top .. today .. index
過去のウエイ

7929.5/1/2019

ここから…58

===工事前===

開店までちょうど4ヶ月になった。
去年の今頃は新宿まで慣れない電車通学で汗を流していた。それを思うと感慨深い。
この1年間は、これまでの私の人生で大きな転換期だった。無職になり、学生になった。貯えだけで生活しなければならない。息子と娘が社会的に自立したので、妻との生活が成り立てば良かった。

教員33年目にもなれば、多くの仕事の段取りが見えていて、自分より若い方々がどんどん管理職になっていた。生涯、子どもたちに授業を教えたかったので管理職という選択肢はなかった。
それでも若い教員たちへ授業作りを教える役目を負い、支援が必要な子どもへの対応を検討する学校側の窓口にもなった。
毎月、安定的に給料をいただき、若いころに始めた住宅ローンは残りが少なくなっていた。

それらにすべて別れを告げた。
自分では「もうやり遂げた」という気持ちがとても強かった。

調理師の資格がとれる専門学校で、栄養や衛生、食品の特性を学び、連日の調理実習を経験した。オプションで開店を目指す人たちの講座も受講した。
たった1年間の学生生活だったが、大学の4年間よりも卒業後の自分にとって実りが多いものになった。親のお金で通った大学と、自分の貯えで通った専門学校では、意識が違ったのだろう。

ことしに入ってすぐに大工さんとの打ち合わせが始まった。
やがて調理メーカーの方を紹介され、調理器具の選定や配置を相談した。
専門学校を卒業してからは、調理器具を配置するラフ図面が届き、細かい修正を加えてキッチンの詳細図面が完成した。
そして先日、建築設計全般を担当する方を紹介され、いよいよ連休明けの7日から工事が始まることになった。

自宅敷地には私たち家族が住む住居と、父が住んでいた別棟がある。
おととし父が亡くなり、遺品の整理や相続手続きで最初の1年間は明け暮れた。
父は美術の教員だったので、画材や絵の具、作品がたくさん残っていた。生活必需品ではないので、捨てるのか、保管するのか、迷った。妹夫婦が伊豆の松崎で、近い将来にゲストハウスを始めるというので、その環境用にいくつかの作品を持って行った。
膨大な手紙や教育関係の資料(父は70歳まで学校に勤務した)、美術関係書籍、銀行や郵便局、市役所、電気会社、水道会社、電話会社などからの通知など、一つ一つ中身を確認して整理した。

それらの多くは父が寝起きをしていた2階に集中していた。
1階は父がキッチンとリビングとして使っていた。この部屋は父が亡くなった後、私の家族の物置代わりに変身していた。

美術大学に通った娘の日本画。畳サイズが基本なので、一畳もの、二畳もの(一坪分!)が壁に何枚も立てかけられていた。
アニメーション制作の仕事に就いた息子の脚本の数々。段ボールにぎっしり詰めたものだから、腰が抜けるかと思うほど重かった。

佐々木食堂は、この1階部分を改築して開業する。
住居なので、飲食店用に床部分を建物の基礎部分まで下げる。そのためには床をはがさなければならない。
物置と化していたので床があまり見えなかった。
専門学校を卒業して、ゆっくりする間もなく、私は4月のほとんどをかけてそれらを片づけた。

キッチンの引き出しからは、新品の塩や洗剤がたくさん出てきた。
同じものをいくつも買っていた。これは父の性格なのだろう。
冷蔵庫からは、干からびた梅干しやカピカピになった味噌。時々、年代物のワインや中国茶器セットなどのお宝も登場した。

===2019年5月1日===



工事前の店内。正面右側のドアは撤去されて壁になる。正面左側のサッシ戸も撤去され、こちら側が入り口のドアになる。床ははがして外面と同じ高さにして、お客さんが靴のまま段差を感じることなく入店できるようにする。 2019年4月30日。

7928.4/30/2019

ここから…57

===中華料理===

中華料理には数多くの調味料がある。
同じ醤油でも何種類もあり、料理によって使い分ける。
専門学校の実習で使われていた調味料をスーパーで探しても見つからなかった。中華街の専門店でも置いてないことが多く、特別な調味料は食堂では使えない。

日本で言う醤油のことを「抽(ちゃう)」と呼ぶ。

生抽(しょんちゃう)は、日本の濃口醤油に似ている。豆と小麦に麹と塩、水を加えて発酵・熟成させる。食文化の歴史を考えれば、大陸の醤油が日本に伝わって改良された。

たまり醤油は「老抽(らおちゃう)」と呼ぶ。これは調味料の専門店で「中国醤油」という名前で売っている。生抽にカラメルを加えたもの。色が濃く、コクがある。味付けではなく、色付けで使うことが多い。個人的にもよく使う醤油だ。食堂でもレギュラー使いする予定。

