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子どもが主人公の学校を創ろう 1999.9

* はじめに*

 『湘南に新しい公立学校を創り出す会』は1997年10月に藤沢市内の教員が中心になって発足しました。
 なぜ発足したのかというと、現在の公立学校では子どもたちに優劣を競わせ、他者と比較しない個人の学びの確立がとても困難だと感じたからです。
 なぜ「公立」学校の開校を目指すのかというと私立だと入学試験で子どもを選抜し、授業料で保護者に経済的な負担を与えてしまいます。結果的にすべての子どものための学校にはなりえません。
 税金を投入する公立学校でこそ多様な学びの可能性を実現するべきだとわたしたちは考えたのです。
 参考にしたモデルは、方法としてはアメリカのチャータースクール制度があります。学校としてはアメリカの「サドベリーバレースクール」、イギリスの「サマーヒルスクール」、国内では和歌山県の「きのくに子どもの村」などです。
 固定した会員制度は設けていませんが、年間6000円の購読会員制度を1999年4月から開始し毎月の定例会報告書やイベント情報などを現在全国約130人に発送しています。
 会の組織は事務局、チャータースクール法準備委員会、テストマッチ実行委員会、  文化活動実行委員会、湘南小学校の四季検討委員会、学習教材の整理保管委員会、情報広告委員会、お気楽会です。
 定例活動は毎月原則として第4金曜日午後6時より午後9時までを定例会とし、  毎月原則として第1土曜日午後2時から午後5時までを事務作業日としています。  
 1999年のイベント活動は5月16日に第1回シンポジウム「学校を創ろう」(大沼安史氏)を行いました。
  3月、6月、9月には一般の方を対象とした出前説明会「小さな創る会」を行いました。
 8月24日〜28日。応募してきた31人の子どもたちと開校を目指す湘南小学校(仮称)のプレ試行としてサマースクール(テストマッチ)を行いました。
 10月17日第2回シンポジウム「宮台真司氏とともに」を計画中です。

* 湘南小学校について*

 学校のコンセプトは
              です。
 本来学びとは自分のためのものであるはずなのに、「つぎ、何やるの?」とセンセイの指示や許可がないと現在の公立学校の子どもたちは動く自由がありません。これに慣らされていくと、自分で考えるというもっともキツイ部分を素通りして「言われたままにやる」「期待されたとおりにやる」という適応型の子どもたちが成長し、思春期にさしかかるとき親や教員などそれまでの権威に反抗はしても建設的なこと・創造的なことをやり通す能力がほとんどないことに気づきます。面倒でも、納得がいかなくても、言われたとおりにすることの方がずっと無責任で気楽だからです。
 湘南小学校では子どもたちにあえて困難な選択を迫ります。
 自分の学びに対して「考えること」「選ぶこと」「決めること」「取り組むこと」「失敗すること」「修正すること」「結果を出すこと」「伝えること」「つなげること」という一連の活動を徹底的に個人に返していこうと思っています。
 だから「わたし、これをやりたい!」へ。そうやって子どもが計画することに親と教員が相談しながらかかわるのです。周囲に迷惑をかけることなど自分勝手・わがままとの区切りもしっかりと見極め、充実した「時間と道具と場所の三つの大きな学びのスタイル」をプレゼントします。
 また個人の学びは必ず成果を披露することによって社会的な評価にさらされます。そんなとき、自分と周囲との責めぎ合いを経験することも大事だと思っています。
 湘南小学校で学ぶことは「責任ある生き方ができる力」です。「なぜこの学校で学ぶのか」「自分は何をしたいのか」……学びの目的となかみを子どもたちが保護者と教員とともに創ってゆくことによって、物事を選ぶ力やどうして選んだのかを説明する力がついていくと思っています。さらに個人にあった学習内容のたちあげも行います。同年齢同時間同場所という従来の学習スタイルを改め、ひとりひとりのペースにあわせた学習スタイルを確立します。そのことによって、比較や競争を意識しないで、自分のことをじっくり見つめる力がついていくと思っています。
 またよく言われる「基礎学力」については次のように考えています。
 ある年齢の子どもたちが必ずつけていく識字や計算の能力があたかも存在するかのように思えてくる「基礎学力」という考え方を見なおします。この考え方は医学的に立証されていません。湘南小学校では一人一人の子どもたちのそれまでの成長と現在を見つめ、そこから明日につながっていく力を基礎とよびたいと思います。だから当然のこととして一人一人によって基礎になるものは異なり、これらを身につけるために学ぶ年齢も異なってくるのです。

