6039.11/7/2008
創り出す会の足音...No.84
2004年4月1日 湘南憧学校開校
湘南憧運営委員会の発足により、開校準備会は終了し、役割を移行した。
2003年秋、チャータースクール推進センターは日韓合同のオルタナティブイベントで忙しかった。特区提案に関する文部科学省からの返事は、わたしたちの期待に添うものではなかった。
翌年の春を開校目標にした湘南憧学校。その開校が迫ってきた。しかし、メンバーの間では、それが本当に自分たちがやりたかったことなのかという意見も聞かれた。
2003年12月26日の第77回定例会では、そのことに2時間以上の時間をかけた。
定例会の記録より。
「●湘南憧学校に関する検討
今回は湘南憧学校の開校場所を2004年度の予算書をもとに検討するつもりでした。しかし、意見のなかから「メンバーのなかに平日開校へのコンセンサスが図られているかどうかをもう一度確認してみては」という提起があり、原点に戻った話し合いに時間をかけました。
●土曜学校の展望
8月の定例会から、次年度の湘南小学校をどうするかという検討を始めました。そのなかで1999年のテストマッチ開校以来、学びのなかみを子どもが決める教育スタイルの実践は相当の積み上げがなされ、今後も同様の方法で進めるよりも、一歩上の段階へとシフトする時期になったのではないかという確認がされました。
一歩上の段階とは、継続的な湘南小学校の開校です。
それには有給固定のスタッフによる平日開校がふさわしいという結論に達していました。しかし、そのための資産が当会には不足しています。そこで、土曜学校を開校し、そこから得られる収入を平日開校にまわせたらと考えました。
また、いままで土曜学校に子どもを通わせてくれている人たちとのつながりを大事にしたいという願いもありました。
●継続的な湘南憧学校
テストマッチ、夢キャンなど連続5日間の湘南小学校は、わたしたちが目指す学校のいわば一週間の姿でした。これに対して、湘南小学校2002、2003は開校日数を大幅に増やし、子どもたちにかかわるスタッフのノウハウや力量を高める目的がありました。
これらの経験を、1999年から5年間継続してきた結果、もっと連続した湘南小学校の開校によって、わたしたちがかつて「湘南小学校の四季」でイメージした理想の姿へと近づけるために構想したのが湘南憧学校です。
6038.11/6/2008
創り出す会の足音...No.83
2004年4月1日 湘南憧学校開校
定例会の合間に開校準備会を開き、通年開校に向けての具体的ななかみがかなり練りあがってきた。
2003年10月24日の第75回定例会の記録より。
「☆ 事業名……
定款上 ; 模擬学校
申請上 ; 自発的な学びを支援する新しい教育プログラムの創造事業
通 称 ; 湘南憧学校
☆ 事業の目的……
「子どもは、自らの好奇心を中心にして、学びを創造する力がある」という子ども観にたち、従来の教授中心の学校教育から、探求中心の学校創造を目的とする。そのために、平日の昼間にテストスクールを開校し、有償で常勤の支援者(教師)を配置し、子ども自らが学びのなかみを決め、決めたなかみを実践する教育プログラムを行う。子どもたちの周囲に配置する情報の取捨選択、困ったときの対処、計画通りにいかないときの軌道修正のアドバイス、学びの発展と応用への支援、学びを実行するために必要な知識や技術の指導、興味を持続するテキストの開発を行い、自分の生き方に責任をもつことのできる子どもの育成を目指す。
☆ 事業の内容……
運営主体 ; 特定非営利活動法人 湘南に新しい公立学校を創り出す会
事業主体 ; 湘南憧運営委員会
湘南憧運営委員会
・ 運営統括者(理事長)……包括的な業務の責任者
・ 運営委員長(校長・教頭)……具体的な業務の責任者(独自職として)
・ 事務担当者……全体的な運営事務に関する業務責任者
・ 財務担当者……収入と支出の管理及び使用責任者
・ 常勤教師……子どもの支援を担当し本事業の具体的中核を担う
・ 非常勤教師……常勤教師を補佐し、子どもの支援を担う