日本で言う酢のことを「醋(つう)」と呼ぶ。

黒醋(へいつう)は黒酢のこと。蒸したもち米と麦、麹などを原料に醸造・熟成される。上海ガニのつけ酢として使われる。黒醋は、ふつうのスーパーでも売られるようになった。色が濃いので味付けに食堂では使う。

中華調味料の大きな特徴に多種の油(ゆう)があげられる。
油脂に何らかの味付けをして調味料にしている。

葱油(つぉんゆう)は日本でも一般的だ。ラーメン店の隠し味に使っているところもある。油脂に葱を入れて熱し風味を移したもの。和え物の味にしたり、コクや香りをつけたり仕上げに加える。市販品は高いので、私は葱油は自分で作っている。

辣油(らぁゆう)も日本では多くの食堂で見かける。胡麻油に唐辛子の辛味を移したもの。完成した料理につけることもあるが、調理の過程で使うこともある。ラー油は自分で作れるが市販品の方が安くて便利だ。
ちなみに「食べるラー油」という商品があるが、辣油は調味料、しかも液体なので、具材のラー油漬けと言った方が正しい。

?油(はおゆう)はオイスターソースのこと。乾燥牡蠣を作るときのゆで汁を濃縮し、でんぷんや塩、砂糖を加えて作る。炒め物や煮込みに使う。

日本で言う味噌のことを「醤(じゃん)」と呼ぶ。

豆鼓醤(どぅちじゃん)はすりつぶした豆鼓に唐辛子味噌やニンニクを混ぜ合わせたもの。豆鼓は粒状の大豆発酵食品で、それだけでも調味料として使われている。
豆鼓醤は塩辛く、アミノ酸などの旨味成分を多く含んでいる。料理に深みやコクが出る。

甜麺醤(てぃえんめぇんじゃん)は回鍋肉の味付けとして日本では有名になった。小麦粉を水で練って蒸し、麹と塩を加えて発酵させた味噌。甘味が強く、粘りと旨味がある。香りもよく北京ダックのつけ味噌としても使われる。

豆板醤(どぅばんじゃん)。正しくは板の字は「瓣」。ソラマメを水につけて発芽させて蒸し、小麦粉と麹を混ぜて発酵させ唐辛子を加えて作る。強い辛味と塩気がある。四川料理には欠かせない。

XO醤は1980年代に香港で考案された。現在は日本でもスーパーで買える。干し貝、海老、ハム、ニンニクなどから作る。ブランデーの特級を表すXOが名前の由来。粥の薬味に使う。ご飯が進む。

沙茶醤(しゃあちぁじゃん)はサテソースとも呼ばれる。サテとはインドネシア語で串焼肉の意味。もともとはインドネシアやマレーシアの調味料。ピーナッツ、干し海老、ニンニクや葱、唐辛子や油などから作る。

炸醤(ぢゃあじゃん)は肉味噌のこと。豚の挽肉を炒めて老酒を加えて臭みを落とし、甜面醤で味と色をつけたもの。炒飯にも担々?にも野菜炒めにも使える。私はいつも大量に作り、冷蔵庫で保存している。

これらの調味料は常備しているので、食堂でもふだん使いしていく。
反対に化学調味料はおいしいが何が入っているかわからないので使わないようにしたい。しかし、飲食店の多くは化学調味料を多用しているので、お客さんが食べた時に「味が薄いなぁ」と感じてしまうかもしれない。

このほかに日本料理、インド料理、西洋料理の調味料を組み合わせて、佐々木食堂オリジナルの味を創造していきたい。

===2019年4月30日===



大根皮と人参皮の沙茶醤炒め。桂剥きをした大根と人参の皮を天日で干した。それを千切りにしてハムと油揚げ、蕪の茎とともに炒めた。味付けには沙茶醤の他にオイスターソース、日本酒、焼肉のたれを使っている。色付けに老抽を使った。2019年4月29日。

7927.4/29/2019

ここから…56

===中華料理===

料理名の法則。
中国語はもともと日本語と異なり、主語+動詞+述語という配列なので英語に近い。
だから中華料理の料理名は、読めば作り方や具材が分かる。

日本料理は縁起を重んじ、すり鉢は「掏り」を連想するというのであたり鉢と読み替える。しゃもじは「宮島」。薄口醤油は「淡口」。
これでは調理以前に言葉の学習が必要だ。