*テストマッチを通して*

 湘南小学校テストマッチは8月24日から28日まで逗子・学校を創る会、逗子・学びを遊ぶ会の共催のもと湘南に新しい公立学校を創り出す会が主催して逗子市野外活動センターで実施しました。全日程好天に恵まれました。目前に田越川、少し歩いて逗子海岸、背後には桜山、自転車飛ばしてコンビニという環境の中、子どもたちを中心とした学習活動を展開したのです。
 多くの子どもは事前の計画段階では保護者任せで始まってみたら「内容」も「準備」も「手順」も知らないという予想していた通りのスタートでした。前半はそんな子どもたちに自らの気持ちで考えることやそこから導き出されるアイデアにとことんスタッフたちがかかわることに重点を置きました。2日目に見学に訪れた保護者が声をかけると「自分のやりたいようにやらせてほしい」と言い返せるようにまでなっていました。中盤、子どもたちの計画は「天候」と「場所」と「子どもどうしの関係」という大きな3つの要素で決定していきました。海岸でできる釣りや砂浜歩き、野球、いかだ、着衣泳……。プールへ行ってののびのび泳ぎ。逗子や横須賀への町歩き。裏山フル活用しての虫取り、薪ひろい、探検。川を使ってのしかけ。天候に恵まれたことと周辺の環境条件がミックスして多くの子どもたちは活動場所を屋外へ求めていきました。子どもたちのそんな要求に合わせて人材を手配した支援方スタッフの努力は並大抵のものではありませんでした。4日目(ラスト前日)の午前中、敷地内での活動が増え内容的にも発展的可能性を秘めたもの(燻製づくり・砂の研究・ケーキづくり・天体観察など)が登場したのはそれまでの自らを解放させる3日間があったからかもしれません。全日程9時から5時までという長時間であったにもかかわらず子どもたちが時間の長さを気にせずにめいっぱい有効に活用していたのはとても印象的でした。
 最終日のプレゼンテーションはスタッフミーティングで議論した結果、多くの子どもたちを一箇所で発表させてしまうと集中力が失われてしまうのではないかという判断から10人前後の三箇所同時開催方式にしました。4日間のミーティングでは騒々しかった子どもたちがプレゼンテーションでは自分の言葉を持って他の子どもたちへ伝える場面に感動しました。自分の思いを他者へ伝えるということは世界に向かって発信していくということです。緊張もしたでしょうし恥ずかしさもあったでしょう。マスコミのカメラを前にして意識もしたかもしれません。それでも聞き役の子どもたちから多くの質問が出る双方向のやりとりまでステップアップしていたことは大きな成果でした。
 子どもたちははじめ犬やカニに触るのもおっかなびっくりでマッチの使い方も知らない子どもまでいました。過保護・過干渉な印象を強く受けたりもしました。親の言語が子どものリアルと上滑りすることもありました。だからあまり手をかけずに何もできないところから見守ってみてはとスタッフで話し合ったりもしました。連日午後8時から午後10頃までがスタッフのミーティングだったのですが、そんな中、自らのやりたいことへのエネルギーを導く支援のあり方が重要だということにわたしたちは気づきました。何もできないのではなく、敷かれたレールを歩んできた時間が長過ぎたために何かをしたいエネルギーはあってもどうしたらいいのかが分からないだけではないかと考えたのです。そこで支援方スタッフには可能な限り子どもの要求に応じるスタンスをました。このことは一見とてもしんどいことだと思いましたが、どのスタッフも肉体的には疲れながらも自分が子どもにお付き合いしてもらっているという充足感が広がっていったと教えてくれました。主人公が子どもであるときそのことを支援する大人は上下関係のないパートナーにはじめてなり切ることができることを発見しました。
 31名の子どもたちに対して19人の支援方スタッフ・13人の裏方スタッフ・4人の事務方スタッフでわたしたちは活動を保証しました。
 これまでわたしたち「創る会」は開校を目指す湘南小学校について言葉やイメージの上で合意形成をはかってきました。しかしテストマッチは行動や発想の予測のつかない子どもたちによって実際に活動が展開されたのです。このことは今後わたしたちが練り上げていく湘南小学校像を完成させる上でより丁寧なより微妙なそしてより多様なアイデアを多く提供してもらったことを意味します。また外部の人たちから問われたときにより具体的な個別の実例を伝えることを可能にしてくれました。
 興味や関心を行動の核にする子もいました。それ以前に関係性を重視する子どももいました。引き気味に周囲の様子を観察する子どももいました。周囲にはウロウロしているようにしか見えなくても内面で自らの行動を計画している子どももいました。
 子どもの生きる力を導くには大人が意図した内容を提示する前にまずはどっぷりと自分を開放させられる時間を提供することが大事だと感じました。自分がやりたいことに対して大人が本気になってつきあってくれるという信頼関係を築いた時点ではじめて大人の言葉が子どもの心にストンと届くようになるのです。この順序性は残念ながら既存の公立学校ではなかなか日常化されていません。朝のミーティングで子どもたちの計画を相談した後で「スタッフの指名」を子どもたちにしてもらいました。学びの主人公が子どもなのだから自分にぴったりの支援者をあなたが選ぶんだよという大人の視線の取り方も重要だと思います。

* おわりに*

 わたしたち『湘南に新しい公立学校を創り出す会』は現在文部省の公募型研究開発学校制度に市民活動体として応募できないかどうか検討中です。また活動体をNPO法人化して日本初のNPO法人立の学校ができないものかとも考えています。いずれにせよ「創る会(略称)」がいつまでも存続するということは学校ができていない証拠なのでここ数年が活動の山場だと考えています。

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