけど塩気が足りないときは塩だけを加える
17.冷蔵庫で冷やし、盛り付ける時に好みで粗挽きの黒胡椒をたっぷり振りかけても美味しい

これで帝国ホテルのポテサラが完成する。

食堂では常備できないが作った時は、定食の添え小鉢や夜のおつまみにする。

===2019年5月31日===



インカのめざめと寿雀卵。ともに黄色が強い食材なので、ポテサラが鮮やかに仕上がった。 2019年5月28日。