中華料理の料理名には大きく分けて8つの法則がある。

1.単純な調理法+主材料名
これがもっとも基本的なもので、多くの料理名になっている。
炸蝦球(ぢゃあしゃちゅう):炸(揚げる)蝦(えび)球(だんご)
「揚げた蝦団子」

2.複合的調理法+主材料名
調理法に修飾を加えて、より具体的、詳細に料理の特徴を表現する。
清蒸鮮魚(ちんぢょんしぇんゆい):清蒸(材料を皿に乗せ塩味主体であっさり味をつけて強火で蒸す)鮮魚(新鮮な魚)
「魚の姿蒸し」

3.材料名+調理法+材料名
2種類か、それ以上の食材を同じ方法で調理した料理。
酸菜炒肉片(すわんつぁいぢゃろぅぴぇん):酸菜(高菜)炒(炒める)肉片(豚肉)
「高菜と豚肉の炒め物」

4.材料名+材料名
ポピュラーな料理や出来上がりの予測がつきそうな料理は材料名だけを並べる。
青椒肉絲(ちんじゃぉろぅすぅ):青椒(ピーマン)肉絲(細切り肉)
「ピーマンと細切り肉の炒め物」

5.調味料または味付け+材料名
主に使う調味料や複合的な味付けを記して料理の特徴を示す。
?油牛肉(はおゆうにゅうろぅ):?油(オイスターソース)牛肉
「牛肉のオイスターソース炒め」

6.地名や人名+材料名
その料理を発明したり好んだりした人や、その料理が生まれた地名を冠する。
麻婆豆腐(まぁぼぉどうふぅ):麻婆(まーというおばちゃん)豆腐(豆腐料理)
「麻婆豆腐」

7.出来上がりを美しくたとえたもの
翡翠蝦仁(ふぇいつおぇいしゃれん):翡翠(緑色)蝦仁(むきエビ)
「むきエビと緑の野菜の炒め物」

8.特殊な調理法や来歴を示すもの
回鍋肉(ほえぃぐぉろぅ):回鍋(鍋を二回使いまわす)肉(豚肉)
「ゆで豚の味噌炒め辛子味噌風味」
いわゆるホイコウロウは、最初に豚肉を鍋で茹でる。それを切り分けてから鍋に戻して炒める。

日本語にしてしまうとなんだか解説のような料理名になってしまう。
お店ではお客さんに料理とセットになっている中国語の料理名もメニューで表記したい。
また食材を具体的に表記することはあまりないので、同じメニュー名で季節ごとに旬の食材を使うこともできる。
翡翠蝦仁(ふぇいつおぇいしゃれん)は、葉物野菜と海老の炒め物という意味だ。季節の葉物野菜と、その時期においしいエビを準備すれば一年中同じメニュー名が通る。

===2019年4月29日===



2019年4月24日。近所の山崎農園に胡瓜の苗を植えた。開店までに収穫は終わってしまうが、野菜作りの練習として育てる。来年の夏前にはお店でも使える。胡瓜は冷菜としても使うし、炒め物でも使う。

7926.4/28/2019

ここから…55

===中華料理===

中華料理は数千年の歴史がある。世界三大料理の一つだ。
昔からとても広いエリアをそれぞれの王朝が支配してきたので、一口に中華料理を言い表すことはできない。

[北方料理]

山東料理がルーツと言われている北京料理は、海に面する山東地方の料理人を北京の宮廷に使って発達した。
明王朝が倒れ、満州族の清王朝が支配した時代には満州族が好んだ羊や豚の肉が宮廷料理に取り入れられるようになった。
現在の北京料理には動物の肉を使った料理が多く使われ、人工的に飼育したアヒルで作る北京ダックが有名だ。
また、一日に一回は麺の料理を食べる人たちが多い。練った小麦粉の塊を削って沸騰した湯に落とす刀削麺がある。

[東方料理]

長江下流の江南地方と呼ばれる一帯では気候が温暖で四季がある。
土地が肥沃で中国有数の米どころでもある。海に近く大小の河川もあり、水産物に恵まれている。
現在では上海料理と呼ばれている。19世紀に諸外国に港を開き、世界の料理文化が流入した。
醤油や砂糖、酢を多用する特徴がある。紹興が近くにあり、老酒の醸造が盛んで、酒の肴になる料理も多い。
魚介類をそのまま調理できるため、鮮度を生かした、下味をつけないで煮る、炒めるなどの調理法が発達した。

[西方料理]

