5969.7/21/2008
■教員採用試験汚職__No.11■
やっぱり。やっぱり。
7月9日15時1分配信の毎日新聞によると。
「大分県の教員採用試験を巡る汚職事件で、同県教委義務教育課参事、E容疑者=収賄容疑で逮捕=が07、08年度の小学校教員採用試験で受けた計約35人分の口利きのうち、両年度とも10人以上の県会議員が関与していることが分かった。県警は、県議の口利き行為が常態化していたとみており、金品授受の有無についても調べている。一連の事件で政治家の関与が明らかになったのは初めて。
一方、E容疑者は中学校教員採用試験でも「上層部から指示をされ点数のかさ上げなど不正に合格させていた」と関係者に話していることも判明した。
ある県議は毎日新聞の取材に、県教委の元教育審議監、N容疑者=同=の審議監室に合格依頼者リストを持ち込み「なんとかしてほしい」と頼んだことを明らかにした。
県議によると、後援団体などから依頼された合格依頼リストを、N容疑者の審議監室に持ち込み、その光景は他の職員も見ていたという。県議は金品授受については否定し、「何年も落ちている受験者について『この子は何が足りないのか』と尋ねても、N容疑者は『一生懸命に頑張るように』と言う程度だった」と依頼のほとんどは実現しなかったという。
ある県内の教育関係者は「教師になりたかったら、一に県教委、二に議員、三に校長と言われてきた」と話している。
一方、E容疑者は関係者に対し、点数を改ざんした人数などは記憶していないが、中学校の採用試験でもかさ上げなどの不正を行っていたと明かしていた。県教委によると、E容疑者が人事班の総括をしていた08年度の中学校採用試験は537人が受験。31人が採用され倍率は17.3倍だった。また、07年度は513人中31人が採用され最終倍率は16.5倍だった。 」
議員登場だ。
こうなると、教育委員会で不正に手を染めたひとたちは必ずしも悪党中の悪党という構図ではなくなる。このひとたちもまた上からの圧力に屈した被害者という位置づけになる。
しかし、議員の口利きは立証しにくい。証拠を残していないだろうし、金品の受け渡しがあったとしても、捜査逃れの工夫はすでに打っているだろう。
議会と行政の関係は、全国どこの地方自治体でも同じ状態だ。
議会からの圧力を行政が受け止められず、はいはいと応じてしまう。学校にも議員からの希望に教育委員会が協力するかたちで、無計画に突然、こどもの生活調査や健康調査が命令される。調査結果が公表されることも、どうのように活用されたかも、教えられることはない。こちらは、貴重な授業時間を削っているというのに。
5968.7/19/2008
■教員採用試験汚職__No.10■
大分県教育委員会で、採用にかかわる業務についたE容疑者は、人事にからむ不正について「うわさでは聞いたが、入ったら本当にあった」と関係者に話していた。
E容疑者は、この時点で、問題は犯罪行為・背徳行為である認識をもてばよかったのに、長いものに巻かれていく。
2007年にE容疑者が手心を加えた不正(2006年とあわせて35人以上)は、教育委員会内部で、さらに上司からの指示があったことが疑われている。上司とはだれか。まだ、名前は出てこない。時期も人数も絞られた範囲での疑いなので、黒幕の登場は時間の問題だろう。
「関係者によると、江藤容疑者は、合格させるように指示する上司に、受験者の成績一覧表を提出。上司は合格させたい人間に印を付けて江藤容疑者に戻して、意向を伝えていたという。08年度の採用試験では、江藤容疑者は15人前後の受験者について、点数を増やすなどの改ざん行為を行ったとみられており、県教委にはこうしたシステムが相当以前からあったという。(7月9日毎日新聞)」
この上司、かなりの悪党だ。
「大分県の教員汚職事件では、逮捕された5人のうち4人が同県佐伯市内の県教委の出先事務所や小・中学校に長年勤務していた。また、08年度の管理職任用試験で、江藤容疑者に金券を贈ったとして、8日に自ら県警佐伯署に出向き、事情を説明した女性校長と2人の教頭も同市内での勤務経験があり、県警は、事件の背景に癒着を生み出すネットワークがあったとみて調べを進めている。(7月9日毎日新聞)」