・ 渉外担当者……学校経営にかかわる渉外を担う
・ 運営委員……無認可状態から認可状態への移行を目指す
実施日程 ; 2004.4から2005.3までの平日・合計120日間
一週あたり三日間を予定。曜日は月・水・金
オプションタイムを随時導入する
プレゼンテーションを年に二回開催する」
6037.11/5/2008
創り出す会の足音...No.82
2004年4月1日 湘南憧学校開校
2003年8月22日の第73回定例会で、湘南小学校の通年開校を目指す準備会が設立された。
「湘南小学校の開校をめざすため、検討と実務を担当しています。
今年の四月からの検討で、いよいよ湘南小学校を開校した場合の経費について概算を出す段階になりました。チャータースクールとして開校する場合も、それまでのステップとしてフリースクールとして開校する場合も、だいたいどれぐらいの経費がかかるのかということを、根拠を示して用意しておくことはこれから必要になります。それらについての検討を8/30の準備会で行います。」(定例会の記録より)
2003年9月26日の第74回定例会で、より具体的な検討を行った。
「わたしたちは、2001年9月から定期的な湘南小学校を開校してきました。とくに2002年度と2003年度は、土曜日を使っていままで以上に多くの開校を継続しています。毎回、定員を超える応募があることを考えると、湘南小学校の教育を望む子どもたちがいることがわかります。
ただ、昨年度と今年度の経験から、土曜日だからこそ応募してきている子どもがいることがわかってきました。
湘南小学校の教育理念を理解していないわけではないと思いますが、週末に子どもを預ける機関としての役割が、湘南小学校に期待されるようになってしまったのかなと反省しています。
わたしたちは、平日の昼間に開校する学校作りを目指しています。学びのなかみを子どもが決めるやり方は、これまでの湘南小学校の経験から、スタッフの工夫により、とても確立してきました。次年度は、思い切って、より理想に近い平日の開校へと乗り出してもいいのではないかと思っています。
提案1
来年度も湘南小学校を開校する。
検討した結果、満場一致で了承されました。
提案2
開校日は、平日の昼間の時間帯を使う。
スタッフは有給で、湘南に新しい公立学校を創り出す会が給料を支払う。
費用の負担分として、授業料を徴収する。
場所は、藤沢駅に近い安価な場所を探す。
場所の関係と確保できるスタッフの関係から、当初の定員は現在よりも大幅に少なくする。
HさんとYさんが常勤として平日開校の湘南小学校で働くことを了承してくれています。
参加者の言葉より……
土曜日開校三年はモチベーションがあがらない。大阪も来年からは平日開校をするとのこと。これからのことを考えると、平日に開校する実績を残していくことが大切である。(I)
いままで参加してきてくれた人たちが平日開校になったとき「あえて平日開校になっても参加させる」と思えばいいけれど、実際にはそうではないだろう。来年の参加者は現実的には、不登校の子どもたちになる可能性がある。(H)
不登校の子どもたちが来る可能性があるので、湘南小学校をめざす人たちが集まらなくなるかもしれない。(K)
スタッフ、子ども、親が三位一体になって作り上げることを基本にしていきたい。(K)
入学に際して、親と湘南小学校が契約書を作成してはいかがか。(Y)
平日に開校する。
土曜日は湘南小学校を支える事業として存続する。(K)
春からの二本立ては苦しい。(H)
土曜日の開校はやるとしたら秋以降に。(Y)
開校準備会のMさんの調査によって、湘南小学校を開校するのにふさわしい候補地が参加者に紹介されました。これらのなかから、もっともふさわしい場所を決定しました。
これから相手との交渉に入り、正式に契約を交わし終えた時点で、詳しいことはお知らせしていきます。
検討結果……
具体的な内容として、わたしたちは湘南小学校の場所の候補地と、常勤スタッフ2人を決定しました。