長江上流部、四川省一帯の地方は寒冷な高地で周囲を高山に囲まれている。
山々から流れ出る水が土を潤し、穀倉が豊富だ。良質な岩塩の産地があり、塩漬けなどの保存方法も発達した。
四川料理の特徴は食欲を刺激する辛さだ。寒冷な冬には体をあたため、暑い夏には食欲を増進させる。
辛さには、バリエーションもある。辛さ(辣)・しびれ(麻)・塩味(鹹)・甘味(甜)・酸味(酸)を複雑に混ぜ合わせた味を作る。
ご飯のおかずとして有名な麻婆豆腐、棒棒鶏、回鍋肉などがある。

[南方料理]

福建から広州にかけての沿岸部は高温多雨な土地で、食材広州と呼ばれるほど鮮度の高い水陸の産物に恵まれている。
広東は古くから貿易港として栄え、国内外から多くの所産物が往来した。
点心をつまみながらお茶を楽しむ飲茶が有名だ。
あっさり、歯ざわりがいい、滑らかで、味がよく、やわらかいことが広東料理の特徴だ。
トマトケチャップ、マヨネーズ、ウスターソースなども古くから使われていた。またオーブンを使う調理技術、パイやプリンなどの製菓技術も取り入れられている。
また乾貨(がんふぉ)と呼ばれる乾物も多く使われる。フカヒレ、アワビ、ツバメの巣、ナマコなどの乾物は調理に手間がかかるが、生に比べて旨味が凝縮され、とても好まれている。
福建省出身者が第二次世界大戦以降、台湾に渡り広めたのが台湾料理だ。

このように広い大陸の各地で、気候や風土に即した料理が発達した。
だから、大陸の緯度よりも高度にある日本列島でできる中華料理には限界がある。
そもそも鮮度のいい魚介類や野菜類が豊富な日本では、あまり味をつけたり、加熱する必要がないのだ。
また、日本の米と中華料理の米は異なり、同じ調理法でも違う料理になってしまう。

これらを考えながら、年間を通じて温暖な鎌倉という場所で提供できる中華料理を創造しよう。

===2019年4月28日===



私は焼き餃子がとても好きだ。中華料理店に行くとついつい頼んでしまう。餃子とチャーハンはお店の質を計るバロメーターと言われるほど、味や口当たりに特徴が出る。もともと中華料理での餃子は茹でて火を通す「水餃子」が一般的。蒸し餃子もある。たくさんの餃子を用意して、残ってしまったものを翌日に鉄板で焼いたのが焼き餃子だ。写真は、2019年4月21日中華街の食材店「公生和」の冷凍餃子。

7925.4/27/2019

ここから…54

===開店準備===

4月27日の木曜日。
大工さんがデザイン会社から設計の先生を連れてこられた。

すでに調理器具メーカーの方によって、キッチンの図面は出来上がっている。
キッチンは、シンクやコンロのように調理に不可欠な施設や器具が入る。
それぞれを別々にそろえると、高さや幅がまちまちになり、料理人が動きにくい。
だから、出面(でづら)をそろえ、可能な限り高さもそろえる工夫が必要になる。
それが調理器具メーカーの方との打ち合わせで、作り上げた図面だ。

店舗設計の先生は、それをもとにお店全体の図面を作成していく。

「このカウンターは400になっているけど、実際は厨房との間の間仕切り板の中央からだよね」

図面をよく見ると確かにカウンター幅の矢印は、間仕切り板の中央から始まっている。これでは板の厚みを400ミリから差し引かないと実際のカウンター幅が出てこない。

先生はバックから薄い定規がいくつも重なったようなものを出して、図面に合わせて計測する。
「間仕切りの幅が100だから、カウンター幅は50引いて、350だね。350だとだいぶ狭いカウンターになるなぁ」

大工さんが図面を覗く。
「でもね、カウンターをさらに大きくすると、お客さんと後ろの壁との距離が短くなって、端にあるトイレに行くのにとても窮屈になるです」

すでにスケルトンが出来上がっている建物を飲食店に改修するので、広さや高さなどの制約は否めない。

「確かになぁ、キッチンも620だからぎりぎりだし」

キッチンで料理人が動ける幅が620ミリなので、こちらをこれ以上狭くすることはできない。

「現場を見てみましょう」
大工さんの発案で、店舗予定の離れに行く。
先生はメジャーを出して、いくつかの計測をした。それを図面に書き取り、窓やドアの位置を確認した。