おそらく出先機関とは教育事務所をさすのではないか。
神奈川県にも7つの教育事務所がある。わたしも噂話では、教育事務所内の閉鎖的な体質を聞いたことがある。昼飯時になると、所長を先頭に新しく入ったメンバーが「ごちになりに」いっしょに飲食店に行かなければならない慣習があるという。お山の大将、呆れたり。
同胞意識はほどほどにしないと、世間が見えなくなりますよ。
5967.7/17/2008
■教員採用試験汚職__No.9■
教員採用試験の不正が発覚したことは、やはり氷山の一角だった。
7月8日、現職の校長と教頭が佐伯警察署に出頭した。自分たちだけでは行かないで、佐伯市教育委員会の教育長と学校教育課長に伴われて行った。管理職と言われる自立したおとなの行動としては、やや恥ずかしい。
3人は「(容疑が持たれている)自分たちの行動についてきちっと話したい」と教育長に申し出たという。
出頭した管理職は、一般職から教頭になるときや教頭から校長になるときにも、金品の受け渡しが行われていたことを、自らの罪とともに説明した。わたしは、この3人の行動は、生贄の意味合いが強いと感じている。佐伯市教育委員会管轄の校長会や教頭会で、もっとも疑いの濃かったメンバーが「お前たちだけがやったことにして、捜査の目をそちらに集中させろ。ほかの情報については口を閉ざせ」という裏取引が合ったのではないか。
そう考えないと、大金をはたいてやっとつかんだ夢のポストを簡単に手放すとは思えない。
「こどもたちには嘘をつかないように言ってきたので」
よくもまぁ、そんな言い訳が思いつくものだとため息が出る。
教員採用にからむ不正がいつごろから始まっていたのか。
7月9日の毎日新聞によると、1984年に臨時講師だった女性が他校の男性教諭に「今年は採用試験を受けてみないか」と言われた。断ると「受かる方法はある」と受験を勧められたという。
1984年!わたしが教員になるよりも以前の話だ。
この事件に関しては大分県教職員組合が「金まみれ体質が浮き彫りになった」などとする抗議文を県教委に提出した。
抗議文は事件について「教職への夢を求める人への背信行為」と断じ、体質を改めるよう求めている。森委員長たちは「考えてもいなかった事件。現場の教職員の努力を踏みにじる結果になっている」と話した。
対応した小矢文則県教育長は「職員らの相次ぐ逮捕で、信頼を損なった。申し訳ない」と陳謝した。
労働組合のメンバーは本当に、昇進や採用試験をめぐる裏金の存在を知らなかったのだろうか。教頭や校長への昇進ルートには、労働組合の執行部ルートというのもある。あまり大声をあげると、自分たちに火の粉が飛んでくる心配をしているのではないか。
「考えてもいなかった事件」
その一節に、違和感を覚える。
[創り出す会の足音は休載します]
5966.7/14/2008
■教員採用試験汚職__No.8■
さらに補足すべき事実が判明した。
おなじみ毎日新聞の2008年7月7日東京朝刊より。
「大分県の教員採用試験を巡る汚職事件で、県教委義務教育課参事、Y容疑者=贈賄容疑で再逮捕=が3月、佐伯市内の小・中学校長から参事(課長級)に昇進する際、県教委の現職幹部に金券20万円を贈っていたことが分かった。幹部は毎日新聞の取材に授受を認め、趣旨は「あいさつ」名目と説明。さらに昇任などの人事異動に絡んだ金品授受が他にも行われていることも証言した。
関係者によると、Y容疑者が幹部に金券を贈ったのは今年3月。異動は翌4月だったが、昨年10月には参事就任がほぼ内定していたという。
県教委職員の人事や校長などの管理職への昇進を巡り、関係者は「人事の前後には、モノ、金が動く」と指摘し、金品授受の横行する体質が今回の採用試験を巡る汚職事件につながったとみられる。
Y容疑者は78年に教員採用され、途中、県教委の中津教育事務所や佐伯市教委で勤務した以外は、佐伯市内の小、中学校で勤務していた。
幹部は取材に対し「異動してお世話になりますという趣旨だったと思う」と話した。また、県内の教育界で人事異動に際し、金品の授受があるかについては「そのような場合もある」と話した。