土曜日に湘南小学校を現在のように開校するかどうかは、まだ最終的な結論には達していません。ただし、平日の湘南小学校にかかわる人たちが、土曜日の湘南小学校にもかかわるというのは、実質的には難しいことだけは確かです。
この検討結果を受けて、具体的なプランを10月25日の「湘南小学校開校準備会」で作成したいと思います。都合のつく方は、ご参加ください。
[湘南小学校開校準備会]
10月25日(土)15:00-18:00 鎌倉「ちんや食堂」にて」
6036.11/3/2008
創り出す会の足音...No.81
2004年4月1日 湘南憧学校開校
H 提案理由
・現状の規制の問題点、規制の特例を適用しなければ事業の実施ができないとする根拠(必要性)を明確にすること。
・これまでに事業の実施を断念した事例があるなど、提案に至った経緯を明確にすること。
¢ 実験学校の教職員としてふさわしいのは、その学校で実施しようとする新しい教育内容・カリキュラム・運営方法等に賛同し、またそれを実現しようという熱意にあふれた人間でなければならない。そうした教職員が集まって初めて、目的も達成しうる。
そのためには、地方独立行政法人の理事長(学校長)に人事権がなければならない。
あちらこちらの学校へ数年ごとに転属させられる今の制度では、公立学校の教職員の学校に対する帰属意識や学校をより良くしようという貢献意欲などが高まらないのも当然と言える。
I 根拠法令等
・規制の根拠、又は改正すべきであると考える法令等の名称及び該当条項等を記入すること。
・該当法令等の法律、政令、省令、通達、告示の別が分かるようにすること。
¢ 地方教育行政の組織及び運営に関する法律 第37条 :県費負担教職員の任命権は、都道府県委員会に属する。
K代替措置の内容
・特例の適用にあたって代替措置を講ずる場合、その代替措置の内容、責任主体等を記入すること。
¢ 教職員の異動希望に基づいた、地方独立行政法人立学校への人事権を地方独立行政法人の理事長に与える代償として、異動した教職員の給与は、元の給与の1-2割程度の減とする。
これにより、「誰でも気軽に異動できる」ということもなくなり、かつまた経費(教職員給与)削減にもなる。
L その他(特記事項)
・具体的な事業の実施内容、提案理由を補強する資料(新聞記事、研究会報告書等)がある場合は、添付資料として提出すること。その際、本欄において、添付資料の項目を列挙すること。
・他の規制の特例事項と一体的に実施されることにより効果を発揮する場合など、他の規制の特例を用いた事業等との関係を記入すること。
¢ 前項および前々項の提案と一緒に実施される必要がある。
6035.11/2/2008
創り出す会の足音...No.80
2004年4月1日 湘南憧学校開校
K代替措置の内容
・特例の適用にあたって代替措置を講ずる場合、その代替措置の内容、責任主体等を記入すること。
¢ 「県費負担教職員の増員とそれに伴う追加の予算措置が必要」と思われるかもしれないが、一般の公立学校に通っていた子どもがこの学校に移ってくるのであるから、それにあわせて教職員も他の学校から異動してくるものと考えれば、基本的には新規の任用は必要ないと考える。
とはいえ実際には、学校が新たに一つ増えるのであるから、全ての教職員をすでに任用している県費負担教職員でのみ賄おうとすると、若干の不足を見るものと思われる。そこで、設置者の地方独立行政法人が、その不足分、もしくは必要だと考える人員を独自に雇用することとする。
L その他(特記事項)
・具体的な事業の実施内容、提案理由を補強する資料(新聞記事、研究会報告書等)がある場合は、添付資料として提出すること。その際、本欄において、添付資料の項目を列挙すること。
・他の規制の特例事項と一体的に実施されることにより効果を発揮する場合など、他の規制の特例を用いた事業等との関係を記入すること。
¢ 前項および次項の提案と一緒に実施される必要がある
D 規制の特例事項(事項名)
提案する規制の特例事項の内容を端的に示す事項名とすること( 最大3 0 字程度)