「これは一度、解体を先行して、どれだけ空間を広くとれるか決めて正確な図面を書くようにした方がいいかもしれないね」
大工さんが先生に確認する。

壁の内側にどれだけの空間が残されているかわからない。
電気屋さんとの打ち合わせでも、天井に埋め込むエアコンを入れるには30センチの天井裏の空間が必要とのことだった。
水道屋さんとの打ち合わせでは、排水を処理するグリストラップを設置するには床をはがして基礎がどこまで下がっているかを確認しないと大きさを決められないとのことだった。

お互いのスケジュールを確認して、5月7日。連休明けすぐに解体を先行することになった。
仕事を退職し、学校も卒業したので、4月からは毎日がゴールデンウイークみたいな生活だった。今日から始まる本式のゴールデンウイークでは、解体工事ができるように店舗空間を創り出す場所の片づけをすることになった。

===2019年4月27日===



中華包丁を使ってトマトを飾り切りした。これは専門学校で教わった技術だ。トマトを縦半分に切り、ヘタをとる。まな板に置いて、ヘタが付いていた側から薄切りを連続する。切るときに、包丁の先端をまな板につけて、トマトのへた側から一気に手前に引く。これを繰り返すとトマトがそのまままな板に残り、切り終わっても半球のままになる。それを包丁の腹を使って少しずつずらして円形にそろえる。包丁をよく研いであることが不可欠。2019年4月21日。

7924.4/26/2019

ここから…53

===開店準備===

4月24日の水曜日。
私は畑の師匠と近所に借りた農園にいた。
師匠が借りている農園の隣りを今年度食堂用に借りることができた。
ここは食堂から歩いて行ける距離なので、葉物のように収穫してすぐに生でも使えるような野菜を育てようと思う。

3月中に耕運し、苦土石灰・たい肥・化成肥料を入れておいた。
約1ヶ月経ち、それらが土になじんだ。
待ち合わせの畑に行くと師匠がすでにマルチシートを張っておいてくれた。

2本の畝がある。
1本の畝には胡瓜を植える。
その畝に師匠が支柱を立ててくれる。
私は余計な手出しをせず、必要な時だけいっしょにやった。
小雨が舞う中での作業だった。

その後、二人で横浜にある種苗店の「いざわ」に行った。
路地にたくさんの野菜や花の苗が並んでいた。
「ここのは大きくて丈夫で、しかも安くていい」
師匠のアドバイスを聞く。

私は夏すずみという胡瓜の苗を4つと、京ひかりというピーマンの苗を2つ、とげなしナスの苗を2つ、つるなしインゲンサクサク王子というインゲンの種を買った。

畑に戻ってそれぞれに苗つけをした。
師匠はすでに水ナスの苗つけを終えていた。もう一本の畝に買ってきた胡瓜の苗を植えつけていた。

広い畝に少しの苗を植えることよって、野菜はのびのびと育つそうだ。
そして、しっかりと根を張り、太い茎になり、長期に実をつけるという。
「胡瓜は夏前に終わっちまうけど、ナスとピーマンは9月の開店の頃もまだ取れると思うよ」
おー、これらが成長し、収穫する頃、具体的な開業が見えているのかぁ。

胡瓜は夏前に終わるが、野菜を育てて収穫するという練習を兼ねればいい。
これまでも小学校の小さな畑で野菜は育ててきた。それらを子どもたちと収穫して、調理して食べた。
しかし、今回はお客さんからお金をいただいても大丈夫な野菜を育てる。うどん粉病などのような病気を予防したり、水枯れを起こさないように水量を管理したり、仕事を習慣化しなければならない。

===2019年4月26日===



2019年4月24日。

7923.4/23/2019

ここから…52

===調理師免許証===

4月22日、月曜日。
私は車を走らせて鎌倉保健所へ行った。
鎌倉保健所は正式には「神奈川県鎌倉保健福祉センター」という。
だから、鎌倉市の行政機関ではない。

私が去年の4月から新宿の服部栄養専門学校へ通った大きな理由は、調理師免許の取得だった。卒業と同時に調理師免許がもらえるものと思っていたら大間違い。
調理師免許は都道府県が発行するものなので、専門学校単位では発行しない。
調理師法という法律に規定された条件をクリアしたことを証明する書類を神奈川県に提出することによって、各地域の保健所を経由して受領することができる。

専門学校の卒業の時にもらった複数の書類を持って3月22日に鎌倉保健所で申請した。
ほぼ同じ時期に東京で申請した仲間から、免許が届いたという連絡があったが、神奈川県からはちっとも返事がなかった。
4月中旬過ぎからは、気にしていないようで気になって、ついついポストを開けて中を確かめてしまった。