一方、当時採用の実務を担当していた県教委義務教育課参事、E容疑者が、08、07年度の小学校の教員採用試験で少なくとも35人を合格させるよう口利きを受けていたことが分かった。08年度は約20人で、1、2次とも約15人の点数を加点した。07年度は約15人分の依頼を受け、うち約半数以上を加点したとみられる。」
もうめちゃくちゃの様相を呈してきた。
一般的に教職員が他校に移動する内示は年度末の3月に発令される。しかし、それはあくまでも内示であって、他言は禁止される。異動関係の事務手続きが始まる3月中旬以降までは、他言は解禁されない。とても親しいひとにこっそり教える程度の、情報漏れはあるかもしれないが、原則的には年度末の辞令交付まではわからないのが通例だ。
しかし、大分県では現職の校長が教育委員会の参事に異動(大分では昇進らしい)することが前年の10月には決まっているというから驚きだ。そんなに早く決まっていれば、3月には賄賂を贈ることも可能になる。
人事の前後に「モノ、金が動く」という悪しき風習が横行しているとすれば、一般職から教頭になるとき、教頭から校長になるときも、同じような風習が横行していることが十分に予想される。
大分県教育界では、教員採用のスタート時点から、教育委員会参事になる権力構造のゴール時点まで金まみれの体質が浸透していたのだ。
[創り出す会の足音は休載します]
5965.7/12/2008
■教員採用試験汚職__No.7■
もう一つの疑問。
なぜ、この採用試験をめぐる不正が発覚したのか。
内部告発かとも思ったが、教員世界は完全なヒエラルキーが確立しているので、教育委員会に内部の不正を告発するような正義感あふれる人材は登用されない。出身大学閥も地方では大きな影響力をもつ。教員どうしの婚姻関係も多く、地縁血縁社会のなかで行われている不正を暴けば、暴いたひとが生きにくくなる社会ができあがっている。
そのヒントが2008年6月20日付の 西日本新聞朝刊に記載されていた。
「大分県の教員採用試験をめぐる汚職事件で、同県教委の義務教育課参事E容疑者=収賄容疑で逮捕=が、同県佐伯市立小学校の校長A容疑者=贈賄容疑で逮捕=から受け取った約100万円の金券を換金したことをきっかけに、今回の贈収賄事件が発覚したことが19日、分かった。
容疑者側の複数の関係者によると、2008年度の小学校教員採用試験で1次試験合格発表前の昨年8月、E容疑者はA容疑者から長男の合格を依頼され、約100万円の地元百貨店で使える金券を受け取った。その後、金券を九十数万円の現金に換えたという。その情報を入手した県警が、高額の換金に不審を抱き捜査したところ、金券の番号などから、購入者のA容疑者や換金したE容疑者などを特定したとみられる。
E容疑者は、換金した九十数万円と、2次試験の発表前後の同10月に受け取った現金300万円は給料が振り込まれる口座に入れていたという」。
やはり、高額の金券の利用が発覚の引き金になっていた。
しかし、隠し口座ではなく記録の残る給与口座に入金するところがおかしい。そんなことをしたら、通帳の記録が証拠になり、犯罪が露呈してしまう。なぜ、採用試験の合否ラインを操作できるほどの権限があるひとが、採用試験の時期に自分の口座に高額の入金をしたのだろう。
単純に考えれば、Eは自分の行いが悪いことだという認識が欠如していたということだ。依頼を受けて金品を受け取り、採用者を決めることが日常化していたのだろう。そんな悪事が、いきなりEのときから始まったとは思えないから、過去の採用担当者からの引継ぎ事項だったのではないか。
警察や検察は捜査のプロだから、きっと過去の犯罪についても厳しい取調べと証拠集めをするだろう。しかし、いつものことながらどこか大きなところから圧力がかかって、とかげの尻尾きりのような結末になるのではないかと危惧している。
大分県教育委員会は、まず不正な加点で採用にした今年度の採用者を取り消し、本来合格ラインに達していたひとを新たに4月1日にさかのぼって採用すべきだ。次に、すでに条件付採用期間が終わっている昨年度の不正な採用者については、採用責任者としての立場を自覚して、退職を勧告する必要があるだろう。そのひとたちも不幸だ。親の口利きがなければ、こんなことには巻き込まれなかったのだから。しかし、金を積んで不正に教員になったという過去を清算して、新たに出直すことが、これからもう一度教員を目指すためには乗り越えなければいけない試練だろう。