県費負担教職員の人事権の地方独立行政法人理事長への付与
F 規制の特例事項の内容
・規制の特例事項の提案内容を記入すること。
・規制を撤廃する提案であるのか、数量等を緩和する提案であるのか、明確にすること。(数量等の緩和については、どこまで緩和する必要があるのかを明確にすること)
" 地方独立行政法人立の小中高等学校に配置する県費負担教職員の人事権を地方独立行政法人の理事長に与える
G 具体的事業の実施内容
・規制の特例を用いて実施しようとする具体的事業の内容をその効果を含め、記入すること。
¢ 地方独立行政法人立小・中・高等 実験学校の、新しい学校創りのアイデアを持った校長が、希望する県費負担教職員の中から、自分の描く学校像を理解し、それに合致した意欲ある教職員を集める。
これによって教職員の意識や意欲も高まり、良い学校をつくる原動力となる。
6034.11/1/2008
加賀恭一郎...4
最後に、わたしが読んだ加賀恭一郎シリーズについて、短い解説を紹介する。
「卒業―雪月花殺人ゲーム」。
7人の大学4年生が秋を迎え、就職、恋愛に忙しい季節。ある日、祥子が自室で死んだ。部屋は密室、自殺か、他殺か?心やさしき大学生名探偵・加賀恭一郎は、祥子が残した日記を手掛りに死の謎を追求する。しかし、第2の事件はさらに異常なものだった。茶道の作法の中に秘められた殺人ゲームの真相は!?(書籍を紹介するホームページより引用)
「眠りの森」。
バレー団を舞台にした殺人事件が発生した。死亡したのはバレー団とは無縁な男。数日後には恋人とのアメリカ旅行が予定されていた。容疑者はすぐに判明したが、正当防衛を主張する。徹底的に事件の背景と物的証拠を収集し、強盗事件の裏を見抜く加賀恭一郎の頭脳が冴える。(私見)
「どちらかが彼女を殺した」。
殺された妹の復讐を誓う兄、彼を止めようとする刑事、そして2人の容疑者の緊迫した駆け引きを描く。推理小説であるにもかかわらず、結末で犯人がはっきり明かされない。事件自体はシンプルなもので、容疑者もたった2人に絞られているのだが、犯人の名が明かされぬまま終幕を迎える。
講談社ノベルスからの初版が出た直後、編集部に犯人が誰かについての問い合わせが殺到した。これを受けて文庫化の際、西上心太による袋綴じの解説がついた。ただし、ここでも犯人の名前は直接書かれていない。
文庫化の際、本文中のある重要な記述を削ったため、読者にとってはさらに難易度が上がったものとなっている。
この作品は、『名探偵の掟』において作者が行った犯人当て小説批判に対する答えとして書かれている。(書籍を紹介するホームページより引用)
「私が彼を殺した」。
脚本家の穂高誠が、結婚式当日に毒殺された。容疑者は被害者のマネージャー、花嫁の兄、敏腕編集者の3人。事件後、3人は密かに述解する。『私が彼を殺したのだ』、と―。(書籍を紹介するホームページより引用)
「嘘をもうひとつだけ」。
バレエ団の事務員が自宅マンションのバルコニーから転落、死亡した。事件は自殺で処理の方向に向かっている。だが、同じマンションに住む元プリマ・バレリーナのもとに1人の刑事がやってきた。彼女には殺人動機はなく、疑わしい点はなにもないはずだ。ところが……。人間の悲哀を描く新しい形のミステリー。
・嘘をもうひとつだけ・・・自宅マンションのバルコニーから転落死したのは、元バレリーナだった。
・冷たい灼熱・・・洋次が、仕事から帰ると、家の中には、妻の死体が。そして、まもなく1才になる息子の姿も消えていた。
・第二の希望・・・娘をオリンピックの体操選手にするために一心に頑張ってきた真智子の家に、死体が一つ・・・
・狂った計算・・・夫を事故でなくした奈央子は、毎日、菊とマーガレットを花屋で買ってゆく。
・友の助言・・・友達に会いに行く途中萩原は、運転中に急に眠気が差して、事故を起こしてしまった。
練馬警察署の加賀刑事の勘が冴え渡る、嘘の絡んだ6つの事件。
突然起きた事故や、事件なのに、みんな自分を守るために必死につく嘘。
私だったら、こんなにうまく嘘をつけるかしら・・・?