週末の金曜日、19日に保健所からの呼び出しの葉書が届いた。
免許が届いたので受け取りに来るようにとのこと。
わくわくしたら、20日と21日は週末で保健所は休み。月曜になって満を持して乗り込んだ。

事務所のドアを開けて食品衛生課のしまを見渡す。女性の方が気づいてくださり席へ案内してくれた。葉書を渡しながら言う。
「調理師免許を受け取りに来ました」

この日、この瞬間のために昨年の一年間があったと言ってもいい。

授業料や往復の交通費、飲み会の費用などを全部足すと、この免許証一枚はとても高価な一枚だ。

受け取りの欄に認印を押して手続きは完了。かんたんなものだ。

その足で近所の額縁専門店へ行く。
卒業以来、数回購入しているのでご主人が私を覚えていた。
「日本中国料理協会賞」「食育インストラクター3級」「技術検定合格証」などなど、額装をお願いした。

「お、いよいよですね」
ご主人は免許証を広げてひと言。
「お店に飾るんでしょう」
「はい」
「では、万が一落ちても割れないようにガラスではなくアクリルにしましょう。額はあまり仰々しくないのがいいな」
私は言われるままに相槌を打つ。
額の中にマットというのを入れて、立体的にしてくれた。

自宅に持ち帰り、とりあえずリビングの壁にかけた。
ついつい新聞を読んでいても、テレビを見ていても、晩酌をしていても、壁の免許証に目が行ってしまった。

さぁ、気持ちも体も引き締めよう。

===2019年4月23日===



2019年4月22日。神奈川県は4月に県知事選挙があった。だれが県知事になるかによって、免許証の知事名が変わっていた。だから発行事務が遅れたのかな?

7922.4/22/2019

ここから…51

===工事準備===

店は自宅の一部を改築して開業する。
これまでは自宅は完全なプライベート空間だったが、開業した後は、自宅部分もお客さんの目に留まる。
老朽化したウッドデッキや物置小屋など、お客さんに不快な思いを与えないように、全面的に改修することにした。
また素人作業で剪定してきた庭の樹木もプロの植木屋さんに入っていただき、見るに耐えられるものへ景観を整えることにした。

22日の早朝から、ウッドデッキ工事の業者さんが来られた。
すでに図面の相談や見積もりは終えていたので、今日と明日の二日間で完成するという。自宅を建築した時に家族でウッドデッキを手作りした時は一週間以上かかったのに、さすがはプロだ。
材木は腐食しにくい密度の濃いものを使う。薄手のものは耐久性が弱いというので、厚手のものをお願いした。4月から値上がりするというので3月中に原木を確保していただいた。

デッキの改修に伴って周辺はデッキの下に落ちて取り出せなくなっていたゴミも回収してくださる。
「お店部分の不要なゴミも持っていきますよ」
大工さんからありがたい言葉をいただき、ここぞとばかりに4月に入ってから父の住居だった部屋の片づけをした。

自宅に隣接する父の住居だった増築部分は2階建てだ。
2階部分は父が寝起きしていた書斎だった。こちらは昨年までにほとんど片づけて不要なものは処分していた。
しかし、実際にお店として活用する予定の1階部分は手つかずに残っていた。

使い残しの洗剤や調味料が続々と登場。
父が亡くなって今年の6月で三回忌だというのに、引き出しの中は父が生きていた当時の空気が充満していた。
台所のシンクしたの引き出しからは、古いワインが出てきた。栓がしたままの新品だった。一本は国産の2003年もの。もう一本はフランス産の1995年もの。保管状態が悪かったので、おいしいかどうかはわからないが、とりあえず冷蔵庫に入れた。
連休にお客さんが来られるときに、サプライズで提供してみよう。

父母は50代前半に、二人で台湾で三年間を過ごした。
台北にある日本人学校に父が赴任したからだ。
その三年間、美術専攻の父は故宮博物館に入りびたりだったようだ。
築地生まれで社交の達人だった母は、日本人会でも町の屋台でも地力を発揮して友人をたくさん作った。
当時、工芸品や美術品を購入しては日本に船便でせっせと送ってきた。
父母が不在中、祖父の面倒を見ながら実家に住んでいた私たち家族は、船便で送られてくる台湾の品物をあちこちにしまった。

今回、父のキッチンを片づけていたら当時の工芸品が複数登場した。
5月から一人暮らしを始める娘はその中から黒檀でできた立派な食器棚をゲットした。
私は中国茶器セットが二つも出てきたので、それらをお店のインテリアに使おうと思った。本格的な中国茶をお客さんに提供するというのもいい。しかし、中国茶はとても茶葉の値段が高いので、定食屋の飲み物としてはふさわしくないかもしれない。

