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2008年9月湘南憧学校レポート
しょうなんしょうがっこう

 今年で、湘南憧学校も5年目を迎えました。5年目といっても、今年は最初の年から入学したAさん一人という状況ですので、学校というにはおこがましいかもしれません。でもまあ、週3回、勉強はさて置いても元気に通ってきているので大変ありがたいことではないかと感じて一緒に活動しています。

 ただ、最近はAさんの将来のことを思うときこのままの状態でいいのか立ち止まって考えることの必要性を感じています。個人的な考えですが、ある子どもが学校にいけない理由は様々であり、その子がある程度自分の状況を把握し、自分の意思で学校に戻りたいと考えればそれを尊重するのは当然です。しかし多くのケースでそのような安定的な状態になるには時間がかかりますし、学校や家族や自分自身との葛藤などを経験しながら少しずつ学校外の場所などで成長する道も十分考えられると思っています。とってもその場所は何でもいいのではなく、いくつかの条件があるのではないかとも思っています。

 では、その条件とは何でしょうか。いくつか考えてみましょう。まず、一番大切なことはその子どもにとって安心できる居場所であるということではないかと思います。当然といえば当然ですが、人はやはり何か困難な状況にあるとこころは不安になりますね。ですから自分がいていい場所があるというのは人間の安心の基礎になるものだと思います。

 その次はやはりその場所で誰かと出会い、その人とこころを通わせることができるかどうかだと思います。これは、書いていて理屈的にはその通りと感じつつ、本当は大変難しいことかもしれないと思っています。自分のこととして振り返ってみても私はこれまでどれだけの人とこころを通わせてきたのだろうかとそれこそ心もとない思いになります。もちろん難しいからといって諦めてはいけません。まず一人からそして次にという風に、これも時間をかけて根気よく取り組んでいく試みが必要になることでしょう。

 さらに最後ですが、その子どもに向かって明日、来月、来年どうするかという性急な決断を迫るのではなく、たとえば18歳とか20歳までに時間を延ばし、自分の将来をゆっくりと考える環境の調整が重要ではないかと思います。

 さて、これまで挙げた3つの条件について、通常フリースクールなどでいわれているものよりも少々抽象的な事柄かもしれませんが、お許しを。ではこれからそれを補完する意味も込め、上の条件に照らして、現在の湘南憧学校の姿を自己評価してみることにします。

 まず、Aさんにとってこの場所は安心できる居場所でしょうか。もちろん本人に聞いてみないとわかりませんが、ある程度元気に通ってきているところをみるとまあそのような場所に近づいているのかなと思っています。(もちろん不満らしき言葉や態度を示すこともある)

 次に人と出会い心を通わせことができる場所ということで、これは何をもって心を通わせている状態かを客観的に判断することが難しいうえ、たとえば一方が心を通わせていると思っていても、一方は違っていたということもありえるので評価することは大変難しいことではないかと思います。この湘南憧学校の4年半の間、Aさんは同い年の男子や他の仲間、おとなのスタッフたちとのこころの触れあいや葛藤を何度も経験していきたと思います。彼と関わった多くの人の試みのすべては彼にも気がつかないかたちで蓄積され彼の現在の糧になっているはずです。私はそれをうまく活用させていただくなかで、現在のボランティアスタッフの協力もあり、今は彼と何とかうまく関係を作っていると考えていますが、ほとんどの時間が私だけとの付き合いではむしろその葛藤などのありようが狭くなっているのではないかと危惧しています。先ほど触れたように今後も、ここから彼のこころをつないでいく手立てが今のところない状態です。いきなり人がたくさんいるところに入る必要はないし、それはむしろ逆効果です。彼が望んでいるのかどうか、一方的な判断は禁物ですが、私はまず一人から彼の仲間を見つけたいと今切実に思っています。ということはすなわち現在の湘南憧学校では、この条件の取り組みは、残念ながら不十分なものであると認めざるをえないのです。

 さて最後に将来の見通しに関することですが、これは彼に今すぐこれを求めることは年齢や状況を考えても無理なことであって、現在の公立学校のような1年2年単位の短期的な関わりに比べフリースクールの利点としてこれに取り組める機会があるということではないかと考えています。この機会を家族とも共有し、将来に向けて何が彼にとっての最善の選択なのか、これも腰を据えて考えたいと思っています。

 彼には好きなことがあり、それにじっくり取り組むことができる。これはかれの宝です。しかしそれをどのように社会生活につなげていけるのか、大変難しい課題だと思います。当然私一人ではどうすることもできない事柄です。2つ目のこころをつなげていくということが不十分な実状も含めて考えると、そろそろ湘南憧学校自体が「学校外の場所などで成長する道」を探る時期に来ているように感じています。

 私は最近のご家族との面談でも、来年以降に渡る彼個人とのお付き合いの継続を約束しています。もし学校外での彼との活動で何ができるのか、今はまだ見取り図はありません。ただ、彼との間にこころは少し通えたのか、分かり合えたのか、そんなことを反芻しながら、彼に許してもらえるならば、もうしばらく共に生きていく楽しさ苦しさを分かち合いたいと考えています。

(今回の報告は会報118号に記載した文章を転載しています)

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