きっと、ただただ、慌てふためいて、何も思い浮かばないと思う・・・。(書籍を紹介するホームページより引用)
6033.10/30/2008
加賀恭一郎...3
調べたら、加賀恭一郎シリーズは7冊もあった。
出版社や東野さんには悪いが、わたしはおもに文庫を買うので単行本は入手していない。
・卒業―雪月花殺人ゲーム(1986年講談社刊、1989年講談社文庫刊)★
・眠りの森(1989年講談社刊、1992年講談社文庫刊)★
・どちらかが彼女を殺した(1996年講談社ノベルス刊、1999年講談社文庫刊)★
・悪意(1996年葉社刊、2000年講談社ノベルス刊、2001年講談社文庫刊)
・私が彼を殺した(1999年講談社ノベルス刊、2002年講談社文庫刊)
・嘘をもうひとつだけ(2000年講談社刊、2003年講談社文庫刊)
・赤い指(2006年講談社刊)★
★は書き下ろしだそうだ。
このうち、ゲットしたのは、卒業・眠りの森・どちらが彼女を殺した・私が彼を殺した・嘘をもうひとつだけの5冊だ。
まず、卒業を読んであれっと思った。
刑事である加賀恭一郎が登場するのかと思ったら、加賀恭一郎は大学生として登場する。しかも、警察官になるのではなく教師を志している。その姿勢は、物語の最後まで変化しない。これでは、将来、加賀恭一郎は教師になるのだろうと思って読み終えたひとも多いだろう。1986年に初版。文庫化は1989年。次に加賀恭一郎が登場するのは、1992年の「眠りの森」だから、初版から6年の時間を経て、本当の刑事になったのだ。
大学生の加賀恭一郎は、同級生に恋をする。一方的な恋だが、告白だけはする。
「つきあおうと思っているわけじゃない。ただ、俺の気持ちを知っていてほしかっただけだ」
彼女は、物語の終盤で外国へ行くことが予告されている。
眠りの森では、結局、この恋は成就しなかったことがわかる。たまに外国から届く手紙を加賀恭一郎は、すでに冷めた過去の記憶として大事にする。
むしろ、眠りの森で静かな深みのある女性とともに、事件の真相に迫るうちに、その女性の生き方に共感する。
「あなたが好きだ」
ここでも、加賀恭一郎は刑事という立場を超えて、告白をしている。
眠りの森の初版から7年を経て、加賀恭一郎は再び登場する。
「どちらが彼女を殺した」。さらに3年後の1999年に初版した「私が彼を殺した」。この二冊はセットとしての重みをもつ。従来の推理小説の掟を破り、事件の犯人が最後まで明かされないまま終結する。
そして、短編集として発表された「嘘をもうひとつだけ」。刑事としての推理と探求が存分に発揮された名作がラインナップされている。
6032.10/29/2008
加賀恭一郎...2
東野圭吾さんの魅力は、決して突飛な物語を作らないという点だ。また、逆に私小説の世界にも逃げ込まない。おかしな言い方だが、きちんとした小説なのだ。ぐちゃぐちゃの結末にもならない。必ず、現実世界との接点が用意されていて、いまの自分に置き換えて共感できる部分が物語りにちりばめられているのだ。
手紙は、連載小説で読みきった。犯罪を犯したわけではない、犯罪家族。しかし、よのなかの目は厳しい。弟の大学進学費用を捻出しようとして、強盗に入り、誤って殺人を犯した兄。その兄の動機を知りながらも、感謝することを忘れるほどの、周囲からの冷たい仕打ちを受け続ける弟。恋も就職も、すべて自分が殺人犯の弟だとばれた瞬間から失われていく現実。
作者は、あまい結末を用意しない。