いわゆるウーロン茶が中国茶と思われがちだが、実際は違う。
中国茶は複数あり、プーアル茶や凍頂烏龍茶、紅茶、ジャスミンティーなど多様だ。もっとも希少な黄茶は100グラム数万円のものもある。

大きな特徴として、最初の一煎目は飲まないで捨てるものもある。ただし、紅茶や日本茶と違って、だいたいお湯を継ぎ足して7回ぐらいは飲んでも味わえる。

中国茶は、発酵させない日本茶と完全発酵の紅茶の中間に位置する半発酵という製法で作られる。
油っこい料理が多い中華料理のお茶として、脂肪の吸収を抑える効果がある。さらに口中をすっきりさせることもできる。

そんなことを考えながらの「片づけ」は、もはや手が止まり、器を片手に「夢見る親父」。ちっとも作業が進まなかった。

===2019年4月22日===



2019年4月20日。庭のレモンはまったく肥料も虫よけもせず自由に育っている。ここ数年は毎年150個以上実をつける。今冬は180個を記録した。その中のいくつかをレモン酒として漬け込んでいる。秋までに熟成させ、夜の部のメニューに加える。4月に入り温かい日が続いたら、若葉が伸びていた。

7921.4/21/2019

ここから…50

===電気と水道===

4月19日。午前中に電気屋さんが、午後に水道屋さんが来られた。
お二人とも大工さんからの紹介だ。
大工さんというのは、大きな仕事のかなめにいるのだなぁと感心する。

電気屋さんとは図面をもとにブレーカーの位置をどこにするかから検討を始めた。
もともと父の住居だったので飲食店用の電気配線もブレーカー配置も考慮されていない。
現在の場所ではホール(客席)側にブレーカーが丸出しになる。

「最後に佐々木さんが店の電気を消して出ていく場所はどこですか?」
一日の仕事を終えて出ていく。
なるほどそういう視点で考えてこなかった。
「あっちの仕入れドアから出て行きます」
「では、そこにブレーカーを設置すれば、出て行くときに全部の電源を落とせますね」たくさん電力を使う器材を入れる。漏電や引火を防ぐために電源を落とすことが必要だと知る。

「お客さんが見るテレビは入れますか?」
「いえ、いれません」
視覚情報が分散すると、落ち着いて食べたいお客さんの気持ちを削いでしまう。
「でも、BGMは流したいんです」
「では有線放送を入れらるようにしましょう」
大工さんと調理器具メーカーの方との最初の段階の打ち合わせでは出てこなかった具体的なことが決まっていく。

電気屋さんが大工さんに図面を見ながらエアコンについて確認している。
現在のものは一般家庭向けの壁掛けエアコンだ。まだ十分に使える。しかし、今回の改築で取り外し、天井に埋め込むかたちのエアコンを予定していた。
「天かせ(というらしい)の冷気は天井を伝ってしまうので、もしかしたら中華の換気扇が吸ってしまうかもしれませんね」
換気扇が冷気を吸ったら店内は涼しくならない。まぁ中華の店なのでギンギンに冷えた店を期待されても困るのだが。

外に出て看板の位置を確認する。
「電源は外にありますか?」
確か、増築(父は後から来たので元の家に増築した)したときにつけた記憶があった。壁際の樹木をどけると電源が出てきた。
「ちょうどいい。これを看板照明用に使いましょう。同時に道路に面したところに小さな看板を設置してそこにも照明をつけましょう」
まだ、看板に使うロゴが決まっていないのだが、どんな看板にするかを考えなければ。
午後に来られた水道屋さん。
「メーターはどこにありますかね」
母屋のメーターはわかったが、増築部分のメーターが見つからないという。
私もいっしょに砂利をどけて探したが見つからない。
でも水道料金の請求は別に来ているので、水道管がいっしょということはない。
大工さんも少し焦っていた。
「なるほど」
水道屋さんが何かに気づいたようで、表玄関の方に行くと、そこに2つのメーターがあった。
「おそらくここにメーターをつけて、床下に水道管を入れているのでしょう。工事をして探してみます」
店に引かれる水道管がどこから来ているのかさえ、私は知らなかった。

「グリストラップはどこに設置しますか?」
「仕入れ口があそこなので、その近くに設置したいです」
私は専門学校の食品衛生学で飲食店の開業にはグリストラップの設置が必要と教わった。だからてっきり食品衛生法が規定しているものだと思い込んでいた。