[創り出す会の足音は休載します]
5964.7/11/2008
■教員採用試験汚職__No.6■
補足すべき事実が判明した。
毎日新聞(2008年7月6日)によると、
「当時採用の実務を担当していた県教委義務教育課参事、E容疑者=収賄容疑で逮捕=が、07、08年度の採用試験で、少なくとも計約30人以上を合格させるように口利きを受けていたことが、関係者の話で分かった。うち自力で合格した受験者もいるが、約半数を合格させるため点数を加点し、逆に合格点に達していた受験者の減点などの改ざんをしていた疑いが浮上した。県警は口利きがさらにあったとみており、裏採用ルートと県教委内部の不正の常態化について解明を急ぐ」とのことだ。
ちなみに大分県では2007年度と2008年度で合計82人が採用されている。そのうち30人以上が不正な合格依頼を受けていたことになる。さらにそのうち半数が実際に点数を加算されていたとしたら、82人のうち15人前後が、本来は不合格だったにもかかわらず、何らかの操作によって合格したのだ。なんと合格者のうち5人から6人に1人が、実際は不合格だった計算になる。そのひとたちは、いまも教員を続けている。
同日付の毎日新聞は続ける。
「07年度の採用試験を巡っては5日、県教委義務教育課参事、Y容疑者と妻で小学校教頭のK容疑者が自分の長女の採用試験合格に便宜を図ってもらうよう元県教委審議監で同県由布市教育長のN容疑者とE容疑者にそれぞれ100万円の金券を渡したとして贈賄容疑で再逮捕され、E容疑者も収賄容疑で再逮捕された。
関係者によると、1次試験の実施前に受験者名簿の中からY容疑者夫婦の長女の名前を見つけたE容疑者が、以前から親交の深かったY容疑者に連絡。Y容疑者は本来E容疑者への依頼は考えていなかったが、E容疑者が長女の受験を知ったことなどから、便宜を図ってもらえるよう依頼したという。
それとは別にY容疑者は1次試験後に、N容疑者と接触し、長女を試験に合格させようと9月上旬に依頼料として50万円、合格発表後の10月上旬に50万円の金券を渡していた。ある関係者は「Y容疑者はN容疑者を通した不正ルートのほかに、(E容疑者という)個人的なコネを使ったため200万円が必要になった」と指摘している。
Y容疑者夫婦の長女は昨年4月に採用、小学校校長、A容疑者の長男、長女は今年4月に採用され、いずれも県内の小学校に勤務。事件発覚後、一時、休むこともあったが、勤務しているという」。
まるでミステリーのような話だが、検察の調べで明らかになりつつある事実だ。
[創り出す会の足音は休載します]
5963.7/10/2008
■教員採用試験汚職__No.5■
2008年6月20日。
教員採用試験を巡る贈収賄事件を受け、大分県議会文教警察委員会があり、県教委が経緯を説明した。出席した議員からは「教員の資質以前の問題だ」などと厳しい声が相次いだ。
不正の手口など詳細について、小矢文則教育長は「捜査中なので、予断を与えたくない」と発言を控えた。また、今年の採用試験の2次では、従来1回の面接回数を2回に増やすことなどを検討していると説明した。
議員は「教育行政の汚点。馴れ合い、腐敗を変えないといけない」「容疑者全員が教育関係者。いろいろシステムを改善しても、(事件に失望して)いい人材が集まらなくなる」などの指摘があった。
今回の事件を受け、県教委は面接の回数や面接官を増やすなど、教員採用試験システムの再検討を早々と表明した。だが、それで不正がなくなるのか、疑問視する声は少なくない。
この特集をウエイにアップしている2008年7月6日前後は、神奈川県の教員採用試験が実施されている。
教員免許を持っていて、臨時任用や非常勤として学校で働くひとはとても多い。
現職が病気療養になる。こどもの数が急に増えてクラスが増えた。音楽や家庭科などの特殊技能を教える人材がいない。さまざまな理由で、これらのひとたちは活用されている。