「そうやって、お前はこれからも生き続けて行かなきゃならない。そのことからは逃げられない。忘れるな」
とても冷たく厳しい言葉を、信頼していた会社経営者からぶつけられる。
何なんだ。いったい主人公はどうやって、何を頼りに生きていけばいいんだ。結末は自殺場面なのか。
しかし、作者の用意した結末は、わたしのおろかな想像をはるかに超えた提案だった。そういう生き方、考え方があるんだと、唸った。そして、その結末が決して現実離れしていないことが、読後の清涼感を呼んだ。
ありえる話だと。
なかなかないかもしれないけれど、決してないとは言い切れない。ありえる話を作る天才が、東野圭吾さんだと確信した。
その後、ほかの作家に浮気をしながら時間が経ち、最近、書店に東野圭吾コーナーができていることを知った。
熱烈なファンのみなさま、何にも知らなくて、ごめんなさい。
なんでも、ガリレオこと天才物理学者が、探偵のように刑事の捜査にかかわりながら事件を解決していくシリーズものがドラマや映画になり、原作も売上を伸ばしているらしかった。ほとんどテレビを見ないわたしには、ドラマのヒット情報というのがさっぱりわからない。
そして、平積みされていたガリレオシリーズを全部購入して読み漁った。
おもしろい。冴えている。映画公開される「容疑者Xの献身」は、東野さんには珍しくそこまでひとは愛を貫くかとやや引っかかったが。でも、そういうホンは文学賞を受賞する。
横山秀夫さんや佐々木譲さんの警察小説を読みながら、ガリレオシリーズを終えた。
もう買うものはないかなと、本屋を覗いたときに発見したのが、加賀恭一郎シリーズだった。帯に「刑事、加賀恭一郎は進化する」と書かれた一連の小説が並んでいた。
もちろん、全部買った。
6031.10/27/2008
加賀恭一郎...1
東野圭吾さんは、ものすごい勢いで小説を書いている。
職業作家なのだから、ものを書くのが仕事といえばそれまでだが、量もさることながら、どんなにたくさんの作品を書いても質が劣化することがない。作品の中から、映画やドラマなどの視覚的作品に生まれ変わったものも少なくない。多くの場合、映画やドラマになると、原作のもつおもしろさが失われてしまう。キャスティング中心の日本のドラマや映画作りでは仕方がないことかもしれない。原作で男性だった主人公が、映画で女性になってしまうのには驚くばかりだが。
わたしが、東野圭吾さんの作品を最初に読んだのは、「手紙」だった。書籍として読んだのではなく、新聞小説として読んだ。毎日新聞の日曜版に毎週連載されていた。おそらく一年間ぐらいの連載だったのではないかと記憶している。
毎日新聞日曜版の連載は、かなりの確率でヒット作品を輩出している。文芸担当の能力の高さを感じる。連載小説は、文庫本と違って、小説冊子を読む感覚に近い。日曜版の小説は、一枚分のスペースがある。
わたしは、「手紙」の連載が始まったとき、正直言って、今回はつまらないかもしれないと思った。
まったく失礼な話でごめんなさい。
というのは、いきなり殺人事件が発生し、犯人がわかっている。お決まりものの刑事が何事件として解決するのかと思ったら、犯人も逮捕される。そして、その犯人から弟への手紙が届く。
これまで、小説としてはあまり焦点のあてられてこなかった犯罪者家族をテーマにした内容だったのだ。
コミカルなわけがない。恋愛もののときめきも予想しにくい。