しかし調べると「アーキクラウド」のホームページに次のような記述があった。
------引用------
グリストラップの設置基準には「下水道法」「水質汚濁防止法」「建築基準法」が関係していて、建設省(今の国土交通省)では下記のような告示が出されています。
”汚水が油脂、ガソリン、土砂その他排水のための配管設備の機能を著しく妨げ、又は排水のための配管設備を損傷するおそれがある物を含む場合においては、有効な位置に阻集器を設けること。”(建設省告示第1597号より)
------引用ここまで------

厚生労働省の管轄ではなく、国道交通省の管轄だった。

また「厨房のお医者さん」のホームページには次のように記述されている。
------引用------
法令上グリストラップの設置は義務とされているが、義務とするための明確な適用基準は定められていない。
一般的な飲食店には、排水の水質基準は適用されない。
ただし、地域によって設置義務や排水基準が異なるため、自治体の下水道課に必ず問い合わせること。
厨房業務をおこなう事業者は、法令にかかわらず、社会的観点からグリストラップの設置が望まれる。
------引用ここまで------

つまり飲食店ではグリストラップの設置は厳密にいうと義務付けられていない。
しかし、下水に調理由来の油や汚れを一般家庭よりも大量に排出するので、それらを除去する装置を店側で設置することが望ましいという、あいまいな決まりになっている。
また自治体によって決まりが異なるそうなので、念には念を入れておいた方がいいだろう。

===2019年4月21日===



2019年4月20日。横浜中華街の食器や調理器具の専門店「照宝」で蒸籠と中華用まな板を購入した。まな板は注文販売だた。直径40センチ、高さ10センチのまな板を買った。とても重く、大きな中華包丁でがんがん肉や魚をたたいてもびくともしない気がした。

7920.4/17/2019
ここから…49

===メニュー開発[油烹法..3]===

中華料理と言えば、水溶き片栗粉で餡を作るイメージが強い。
日本では「あんかけ」と呼ばれる。
中華料理では炸溜ぢゃありゅうと呼ぶ。

揚げた材料に餡をかけたり、からませたりする。
鯉の丸揚げあんかけ、酢豚などが代表的な料理だ。
あんには甘酢餡、醤油餡、塩味餡、ケチャップ餡などがある。

炸溜ぢゃありゅうは、揚げた材料ばかりでなく、火を通した材料に餡をからませる滑溜やゆでたり蒸したりした材料に餡をかける軟溜などの料理法がある。

炒める(炒・ちゃお)と揚げる(炸・ぢゃあ)とは別に焼くという調理法がある。
焼き方によって3つのバリエーションがある。

1..煎ぢぇん:少量の油で材料の両面をじっくりきつね色になるまで煎り焼く。外側はかりっと香ばしく中はやわらかい。かに玉はこの料理法で作る。実習では、片面をしっかり焼きつけて、一気に天地をひっくり返した。

2..貼てぃえ:少量の油で材料の片面だけをじっくり焼く。底を香ばしく仕上げる。焼き餃子はこの料理法で作る。ちなみに中華料理で餃子といえば水餃子や蒸し餃子のこと。余った餃子を翌日の朝に焼いて食べたのが焼き餃子。

3..烙らお:主に小麦粉などで練って作った食品を鍋や鉄板で焼く調理法。

炒める、揚げる、焼くを組み合わせた調理法も発展している。
さらに油ではなく水分を使って加熱する水烹法もある。

あらかじめ下処理した材料を煮込む調理法を焼しゃおと呼ぶ。
焼く料理方法を「煎・貼・烙」と呼び、煮る料理方法を焼しゃおと呼ぶのでややこしい。
焼しゃおでは、仕上げに水溶き片栗粉でとろみをつけることが多い。
これは炸溜ぢゃありゅうとは違い、煮込んでいるスープそのものに水溶き片栗粉でとろみをつけるので、勾?ごうちぇんと呼ぶ。
材料と煮汁の一体感を出して、舌触りを滑らかにする。また料理の保温性を高める。

焼しゃおには5つのバリエーションがある。

1..紅焼ほんしゃお:味付けに醤油を使って煮込む。
2..白焼ばいしゃお:塩で調理して白っぽく仕上げた煮込み。
3..乾焼がんしゃお:煮詰めて煮汁を少なく仕上げる。勾?ごうちぇんしない。
4..葱焼つぉんしゃお:葱をたっぷり使った醤油煮込み。
5..醤焼じゃんしゃお:味噌類を使た煮込み。

===2019年4月17日===



2019年4月10日。伊豆まつざき荘の夕飯。イサキ、アジ、ハマチなどのお造り。イサキとアジが同じお皿に尾頭付きで乗っていて驚いた。