しかし、採用試験に合格していないので、あくまでも勤務期間には制限がある。最長で1年間。短期だと数日から数週間。教師を一生の仕事にしようと夢見ているひとたちにとって、採用試験に合格して正規採用教員になるということは、将来生活の安定に直結するのだ。
働きながら採用試験を受ける。試験勉強のための時間が確保されないなかで、体力的にもきつい日々を乗り越えている。そういうひとたちがたくさんいる。なのに、ほんの一部(ではないかもしれないが)のねじれた親心を持つひとと、その親心を巧みに操作するひとが、結託して不正を行っていた。まじめに試験勉強を続けてきたひとたちの怒りは大きい。
また教頭や校長になるひとにも、疑問を感じることがある。
クラスでこどもをぶん殴っていた。集団指導がまったくできず、不登校が続出していた。教科指導がへたでこどもの無理解が広がった。セクハラの噂がたえずつきまとった。生命が危険にさらされるようなオリジナル実験を繰り返す。
そんなひとたちが、昇進していく。
でも、あのひとは校長のこども。でも、あのひとは教頭のこども。でも、あのひとは教育長のこども。でも、あのひとは大金持ち。でも、あのひとは……。
こういう事例は、わたしが23年間、学校現場で働いてきて両手にあまるほどだ。
[創り出す会の足音は休載します]
5962.7/9/2008
■教員採用試験汚職__No.4■
そして、2007年。
Y夫婦は、今回の特集の冒頭の相談をA校長から受けた。
A校長の長男は二度試験に失敗している。そしておそらく大卒の長女と同時に教員採用試験を受けることになった。
8月と10月。A容疑者は試験に2度失敗した長男(25)と長女(22)を2008年度の教員採用試験に合格させる見返りとして、E容疑者に現金や地元百貨店商品券計400万円相当を渡した疑いがもたれている。
これまでの調べで、E容疑者は長男を合格させるため、試験で便宜を図ったことが判明。一方で、Y容疑者が「子ども1人を合格させるのに200万円が相場」「1人ならなんとかなる」などと助言していたことから、県警は不正の常態化を疑わせる発言として注目している。
県警は、夫婦が自分たちの体験に基づき、A容疑者らに同様の工作を持ち掛けたとみている。
2008年4月、A校長の2人のこどもは採用試験に合格し、採用された。
ここで単純な疑問が浮かぶ。
長男と長女が教員採用試験に合格するように願う親心を抱いたA校長が、なぜそのことをY夫婦に相談したのかということだ。
「大宰府天満宮のお守りにご利益があるんだって」
まさか、そんな答えを期待していたのではないだろう。
つまり、具体的な裏口ルートをA校長は以前から知っていて、その裏の世界の助けを求めようとしたのだ。そうでなければ、常識を疑われてしまう。
「いくらぐらい用意すれば試験に合格するのでしょう」
「あんた正気か?そんなことをしたら大学受験だってお縄になることぐらい知ってるだろ」
よのなかのふつうは、こういうものだ。
だから、ふつうの感覚のひとにはそんな相談はしないはずだ。何らかのルートで、A校長はK教頭とY指導主事夫妻が、採用のノウハウを知っているという情報をつかみ、そこに頼みに行ったのだろう。あるいは、脅しに行ったのかもしれない。いやそれは想像が飛躍しすぎている。
2008年6月15日。
現職の校長と教頭が逮捕された蒲江、重岡の両小学校はともに逮捕翌日、保護者を集めて緊急の説明会を開いた。保護者からは「事件の詳細がわかれば、また説明をしてほしい」などの要望が出たが、大きな混乱はなかったという。
親たちのほうがずっとおとなということか。校長や教頭がいなくなっても、大きな混乱は感じないのだから。
[創り出す会の足音は休載します]
5961.7/8/2008
■教員採用試験汚職__No.3■
この事件は、まだ真相が究明されていない。
そして、わかっている容疑だけをつなぎあわせても、かなり複雑な様相を呈している。
それでも、この先、具体的な事実や、まだ隠されている事実はあまり出てこないだろうと思うので、わかる範囲で経過を追う。
まず2006年にさかのぼる。