日曜日。一週間の疲れをとり、翌週の英気を養うタイミングに、どれどれと元気をもらえる内容ではなかったのだ。
しかし、最初の一ヶ月はどんなに期待できなくても、いつも我慢して読むことにしている。毎週日曜日に掲載されるので、一ヶ月経過すると四話分ぐらい話が進む。その頃から、なんだか興味をもってきたのだ。これまで小説に期待してきた興味ではない。悲しすぎる主人公の生き様に、小説を通じて付き合いたくなったのだ。作者は、この悲しい物語を、どんな方法で煮たり焼いたりしようとするのだろうと、今後の展開に強い興味をもったのだ。
「手紙」は文学的に高く評価され、東野圭吾さんの名前を一躍有名にした。もちろん映画化されもした。
しかし、わたしは映画を見なかった。それまでも、あまりにも原作のイメージとかけ離れた映画を何本か見てきたので、そのショックを味わいたくなかった。ひとは視覚的情報が優位に立つ。小説のイメージは、わたしの脳で作り上げた世界だ。それよりも映画という目からの情報のほうが、必ず小説イメージを駆逐すると考えたからだ。
6030.10/25/2008
くろふね-2
佐々木譲さんについて。本名は同じ漢字でささきゆずると読む。ペンネームでは、ささきじょう。(以下はウィキペディアからの引用)
北海道夕張市生まれ。北海道中標津町在住。北海道札幌月寒高等学校普通科卒業。卒業後、京都や東京などで今で言うフリーター生活を行い、本田技研入社1年後の1979年「鉄騎兵、跳んだ」でオール読物新人賞を受賞し、作家デビュー。同作は映画化もされ評判となった。軍事や歴史を主に題材に採り、ジュブナイル小説も手がけている。また、数々の賞を受賞している。
1979年 『鉄騎兵、跳んだ』でオール読物新人賞を受賞し、作家デビュー
1989年 『エトロフ発緊急電』で日本推理作家協会賞長篇部門・日本冒険小説協会大賞・山本周五郎賞を受賞。
1994年 『ストックホルムの密使』で日本冒険小説協会大賞を受賞
2002年 『武揚伝』で新田次郎文学賞を受賞
2008年版『このミステリーがすごい!』で、『警官の血』が1位となる。
作風は、日本の作家としてはかなり特異なもので、現在や過去の社会的な問題を上手にエンターティンメントに仕上げてみせるものが多い。
たとえば「真夜中の遠い彼方」では暴力団・ボートピープル・違法入国労働者など、「夜にその名を呼べば」では冷戦・警察など、「仮借なき明日」「ハロウィンに消えた」では日本企業の海外進出とそれに伴う文化摩擦など、「ネプチューンの迷宮」では原子力・放射性廃棄物の処理や国家テロなどが、それぞれ扱われている。また、緻密に組み立てられた戦争もの(太平洋戦争三部作など)も評価が高いが、それらにも、「ベルリン飛行指令」では第二次世界大戦直前のインドやトルコなどを含むアジア情勢が、「エトロフ発緊急電」では日系アメリカ移民など、「ストックホルムの密使」ではポーランド問題などが、重層的に盛り込まれている。
時代がさがるにつれ、出身地の北海道を舞台とした西部劇的な作品が増えた。それらの作品では、江戸末期〜明治にかけての蝦夷収奪や侵攻、アイヌ民族と倭人との摩擦も扱われてはいるが、それ以前の作品よりはだいぶ比重が軽くなっており、より活劇的なエンターティンメント性が重視されている。
また、初期の「犬どもの栄光」の系列とも言える警察小説も増加し、警官家族の三代にわたる歴史を描いた「警官の血」や北海道警を舞台にした作品など、後年の作品の傾向のひとつとなっている。(引用はここまで)