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準免許制度(2014.7.23)

 自民党の教育関係の検討会が、将来教員になるひとへ大学卒業時に「準免許」を与え、実際の学校現場で3年から5年の経験を経た後に、本免許へ移行する制度を考案した。
 今後、文部科学省の中央教育審議会で検討されるという。
 これにともない、民主党が考案した大学院まで行かないと正式な教員免許が取得できない修士免許制度は撤廃されるだろう。

 教職課程をいまの4年から6年に延長する修士免許制度は、効果に疑問が多かった。
 まだ制度が導入される前に代替案が登場したことは喜ばしいことだ。

 しかし、準免許というややこしい教員免許は、本免許を取得したい者にとって、足かせにならないだろうか。また、指導力が不足しているという理由で指導力を向上させる前に、安易に解雇の道具として使われないだろうか。

 いまの教員免許制度では、多くのひとがストレートに大学に入学し、留年しなかったとして、22歳で取得できる。そこから準免許機関が最長で5年続いた場合、28歳になる。そのときに
「あなたは、教員にむいてないので、本免許は与えられません」
と言われたら、そこからほかの仕事を探すのはかなりリスクが大きすぎないだろうか。

 インターン期間を導入している医師免許制度と似ているというひとがいる。
 根本が違うので、似ていても、本質的にはまってく異なるものだ。
 医師を志すひとは、大学卒業時に医師国家試験を受けて、合格しなければ、インターン制度が始まらない。国の認定を受けない限り、見習い修行が始められないのだ。そして、合格していれば、医師の資格はよほどの事がない限り剥奪されない。
 いまの教員免許は、教職課程のある大学が認定し、都道府県教育委員会が発行している。国家試験ではない。
 そして、悪しき免許更新制度により、10年ごとに、効力がなくなり、大学に戻って必要な単位を補充し、試験に合格し、更新しなければならない。

 準免許から本免許へ移行するには、学校長と教育委員会の許可が必要になるという。
 つまり、だれがそのひとを一人前の教員として認めたのかを明確にしようという試みだ。本免許を与えたのに指導力が不足していたり、不祥事を連発したりした場合は、本人のみならず、学校長や教育委員会にも責任の一端を負わせようとしているのだろう。
 
 とてもわかりやすいやり方だが、このやり方では、将来的に管理職のなり手や教育委員会で教育行政にかかわろうとするひとが減少する心配が生じる。

 日本の教員が質的に低下している。

 そういう印象を持たれる背景には、諸外国に比べて、日本の教員が学習指導以外の仕事を引き受けすぎている実状がある。
 多くの国々の学校では、教員は授業で学習指導のみをするのが仕事だ。
 だから、家庭訪問なんかしない。掃除や食事の指導ももちろんしない。そもそも掃除をこどもにさせている先進国なんか、数えるほどしかない。文部科学省が清掃業者への出費を抑えるために「清掃活動も教育活動の一翼」というもっともらしい理屈をつけているにすぎない。
 自民党の準教員制度を考案したメンバーの発言に
「かつては、学校で先輩教員が若者を育てる習慣があった。いまは教員の仕事が増えすぎて、ほかの教員の面倒まで見る余裕がない」
というのがあった。
 これは、一面ではもっともらしく聞こえる。しかし、わたしは「なに言ってやがんだ」と叫びたくなった。

 教員に新人や後輩の面倒を見させないように、あれもこれも仕事を押し付けたのは、かつての自民党公明党政権だったのだ。それにより、年間に100日も研修漬けにする新採用研修制度を構築した。
 研修の冒頭で
「同学年の教員や、先輩教員は仕事が忙しいので、新人は困ったことがあったら、校長や教頭に相談し、新採用研修を有意義に活用するように」
と諭されるのだそうだ。
 教員たちから新人たちを引き剥がしたのは、あんたたちだろ。
 そこにまったく触れていない。

 わたしが教員になった30年前は、多くの先輩教員が授業を見てくれた。アドバイスをしてくれた。研修会を案内してくれた。そういう機会の中で、当然だが、指導力の向上だけでなく、ひととしての成長や、平和や民主主義に対する考え方も学んだ。
 きっと政治勢力は、そこがいやだったのだろう。
 これから日本の教員の仕事を学習指導のみに集中させれば、きっと質的な向上が期待できる。やっかいなのは、中学や高校の運動部で顧問をしている教員だ。学習指導は二の次で、運動部の顧問を本業と勘違いしている教員は、運動部の成績が自分の指導力と直結していると信じているのだ。日本中でもっとも体罰といじめが蔓延しているエリアだ。


この文章はway6920.4/14/2013-6921.4/20/2013で紹介しました。

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