当時、大分県教育委員会の審議監だったNが、部下にあたるY県教委義務教育課参事から、Y夫婦の長女(23)の採用に便宜を図った謝礼として、100万円分の金券を2回(9月から10月にかけて)にわたって大分市内で受け取った収賄の疑いが持たれている。
Yは警察の取り調べに対して
「長女の合格発表前後、N容疑者に金券を50万円分ずつ計100万円分、E容疑者には発表後に金券100万円分を渡した」などと供述している。
当時、N容疑者は合格者の最終案を決裁する立場だった。
EはYと同い年の同僚だ。しかし県教委義務教育課人事班主幹という役職から、教員の採用に関する実務面ではYよりも専門的な立場にいたと考えられる。つまり、長女かわいさから、親心として試験合格の手助けを計画したYと妻のKは、試験前には採用権限のあるNにお願いの意味を込めて金券を渡し、合格の後には成功報酬としてお世話になったEに金券を渡したのだ。
さすがに現金にしなかったところは、罪の意識を感じ、証拠隠滅でもはかろうと工夫したのか。でも、どこで商品券などの金券を用意したかわからないが、合計で200万円の金券を用意するのは、商品サービスカウンターでも驚かれたに違いない。
489人が受験し、合格者は41人だった。
全国的な傾向としては、団塊の世代の一斉退職時期を迎え、教員が不足がちな地域があるので、大分県の合格者はずいぶん少ない印象を受ける。それだけこどもの数が少ないということなのだろう。
しかし、いくら親心とはいえ、教育委員会のいわゆる指導主事と現役の公立小学校教頭という夫婦が、金にものを言わせて、わが子に便宜をはかってもらおうと考えるのは常軌を逸している。そんな考えのひとが、よく教育行政職や学校管理職に昇進できたと思う。ふたりとも、ふつうの感覚の持ち主だったとしたら、大分県ではこのような慣習が古くからあって、当たり前だったということだ。そして、いま警察につかまっている二人の口から、まだ事件になっていないほかの情報が出てくる可能性がある。戦々恐々としながら、校長や教頭をしているひとがいるなんて、悲しい現実だ。
この贈収賄によって、長女は試験に合格し、2007年4月から佐伯市内の小学校に勤務している。実力で合格したのかもしれないが、親がこのようなかたちで逮捕されてしまうと、毎日が針のむしろなのではないか。
[創り出す会の足音は休載します]
5960.7/7/2008
■教員採用試験汚職__No.2■
県教委の中枢にいて採用や人事の権限を集中してつかんでいたN。由布市教育長への栄転は天下りだろう。あわよくば、審議監の退職金と、教育長の退職金を受け取って悠々自適の余生が待っていた。
毎日新聞が逮捕直前にNにインタビューをしている。
http://mainichi.jp/seibu/photo/news/20080705sog00m040004000c.html
「元県教委審議監で由布市教育長のN容疑者は逮捕前の先月末、同市内の自宅で毎日新聞の取材に応じ、採用汚職への関与を否定した。主な一問一答は次の通り。
−−贈収賄事件で逮捕された江藤勝由容疑者との関係は。
特に印象はないが、同じ課にいたから知ってはいる。(働きぶりは)覚えていない。直接のやりとりはE容疑者の上司とやっていた。(今、由布市教委は)教育事務所が窓口だからやりとりはない。
−−Y容疑者について知っているのか。妻のK容疑者やA容疑者との面識は?
3人とも知らないし面識もない。
−−事件では数百万円の授受とか、点数の改ざんの話がある。審議監当時に不正のうわさを聞いたことはあるのか?
なーんかなー。信じられない。(うわさを聞いたことは)全くない。私は人事班にいたこともないし。
−−採用試験の不正について知らなかったのか。
いやー、知らない。
−−もちろん関与もしていない?
していない。
」
教育行政のトップに身を置くひととしての資質が感じられない。
そればかりか、教員への信用全般を失墜させるような受け答えに聞こえてくる。全国にはまじめな教育行政官がたくさんいると思うが、そういうひとたちもNと似たような存在ではないかと誤解させてしまう。
犯罪の事実が立証されたら、審議監時代の責任と追及し、退職金の扱いを教育委員会で検討するべきだろう。
[創り出す会の足音は休載します]